「とにかくバンドをやってることが楽しい」
the pillowsの27年目の青春。5人のベーシストを招いた
『STROLL AND ROLL』引っ提げいよいよツアー後半戦に突入!
山中さわお(vo&g)インタビュー&動画コメント
(2/2)
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ファッションで言うジーンズのようなポジションが
the pillowsにおけるベース
――THE PREDATORSでさわおさんと活動を共にするJIRO(GLAY)さんも参加されてますが、THE PREDATORS自体も10年を超えてるのがすごいなと。
「意外とね(笑)。遊びでやってるんじゃなくてね」
――JIROさんに関しては、敢えて“らしくない”ベースをオーダーをしたと。
「8分の6拍子のリズム&ブルースみたいなことをGLAYでやってるイメージがないので、どんな感じで弾くのかなぁと思ったら…
『カッコーの巣の下で』(M-2)のベースは、今回のセッションで一番驚きましたね。想像してないつもりでも、最初はやっぱりスタンダードなベース音を脳みそが鳴らしてたんですけど、それとの距離感が一番遠かったのがこのテイクで。今回は(サポートではなく)“ゲストミュージシャン”ということなので、僕の頭の中で鳴ってる音に寄せるのは、主旨が違うので。とりあえず一旦持って帰って聴いてみたら、何て計算し尽くされたフレーズなんだと。ギターと一切ケンカせず、だけど独立した主役というか、ツートップみたいになってて。今となればこの曲はこのベースじゃないとありえないぐらいの気持ちなんで、本当に頼んでよかったなと思いました」
――ちなみに、the pillowsにおけるベーシストの役割とは何だと思います?
「ファッションで言うと“ジーンズ”みたいな感じなんですよ。“今日はどんな服着てた?”って聞いて“ジーンズを履いてたよ”って言う人って、あんまりいないじゃないですか。それは置いといて、Tシャツとかカーディガンとか、他の服のことを言う。でも、ジーンズを履いてなかったらこれ、大騒ぎじゃないですか(笑)。ジーンズのようなポジションがthe pillowsにおけるベースなんですけど、『カッコーの巣の下で』は結構ハデな柄のパンツだった(笑)。そうなると“俺のカーディガンの柄も考えないと”と思ったら、“意外と合うんだ!”みたいなことに一番驚いて、一番化学反応があったのが『カッコーの巣の下で』かなぁ。JIROくんには『Stroll and roll』(M-9)も弾いてもらってるんですけど、この曲のプレイに関しては僕の頭の中で鳴ってるものを弾いてくれたので、何でもかんでも主張しようっていうベーシストじゃなくて。『カッコーの巣の下で』がそのフレーズを呼んだんだと思うんですよね。『Stroll and roll』だけだったら、多分今みたいな衝撃はなかったと思ってるので」
――そう考えたら、配役の妙というか。あとは髭の宮川トモユキさんも。
「宮川もアルバムでは『Subtropical Fantasy』(M-5)だけなんですけど、シングルのC/W(=会場・通販限定シングル『カッコーの巣の下で』収録の『ベラドンナ』)も弾いてくれてて、そっちがすごいオルタナなベースなんですよ。それとこの2曲の対比があって。『Subtropical Fantasy』も、想像してなかった主張がグイッときた感触があって、バンドの方が辻褄を合わせたんですよね。“おっ、ここでこんなベース弾くんだ。ちょっとここのドラムを1回寄せてみようか”みたいな感じで。おもしろかったですね」
――髭はトリビュートアルバム『ROCK AND SYMPATHY』(‘14)にも参加してくれてましたけど、the pillowsの背中を見てきたバンドも、今や結構いい世代ですもんね、ここまでやってくると(笑)。
「そうなんですよね(笑)。鹿島さんが53、上田さんが50だから、危うく若手って言いそうになるんですけど(笑)、あいつらも今じゃ後輩がいっぱいいるんだなって」
――the pillowsの背中を見てる髭の背中を見てる誰かが(笑)。ライブサポートを務めているVOLA & THE ORIENTAL MACHINEの有江嘉典さんも、今作には参加していますね。
「有江くんはライブのセッションでもそうですけど、とりあえず激ウマなんですよね。ただ、彼はまずはライブから入って、過去の曲のコピーばっかりしてたわけじゃないですか。だから、このアルバムに関してはまだ本音を隠してるんじゃないかって俺は思ってる。まだ“きっと無地のジーンズをお望みなんだろうな”と思って弾いたんじゃないかな。僕の方から“もうちょっとハイフレットでソロっぽいやつも弾いて”って言うと、“マジっすか、じゃあ”ってパパッと弾いても“いいねそれ!”っていうプレイができるんで、まだちょっと他の人よりは遠慮してるのは分かってる」
――うわ~こういう話はおもしろいですね。
「元々は宮川の紹介なんですけど、“もうとにかく激ウマだ”って褒めてて。本来はもっとねちっこくて癖の強いベースを弾くんだけど、“非常に人間ができている素晴らしい人なので、多分さわおさんのやりたいようにやれるはずですよ”って。まさにその通りだったんですけど。ただ、そのねちっこさとかディープな部分をまだあんまり感じてないので、これは隠してるなっていう(笑)」
――ちなみに、次のオリジナルアルバムはどうするんです?
「僕が想像するに、これのパート2みたいなことにはしないと思うんですよね。今回はやっぱり、ちょっと企画っぽいじゃないですか。でも、音楽のことだけを考えると、例えば10曲中8曲が有江くんで、1曲が誰かでもう1曲が誰か、中途半端に3人みたいな(笑)。まぁまだ分かんないですけどね」
ロックンロールをやろうとは思ってましたね
――そもそもこうやっていろんなベーシストが参加するのはあったにせよ、さわおさん自身はどういったアルバムにしようかというビジョンはあったんですか?
「正確に言うと、制作の中盤ぐらいから芽生えましたね。『カッコーの巣の下で』を一番最初に作ったんですけど、これはソングライターとしても手柄を感じる曲というか、バンドでやる前から絶対にいい曲になるのが分かって、そこでちょっとホッとして。そこからは何も考えずに曲を書いていって、4~5曲目ぐらいで『Stroll and roll』(M-9)ができた。何となくその響きとか歌詞の世界観から、“あ、これがタイトル曲になるな”って。じゃあちょっとロックンロールに寄せてみるかと、『ロックンロールと太陽』(M-4)とか『I RIOT』を書いたような気がする。そうですね、ロックンロールをやろうとは思ってましたね。ただ、元々『ブラゴダルノスト』(M-7)はなくて、ここにスカの能天気な曲が入ってたんですよ。ただ、それをシングルのC/Wの方に入れたくなって。なので本当はさらに明るい印象のアルバムだったんですよ。もっと軽やかだった」
――ちなみに『ブラゴダルノスト』って何なんですか?
「ロシア語で“感謝”という。もうタイトルを考えるのが本当に苦手で。特に日本語のタイトルが苦手で、だいだいケガをしないように英語にするんですよ(笑)。ただ、“感謝”を英語で調べてもダッサい感じで、全然自分の思う響きじゃない。でも、日本語で『感謝』もありえない。じゃあ困ったときはロシア語だと(笑)。『ブラゴダルノスト』って聞いても何だか分からないけど、この響きが好きだなって」
――『ブラゴダルノスト』で検索の出てこなさがすごかったです(笑)。50件ぐらいでした(笑)。後からそうやってアルバムに入った曲が、“感謝”なんて想いが込められた曲だったんですね。
「『ブラゴダルノスト』は1行1行、僕が小樽の海辺の街で育った少年時代、中学高校でロックが好きになって、でも自分はどうしたらいいのか、ロックにどう寄っていいのか分からなくてモヤモヤしてる時期から、グイッと今現在に来るような曲で…。そこで出会った友人にも恋人にも、あとは特に子供の頃を思い浮かべると、やはり両親にすごく愛情を受けて育ったなぁって。それも全部ひっくるめて、そういうタイトルにしました」
――そうだったんですね、聞いてよかった(笑)。ちなみに1曲目の『デブリ』とはいったい?
「“デブリ”=ゴミのことなんですけど、“スペース・デブリ”っていう言葉があって、映画とか漫画でNASAの人とかが、宇宙ゴミのことを略して“デブリ”と言ってて。役目を終えた人工衛星が回収されずにずーっと地球の周り廻ってたり、それに隕石がぶつかってバラバラになって1本のネジになっても、まだ消えずにずーっと廻ってて結構問題になったりして。これが小っちゃかったら地球に落ちてくるとき大気圏で燃え尽きるんですけど、おじさんたちの1曲目は『ゴミ』という曲で始まるっていう(笑)。でも、燃え尽きたいっていう」
――いいですね。それこそ結成25周年の頃には、“the pillowsはもう終盤戦だ”みたいな発言も見ましたけど、いやいやこの感じだと誰かが死ぬまでやるでしょ!みたいな(笑)。
「(紙資料のシンイチロウさんを指差して)誰かっていうか、こいつでしょうね(笑)」
――アハハハハ!(笑) アルコールの摂取量がハンパないですもんね。
「もうね、摂取量が死に向かってますから。長い時間を掛けて今自殺をしてるようなもんですから(笑)」
――アハハハハ!(爆笑) 最高です!(笑)
ゴールに向けて模索してる時間が本当に好き
――あと、シュリスペイロフもTHE BOHEMIANSも、最近取材で会って話したりして思ったんですけど、彼らも一度はメジャーに行って、それがダメになって、その後にさわおさんのDELICIOUS LABELから出した音源がみんなよくて。きっかけを失っているバンドを、幾つもさわおさんが救ってくれてる気がして。
「何だろう、趣味なんですかね?(笑) “他人には興味がない”って言いたいんですけど、多分あるんですよ。でも、興味があると弱いじゃないですか? 興味ない方が強いじゃないですか。でも、あるんですよね~(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「でも、後輩と言えども、ロックとか音楽の正解を僕が知ってるわけではないので、伝え方には気をつけてます。プロデュースするときも、“一旦俺の思うようにやってみていい?”って聞いて、“君たちの思ったこと、俺の思ったこと、この場でどっちかに決めるんじゃなくて、俺の出したアイデアが全部却下されても気にしないから、1回持って帰ろう?”みたいな感じで言うと、だいたい“さわおさんのアイデアの方でいきたいです!”みたいになるんで。何て言うのかな…レコード会社のディレクターとかプロデューサーから高圧的に“こうしろよ!”って言われたら、それがいいものでも“何だよ!?”みたいな気持ちになるんですよ。でも、自分のレーベルに関しては発信してる人間=僕なので、みんなもちゃんと音楽とバックボーンを知ってくれてるわけじゃないですか。そうするとね、意外と素直に…仲良くやってますよ(笑)。アルバムを2枚作るぐらい時間をかけても、僕はモノの伝え方には気を使う方なので」
――それこそ“感謝”ですね。やっぱりみんな最新作がいいから、DELICIOUS LABELと出会えなかったら聴けなかった音源なのか、って思ったりもします。
「僕自身もそうじゃなかったら損失というか、好きなCDが世に出るのって、そういうことじゃないですか。僕自身がそれを感じたいので。あと、スタジオでレコーディングしたものを、本当に0.1dB音量を上げたり下げたり、ちょっとタイムをずらしたりとか、ゴールに向けて模索してる時間が本当に好きなんですよね。いっつもスタジオにいたいぐらい。昔はレコーディングは好きじゃなかったし、“よく分からないから任せます”みたいな感じでしたけど、今は具体的な機材名とかリクエストの仕方も分かってるので。(スタッフを指差し)彼女の旦那がエンジニアで、もう家に帰したくないもんね、俺(笑)」
(一同爆笑)
――さわおさんは、バンドをやっててやっぱり今が一番楽しいですか?
「一番楽しいというよりは、一番穏やかですね。例えば、20代の頃はすごい楽しいことと、すごいイヤなこと、どっちもあった。今はあの頃の楽しさとはちょっと種類が違うんで。もう童貞じゃねぇんだよこっちは!みたいな(笑) 自分のこの感情の面持ち的にも、あの頃に帰りたいかと聞かれたら、帰りたくないです。若い頃はすごい喜んだりすごい泣いたりすごい怒ったり忙しかったんで(笑)。もう本当に、今が一番いいですね」
――今日はすごくいい話を聞かせてもらいました。ツアーの後半戦、7月2日(土)なんばHatchも楽しみにしてます!
「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2016年6月30日更新)
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