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毎年4月第3週の土曜日に開催されるレコードショップの
イベント『RECORD STORE DAY』seasick、荒井岳史、
Keishi Tanakaらが出演した、大阪のFLAKE RECORDS主催
のアウトストアイベントをライブレポート!

 日本でも音楽ファンの間で定着しつつあるRECORD STORE DAY(以下RSD)。RSD限定のアナログ盤が発売されるなど、音楽好きやコレクターにとってはバレンタインやクリスマスよりも楽しみな、年に一度、世界同時開催の音楽の祭典の日だ。その日を記念して、大阪のレコードショップであるFLAKE RECORDS主催のアウトストアイベントが心斎橋digmeout ART&DINNERで開催された。出演は荒井岳史(the band apart)、Keishi Tanaka、SEASICKの3組が登場。RSDを締めくくったイベントの模様をレポート!

seasick630.JPG 最初に登場したSEASICKは、QUATTROの潮田雄一と浜田将充によるユニット。床に座り込んだ2人の周りには、ギターやポータブルのキーボード、大きさも色もさまざまなエフェクター類がずらり。ドラムのスティックまで転がっている。ビールの入ったカップも床に直置き。遊び道具をちらかした部屋のようなその場から、“ギーッ”とも“グギャー”ともつかないノイズがギターとともに聴こえはじめ、ライブがスタートした。床に座ったまま浜田はあぐら、潮田は正座でギターをつまびき、時には手も足も使ってエフェクターを操作している。浜田が「今日はRECORD STORE DAYで全世界で音楽が鳴り響いていて…この会場に来てくれてありがとうございます」といい感じの挨拶をするけれど、ノイズが重なってよく聞こえねー(笑)。正確に刻まれるテンポと、波のようにゆったりと広がるギターと、無数にちりばめられたノイズと羅針盤を持たない自由な歌と声。これまでタイトルがなかったこのオープニング曲に、この日潮田が『あらすじ』と命名。続く『ブラジル』では、浜田のキーボードのテンポが速かったのか、「なんか速い」(潮田)、「速いね」(浜田)と、一度仕切り直し。あまりにもいつも通りな2人のそのやりとりにお客さんの笑いがこぼれ、浜田の口笛に乗って手拍子が広がっていく。「今の曲は『ブラジル』で、次の曲は『ベルリン』です(笑)」(潮田)と紹介し、よりジャンクで破壊度を増したノイズが鳴り響く。潮田は時折立ち上がり、ギターをマイクに近づけたり遠ざけたりしながら弾いている。床に座って演奏している彼らの姿は、フロアの後方にいる人たちからはほとんど見えていなかったに違いない。演奏を聴くだけでも十分に楽しいけれど、ちょっと近づいて見てみると、機材を操作したり何かを叩いたりする動作1つ1つから音楽が生まれている瞬間を目撃&体験していることに興奮を覚える。これこそ生の醍醐味。最後に演奏したのは、この日FLAKE RECORDSからリリースした7インチシングル『PELT』に収録の『Indian Summer』。床に置いたiPhoneの画面の歌詞を見ながら歌う潮田は、音楽に酔っているのかビールに酔っているのか、トム・ウェイツなのかニック・ケイヴなのかいい塩梅に酔いが回ったような歌いっぷり。船酔い(=SEASICK)感満載の揺らいだ歌声と、硬い音も緩やかな音も妙なノイズも全部が一緒になって、どこか知らない南国の街の路上で鳴っているような、陽気さとはかないにぎやかさが混ざり合った、世界で一つだけの音楽を楽しませてくれた。

araitakeshi630.jpg

 続いて登場したのは荒井岳史。さっきまで床に座って演奏していたSEASICKの視線の位置が低かっただけに、荒井の大柄な体躯がいつも以上に大きく感じられる。「the band apartの荒井岳史といいます。1曲目はthe band apartの曲をやりますね。…弾けるかな?(笑)」と始まったのは『Eric.W』。耳になじんだメロディーと歌にはじかれるように歓声が飛び、拍手が広がる。今さら何を言う状態なのを承知で言うけれど、本当にいい曲。柔らかみのある歌声がそうさせるのか、聴いているうちに何故か、いろんなことを思い出す旅が自分の中で始まっている。最初に世に出てからすでに10年以上経っているこの曲が、いつまでも色鮮やかなままなのはなぜだろう。もう少しで曲が終わろうかというところで、少々顔をゆがめるようにして「…疲れた!(苦笑)」と。「2人で歌うところを1人で弾いて歌うとなるとちょっとねぇ(笑)」と笑わせる。「RSDは、“レコード屋さんにGO!”ってことでしょうけど、こういうライブも同じで、音楽をたしなむ余裕っていうのかな? いいよねぇ。最近の言い方だと“いいね!”って言うんだろうけど(笑)」と饒舌をかまし、今日のRSDに7インチシングルでリリースした『ピルグリム』を披露。続いて『DISAPPERING MAN Pt.2』を日本語詞でセルフカバー。the band apartが日本語詞の曲を歌うことに何の違和感もない。というか、英語詞と日本語詞の違いがまったくといっていいほど気にならない謎なバンド。彼らは今年のRSDに3枚のシングルをリリースしていて、そのうちの1曲である『禁断の宮殿』を続けて聴かせてくれた。the band apartのハードボイルドな魅力が色濃く反映されたこの曲を弾き語りでプレイするのは、なんとこの日が初めてとのこと。貴重な初体験が出来たことを自慢しなければ。リラックスした雰囲気のMCでは最初に登場したSEASICKと、トリを務めるKeishi Tanakaを愛情たっぷりにイジり倒し、現在行っているthe band apartのツアーに触れ「6月には4人でガン首そろえて大阪へライブしに来ますんで!」と告げ最後の曲『夜の向こうへ』を。見渡す限り夜が続く街の風景の中を、小刻みなギターのカッティングに背中を押されるようにしてどこまでも走り抜けて行きたくなる。そんな、少しセンチメンタルな夜の一人旅を味あわせてくれた。

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 特別な今夜のシメを飾るKeishi Tanakaは、この日アナログ盤で先行リリースという形になった2ndソロアルバム『Alley』の曲を中心にしたセットリスト。「仲間うちでライブをやる時の僕のバード(ライブのトリを務めることを、彼らは“バード”と言うらしい)率の高さと言ったら…全然先輩たちがやってくれません(苦笑)」と、愛される後輩キャラらしいコメント。チューニングを終えると、『Crybaby’s Girl』『秘密の森』を披露。軽快なアコギの音色に乗って、あたりをパッと明るく照らすようなクリアな歌声が会場いっぱいに広がってゆくのが分かる。憂いを含んだ詞の言葉さえも、Keishiのギターと歌声にかかればとてもすがすがしいものへ形を変えていくから不思議だ。昨年のRSDにリリースした7インチアナログ盤『秘密の森』のB面に収録した『Hello』は教会でのライブバージョン。「これがねぇ、すごく気に入っているんですよ」と、『Hello』の一節を歌い始める。続く『素敵な影の結末』では、歌に入る直前にニヤリと笑みを浮かべ、「まだこの曲のアコースティックバージョンをどんなふうにしようか考えているところで…」と。アルバム『Alley』を携えたツアーは、6月の東名阪公演はバンド形式で、それ以外はアコースティックスタイルで並行して行われている。この日は手拍子したくなるような軽快なバージョンを聴かせてくれたが、この次に聴く時はまた違った表情を見せてくれるのかもしれない。FM802でパワープレイになっていた『Floatin’ Groove』は、弦やホーンが華やかにさんざめいていた原曲に負けないぐらい、アコギ一本でこんなにもグルービーになるんだ! という楽しい驚きと発見の連続。最後の『あこがれ』では、のびやかな歌声にうっとりと会場中が聴きほれた。アンコールの拍手に応えて再び登場したKeishiは、ジャカジャカッとギターをかき鳴らし、1stアルバム『Fill』より『Today’s Another Day』の一節を口ずさむ。「1stにもいい曲はあるんだぞ、ということで」と自信に満ちた笑顔を輝かせながら『Wonderful Season』を歌い、今日のライブを締めくくった。『素敵な影の結末』で彼は“軽やかに踵鳴らし”と歌っているけれど、今日のライブでもまさにスニーカーの踵を鳴らしステップを踏むようにして体を揺らし、くっきりと強い印象を残す声で高らかに歌い上げていた。

 ライブが終わった後は、三者三様にレコードにサインをしたり握手をしたり。世界中のいろんな街角で音楽をきっかけにこんな楽しい時間が広がっていて、自分もそこに参加しているのかと思うと妙に楽しく嬉しい気持ちになる。そんな2015年のRSDだった。


Text by 梶原有紀子
Photo by 新田さやか




RECORD STORE DAYとは…

rsd580.JPG レコードショップのオーナーだったクリス・ブラウンが発案し、2008年4月19日に米サンフランシスコのとあるレコードショップでメタリカがインストアライブを行ったのを機にスタートした、世界同時開催の音楽の祭典。音楽配信や通信販売も便利だけれど、直接レコードショップに出かけてアナログレコードやCDを手に取る喜びや音楽の楽しさを共有しようとの思いのもと、RSD限定盤のアナログレコードやCD、各種グッズなどが発売され、世界各地でライブイベントも開催されている。海外では近年、CDよりもアナログレコードの魅力が再認識され人気が再燃していることから、特に欧米ではRSDは「アナログレコードの限定盤が発売される日」として定着しつつある。毎年4月の第3土曜日に開催され、今年は4月18日。毎年メタリカやオジー・オズボーンなどがアンバサダーとして選出されているが昨年より日本は独自にアンバサダーを選出しており、初年度である`14年はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文がアンバサダーに就任。自身の初のソロアルバムやきゃりーぱみゅぱみゅ、サンボマスターらのアナログ盤が発売された。今年はTHE BAWDIESのROYがアンバサダーを務め、THE BAWDIESの7インチシングルやアルバムを筆頭に、HAPPYやおとぎ話、坂本龍一+U-zhaan、テイ・トウワウィズ椎名林檎など発売タイトルも年々増加している。「レコードショップに出かけよう」との本来の趣旨に沿い、リリースアイテムに関しては事前の予約や取り置き、ウェブでの購入は受け付けない方針(取り置きはRSD翌日より可)。

(2015年6月 5日更新)


Check

Live

the band apart

7th album『謎のオープンワールド』
release live SMOOTH LIKE BUTTER TOUR

【大阪公演】
▼6月5日(金)19:30
BIGCAT
オールスタンディング3600円
GREENS■06(6882)1224

【広島公演】
チケット発売中 Pコード253-715
▼6月7日(日)18:00
福山・Cable
オールスタンディング3600円
Cable■084(983)1666

【北海道公演】
チケット発売中 Pコード253-666
▼6月14日(日)18:00
CASINO DRIVE
オールスタンディング3600円
WESS■011(614)9999

チケット発売中 Pコード253-666
▼6月16日(火)19:00
cube garden
オールスタンディング3600円
WESS■011(614)9999

【宮城公演】
チケット発売中 Pコード253-761
▼6月18日(木)19:00
仙台CLUB JUNK BOX
オールスタンディング3600円
G・I・P■022(222)9999

【秋田公演】
チケット発売中 Pコード253-761
▼6月20日(土)18:00
club SWINDLE
オールスタンディング3600円
G・I・P■022(222)9999

【青森公演】
チケット発売中 Pコード253-761
▼6月21日(日)18:00
Quarter
オールスタンディング3600円
G・I・P■022(222)9999

【福島公演】
チケット発売中 Pコード253-761
▼6月23日(火)19:00
club SONIC iwaki
オールスタンディング3600円
G・I・P■022(222)9999

【東京公演】
チケット発売中 Pコード253-944
▼6月26日(金)19:00
EX THEATER ROPPONGI
オールスタンディング3600円/指定席3600円
ディスクガレージ■050(5533)0888

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Keishi Tanaka

「Alley Release Tour」

【大阪公演】
「Alley Release Tour -Full Band Set-」
チケット発売中 Pコード256-202
▼6月12日(金)19:30
Shangri-La
オールスタンディング3500円
GREENS■06(6882)1224

【愛知公演】
「Alley Release Tour -Full Band Set-」
チケット発売中 Pコード256-166
▼6月20日(土)18:00
RAD HALL
前売3500円
ジェイルハウス■052(936)6041

【香川公演】
「Alley Release Tour -Acoustic Set-」 
チケット発売中 Pコード261-976
▼6月21日(日)18:30
KITAHAMA umie
全自由3500円
デューク高松■087(822)2520

【東京公演】
「Alley Release Tour -Full Band Set-」
チケット発売中 Pコード258-903
▼6月26日(金)19:30
CLUB QUATTRO
オールスタンディング3500円
VINTAGE ROCK■03(3770)6900

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Link

the band apart オフィシャルサイト
http://www.asiangothic.org/the_band_apart/

Keishi Tanaka オフィシャルサイト
http://keishitanaka.com/

SEASICK オフィシャルツイッター
https://twitter.com/seasickofficial

RECORD SOTRE DAY限定アイテムも販売中
FLAKE RECORDS オフィシャルサイト
http://www.flakerecords.com/

 

Column1

「あらゆることに飽きてきた(笑)」
自らへカウンターパンチを繰り返し
突き進むバンアパの最新モード
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the band apartインタビュー

Column2

「“ソウルミュージック”という
テーマは自分の中にずっとあった」
『Floatin'Groove』の
パワープレイも大反響!
Keishi Tanakaが2ndアルバム
『Alley』の構造とソロとしての
指針を語るインタビュー