「世界で1番面白い映画を撮った人は映画をやめると思うんです。
一応、それを目指していつか映画をやめてやろうと。
言うのはタダですから(笑)。」
『適切な距離』大江崇允監督インタビュー
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初監督作品『美しい術』で注目を集めた大江崇允監督による人間ドラマ『適切な距離』が4月6日(土)より1週間、第七藝術劇場にて公開。コミュニケーションが断絶している親子が“嘘の日記”を使ってコミュニケーションをとる姿を通して、嘘の中に埋もれている現実世界で生きる上での真理を巧みに描き出す。コミュニケーションの形態が多様化した現代を象徴する内容となっているCO2(シネアスト・オーガニゼイション・大阪)で大阪市長賞(グランプリ)に輝いた注目作だ。そこで、大江崇允監督にインタビューを行った。
――まず、監督が所属していたチーズfilmとはどういうものなのか教えていただけますか?
「もともとは大学で知りあった戸田彬弘がひとりで活動していたんですが、ある作品で僕がプロデューサーとして参加したことをきっかけに「映画を作ることに関わりたいな」と思って、途中からふたりで活動し始めました。戸田が監督する時は僕がプロデューサー、僕が監督する時は彼がプロデューサーという形で交互に作品を作っていたんです。『適切な距離』制作時はチーズfilmに所属していたんですが、今はというか公開タイミングくらいから僕個人で活動するようになりました。」
――そうなんですか。では、大学に通ってるころ映画監督になりたいと思い始めたんですか?
「戸田はそうなんです。彼は大学の後輩なんですが、入学してきた当初から「映画やりたいと言ってるやつがいるぞ」と周りから聞いていて。僕はというと、映画をやりたい気持ちはあったんですが近大には映像が学べる学部がなく「まぁ一緒かな」と思って、演劇へ進みました。ま、全然違いましたけど(笑)。でも始めてみると演劇が面白くなって、大学の頃は劇団を作ったりしてましたね。」
――映画をやりたいけど演劇を始めたということは映画好きだったんですね?
「映画をやりたくて、というかテレビドラマが大好きだったんです。そういう俗っぽいものが好きで(笑)。小説家でも良かったんですが、当時90年代の後半って、映画やドラマが盛り上がった印象が僕にはあって、その波に乗りたいと思ってましたね。」
――『適切な距離』の原作は舞台の戯曲なんですよね?
「劇団時代から仲のいい友人の菊池開人が書いたもので、親子で日記を“盗み読み”するという物語が、素直に面白いと思いました。なんだかSNSや現代の情報ツールを顕著に表していると思ったんです。当時は、mixi日記とかが流行り、ネット上の公共的な日記が存在するようになってて、誰だか分からない相手に向けて書いた日記が彼は気持ち悪いと思ってたらしくて。日記ってアナログなツールだけど、この物語はそういった現代の感覚があって面白い本だなぁと思いました。ただ、日記そのものが文字ですし、本や小説など文字だったら成立するような文章を、どうやったら視覚的なものに出来るのかと、しばらく悩んでて、いつか映画にしたいと思い続けていたという感じです。」
――そこからどういう経緯でCO2へ企画を送ったんですか?
「富岡さん(CO2の運営事務局長)から「応募しないか?」と誘われたのが応募のきっかけです。たぶんいろんな人に声をかけていたんだと思います。それで、CO2について周りに聞いてみると「とにかく時間がないぞ」という声をたくさんもらったので、これは時間の使い方が勝負になるのでは? と思いました。お客さんから1番近いのは俳優の体、脚本は1番観えてはいけない遠い部分。この話ならベースはあるので、脚本にかける時間を短縮出来るなと思って。そんな妙な偶然も重なってこの作品を撮ろうと思いました。」
――時間の使い方で気をつけたこととは?
「CO2というのは企画書と前作のビデオで応募するので、脚本は出来てなくていいんです。なので、その後の時間の使い方ですね。例えば、俳優のオーディションをやろうと思ったら2,3週間前に雑誌に載せてもらうための記事を作っておかないといけないので時間かかってしまうなとか、ロケ地探しやスタッフを集める時間、実務的なものに出来るだけ時間を置いていかないとちょっと厳しいなと思いました。その中で脚本に時間をかけていられない。やっぱりCO2は時間の使い方が勝負だと思います。それも監督の仕事と言えば仕事なわけだし。今思えば、今回は過酷な時間の中でも有意義に作れたのかなぁと思いますね。」
――前作も高く評価されたとお伺いしましたが。
「ごく一部の方にですけどね(笑)。富岡さんと葛生賢さん(映画評論家)には「いい」と言っていただきました。頑張って上映もしたんですが、あまりいい反応がなくて。僕、才能ないんだなぁと思ってたところに「シネ・ドライヴに出さないか」と言われて出したら監督賞をいただきました。富岡さんと葛生さんが推してくれたらしくて。その流れでCO2にも「応募しないか?」と声をかけていただいたので、本当に“縁”と“運”ですねぇ。スタッフに恵まれているということも含めて、自分で運がいいなぁと思います(笑)。」
――『適切な距離』はCO2で審査員にどんなコメントをもらったんですか?
「しっかり作ってるという点と、カメラと演技を褒めてもらいました。」
――最初は現実と日記の世界が明確ですが、だんだんその境が分からなくなっていく。ものすごく綿密な脚本だと感じましたが、どんな風に話を組み立てていったんですか?
「実は何も考えてないんです(笑)。僕は、現実と虚構とは考えてなくて、雄司が触れたものだけ描いていこうと思って書いたんです。だから現実というのはあそこに1秒もない。」
――そうだったんですか。
「日記って変なツールで主観なのに客観にしようとするところがある。だから、客観しようとした主観の映画なんです。現実っぽく見えるところは雄司がちゃんと客観できた部分で、できなかった部分が主観なのかなと思いますね。」
――なるほど。
「相手の日記を読むことで自分も影響を受ける。もちろんわざと書いているんだけど、混じり合っていってしまう感覚をただ映画に出来ないかなと。“エッシャーの騙し絵”のような感覚を映画に出来ないかと。映画って印象操作で作るものだと僕は思っているので、事実何々があったじゃなくても、印象だけでも事実へと変わり積み重なっていくものだと思っています。この映画も印象操作で繋がってるように観えるんではないだろうかと思いながら演出しました。すみません。めんどくさい話をしてしまって。話が下手くそでね(笑)。」
――いえいえ。このインタビューだけでは何のことか分からないかもしれませんが、映画を観れば納得いただけるでしょう。次は、簡単な質問にしましょうか。
「アホっぽいこと聞いてください!」
――アホっぽいことですか(笑)! じゃあ~、お餅のシーンが最高ですね(笑)!
「あそこね、僕も大好きです(笑)!」
(2013年4月 4日更新)
Check
大江崇允(おおえたかまさ)監督●1981年大阪生まれ。20歳の時、近畿大学商経学部より芸術学科演劇芸能専攻へ転部し、舞台芸術を始める。03年、大学の同期だった菊池開人(きくちあきひと)らと共に「旧劇団スカイフィッシュ」を旗揚げ。監督作品としては、『美しい術』(09年初監督/92分)で、CINEDRIVE2010監督賞受賞、『適切な距離』(11年/95分)で、第7回CO2大阪市長賞(グランプリ)受賞、第2回ハノイ国際映画祭長編コンペディション部門ノミネート(12年)、フランクフルト「ニッポンコネクション(日
Movie Data
『適切な距離』
●4月6日(土)~12(金) 19:05~
第七藝術劇場にて公開
【公式サイト】
http://tekisetsu.blog.fc2.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157165/
★黒沢清(映画監督)からのコメント★
ふとのぞき見した日記帳の中のささやかな異変…といった小ぶりな冒頭から始まるが、あれよあれよと密度を増して…最後に私はその圧倒的な分厚さに押し潰されそうになっていた。本当にこれが自主映画なのか。日本映画であることすらはるかに超越し、文学と演劇と映像とが何層にも重なった巨大な映画の山脈をなしているのだ。これをまだ30才そこそこの若者が作ったということが今でも信じられない。
Event Data
舞台挨拶決定!
【日時】4/6(土)~12(金)連日
19:05の回上映後
【会場】第七藝術劇場
【料金】通常料金
【登壇者(予定)】大江崇允監督
インタビューに出てくる笑顔の伝達(?)シーン