昨年のこの2人の目を見張る活躍で、その名前を、その歌声を知った人が、いったいどれだけいたことだろう。‘13年12月に『NHKみんなのうた』で放送直後から“泣ける歌”と話題となった名曲『日々』を起爆剤に、’09年のデビューから地道に積み重ねた月日にようやく火が灯された、吉田結威(vo&g)と山田義孝(vo)によるポップデュオ・吉田山田。YouTubeの再生回数780万超(!!)という自身が築き上げた大きな頂を見上げながら、彼らが1年半ぶりにリリースしたシングル『キミに会いたいな』は、10年前にはその欠片が生まれていたという只ならぬ楽曲だ。『日々』同様抑制の効いたアレンジ、美しいメロディを引き立てるストリングス、そして、そこに秘められたどうしようもない情熱は、彼らが今までどれだけ誠実にグッドミュージックを紡いできたかを、改めて証明するかのような確信に満ちている。9月には関西にて『若草山 MUSIC FESTIVAL 2015』他イベントに出演、10月には主題歌を担当した映画『ボクは坊さん。』が全国ロードショー、11月には大阪シアターBRAVA!より過去最大規模の全国ツアー『吉田山田ツアー2015冬』がスタートと、その歩みを止めない2人にパーソナルな心情を聞いた、グッドヴァイブなインタビュー。
吉田 「去年は、それこそずっと出たかったMステにも出させてもらって、もちろん緊張もして、多分寿命も40日ぐらい縮まったと思いますけど(笑)、そんな中でもいろんな刺激を受けて、曲を作る意欲は自分でも不思議なほどに湧いてきていて。『日々』を経て出来てくる曲が、今の吉田山田が歌うべきことを歌えてる確信があったので、全然息詰まらなかったんですよ。ただそれを並べて選ぶ段階ではちょっと落ち着いて、今までに作った曲を、それこそ10年以上前のものから全部引っ張り出して聴いてみて。『キミに会いたいな』(M-1)が、今の僕らにとってすごく揺さぶられるものがあったんですよね。その当時も好きな曲ではあったんだけど、今の方がより揺さぶられる気がして」
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――俺はもう、“『日々』の後に出すシングルなんだから。ホント次が大事だから!”っていう、いい曲書けプレッシャーがめっちゃあったのかと(笑)。
山田 「アハハハハ!(笑) それはありましたよ、山ほど。でも、
前にも言いましたけど 、“今が勝負だよ”って言われ続けた5年だったので、それはもうデビューからずーっと続いてるんですよ。悩みに悩んだ時期ももちろんあったし、そんな中で『日々』をリリース出来て、たくさんの人に聴いてもらえた。逆に僕らからしたら、ある意味肩の力を抜いて作った作品がそうなったから、今の自分の心にちゃんと向き合えば言葉も出てくるし、難しいことを歌う必要はないんだなっていう、1つの大きな発見だったんですよね。だから、『日々』を経てなかったら、今より悩んでたと思う。あと、『日々』をきっかけに昔の曲を聴いてくれてる人たちもいるし、そういう意味では“今までの曲もいいぞ”っていう自信もあるので。だからこそ、改めて全部の曲を聴き返した部分もありますね。多分無意識だったと思うんですけど、『日々』で日常を淡々と描いた次だからこそ、『キミに会いたいな』みたいにすごく感情的な曲を歌いたい気持ちになったんじゃないのかなぁって」
吉田 「この曲が出来たのは、それこそ自分たちでブッキングして小さなライブハウスに出ていた頃なんで、今とは曲の作り方も違う=そのときにしか作れない曲だから、心が震えたんでしょうね」
山田 「この曲って、すごくカッコ悪いんですよ。『日々』は言葉にしない美学とかがあるんですけど、この曲はどこか幼くて、蒼くて…カッコ悪いなって思うんですけど、何かグッときてしまう部分がある。多分僕の恋愛観=この曲の雰囲気なんですけど、誰しもこういう気持ちになる瞬間があって、そういう人たちの代弁というか、ちょっと感傷に浸るような時間になればいいなぁって」
――これはもう、男にしか書けへん歌詞よね。こういうことをもう何万年繰り返してるのかっていうぐらい、男の話ですよ、これは(笑)。
山田 「アハハハハ!(笑)」
吉田 「ホントに(笑)。でも、10年前も僕からしたら新鮮だったんですよ。山田と出会ってまだ間もない頃、お互いの恋愛観みたいなものを話していくと、もう驚きの連続で。女々しい部分は心の中にみんなあると思うんですけど、それをさらけ出しちゃうとか、出したくないんだけど出ちゃうとか、全身全霊で恋にぶつかっていく姿が僕からしたらすごく新鮮で。僕は山田というフィルターを通して、この曲を作ってるところが結構ある。だからこれは山田と●●ちゃんの2人の…」
山田 「アハハハハ!(笑)」
――でもさ、それこそ10年前から山ちゃんは別に変わってなくない?(笑)
山田 「変わってないです。ほぼ変わってないです」
――そうよね? 同じことを繰り返してそうよね?(笑)
山田 「繰り返してます。多分これからも繰り返します(笑)」
――歌のテーマにもよくなるけど、まぁ失わないと分からないですよねっていう。
吉田 「本当にそうですね。山田は飲み込まれるんですよね、恋愛にも感情にも。その最中はもう訳が分からない状態なんだけど、それを超えたときに何か得るものがある。それを山田は口で説明出来ないから歌にする。だから山田は、不幸な方が曲が書けるタイプだと僕は思うんですよ」
――そうやね。山ちゃんはそんな気がするんで、幸せになったらなったでいろいろ心配ですよ(笑)。
吉田 「大丈夫ですよ、そこそこ不幸なんで」
山田 「そんなことないわ!(笑)」
吉田 「アハハ!(笑) でも、この10年で変わったところもあって。あんなに正反対だと思ってた2人にどこか似た部分が出てきて。僕の中にも女々しさみたいなものがあるのもちゃんと自覚出来るんです」
10年前の仮歌は、まぁ下手なんですよ
だけど本当に気持ちのまんまで歌ってるから、下手だけど何かグッとくる
――本当に素直な曲だけど、今改めて10年前の曲を歌ったとき何か思いました?
山田 「10年前の仮歌は、まぁ下手なんですよ。だけど本当に気持ちのまんまで歌ってるから、下手だけど何かグッとくる。10年後の僕が改めて歌うのが、一番難しかったですね。技術的には上手くなってるんですけど、そこだけじゃない曲に込めた想いというか、浸る部分では。歌入れの途中で“もっと下手に歌ってくれ!”とか言われたり(笑)」
――明らかに今の自分より下手な、過去の自分に勝てないと。
吉田 「不思議だったなぁ、あれは確かに。あとこの間、占い師さんに占ってもらうインタビューがあって」
――それめっちゃ楽しそうやん(笑)。
吉田 「その中で、“あなたはもっと浮かれていい。堅実過ぎる”と言われ。なるほどな~って。最近は“(『日々』のおかげで)生活も変わったでしょ?”とか言われるんですけど、そんな気が本当にしなくて。それはそれで何でだろうな?って思ったら、やっぱり今は自分が思うことをちゃんと出来てるか、出来てないか。出来てなかったら凹むし、周りの評価じゃないんでしょうね。何だかんだ言って2人とも真面目なんですよ」
――よっちゃんは特にいつもストイックやもんね。だって以前 も、“そんなよっちゃんでも、はしゃぐことはあるの?”って聞いたら、“犬とジャレてるときぐらい”って(笑)。
山田 「アハハハハ!(笑) 地味~!」
吉田 「いいだろ地味でも! このパーティーピーポーが!(笑)」
山田 「パーティーとか全然行ってないわ! 俺、どんな印象なん?(笑)」
――よっちゃんは普通に家でも、ちゃんとしたパンツとか履いてそう。ドラマとか見てて思う“家でこんなキメた格好しねーよ!”っていう格好してそう、何か。
吉田 「アハハハハ!(笑) うちは親父がそうで、家の中でもお洒落なの。その影響で、割と家でもちゃんとしてる」
――帰ったらすぐパジャマに着替えます、とかじゃないってこと?
吉田 「パジャマでも、そのパジャマにこだわってる」
――誰かが唐突に訪問してきても、会えるぐらいのパジャマ(笑)。
吉田 「“あ、何かいい感じのパジャマ着てるなこの人”っていう評価は得られると思う(笑)」
山田 「もう本当にその反動で、朝起きて、パン焼いて、洗濯して、掃除して、生活する。とかが楽しくてしょうがないんですよ。掃除ばっかりしてます、クイックルワイパーで(笑)」
吉田 「よくお前、俺のこと地味って言ったな?」
――アハハハハ!(笑)
山田 「だからまたその反動で、変態に会いたいなぁとか(笑)、刺激が欲しいなぁっていう繰り返しだと思うんですけど。今はそれで曲が出来てるので、楽しくて仕方ないんですよ。C/Wの『HOME』(M-2)はそんな中で生まれてきた詞で、僕の場合は詞が出来上がったときに、自分が“あ、今こう考えてるんだ”って分かるタイプで。新生活が始まって、もうすでにどこかセンチメンタルというか、ホームシックになってるのを感じましたね(笑) 」
――何でこんなに郷愁があるんだろう?って思ってたわ(笑)。
山田 「いろんなところに行きたい! 冒険したい!っていう気持ちはあるんですけど、出かけた瞬間にちょっと家のことを考えてる(笑)。それが歌詞だけじゃなくてサウンド面にも出てると思うので」
――でも、山ちゃんってどこかで、“金髪の普通の人”になりそうな危うさがあって、怖いんよね。
山田 「そうなんですよね…」
吉田 「アハハハハ!(笑) 言った! 言った!(笑)」
――やっぱり山ちゃんには伝説を求めちゃうからな~今までのストーリーからいくと(笑)。
今の自分を“出す”んじゃなくて“出ちゃう”状態が
やっぱりライブの醍醐味
――よっちゃん作詞作曲のC/Wの『好きだよ』(M-3)もね、こんな幸せしかない曲も珍しい。
吉田 「そうなんですよね。10年前だったらプライドもあって言えなかったと思うんですよ。でも、今はこうしてライトに言えちゃったところに、自分でも成長を感じたというか。それは『日々』からもすごく大きな影響を受けていて、もしかしたら自分の思う通りに気持ちが伝わらないかもしれない、恥ずかしい思いをするかもしれない。けど、いつ会えなくなったりするか分からないし、言えばいいじゃん、伝えればいいじゃんっていう気持ちに、この10年でなったんですよね。あと、今までは2~3年ぐらいの時系列を1曲に詰め込んだりしてたんですけど、今は、これから先に何があるか分からないけど、“この1日はすごく幸せだったよね”みたいに、フォーカスの絞り方がちょっと変わったかもしれないです」
――10年前の曲もあり、最近の曲もあり、新たな目線もありで、おもしろいシングルになりましたね。忙しいだろうし、プレッシャーもあるだろうけど、いい状態ですね。
吉田 「そうですね。これからまた始まりますよ、絞り出し期が。でも何かね、吸収の仕方が上手くなったとは感じてて。“何だか分からないけど苦しい”とかがなくなった。今は苦しい理由が分かるから、それを解決するための糸口も何となく分かる。この歳になって自分が求めてるものが明確になってきて、歳を取ってよかったなぁって最近すごく思ってます。全然20代に戻りたくない(笑)」
――(笑)。ライブに関する意識も変わってきた?
山田 「『日々』以降、年配の方やチビッ子たちが来てくれることが増えて。例えば、去年のツアーとかでは“アップテンポの曲が多くて大丈夫かな?”とか思ってたんですけど、思い思いに楽しんでくれてるのを観て、あんまり気にしないでいいんだなって」
吉田 「ライブに関してはちょっとヘンな美学があって、“上手くなっちゃダメ”みたいな。だからいつも、ちょっと無理をする。今の自分を“出す”んじゃなくて“出ちゃう”状態が、やっぱりライブの醍醐味だと思うんで。だから、今でも楽じゃないし、慣れることもない。それが僕らにはちょうどいい気がして」
――なるほど。そして、自分が出てしまう=それを観られてもいい生き方をしなきゃいけないよね。
吉田 「それはもう、去年1年すごい緊張感の中でいろいろと仕事をしてきて、身をもって思わされました。誰にも頼れないし、そのときの自分で戦うしかない。本当に今までやってきたことしか出来ないんだなって。1日でどうにかなるもんじゃないから」
――いい意味で、立てる場所が変わってきたことによって感じた目線やね。まぁそれにしても、『日々』以降のプレッシャーの中で、『日々』に寄せて2匹目を狙わず(笑)。冬のツアーと今後の作品も、どうなっていくのか楽しみ!
吉田 「はい! 期待しててください!!」
Text by 奥“ボウイ”昌史