「世界で1番面白い映画を撮った人は映画をやめると思うんです。
一応、それを目指していつか映画をやめてやろうと。
言うのはタダですから(笑)。」
『適切な距離』大江崇允監督インタビュー
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――あのシーンでお母さんの印象が変わりました。
「実は、あまり“お母さん”として描かなかったんです。50年生きてきた人くらいにしか考えず作りました。お母さんはお母さんであると同時にお父さんの役割もしなくてはいけない。息子に対してお父さんの役割をして欲しくなったり、息子や異性としても存在して欲しい。つまり、ふたりで成立しなくてはいけないということは他の役職をいっぱい同時にしていかなくてはいけない。息子を見る目は息子であると同時に父親でもあってほしい。異性の男でもある。全部が態度に出なくてはおかしいという話をお母さん役の人と話しました。」
――まさに、餅のシーンのお母さんは、お母さんではなく“ひとりの女性”ぽかったです。また、主演の内村遥さんがすごくいいですね。彼のキャスティングの経緯は?
「戸田彬弘監督の作品のオーディションの時に初めてお会いして、撮影の時から何が良かったのか分からないんですけど気になってました。なんかね、ちょい役なのに妙にモチベーションが高くて(笑)。酸欠になるシーンでは本当に酸欠になって白目むいて倒れちゃって、こいつ頭おかしいんじゃないかなと思ったこともありました。なんというか、俳優としての妙な強度を持ってるなと。今回も真っ先に彼の顔が浮かびましたね。」
――どんな演出をされたんですか?
「彼自身が雄司を理解したのかなと思いました、ああいう経験があったのかは知らないんですけどね。リハーサルを2週間したというのもあるかもしれないですけど、リハーサルの時に内村くんが「この役を演じてから思い出せなかった思い出がたくさん思い出されるようになりました」と言ってて。親との関わりの中で、別に大したことじゃないのに傷ついたこととか、忘れてしまっていたことをすごい思い出してきたと話してて、面白いと思いました。主人公の雄司を探れば探るほど自分の中の経験的にあった何かと重なっていったのか呼び起こしたのか、そんな感じだったのかなと思って、頼もしかったですね。」
――2週間のリハーサルというのは演劇っぽいアプローチなんですかね?
「リハーサルと言っても、その演じる役柄をどう思う? とか、なんでこんな台詞言うんだと思う? とか、こたつに入ってお茶飲みながら話しただけですけどね。どういう俳優を目指してるのか、どういうものが好きなのか、何を学んできたかなんかによっても違う、その人がどういう人か知るというのが結構大事だと僕は思っています。この人にどういう言葉をかければ届くんだろうとかそういうことを見極めているという感じでしょうか。」
――すごいですね。先ほど、現実と虚構の話ではないと伺いましたが、笑顔の伝達のような演劇を学ぶシーンはまさに現実と虚構を表してるとわたしは感じていました。
「現実がないと言ったのは彼があれを見て、見たというのを僕は映画にしている。実際にあったことなんだけど、まったく同じものがあったかどうかは分からない。彼の印象の中でああいう風に膨らましたのかもしれないということなんです。ただ、ああいうのは僕も学んだことがあって。あれって、嘘じゃないですか? でも、人が笑ってる姿を見ると笑ってしまう。単純に嘘で笑ってるのが本当に笑ってるように見えるし、本当に笑ってる以上に“笑ってる”という行動として伝わってくる。そういう嘘と現実が混じったり、超えちゃったりした瞬間かなと思って作りました。」
――これ、2本目なんですよね? 本当に綿密な作品で新人監督とは思えないです。
「いやいや。僕は何も映画のことを分からないところから始めました。1本目で何にまず困ったかというとどこにカメラ置いたらいいか分からない。カットを割るということも分からなかった。もともと舞台をやっていた人間としては暗転なら分かるけど、カットなんて割らないわけじゃないですか? 引きの画でツーショットで撮ってるのと寄りの画が繋がるのが分からない。なんでこれが繋がるんだろうというところから始めたんで(笑)。分からないから、とりあえずほぼ全部カメラを置こう。全部がちゃんと映ってるところに置いておこうと思って(笑)。」
――では、2本目はどのように?
「『適切な距離』では、違和感があったカット割にも慣れてきたし、カメラを動かすこともやってみました。だけど、ダイナミックさを出すために動くとかではなく、空間を撮れるようにカメラを動かしたい、カットを割ってみたいなという欲求をもって撮りました。つまり基本が分からないからひとつひとつを厳密にやっていくしかなかったんです。ここが「ちゃんと撮ってる」という風に思われたのかもしれないですね。実は、単純に僕がバカなだけかもしれない(笑)。」
――映画をどこかで学んだりしていないということですか?
「RECボタンの押し方も、たぶん今だに分からないと思います。機材に関してはまかせてますし、何も学んだことがないんです。」
――影響を受けた監督とかもいないんですか?
「そうですね。」
――めずらしいですよね。
「影響受けたいんですけどね、分かってないからそこまでいってない(笑)。まず脚本の書き方も分からなかったし。どうやって書くんだろうと思って、レンタルビデオショップに行って適当に借りて、画面見ながら全部台本に起こしてみたりしました。映画のビデオを見ながら台詞とト書きを書いていったんです。それが自分の中での1番の勉強でしたね。ちなみに『ハチミツとクローバー』なんですけど。」
――ははは(爆笑)! なんで『ハチミツとクローバー』なんですか?
「何がいいか分からなくて。」
――そのセレクト! めちゃくちゃ面白いですね(笑い止まらず)。
「たぶん当時、新作で並んでた『ハチミツとクローバー』と『チェケラッチョ!』の2本でやったんです(笑)。僕、“映画”は好きですけど、シネコンでポップコーン食べて観るようなタイプの人間なんです。アーティスティックな感じはまったくなくて。」
(2013年4月 4日更新)
Check
大江崇允(おおえたかまさ)監督●1981年大阪生まれ。20歳の時、近畿大学商経学部より芸術学科演劇芸能専攻へ転部し、舞台芸術を始める。03年、大学の同期だった菊池開人(きくちあきひと)らと共に「旧劇団スカイフィッシュ」を旗揚げ。監督作品としては、『美しい術』(09年初監督/92分)で、CINEDRIVE2010監督賞受賞、『適切な距離』(11年/95分)で、第7回CO2大阪市長賞(グランプリ)受賞、第2回ハノイ国際映画祭長編コンペディション部門ノミネート(12年)、フランクフルト「ニッポンコネクション(日
Movie Data
『適切な距離』
●4月6日(土)~12(金) 19:05~
第七藝術劇場にて公開
【公式サイト】
http://tekisetsu.blog.fc2.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157165/
★黒沢清(映画監督)からのコメント★
ふとのぞき見した日記帳の中のささやかな異変…といった小ぶりな冒頭から始まるが、あれよあれよと密度を増して…最後に私はその圧倒的な分厚さに押し潰されそうになっていた。本当にこれが自主映画なのか。日本映画であることすらはるかに超越し、文学と演劇と映像とが何層にも重なった巨大な映画の山脈をなしているのだ。これをまだ30才そこそこの若者が作ったということが今でも信じられない。
Event Data
舞台挨拶決定!
【日時】4/6(土)~12(金)連日
19:05の回上映後
【会場】第七藝術劇場
【料金】通常料金
【登壇者(予定)】大江崇允監督
インタビューに出てくる笑顔の伝達(?)シーン