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「世界で1番面白い映画を撮った人は映画をやめると思うんです。
一応、それを目指していつか映画をやめてやろうと。
言うのはタダですから(笑)。」
『適切な距離』大江崇允監督インタビュー (3/3)

――では、映画監督にはどうしてなろうと思われたんですか?
 
「今だになろうと思ってません(笑)。ま、頑張ろうとは、ちょっと思い始めてますけど。もともと、何かしらの表現をやりたかったというのはあります。演劇やってた頃に演出やったり本書いたり、自分で出演したりして、ベストポジションに自分を当てはめたいと思っていただけで。照明でも良かったし、制作部でも良かった。今思えば、その頃は芽が出なくて、『適切な距離』を撮ってから登った階段が半端なく多いので、こっちの方が僕には適してたのかなとようやく思い始めてる感じです。映画監督になりたくて映画を撮り始めたわけではなく、自分に合ったポジションを探してただけ。自分は演劇で失敗した人間だと思ってて、演劇のノウハウを使って何かできるかな? と思ってみつけたのが映画だったという感じです。」
 
――流れ着いたみたいな感じですね。
 
「ほんと、たまたま映画に流れ着いただけなんです。」
 
――次回作の予定は?
 
「まだ、発表出来ないんですが、ありがたいことにお話いただいてるものとかもあって。映画にこだわらずドラマも好きですし、「仮面ライダー」みたいなのも好きですし。そういうのとかでも「やるよ!」とは思ってますけどね。まぁ『適切な距離』を観て「仮面ライダー」を撮らせようとは誰も思わないと思いますが。いろんなことをやってみたいですね。」
 
――面白いですね。
 
「ただ、僕批評が下手で。「他人の作品の話をするとまったく面白くない」と言われます。なので批評家だけはなれないですね。同世代の監督の映画を観てもなんだかよく分からないなと思いますし。インディーズ映画をたくさん観てきたわけじゃないというのもあるかもしれませんね。自分が撮り始めてからしか観てないんです。同じお金出すんだったらハリウッド映画を観たいと思うんで。最近はハリウッド映画しか観てません。」
 
――最近、何が面白かったですか?
 
「何観ても面白いです。昨日は『トータルリコール』を観ました。やっぱりハリウッドってスペシャリストが結集してるじゃないですか? スペシャリストの技がハリウッドの映画は出てるなぁと、やっと気づけるくらいに映画が分かるようになってきました(笑)。」
 
――そんな映画も撮ってみたいと思っていますか?
 
「僕は『適切な距離』みたいなチマチマしたものが得意なんで、そういう発想が得意じゃないけど、SFとか撮りたい気持ちはあります。今の僕には出来ないですけどね。嘘を増やしていくというのが当面の課題です。」
 
――嘘を増やす?
 
「映画って嘘をひとつ増やすだけでも難しいんです。今回も嘘の話だったんですが、次の作品では映画上、人を殺すものになるかもしれない。ちょっとづつ嘘を増やしていったら最終的にはSFとかにたどりつくかなと。SFがどうしても撮りたいわけではないんですけどね。『プロメテウス』みたいな、いい意味で嘘の消化が出来るような作品を撮りたいなと思います。」
 
――壮大ですね。
 
「やっぱり自分が観て面白いものを撮りたいと思う。人生でこれを観て1番喜んだというのが自己満足だと思ってて、これをいつかしたいなと思っています。ただ、めんどうなのが自分が世界で1番幸せなんだと思う瞬間を獲得しようと思ったら、周りにも「いい」と言ってもらわないとその瞬間は来ない。最近はそんな風に考えています。自己満足したい。そして、映画をやめたい。」
 
――え? 映画をやめたい?
 
「世界で1番面白い映画を撮った人は映画をやめると思うんです。一応、それを目指していつか映画をやめてやろうと。言うのはタダですから(笑)。まずは、評価とかではなく世界的な目に耐えうる強度、次に必要なのは100年耐えうる強度。自分の映画がどこまでたどり着くかは分からないけど、最終的にはそこまで行きたい。その為にはヒット作を作りたいなと思う。そんなこと言いながら、作品はコレなんでまだまだ道は遠いですけどね(笑)。」
 
――そんなそんな。この作品に対して自信はありますよね。
 
「はい。そうですね。自信はあるんです。抜きん出てると思ってます(笑)。映画ってサービス業だと思うんです。お客さんのお金と時間を取ってしまうわけですから「そこまでの価値あります。観に来てください」という、少なくとも僕の中での基準を満たしてないと恥ずかしくて言えない。少なくとも今の自分の中で、『適切な距離』は最大の作品だと思ってます。」
 
――お客様にひとこと。
 
「もっと上映館を増やさないといろいろな人に観てもらえないし、商売として観客と戦えるところにまだいない。映画を愛してる人たちにひとつでも多く届けて、池の中に小石を入れたら広がるようになればいいなと。ひとりでも多くの方に観に来てもらえたらと思っております。よろしくお願いします。」



(2013年4月 4日更新)


Check
大江崇允(おおえたかまさ)監督●1981年大阪生まれ。20歳の時、近畿大学商経学部より芸術学科演劇芸能専攻へ転部し、舞台芸術を始める。03年、大学の同期だった菊池開人(きくちあきひと)らと共に「旧劇団スカイフィッシュ」を旗揚げ。監督作品としては、『美しい術』(09年初監督/92分)で、CINEDRIVE2010監督賞受賞、『適切な距離』(11年/95分)で、第7回CO2大阪市長賞(グランプリ)受賞、第2回ハノイ国際映画祭長編コンペディション部門ノミネート(12年)、フランクフルト「ニッポンコネクション(日

Movie Data


『適切な距離』

●4月6日(土)~12(金) 19:05~
第七藝術劇場にて公開

【公式サイト】
http://tekisetsu.blog.fc2.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157165/

★黒沢清(映画監督)からのコメント★
ふとのぞき見した日記帳の中のささやかな異変…といった小ぶりな冒頭から始まるが、あれよあれよと密度を増して…最後に私はその圧倒的な分厚さに押し潰されそうになっていた。本当にこれが自主映画なのか。日本映画であることすらはるかに超越し、文学と演劇と映像とが何層にも重なった巨大な映画の山脈をなしているのだ。これをまだ30才そこそこの若者が作ったということが今でも信じられない。

Event Data

舞台挨拶決定!

【日時】4/6(土)~12(金)連日
19:05の回上映後
【会場】第七藝術劇場
【料金】通常料金

【登壇者(予定)】大江崇允監督

インタビューに出てくる笑顔の伝達(?)シーン