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「現実はシビアなので、せめて映画は楽しく笑える作品に…」
松田龍平がモヒカンのバンドマンに扮し、
不器用にぶつかり合う家族を描くハートフル・コメディ
『モヒカン故郷に帰る』沖田修一監督インタビュー

『南極料理人』や『キツツキと雨』など、温かみのあるユーモアに溢れる作風で人気を集める沖田修一監督が、松田龍平を主演に迎えて贈るハートフル・コメディ『モヒカン故郷に帰る』が、4月9日(土)よりシネ・リーブル梅田ほかにて公開される。瀬戸内海に浮かぶ島を舞台に、恋人の妊娠をきっかけに7年ぶりに帰郷した、緑色のモヒカンがトレードマークの売れないバンドマンの主人公が、余命わずかだと判明した父親のために空回りしながらも奮闘する姿を描く。柄本明扮する矢沢永吉をこよなく愛する父親や、もたいまさこ演じる筋金入りのカープファンの母親、そして家族ならではの親子喧嘩や、コミカルな掛け合いに笑いながらも、中々言葉にできないものの、心の底ではお互いを思い合う父と息子、そして家族の温かさが胸に沁みる作品だ。本作の公開にあたり、沖田修一監督が来阪した。

――本作は、沖田監督のオリジナル脚本を手がけた作品ですが、まずは、この映画を作ろうと思ったきっかけについて教えてください。
脚本自体はだいぶ前、それこそ『南極料理人』の頃から書いていて、プロデューサーと練る作業を続けていたんですが、自分も親の具合が悪くなるような歳になって、話が変わったりしつつ長く付き合いながら準備しました。家族の誰かの具合が悪くなって入院して、お見舞いに行くと、不謹慎なんですが笑えてしまうことがあったので、そういうことをすくい取って映画にしたいと思ったんです。
 
――主人公の家族の何気ない日常の風景に海が映り込んでいるのが印象的でしたが、なぜ瀬戸内海の島を舞台にされたんでしょうか?
台本を書きながら、舞台は海沿いの町にしたいと考えていたんです。それも、帰る気も無くすぐらい東京から遠く離れていて、荒れた海ではなく穏やかな海が近くにある場所で考えていたので、色々なところを見に行きました。その中でも、よく映画の舞台になっていそうな愛媛などの瀬戸内はすごく元気がある印象を受けたんですが、広島の方の瀬戸内は観光地化されていなくて、“とりたてて何もないけどどうぞ”みたいな雰囲気だったんです。僕がそういう雰囲気の場所が好きなだけなんですけど(笑)。でも、海がすごく綺麗ですよという映画の見せ方ではなくて、ドラマを撮っていたら海が映り込んでいるような自然な撮り方ができる場所を探したら、広島だったんです。
 
――その広島という土地を特徴づけるような、矢沢永吉をこよなく愛する柄本明扮する父親と、もたいまさこ演じる熱狂的な広島カープファンの母親のキャラクターは、舞台となる場所が決まってから考えられたのでしょうか?
広島を舞台にすることを決めた後で、父親と母親それぞれが熱狂的に好きなものがあればいいなと考えていたら、矢沢永吉さんは広島だからではないかもしれませんが、矢沢さんを好きな方ってすごく熱狂的ですし、広島でカープが好きな方はすごく好きなので、面白いんじゃないかと思ってそういう設定にしました。広島でロケハンしていた時に地元の方の会話を聞いていたら、「●●町の●●さんが車にはねられた」っていう会話の後に「今日はカープ勝ったか?」ってカープの話をしていたんですよ。知り合いが車にはねられた時でもカープの話をするって、相当な熱狂の仕方なんだと実感しました。だから、母親はカープの試合に一喜一憂して、カープには厳しい、カープファンであることが生活の一部になっているようなキャラクターになったんです。
 
――熱狂的なカープファンで、肝っ玉母さんのようなもたいさんがすごく意外でした。
大林宣彦監督の『北京的西瓜』とか、もたいさんが出ている昔の映画が好きで、チャキチャキしたもたいさんを見たかったんです。もたいさんと一緒に仕事ができて本当に嬉しかったです。
 
――主演の松田さんや柄本さん、もたいさんなどすごくユニークな家族のキャスティングでしたね。
皆さん、一緒に仕事したいと思っていた俳優さんばかりなんです。主人公の永吉は、自分のことをあまり話しませんし、何を考えているかわからないキャラクターなんですが、お父さんのために島に残ったりして、行動では気持ちを示しているんですよね。柄本さん演じる父親と、松田さん演じる息子のそういう余計なことは言わない感じが親子に見えるんじゃないかと思ったんです。でも、基本的にはそういうことよりも、どんな永吉が面白いか、どんな父親が面白いかと考えてキャスティングしていったら、こういう家族になりました。
 
――特に、松田さん演じる永吉のモヒカンにはびっくりしました。
実際は、モヒカンってパンクをやっている方に多いんですよね。永吉はデスメタルなので、坊主かロン毛の方がいいかと思ったんですが、でも、それにこだわるとつまらないバンドになるかと(笑)。真緑にしたのは松田さんのアイデアなんです。モヒカンの脇を剃るか剃らないかというところでも、永吉は毎日剃るような丁寧な人ではないだろうし、だらしないだろうから、のばしっぱなしにしとこうか、という話を松田さんとしました(笑)。父親を看取る話なので、「死ね死ね」って言いまくるデスメタルをやっている人にしようとは最初から決めていました。この映画は、デスメタルをやっている人が優しく父親を看取る話なんです(笑)。
 
――また、『モヒカン故郷に帰る』というタイトルもすごく印象的ですよね。
タイトルが決まったのは、最後の方でした。よく、「木下恵介監督の『カルメン故郷に帰る』を意識したんですか?」と聞かれます。木下恵介監督ファンの方には本当に申し訳ないんですが、実はあまり意識してないんです(笑)。映画ファンの方だとそう思いますよね(笑)。都会から、田舎の人には理解できないような二人組が田舎に帰ってくる設定とか、全くオマージュとか考えたわけではないんですが、意識したと思えば思えなくないんですよね(笑)。ここは意識していたということにしておきましょうか(笑)。
 
――『キツツキと雨』もそうでしたが、本作でも食卓を家族で囲むシーンがすごく重要な役割をはたしていたように感じました。
食事の場面は、何かを想像できるシーンだと思うので、僕も好きですし大事にしています。特に、もたいさんと前田さんの嫁姑が台所にふたりで立っているシーンがすごく良かったんですよね。コンビニのパスタが好きで、ほとんど料理もしたことがなかった子が、お姑さんに料理を教えてもらって、煮物を作って揚げ物もできるようになるかもっていう、その時の食卓はすごく面白いシーンになったと思います。また、父親が病院から帰ってきて4人でご飯を食べるシーンを撮った時は、カメラマンの芦澤さんと「後何回一緒にご飯食べられるんだろう」って考えたりするのかな、と話をして、無言でご飯を食べているシーンの間を長くしたりしました。
 
――柄本さん演じる治がコーチをしている吹奏楽部の生徒たちが演奏するシーンも印象的でしたが、ほとんどが地元の中学生が演じていたそうですね。
吹奏楽部の子たちが演奏するシーンを撮影するのは大変でした。ほとんどが演技経験のない現地の子だったので、彼らをどうやって盛り上げて、映画に巻き込んでいこうかだいぶ考えました。最後に見せ場となるようなシーンがあるんですが、どうやって撮ればいいのかわからなくて、悩みました。それでも、色々と試行錯誤した甲斐があって、プロの役者さんが羨むようないいシーンが撮れたと思います。
 
――現場の雰囲気はいかがでしたか?
今回は特に台本を書いていた時間が長かったので、逆に台本に囚われたくないというか、無視してもいいんじゃないかと思っていました。台本に書いていないことが起こるのを楽しみたいと思いながらやっていました。突発的なことが起こらないかなというか、アクシンデントを待っているような感じでした。台本通りに撮ればいいんですけど、何か面白いことを現場で思いつかないと気が済まないんです(笑)。
 
――父親が末期ガンであることがわかって、闘病生活まで描いているのに、この映画には悲壮感が漂っていません。
現実はシビアだったりするので、せめて映画は楽しく笑える作品にしたいと思いました。それは、柄本さんの存在が大きかったと思います。特に笑いの部分で柄本さんが引っ張ってくれました。笑わせようと思ってないように見えて、変な間で入ってきたり、実は笑わそうとしているんだと思うんですよね。ガン患者なのにこんなに元気でいいのか?と思うことはありましたが(笑)。父親と息子って、男同士なので気恥ずかしさもあって、会話もあまりないと思うんですが、それでもいざとなった時の親子の話を、僕ぐらいの年代の目線で描きたいと思って作りました。
 
 
取材・文:華崎陽子



(2016年4月 8日更新)


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Movie Data


© 2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

『モヒカン故郷に帰る』

●4月9日(土)より、
 シネ・リーブル梅田
 ほかにて公開

【公式サイト】
http://mohican-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/167529/


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