「とにかくバンドをやってることが楽しい」
the pillowsの27年目の青春。5人のベーシストを招いた
『STROLL AND ROLL』引っ提げいよいよツアー後半戦に突入!
山中さわお(vo&g)インタビュー&動画コメント
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通算20枚目のオリジナルアルバムにして、この躍動感、このフレッシュさは何なんだ!? the pillowsの最新作『STROLL AND ROLL』は、バンドの結成メンバーであり初代ベーシストの上田健司、その後の第2期のボトムを支えた鹿島達也というかつての戦友に加え、THE PREDATORSで山中さわお(vo&g)と活動を共にするGLAYのJIRO、結成25周年記念のトリビュート盤『ROCK AND SYMPATHY』(‘14)にも参加した髭の宮川トモユキ、現在のライブサポートを務めるVOLA & THE ORIENTAL MACHINEの有江嘉典という5人の個性豊かなベーシストを招聘。バンドにもたらされた新たな刺激に後押しされ、’12~’13年の活動休止期間を乗り越えライブと作品を積み上げたthe pillowsの構造改革が遂に実現した、充実のロックアルバムとなっている。北海道は小樽の海辺の街で育った少年時代から、ロックに焦がれた青春時代、そしてthe pillowsとして歩んだ27年の景色が交差するような、全10曲37分。ここにきて「とにかくバンドをやってることが楽しい」と語る山中さわおの姿に、いつかの少年の面影と、己の音楽を鳴らし続けたバンドマンのまなざしを見た。
今は27年やってて初めてメンバーと仲がいいと思うので(笑)
――今回のリリース周りの記事をいろんなメディアで読ませてもらっても、さわおさん自身がすごく楽しそうで。ここまでキャリアを重ねてきて、今改めてそういう気持ちになっているのを見ていると、こっちも嬉しくなりますね。
「いやぁ、もう非常に心穏やかで(笑)。そういう自覚があって、ハッキリ言葉にして人に伝えに行くのも初めてじゃないか?っていうぐらい、この状態が好きですね、とても。今までの人生であまり知らなかった感覚だと思います。それはバンドとか音楽的なことだけではなくて、生きている上で俺が“こうなったらいいのにな”って思い描いたものが、どんどん叶っていったというか」
――さわおさんは、目標に目掛けて強い精神力と情熱で向かっていくのが、ある種のエンジンでもあったわけじゃないですか。ヘンな話、それがなくなって拍子抜けになる、とかとは違ったんですね。
「拍子抜けの時期もあったんですよ(笑)。その感覚が3~4年前ぐらいに一旦活動を休止するときにあって。それは…準備もしてなかったので、ちょっとうろたえもしたんですよ。ミュージシャンとしてのキャリアも年齢も重ねてきて、歳をとったなって強く感じた時期でもあったし。でもそこを通り抜けて、今は何でも楽しめる自信があるというか。でも、自分がそんな気持ちになるとは本当に思わなかったですからね。多分、20周年(‘09)で武道館をやって、その後に少し燃え尽き感はあったと思うんですよ。もしかしたらメンバーもそうだったのかもしれない。とは言え、クリエイティブなことに関しては種は撒いてたんです。例え話をすると分かりやすいと思うんですけど、the pillowsはみんなが思ってるよりも、実は僕も含めて不真面目で適当な面がいっぱいあるんですよ。インタビューとかで語ると、何となく僕らのシリアスなところがクローズアップされるんですけど、本当はすごく直感的にポンポン物事を決めてくことが多くて。the pillowsがレストランだとしたら、提供する料理の幅が結構広くて、何でも楽しめるというか。パスタを出してもいいし、中華を作ってもいい。そのときのブームがあって、作るセンスと技術があって、それを出して喜ばれる。でも、ずっとイタリアンを極める人もいるじゃないですか?」
――そうですね。もう一心不乱にその道を突き詰める人もいますし。
「こだわってこだわって、いいスープがなかなかできないからもう店は閉める、みたいなこともあるじゃないですか。でも、僕らはそうじゃなくて。僕らはthe pillowsをやることがまず目的なので、とにかくバンドをやってることが楽しいので、やることが大前提。やらないのが一番つまらない。それが“今の気分だったらこの料理を出すよ”っていうことなんですけど。ただ、やることが目的だとしても、腐った料理を出したら、自分が食べたくないものまで出してしまったら終わりなんです。そのぐらいの状況になったので、活動休止することになった。いくらバンドをやろうが適当だろうが不真面目だろうが、限度はある。あの当時はそこまで行ってしまったというか、行くだろうなという入口に差し掛かったので、“これはヤバイ!”と思って、一旦活動休止して考えようって」
――味が落ちる予感があるのに、店を開け続けるのはどうなんだっていうことですよね。
「味が落ちるぐらいならまだ許せるって感じですよ(笑)。ヘンな話、最後のメインディッシュにとんでもない料理が出てきたら、何とか許してくれるだろうって。でも、それを超えたの(笑)。もうそういうレベル。ダメになっていく予感がしたので、1回店を閉めようって」
――バンドっておもしろいですね。武道館までいっても、そういうことにもなるんですね。でも、その活動休止は大正解で、復帰直後よりも、さらに今がいいですよね。その余波が時差で来たというか。
「これは性格的なものなのか、活動休止は僕が言い出したことですけど、2人は想像もしてなかったことだと思うし、相当…自分の人生を真剣に見つめ直す1年だったと思いますね。あの時期のことをお互い真面目に話し合ったことはないですけど、“あの1年は辛かったな、もうイヤだな”って思ってるはずなので。なんですけど、多分俺の性格上、パチン!と変われなかったと思うんですよね。やっぱりグラデーションで変化したというか」
――いやそうですよね。ここまで生きてきちゃうとなかなか。
「もう年齢が年齢ですしね。なので、“変わろう”というか“戻ろう”とはしたと思うんですけど、それが復帰直後に録ったときよりも、そこからまた時間があって、ツアーも2周ぐらいして、どんどんいい方向に向かったと思うんです。ヘンな話、復活した瞬間は、何もかも改善されてたかというと、実はされてなかったんで(笑)」
――アハハハハ!(笑) 結構休んだのにな、みたいな(笑)。
「そうそう(笑)。僕は自分もそうなんですけど、努力した結果ミスしても、あんまり気にならないんですよね。だけど、音楽とかステージに立つことを舐めてると、同じことでも感じ方が違うじゃないですか。あと、多分前なら心の中で舌打ちしてたのを(笑)、割と言えるような雰囲気になったんですよ。ライブが終わって、お互いのミスが共通認識としてあるから、普通に“何だよ、あそこでやってくれたなぁ!”、“ゴメンゴメン!”みたいなことを明るくポーン!と言い合えるようになって、風通しがよくなった感じ。いろいろと変わったと思う」
――ここまで続けても、どこでバンドのいい季節が訪れるか、分からないもんですね。
「いや、そうですよ。だって、今は27年やってて初めてメンバーと仲がいいと思うので(笑)。the pillowsには全くそういう時期がなかった。仲が悪かったわけではなくて、ドライな間柄で来てたんで」
――人間関係が音楽によって成立してるパターンですもんね。
「そうですそうです。でも、意外と外から見て仲良いバンドがそうでもないところも見てきたので(笑)。なのに俺らは、今になってグダグダ言いながら朝まで一緒に呑んでるなとか、何かいろいろと気分が変わった、うん」
――音楽だけでも満たされはするけど、やっぱり風通しがよくなると、何をやっても楽しいですよね。そもそも好きな音楽をやれているということでも。
「そうですよね。ドラムの(佐藤)シンイチロウは、いつもお酒を呑みながらレコーディングしてたんですけど、今回から僕も真鍋(吉明・g)も、お酒を呑みながらギターを弾いたり歌ったりするようになって。でも、それで気に入ったテイクを録れるようになったんですね。休憩の時間もみんなで食事をしたり、そこで今まではしなかったような会話をしたり…。こういう空気になってから、“さっきのテイクのここをああしよう”とか、音楽の擦り合わせの会話も、とても素直でスムーズになったので。結果、音に絶対的によく作用したので、そこがとってもいいなと思ってることですね。3人で呑んだ時間が楽しい、だけではなくて(笑)。それがあってのステージとか、レコーディングの音に直結する感じがいいんですよね」
何か変化したいわけではないんですよね。ちょっとスパイスが欲しい
――最新作の『STROLL AND ROLL』は、20枚目のオリジナルアルバムということだけでもすごいですけど、今回は5人のベーシストをゲストに迎えたのも1つのトピックで。最初から誰か1人ではなく、何人か呼んでみようというアイディアはあったんですね。
「元々ありました。もう27年やってるバンドなので、カンフル剤みたいなものは昔は5年に1度でよかったんですけど、それが3年に1度、2年に1度…ほんのちょっとのことでいいんです。何か変化したいわけではないんですよね。ちょっとスパイスが欲しい。本当にそれぐらいのことで十分に楽しめるのかなって」
――そういう意味では、この5人は十分スパイスになる人たちで。それぞれの接点で言えば、もう元メンバーもいるわけで。それこそ初代ベーシストでリーダーの上田健司さんなんかは、25周年(‘14)のときにも同じステージに立ってましたけど、レコーディングを共にして改めて戻ってくる感覚とか、それぞれが歩んできた道を感じたのでは?
「感じます感じます! よくよく考えたら分かるんですけど、まだ若くて何者にもなれてないときの方が、お互いにエゴがあって、音楽でぶつかってぶつかってギクシャクして。僕は僕なりに小さいお山の大将になって、彼は彼なりにプロデューサーとして有名なアーティストを次から次へと手掛けて名を馳せて。ヘンな話、どっちもさらにエゴが大きくなっててもおかしくないわけじゃないですか?」
――そうですね。それぞれのスタンスがもっと確立されていってますからね。
「それがね、全く違ったというか。“山中はこれをどうして欲しいの?”、“いや、上田さんがどんな感じで弾きたいか聴いてみたいです”、“いや、何かヒントちょうだいよ”みたいな感じで、何だこの譲り合いは!っていう(笑)」
――アハハ!(笑) あのときのぶつかり合いは何だったんだ?みたいな。
「そうそう(笑)。それが『I RIOT』(M-3)だったんですけど、最初は割とギターリフに寄り添った感じで弾いてくれてて、“もっとそれを無視した勝手な感じを聴いてみたいです”って伝えて、“じゃあこんな感じは?”って弾いたフレーズが結構よくて、あっという間にできていったんですよね。“上田さん、昔と違うじゃないですか”って言ったら、“そりゃそうだろ…あれから24年経ってるんだよ”とか言われて(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「あれから上田さんもいろんな人と出会って、いろんなことも言われたり、いろんな立場になって。逆にエゴのあるミュージシャンを使う立場にもなるじゃないですか。だからこそね」
――ヘンな話、お互いが続けてなかったら、こういう場も生まれなかったわけですからね。
「そうなんですよ! この間、怒髪天の増子(vo)さんのテレビ番組の収録があったとき、増子さんからメールがきて。 “もう50の男たちが、自分が冠のテレビ番組の司会をして、そこに山中がゲストで来るなんて、30年前に一緒に遊んでたときにはまるで考えられなかった未来だよなぁ”って(笑)。その頃は増子さんもハードコアパンクだったし(笑)。ちゃんと大人になって、ちゃんと音楽を続けて、テレビで2人で喋るようになるなんて、思いもよらなかったんで」
――そして、the pillowsの第2期のベーシスト、鹿島達也さんも参加されていますね。
「鹿島さんは去年もライブで何本も一緒にやったし、その前に僕のソロでも一緒にレコーディングしてたんで、意外と久しぶりじゃなくて。鹿島さんも最初は割とらしくない、ちょっとthe pillowsに寄せたのかな? みたいなフレーズを弾いて。“これは8ビートの曲ですけど、鹿島さんは16ビートのノリで、もっと黒くてソウルっぽいやつを、鹿島さんらしいやつを炸裂してくださいよ”って言ったら“あ、そうなの?”って、パッと弾いたらいきなりこの感じ(笑)。それが『デブリ』(M-1)なんですけど」
――こうやって元メンバーと改めて手を合わせていくのも楽しいですね。
(2016年6月30日更新)
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