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「人間ってこんなものだよなぁ
 というような、生活感のあるものを撮りたい」
『滝を見にいく』沖田修一監督インタビュー

 『南極料理人』『キツツキと雨』『横道世之介』の沖田修一監督の最新作『滝を見にいく』がシネマート心斎橋にて上映中。オーディションで選ばれたプロ・アマ混合のおばちゃん7人が、山の中で迷子になり、携帯の電波も食事も宿もない状況に陥り、突然慣れないサバイバル生活を過ごす様を描く。そこで、沖田修一監督にインタビューを行った。

――今回は今までとは違い、演技経験を問わずに年配の女性ばかりをキャスティングされていますが、こういった映画を撮ることになった、そもそものきっかけは何だったんですか?
きっかけは「ワークショップで映画を撮りませんか?」という提案をいただいたからなんですけど、以前からぼんやりと、3人のおばちゃんたちがずっとグチを言いながら山道をハイキングして、最後に滝を見るという話が面白そうだなと思っていたんです。普通に考えたらこれだけで映画にできるわけないけど、ワークショップなら撮れるかもと思って(笑)。
 
――ワークショップで撮られた映画って最近増えてきていますよね。
ワークショップの映画=(イコール)俳優志望の若い人が出演するものというイメージが強いかもしれませんが、そうでなくてもいいんじゃないかなと思って、「40歳以上の女性なら誰でもOK!」というオーディションを行いました。そこから、おばちゃんの人数も増やしてツアーみたいな感じにしたらどうだろうとか、どんどん話が膨らんでいったんです。
 
――以前、某誌のインタビューで「美男美女より年配の方が面白い」と答えられていたのを拝見したことがあるので、本作には「あ!」と思いました(笑)。
美男美女が嫌いというわけでは決してないんですよ(笑)。ただ「人間ってこんなものだよなぁ」というような生活感のあるものを撮りたいと、いつも思っているところがあって。そうすると、おじさんやおばさんの方が絵になるのは確かなんですよね(笑)。おじさんやおばさんが飯を食っている姿は、生活臭しかしないですから(笑)。つい、年上の俳優さんに出演してもらいたくなるというのはあるかもしれません。
 
――オーディションはどのようなものでしたか?
今回、当初からオーディションでお会いした方々の半生を脚本に組み入れようとしていましたので、集まられた40人弱の方々ひとりひとりにかなり時間をとってじっくりお話を聞きました。もう、湯あたりみたいな感じで言う、おばちゃんあたりになりましたよ(笑)。当たり前ですが、本当にみなさんいろいろな境遇でいろいろな人生を送られているんですよね。そういった雰囲気が映画にもどこかに滲み出ていればいいなと思います。
 
――演技経験者と未経験者が混ざっているんですね。
最初は演技経験のない人の方が面白いかなと思っていたんですが、試しに演技経験のある人と組んでお芝居をやってもらうと、それはそれでどちらも映えて、面白い化学反応のようなものが起きて。両方いてもいいのかなと思ったんです。演技経験者であっても、「嫌いな家事の話」を聞いたりして、家庭でのポジションみたいな部分のウェイトが大きかったです。そういったことを聞きながら、どういう生活をしているかを何となく探ったり。おばちゃんたちだからどうということではなく、ぼくみたいな年下の若造監督をバカにするわけでもなく、みなさんが新人俳優さんのようでした(笑)。
 
――では、キャストを決めてから脚本の細かい部分を作っていかれたのですか?
話の主軸を5、6割程度だけ決めて、あとはキャストに合わせて役柄を決めていって。ワークショップと台本書きを同時進行にしていました。昼は稽古をして、持ち帰って台本を書きなおして、翌日はそれをまた演じてもらってと、試行錯誤しながら何日間か繰り返して作っていくというような状況でした。
 
――映画の規模の大小の違いと言いますか、これまでとは違った楽しさはありましたか?
今回は合宿生活だったので、役者とスタッフとの距離が近かったように思います。小道具ひとつとっても、「おばちゃんはだいたいコレ持っているわよ」とか、ぼくらには分からない感覚を等身大で教えてくれました。みんなで「これ、面白くない?」と言いながら試して、採用することも数多くありました。試しながら撮るのも大きなバジェットではなかなか出来ませんから、今回の撮影で良かったところですね。あとは衣装も。今回はご本人と演じるキャラクターが半分重なっているような役柄だったので、本人が日頃着ているものの方が馴染むんですよね。最年長の徳納さんや主人公の根岸さんは本当に稽古に着てきた格好でそのまま出てもらっています(笑)。
 
――撮影期間はどれぐらいでしたか?
撮影は11日間+αで、ワークショップは5日間ぐらいでした。普通はワークショップの様子を見て、中から7人に絞るという形をとると思うんですけど、『コーラスライン』みたいに誰が落ちるとか、そういうのを見るのが体力も神経も使いそうだったので、オーディションに時間をかけて7人を選んでから、ワークショップを稽古にしてしまったんです(笑)。でも、本気で稽古をされると、演技が未経験である良さみたいなものが失われてしまうので、あまり稽古をしてほしくはなかったですね(笑)。
 
――それであの自然な演技が生み出されているのですね。
みんなが顔見知りになっておくのは撮影にも良いと思ったので、ワークショップと言いながら、もはや仲良くなるための時間になっていました(笑)。そのために台本を使ったというくらいで。そういえば、『南極料理人』の台本を使って女バージョンみたいなのもやりました。
 
――『南極料理人』も7人でしたね。『七人の侍』『黄金の七人』など、7人という人数に何かあるんですかね。
何かあるのかもしれないけど、今回の人数は偶然ですね(笑)。
 
――ひとりひとりのキャラクターの描き方はどのように?
ツアーで知り合っただけのメンバーですからね。どこまで本当のことを喋るかも分からないですよね。映画のセオリーで言えば、この7人がどんな人なのかもう少し分かって、それぞれが何かしらの問題を抱えていて、迷子になったことで何かドラマが起きて、いいシーンがあって、そして解決みたいなものが、それぞれのキャラクターにあって帰っていくみたいなものだと思うんですが、なんかそれって嘘くさいですよね(笑)。
 
――それで言うと、最後に見た滝がこれなのか…というところも“嘘”がない感じでした。
それが狙いです(笑)。山で迷子になったことで、それが楽しくなってしまう人たちの話なので、山から戻ってきたときに少し寂しい気持ちになる、ただそれだけの話なんです。主人公の根岸さんもどこにでもいる想像できるおばさんで「説明しなくても知ってるでしょ」という感じ。あまりこと細かに説明しなくても想像どおりなんですよ。
 
――確かにみなさん想像どおりのおばさんでした(笑)! 映画の中では羨ましいくらいみなさんお元気でしたが、山の中での撮影は体力的にもおばさんたちには大変だったんではないでしょうか?
いやぁ大変だったと思います。79歳で朝3時から野宿のシーンを撮るとか。翌日も朝6時くらいから撮影したりしましたからね。何かあったらどうするんだ!って話ですよね…。
 
――でも、こういう山登りのツアーに参加されてる方って電車とかでたまに見かけますが、みなさん実際すごくお元気そうですよね。
撮影していた場所から少し行ったところに宿泊施設があったので、結構な人数のおばさんたちが本当にツアーみたいなので来られていて、それを見たときはスタッフもキャストもみんな凝視しましたよ(笑)。あれがリアルかぁって(笑)。
 
――リアルで言えば、おばちゃんたちの持ち物もあるあるな感じで。
美術部のスタッフとおばちゃんたちのバッグには何が入っているのかを一緒に考えるのが一番楽しかったですね(笑)。脚本にない部分でアイデアを膨らませていくのに持ち物はとても重要でした。お菓子も「ルマンド」と具体名が出てきて。僕が「ルマンドってそんなに有名なお菓子なんですか?」と聞くと、「知らないの?」とすごい勢いで言われました(笑)。
 
――草で遊んだり、太極拳をやっていたり、迷子なのに山の中でそれぞれ好きなことをしている場面では、みなさん少女のように可愛らしかったです。
あの遊んでる場面がこの映画のメインだと思っています(笑)。今までの生活とはかけ離れた“楽園”っぽい状況ですね。あの場面では「小学校6年生の気持ちで」と言いましたが、それ以外のこちらの意図はまったくないシーンでもみなさん若く可愛く見えますよね。
 
――みんなで『恋の奴隷』を歌う場面も可愛かったです。
なんか美しい歌よりも、昔のヒット曲の方が、みなさんの少女時代を思い起こさせるかなと思って。「悪いときはどうぞぶってね」とか、歌詞も面白いですよね(笑)。ワークショップの時に『恋の奴隷』を歌ってもらったら、サビの「あなた好みの~」という部分を皆さんで絶唱しているのが本当に面白くて(笑)。
 
――今までの作品も含めて、沖田監督は些細な出来事などを盛り込みクスッと笑わせるのが上手ですよね。
自分ではよく分からないんですが、基本的にはイタズラ心みたいなところなんでしょうか…。よく「“間”が良い」と言われることがあるんですけど、役者さんご自身がやってくださってることが多いんです。今回で言えば、88分間ずっと山の中で絵的にはほぼ変わらないし出演者もずっと同じなので、観客が飽きるのではないかと少し怖かったのですがそれで通しました。
 
――脚本を書くときに大事にしていることはありますか?
根性でしょうか(笑)。「もうダメだ」と思っても諦めない(笑)。脚本根性論だと思っています。脚本を書くのは本当にキツいので出来ればやりたくない作業ですが、自分が書いた脚本でないと演出できないんです。『キツツキと雨』や『横道世之助』は中間部分を何稿か書いてもらいましたが、最終的には自分で書かないと役者に説明できないのです。
 
――では、最後に。
劇場の客層も割とおばちゃんが多いらしくて、友人が観に行ったら「客席周りまで演出されているみたいだった」と言われました(笑)。普段映画を観ないような人にも観ていただけたらと思います。



(2015年1月23日更新)


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Movie Data



©2014「滝を見にいく」製作委員会

『滝を見にいく』

●シネマート心斎橋にて上映中
 1月24日(土)より、京都シネマ
 2月21日(土)より、元町映画館にて公開

【公式サイト】
http://takimini.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/165429/