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ぴあ満足度ランキングで驚異の満足度92.5%を記録! 
役所広司&小栗旬共演で映画作りの悲喜こもごもを描いた
映画好きに贈る人間ドラマ『キツツキと雨』沖田修一監督インタビュー

 商業映画デビュー作『南極料理人』(2009)がスマッシュヒットを記録した沖田修一監督が、役所広司と小栗旬という新鮮な顔合わせで描く異色の人間ドラマ『キツツキと雨』が、大阪ステーションシティシネマほかにて公開中だ。ひとりの木こりと悩める新人映画監督が出逢ったことから、両者のあいだに不思議な協力関係が生まれ、やがては村をあげてまで村人たちが映画作りに協力していく様が描かれる。役所も小栗も映画監督の経験があるだけに映画作りの可笑しさ、楽しさ、そして映画愛がじんわりと浮かび上がってくる作品となっている。公開初日に行われたぴあの満足度ランキングでも驚異の満足度92.5%を記録した本作の公開にあたり、沖田修一監督が来阪した。

 

 最初は、「映画のロケ隊が撮影に来る映画って面白そうだね」という、監督と脚本家の酒を飲みながらのバカ話から始まったという本作。映画の中で映画制作を描くというアイデアは、本当に映画が好きな監督でないと思いつかないのはもちろん、映画にすることは有り得ない。やはり、監督の映画愛が詰まった作品になっているのだろうか。

 

沖田修一監督(以下、沖田):映画愛まで語ろうとしていたつもりはなかったんですが…。映画の撮影隊って、端から見ると子どもが遊んでるようにしか見えなくないですか!? 大の大人が寄ってたかって作り話を作るのに夢中になっているんですよ(笑)。そういう風に思うところが映画愛と言えるのかもしれませんが(笑)。(役所広司演じる)克彦が普通に林業家として生活を送っていたところに、祭りが来て祭りが去っていくような感じを描きたかったんです。

 

 映画愛を表現することまでは考えていなくとも、結果的に監督の映画愛がにじみ出る作品となったようだ。そんな映画作りの現場を描き、新人監督が登場する映画と聞くと、前作『南極料理人』が商業映画デビュー作となった監督だけに、監督の経験が反映されているということだろうか!?

 

沖田:そうですね。映画作りの映画に出てくる映画監督としては、こいつ映画監督じゃねぇだろっていうぐらいのキャラクターの方が、映画監督役としては面白いと思っていたので、自分の体験がシナリオに入ることはどうしてもありましたし、どこかしらでそういう影響はあると思います。自主映画だと、自分たちが終わりって言ったら終わりになるじゃないですか。僕もそうでしたけど、初めて誰かからお金をもらって映画を作ることになって、自分なんかよりよっぽど現場慣れしてるスタッフさんがたくさんいて、これだけ現場を知っている人たちの中で、なんで中心に俺がいるんだろうって違和感を覚えたりすることはあったし、周りが見えないし、右も左もわからないから邪魔な位置にいたりすることは僕もありました(笑)。まぁ、今でもよくわかってないことはあるんですが(笑)。(小栗旬演じる新人映画監督の)幸一も気弱という風に(ちらしやパンフレットなどには)書いていますが、小栗さんとは、幸一は、やる気はあるけどどうしていいかわからなくて置いていかれているだけというイメージで話をしていました。

 

 そのように、どうしても小栗演じる幸一には、監督自身の体験が反映されているようだが、劇中で作られている映画は、監督とはほぼ無縁に思われるゾンビ映画。劇中劇でゾンビ映画を描こうとした意図とは?

 

沖田:劇中劇なので、身の回りとはかけ離れている世界の方がひと目でパッとわかるだろうと思ったんです。時代劇など色々考えたとは思うんですが、なんでゾンビ映画なんでしょうねぇ(笑)。日本でゾンビっていう無理矢理な感じとか、ゾンビを出しておくとある程度のファンがいるからお客さんが来るっていう、B級的な雰囲気が今回の映画と合っているような気がしたんです。幸一は、絶対ゾンビが好きでこの映画を撮っているわけじゃないですよね。ゾンビについて勉強してきたりしてますしね(笑)。

 

 ゾンビ映画にはそのような意図が隠されていたようだが、映画を観ると役所広司がゾンビメイクをしてエキストラに混ざって出演するという、他の映画ではまず見ることはできない映像は非常にユーモラスで、笑いを誘う。そこにも監督の策略がるように思われる。

 

沖田:ありますよね、そりゃ(笑)。台本を読んでキャスティングを考えている時に、役所さんで想像したら面白かったですもん。役所さんがゾンビの姿でエキストラとして出演しているシーンのラッシュを、役所さんが見るシーンがあるじゃないですか。あのシーンも、もちろん撮っているんですが、たくさんのエキストラに混じって、一番遠くに役所広司がいるんですよ(笑)。これを撮っている不思議さというか、現場で笑っちゃいましたよね(笑)。本来、絶対にあんなところにいない人があんな後ろの方にいて、なんなら役所さん見切れてる(画面に映っていない)ところからいきましょうかって言ったりして(笑)。役所さんにそういうことをさせるから面白いという狙いはありましたね。でも、(役所広司の初監督作である)『ガマの油』(2008)を観た時に、役所さんは絶対変なのが好きだと思ったし、こういうのを面白がってくれるんじゃないかと思ったんですよね(笑)。

 

 監督いわく「絶対変なのが好き」という役所演じる克彦と小栗扮する幸一は、最初は映画に興味津々の克彦がイライラしながらも幸一に近づき、奇妙な協力関係が生まれると、克彦の妻の三回忌が近づいてきたことで、映画の撮影現場から距離を置こうとする克彦に幸一が近づいていく、という微妙なバランスの距離感を保っている。それは、とても不思議なのに居心地が良く、そして違和感を覚えない距離感だ。

 

沖田:ふたりの距離感にはすごく気を使いました。あんまり簡単にはっきりと心を開いたように描写するのは、なんか面白くないと思ったので、近づいたり離れたりを繰り返しながら、なんとなくお互いの影響を気にし合うような関係にしたかったんです。克彦が息子と同じ名前の青年に息子を見ているのかどうかは、あんまり説明せずにただ名前が一緒というだけで、後はお客さんに想像してもらえればいいと思ったんです。温泉で小栗さんから近づいていくシーンは、脚本上は違っていたんですが、役所さんの近づき方が面白かったので、同じようにしたんです(笑)。後で聞いたら見えないように隠していただけだったそうですが(笑)。

 

 そんな、微妙なふたりの距離を取り持つのが、新人監督・幸一の優柔不断さにイライラしながらも現場をしきる、古館寛治演じる助監督だ。その助監督の描き方にも、監督の経験が活かされているようだ。

 

沖田:(古館寛治さん演じる助監督の)イメージは、完全に映画屋ですよね(笑)。克彦が初めて現場を見た時も、監督は古館さんの方だと思ってますし。僕も、助監督さんがいなかったら、今ここに居れないぐらいです。現場を取り仕切って全部やっていく人ですから、監督とは切っても切り離せない存在ですよね。でも、この映画の中の助監督は、映画を作りたくて映画の世界に入ったはずなのに、若造が監督やって、それの手伝いをするというのは、ある意味すごく複雑だと思うんですよ。ただ、仕事だし、プロだから、どこかでそれを超えた瞬間というか、こっちの方が面白いんじゃないのって言いたくなる瞬間は撮りたかったんです。映画の中でも、カメラマンさんが「レール引いた方がいいんじゃないの?」って言ったり、スタッフさんがなんとなく意見を口にしだすシーンがあるんですが、ただのやっつけ仕事だと思ってた人でも、やっぱりプロだから面白いものを作りたくて、苦労を厭わずやってしまうという瞬間を表現したくて撮りました。そういうことは、自分の経験上わかったことだし、自分自身がすごくいいなと思うことなんです。

 

 やはり、若くして映画監督となり、様々な苦労をスタッフに助けてもらっていたであろう沖田監督だけに、助監督をはじめ、カメラマンや映画作りのスタッフへの感謝と愛情が溢れるコメントだった。監督が映画に入れたかったと語る“スタッフが苦労を厭わずやってしまう瞬間”はもちろんだが、それ以外にも監督が経験した嬉しかったことが映画の中でも描かれているようだ。

 

沖田:まずは、自分のイメージを現場で超えた時が楽しいですね。ひとつのシーンを作るだけでも、色んな人の色んな意図やイメージが絡み合ってくるので、自分が考えたものよりも予想以上に面白くなったりすることがあって、そういう時は儲けたと思いますね。それと、『南極料理人』の時に「また呼んでよ」って俳優さんで言ってくれた方がいたんですが、すごく嬉しかったんですよ。『南極料理人』の時の僕は、右も左もわからない状態で、キャストの人たちも心配してたぐらいだったのに、最後に「また呼んで」って言ってくださったのは嬉しかったし、今でも覚えてるんですよ。だから、幸一が最後にちゃんと映画監督の顔をしてたんだったら、それぐらいのご褒美があってもいいかと思ったんです。

 

 たしかに、幸一がベテラン俳優にスナックに呼び出されて「また呼んでよ」と言われるシーンは、泣いている幸一を見なくとも、涙がこぼれる場面だ。最初は右も左もわからなかった幸一が、「また呼んでよ」と言われるまでに成長している、そう考えると、この映画は映画愛ももちろんそうだが、“仕事愛”を描いた映画なのかもしれない。

 

沖田:この映画は色んな側面があると思うんですが、林業があたり前だと思って生きてきた克彦の世界と撮影隊の世界との異文化コミュニケーションの映画だと思うんです。でも、林業と映画の撮影って、調べていくと共通点が多いんですよね。朝が早かったり、みんな弁当だったり、雨が降ると休みだったり、●●組って言うし、現場って言うし、似ている部分がけっこうあるんですよね。そう考えると、かけ離れた世界のように見えて、意外と同じような世界を描いた話なのかもしれないですね(笑)。




(2012年2月20日更新)


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沖田修一監督

Profile

おきた・しゅういち●1977年、埼玉県生まれ。日本大学藝術学部映画学科卒業。短編『鍋と友達』(2002)が水戸短編映画祭グランプリを受賞。TVドラマの脚本・演出などを経て、監督・脚本を手がけた『南極料理人』(2009)がスマッシュヒットを記録。同作で藤本賞新人賞、新藤兼人賞金賞を受賞するなど、今後が期待される若手監督のひとり。来年には、『横道世之介』の公開も予定されている。

Movie Data



(c)2011「キツツキと雨」製作委員会

『キツツキと雨』

●大阪ステーションシティシネマほかにて公開中

【公式サイト】
http://kitsutsuki-rain.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156826/


Report Data

役所広司&小栗旬も来場した舞台挨拶の模様はコチラ!
https://kansai.pia.co.jp/news/cinema/2012-02/kitsutsuki.html