冷めてるようで諦めてない、脱力の力と中ぐらいの気持ち
Suck a Stew Dryが1stフルアルバム『ジブンセンキ』の
ポップな弾道に込めた全方向の感情
快進撃のワンマンツアー開幕を告げるインタビュー&動画コメント
誰もが持ち得る“心の闇”を、リアルに響く“心の声”として届けてくれるロックバンド。'10年に大学のサークル仲間を中心に結成され、マイペースで活動しながらリスナーの共感を得て、徐々にコアな支持層を拡大してきたSuck a Stew Dry。この秋リリースされた1stフルアルバム『ジブンセンキ』から聴こえてくるのは、胸の中に溜まりに溜まった負の感情を一瞬で反転させる痛快なポップ/ロックチューンの数々。パワフルで瑞々しいギターサウンドを軸に、四つ打ちやモータウン調などの多彩なビートを取り入れて、アップからバラードまで緩急自在に聴かせる。そのバンドのスタンスと創作の秘密を、シノヤマコウセイ(vo&g)とフセタツアキ(g)にインタビュー。
『アパシー』は、僕が社会にはじかれたような気持ちになったときに作った曲
——9月に1stフルアルバム『ジブンセンキ』がリリースされました。曲調にも変化があり、ギターワークやバンドサウンドがとても多彩ですね。
シノヤマ(vo&g)「内容に関しては、“自分の思ったことを書く”という前提で、曲に関しては、バリエーション豊かな曲を作ろうと思っていました。『八月のサリー』(M-9)ではモータウンちっくなビートにしたりして、今までの作品でもやってないことをやっています。聴いてくれる人が飽きないといいですね」
フセ(g)「ギターが3人いるので、ギター中心のサウンドになっているけど、“ギターロックじゃなきゃダメ!”っていうのは特になくて。もう1人のギターのハジオさんが鍵盤しか弾かない曲もあるし、シノヤマくんはエレキとアコギを曲によって弾き分けています」
――今作に収録されている楽曲は新しいものが多いんですか?
シノヤマ「基本的にはそうですね。どうしても新しい曲をやりたくなるんで」
フセ「去年、ベースが(スダユウキに)変わってからの初のフルアルバムになるので、初の合宿をして作っていきました。ベースがグイグイ引っ張っていけるようになったので、それによって曲が変わってきた部分も多大にありますね。『ユーズドクロージング』(M-2)や『空想少女リリー』(M-3)は、今回の合宿で作りました。『アパシー』(M-7)は、バンドを組んで最初に合わせた1曲で、『距離感の部屋』(M-6)は1stミニアルバム『人間遊び』(‘11)に弾き語りバージョンで収録されています」
――『アパシー』の歌詞は強烈ですね!
シノヤマ「僕が大学生の頃に就職活動をしていたときの経験を元に書きました。会社の面接を受けていたら、途中からだんだんよく分からなくなってきて…もう、止めようと。どこの会社の説明会に行っても同じことを言われるし、俺はロジカル・シンキングが出来ない人間なのかと思い知らされました。実際、どこも上手くいかなかったから、自分は人材として求められてないなと思ったんです。だから、僕が社会にはじかれたような気持ちになったときに作った曲で、歌詞の内容もそういう感じですね」
――なかなか歌えないようなダークな歌詞だと思います。そんな曲がこのバンドの出発点としてあり、核となるように今作のほぼ真ん中に収録されているのも印象的です。
シノヤマ「今のアルバムに入れても全然不自然じゃないというか…」
フセ「確かに、そう考えると面白いですね。最新の曲と最古の曲が同居してる。だから、言っていることは一貫してるんだろうなと思いますね」
みんなポップじゃなきゃ聴かないから
――今回のアルバムで初めてSuck a Stew Dryを聴く人もきっといますよね。
シノヤマ「そういう人にも届けられるようなポップさというか。初めて触れる人にもまずは口当たりのよい作品でもありますね」
――1曲目の『僕らの自分戦争』は歌詞だけを見るとすごく冷めている部分もありますけど、弾んだ曲調とのギャップが面白いです。
シノヤマ「基本的に歌詞はメロディや曲調とは別モノと考えています。もちろん、曲によっては歌っている内容に添っているものもあるんですけど。(歌詞と曲調の違いが)顕著に現れた曲が『僕らの自分戦争』かもしれません。聴いただけだと何を言っているのか、今いち入ってこなくても、分かることもあると思ので、やっぱり歌詞カードを読みながら聴いていただけたらなと。言葉選びも意識して書いているので、歌詞の意味も考えていただけたらなと思います。でも、1stフルアルバムなので、難しく考えずに、全体的に楽しんで聴いて欲しいですね」
フセ「シノヤマくんは、“みんなポップじゃなきゃ聴かないから”ってよく言ってます。だから、曲はポップなんだけど、歌詞を読んでみると実は…っていうところがSuck a Stew Dryの武器じゃないかなと、僕はずっと思ってます」
シノヤマ「音楽ってオブラート的な作用も結構あると思っていて、言いにくいことでも音楽を通すと言いやすくなるように思うんです。そういう意味でも、オブラートの部分は口当たりを良くしようと思ってます。毒を入れるなら、見た目は美味しそうな料理にしなきゃ!っていう感じ…。だって、見るからに毒が入ってそうなご飯って誰も食べないと思うから(笑)」
世の中そんなにやる気のある人ばかりじゃない
――シノヤマさんはいつ頃からオリジナル曲を作るようになったんですか?
シノヤマ「中学1年生のときからですね。昔、ケータイのアプリで着メロを打ち込む機能があったので、それでメロディを作ったりしてました。それから、家にあったパソコンで打ち込み的な曲を作るようになって。だから、曲作りを始めてもう10年以上になります」
――はじまりはバンドとしてではなくて、シンガーソングライター的なやり方で?
シノヤマ「う〜ん、でも打ち込みを始めてからは、バンドサウンドみたいなものが好きだったので、ドラムやピアノ、ストリングスなんかも入れて、J-POP 的なものを目指してましたね。だから、その頃作りたかったものに一番近いものが、今回の『ジブンセンキ』で作れたかなと思います」
――創作の根っこは深いんですね。
シノヤマ「自分の人間性自体はあんまり変わってないので。もっとたどっていくと物心付いた頃になるんですけど。保育園ぐらいの頃から、同級生に対して、“この人ズルいな”とか、気付く方だったので」
フセ「僕ら、割とそういう人種なのかもしれない…」
――そもそもこのバンドを始めたきっかけというのは?
フセ「元々のメンバーは同じ大学の同じサークルにいたので、シノヤマくんが卒業するタイミングでこのバンドが始まったんです」
シノヤマ「サークルの延長みたいな感じですね。良くも悪くも内輪乗りというか、今でもメンバー内でワチャワチャしてます(笑)」
フセ「基本的にはシノヤマくんが持ってくるメロディと歌詞に他の4人が乗っかって、楽曲を仕上げていくので。やっぱりシノヤマくんの楽曲と歌ありきですね」
シノヤマ「9割ぐらいそうですね。曲によって、各メンバーの好きなジャンルっぽくするというか。それぞれの音楽的な趣味がバラバラだから、そういう幅の広げ方が出来るんです」
――プロフィールには、“何となくバンドを始めた”みたいなことが書かれていますが…。
シノヤマ「それは、その通りです(笑)。就活を辞めてから、他にやることもないし。最初は遊びでやろうよみたいな感じだったんです。自分でオリジナル曲も作ってたんですけど、そんなにガチでやるつもりはなくて。ライブするつもりも特になかったし。最初はたまたまお誘いが来たから、出てみようかって感じでした(笑)。CD出したときもそんな感じ。だから、不思議体験をし続けてる感じですね」
フセ「そうだよね。ホントに“スゲー頑張ってきましたー!”みたいな感じではないので。別に熱がないわけじゃないんですど(笑)」
――でも、そうやって何となくやってきたバンドの曲がリスナーの共感を呼んで、徐々に広がっていってる。
シノヤマ「世の中そんなにやる気のある人ばかりじゃないんでしょうね、きっと…いや、もちろん、やる気がないわけじゃないんですけど(笑)」
――熱い表現をするタイプじゃないというか?
シノヤマ「そういう熱いタイプの人が羨ましくなるときもあるんですけど、なろうとしたところでなれないっていうのもあって…。そこは、自分のままでいいのかなって。今のところそういうスタンスでいいのかなと思ってます」
――嘘くさい優しさや前向きさではなく、冷めてるようで諦めてない、リアルな強さが感じられます。
シノヤマ「そうですね。優しさの押し売りはしないというか、そういう距離感がちょうどいいって言われたりもします。前から言っていることなんですけど、ファンの人たちって友達ではないし…だから、“負けんなよ”とか、“僕が救ってあげよう”みたいな歌詞ではないです。でも、何となくそういう人がいるんだっていうことだけは分かってはあげられるというか。直接救ってあげることは出来ないけど、認めてあげるぐらいでいいのかなって。それぐらいの距離感がいいと言ってくれる人もいます」
――何となく始まって、ちょっと脱力したようなムードを醸し出しつつも、このバンドは続いていくんじゃないかなっていう予感がします。
シノヤマ「“脱力の力”っていうと意味が分かんないかもしれないけど(笑)、ちょっと悟っちゃってるような、“無”的なものを抱えているような…そういう“中ぐらいの気持ち”も大きいんじゃないかなって…」
フセ「そうだね。すごいエネルギーを抱えていて、“やるぞー!”ってなってる人を見ると、“何だお前?”って思っちゃたりもするので。それに対する反抗心が原動力というか、主にシノヤマくんの活力源なのではないかな」
――脱力しているけど、そこにはちゃんとカウンター精神があるんですね。
シノヤマ「そうそう! そうなんですよね」
感情って結構いろいろあって
楽しいだけじゃないし、かと言って悲しいだけじゃない
全方向の感情の動きを楽しんでいただけたら
――Suck a Stew Dryにとって、理想のライブってどういう感じですか?
シノヤマ「今までの楽曲がちょっと暗めだったので、暗いバンドだと思われがちなんだけど、ライブは結構楽しくやっているんです(笑)。今回は比較的ポップな曲が多いので、楽しげに聴こえると思うけど、逆に楽しくやるだけじゃないぞというか…。感情って結構いろいろあって、楽しいだけじゃないし、かと言って悲しいだけじゃない。いろんな感情で全方向に行けたらいいなと。笑いあり、涙ありで、僕たちという人間性も含めて、最終的には全方向の感情の動きを楽しんでいただけたらなと思っています」
フセ「僕としては、ライブを観るとSuck a Stew Dryの見え方がさらに広がると思います。ライブだと曲の感じ方も全然違う可能性もあるので、ライブに来て、さらにドーンとSuck a Stew Dryにハマッて欲しいです(笑)」
Text by エイミー野中
(2014年11月 7日更新)
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