ホーム > NMB48 安部若菜が行く! わかぽん落語道 > 第2回 桂 雀太さん(対談編)

 
 

 

Profile

桂雀太(写真左)
かつらじゃくた●1977年2月26日生まれ、奈良県出身。関西大学法学部卒業後、2002年に桂雀三郎に入門。同年7月に大阪のTORII HALLで行われた『雀三郎みなみ亭』にて初舞台、「子ほめ」を披露した。2005年5月より定期的に収録したネットラジオ番組『ネットでじゃくったれ』の無料配信を開始。天満天神繁昌亭、動楽亭、神戸・喜楽館をはじめとした寄席以外でも、カフェ、ライブハウスなど様々な場所で落語会を行う。2006年からは年1回、『桂雀太ひとり会』を開催。2016年1月に第53回「なにわ芸術祭新進落語家競演会」にて新人奨励賞を受賞。同年12月に「NHK新人落語大賞」で大賞を受賞。2017年「咲くやこの花賞」。2018年に「繁昌亭大賞」奨励賞。2019年に「上方落語若手噺家グランプリ」優勝、「文化庁芸術祭賞」で新人賞を受賞。弟子は桂源太。

公式サイト
http://www.jakuta.info

公式Twitter
https://twitter.com/jakutta

 

安部若菜(写真右)
あべわかな●2001年7月18日生まれ、大阪府出身。ニックネームはわかぽん。2018年、第3回AKBグループ ドラフト会議でNMB48・チームNに指名され、同年NMB劇場で公演でビュー。2020年、「NMB48 新春特別公演2020」で正規メンバーに昇格。チームMに所属。

公式サイト
http://www.nmb48.com/

公式Twitter
https://twitter.com/_wakapon_

Stage

東西落語ユニットwe
11月13日(土)一般発売 Pコード=597-700
2022年1月13日(木)19:00
天満天神繁昌亭
全席指定-2500円
[出演]桂雀太/桂そうば/桂宮治/入船亭小辰
※未就学児童は入場不可。

第161回 元祖大阪名物あほの会
11月15日(月)一般発売 Pコード=597-700
2022年1月15日(土)18:00
天満天神繁昌亭
全席指定-2500円
[出演]桂小文枝/笑福亭仁福/露の都/桂三若/笑福亭由瓶/林家笑丸/桂雀太

チケット情報はこちら

※その他のスケジュールは公式サイトでご確認ください。

第2回は、桂雀太さん。2002年に桂雀三郎さんに入門した雀太さんは、主に古典落語を得意とし、2019年には「上方落語若手噺家グランプリ」での優勝をはじめ、「花形演芸会銀賞」や「文化庁芸術祭新人賞」を受賞した実力派。上方落語の次代の担い手と嘱望されています。その一方でカフェやバーなどユニークな場所でも落語会を開催するという、フランクな存在感も人気の理由。落語とは全く無縁の学生時代を送ったという雀太さんがいかにして落語家になったのか、そのいきさつをたどるうち、いつの間にか落語の極意も教えてもらうという展開になりました。

 

落語はどこでもできるもの?

安部若菜
(以下、安部)

NMB48の安部若菜です。今日はよろしくお願いします。

桂雀太
(以下、雀太)

よろしくお願いします。

安部

雀太さんはいろんなところで落語をやってはりますよね。

雀太

やってますよ。バーとか、色々やりましたよ。あんまり「そういうところではできません」って断ったことないんですよ、僕。

安部

呼ばれたらどこでも。

雀太

どこでも行きます。服屋さんの朝礼でやったことありますよ。

安部

朝礼!

雀太

そこの服屋さんね、販売員の人が持ち回りで、朝礼でスピーチをせなあかんことになったんですよ。販売員さんと友達でね、「えらいことになってもうた、こんなシステムになってもうて」と。「落語のことしゃべろうかなと思うねん。でもしゃべるの下手やし、実際来てやってくれへんか」って。ほんで「おう、行くわ」って。で、レジのところに座布団を置いて、スタッフの人7、8人に向けて朝から15分しゃべりました。

安部

すごい状況ですね(笑)。そこでできたらもう、どこでもできるような感じですね。どこにでも行くというのは、雀太さんの信条というか、ポリシーですか?

雀太

もう少し偉くなったらこういう場所でしなくても済むようになるだろうなと思っていたんです。そう思いながらいろんなところに行ってたら、だんだんオモロなってきてね、どこででもできるようになってきて。特に嫌でもないし、楽しんでやれるので、断る理由もなくなっちゃって。

安部

楽しみながら、いろんな場所で。

 

4度目の落語会で「やります」

安部

雀太さんは、昔から落語は聞いてはったんですか?

雀太

僕はね、全然ですよ。大学を卒業するころに初めて聞いたんです。

安部

昔から聞いていたっていう方が多いなか…。

雀太

でしょう。全然聞いてない。大体ね、近くにいましたか? 落語好きな同級生は。

安部

いないですね(笑)。

雀太

いないでしょう。珍しかったでしょう?

安部

確かに、一人もいなかったです。

雀太

それ普通ですよ。僕の周りも一人もいなかったですよ。

安部

何がきっかけで聞いたんですか?

雀太

僕は関西大学やったんですが、昔、関大に第1グラウンドっていう広いグラウンドがキャンパスにあったんです。そのグラウンドの両端に落研の先輩と後輩が浴衣一枚で座っててね。真冬ですよ。後輩が落語をやっているわけですよ、そしたら先輩が「もっと声出せ~!」とか「聞こえへんわ~!」言うてて。

安部

そんな体育会系だったんですね。

雀太

そうそう。グラウンドに何も敷かんと正座してて。その横を通りながら「今時やないで、これ。何をしとんねん」と思ってて、それくらいの認識やったんです。でね、ちょうど僕たちは大学を卒業するころが就職氷河期で、どうやら世の中、公務員が一番ええらしいという空気があって、僕も特にやりたいこともなかったから公務員試験の勉強して。その時に、家の近くで落語会があったんですよ。その頃、中島らもさんの本をよく読んでたんですけど、知ってはります? らもさん。

安部

名前は聞いたことがあります。

雀太

らもさんがね、落語家と親しかったんですよ。よくエッセイに落語家の名前が出てきて、なんやよう出てくるなと思ってたんですよ。それでちょっと頭の中に残ってたんでしょうね。当時ね、まだ雑誌の『ぴあ』があって、映画の情報を見るために買ってたんですよ。それまで気にしたことなかったんですけど、ある日、パッと見たら「演芸コーナー」ってあって。B5の半ページくらい。その半ページの1/4ぐらいに落語会の情報が書いてあって。

安部

ほんとちょっと(笑)。

雀太

「あの落語? 落語ってやってんねや~! え~~!?」って衝撃で。見たら家の近くでやっていると。いっぺん観に行ってみようと思って行ったんですよ。そしたら、めちゃめちゃ狭いとこでね。一心寺シアターの稽古場だったんです(笑)。

安部

け、稽古場ですか(笑)。

雀太

落語会って結構、稽古場でやることが多いんですよ。昔も「ワッハ上方レッスンルーム」ってね、今、「よしもと漫才劇場」になっている小屋が以前は「ワッハ上方ホール」で、そのホールで本番を迎える人がレッスンをする場所が「レッスンルーム」だったんです。若手の頃は、そこで本番を迎えてたんです。

安部

へ~。

雀太

初めて観たのは一心寺シアターの稽古場で。桂雀三郎って誰か知らんけどいっぺん行ってみよと。そしたら最前列しか空いてなくて、狭いところやから、もう目の前に演者さんがいて。

安部

近い!

雀太

近ぁ~!! 思ってね。でも、向こうは当たり前のように始めるわけですよ。こっちは初めてや。太鼓ドドーン!! 鳴って、なんやこれ!! って。ほんで、出てきはってしゃべるじゃないですか。めちゃしゃべるでしょ、落語家って。

安部

そうですね(笑)。しゃべってます。

雀太

「何やこれ!?」って。「え!? めっちゃしゃべるやん、この人!」って思って。

安部

そんな感想なんですか(笑)。

雀太

そう(笑)。ほんで、二人目ぐらいから慣れてきて、あ、そういうことかみたいな。『まんじゅうこわい』っていう噺だったんですよ、分かりやすいでしょう。

安部

分かりやすいです。

雀太

それで「いや、落語おもろいやん」って。たまたまね、連続落語会で「明日もやってます」と。「ほな、行きます」と。で、また最前列に座って、太鼓ドドーン!! て鳴って。それもだんだん慣れてきて。ほんで、また「おもろいな~」って。「明日もやってます」「行きます」と。

安部

はまっていったわけですね(笑)。

雀太

そう。で、4回目ぐらいに行った時にはもう「落語をやります」と。調べたら誰かの弟子にならないといけないということで、桂雀三郎という人の連続落語会やったからね、他にも聞いたけど、この人ちゃうかなって師匠の門を叩いたんです。

安部

そんな偶然から始まってここまで。不安とかなかったんですか? 弟子入りするときに。

雀太

いやそらね、ノリノリで弟子入りには行かないですよ(笑)。

安部

確かに(笑)。人生かかってますよね。

雀太

不安の塊です。1回弟子入りに行ったんですけど、タイミングが合わなくてね。兄弟子が入ったばっかりやから、「今、無理」ってはっきり断られて。1年半くらい経ってもう1回、行ったんです。直接家に行ったら娘さんが出てきはってね、「今、お父さんお風呂入ってるからあかんわ」って。「いついつ、ここで落語会があるから、楽屋に来たらって言うてるよ」って言われて行った楽屋が、ワッハ上方やったんですよ。

安部

え~。劇場の上の…。

雀太

NMB48シアターのある建物の向かいに立ち食いうどんがありますね。昔は、その横にお蕎麦屋さんがあったんですよ。そこで師匠と話をさせてもらって。

安部

そんな身近なところで行われていたんですね。

雀太

そうそう。で、弟子に取るかどうか分かりませんけど、一つ噺を教えてあげましょうっていうことで「子ほめ」という噺を教えてもらって。1カ月くらいやったんですけど、それで(弟子に)取りましょうかって。

安部

そんな感じだったんですね。

 

真夜中の弟子入り志願

雀太

最初にタイミングが合わなかったというのはね、TORII HALLっていう会場の前で師匠の出待ちをしたんです。そこで(弟子入り志願に)行こうと思ってたんです。そしたら後援会のおっちゃんらがとりまいてて、隙間ないやんって。

安部

話しかけられなくて。

雀太

はい。当時、向かいにビアホールがあって、そこへ打ち上げに行きはって。僕は外で待ってて。2時間くらいして出てきてはったから、行こかなって思ったんやけど、また4人ぐらいで次の店、行こうかってなってて。

安部

二次会に(笑)。

雀太

はい。法善寺横丁のバーに入って行かはって。その道中で言おうかなと思ったんやけど、ちょっと勇気なくて。しもた~と思って、また待ってて。

安部

ずっとお店の前で待ってたんですか?

雀太

はい。結構、お酒飲んではるやろうから、水がいるんとちゃうかなと思って4本、水を買って待ってて。ほんで(深夜)1時半ぐらいまで待ってたら、ベロベロで出てきはった。そしたら法善寺横丁の石畳で一緒にいた女の人がぼてーっとこけはって、師匠が「だ、だいじょうぶか~!」言うてる時に、なんでか知らんけど「今や!」思ってば~っと行ってね、「すいません。桂雀三郎さんですよね」と確認してね、「こんな時にナンですけども、落語家になりたいんですけど、弟子にしてもらえませんか」と言うたわけですよ。

安部

そんなところで! 倒れている人の横で(笑)。

雀太

はい。ほんで「ああ、そう?」とかなって、倒れている人ほったらかしになって、「いや~、今、新しい弟子取ったばっかりや。二人いっぺんに面倒はよう見んから、今すぐなりたいんやったらよそ行った方がええんちゃうか」と言われたんです。でも、もうこの人しかないと思ってたし、はっきり断られたし、「分かりました」って引き下がったんです。その頃って不安だらけですよ。だから、「1回行ったし、もうええよな?」みたいな。「俺、行ったよな? 行かずに諦めてはないよね?」って。

安部

自問自答して。

雀太

はい。「もう、ええんちゃうかな~」みたいな、ふわふわした状態がしばらく続いて。でも、「いや、これはもう1回行かなあかん」と思って。で、もう1回行ったのが、ワッハの楽屋やったんです。それが18年前かな。

安部

諦めていたら、今は普通に働いていたかもしれないってことですよね。

雀太

ですね。でも、今思えばですよ、大体、こういうのはね、そういうふうな流れで来てるんです。たまたまとか言いますけども、これはもうね、そういう…。

安部

運命みたいな。

雀太

そうです、運命みたいなことです。

 

しゃべらない兄弟子

安部

入ってみて、びっくりしたことはありますか?

雀太

まずね、1つ前に入ったという兄弟子(桂雀五郎)が全くしゃべらへんのですよ。一番近い先輩ですわ。着物のたたみ方とか知らんし、「教えてください」って言ったら「……」って無言で教えてくれて。「え? こうですか?」「……」って。

安部

ほんまにしゃべらないんですか?

雀太

しゃべらない。もちろん舞台はしゃべるんですよ。日常会話が全然。入ってから10年ぐらい経った時に、落ち着いて考えたら兄弟子とトータルで1時間ぐらいしかしゃべってへんなと(笑)。

安部

10年で? え~…。

雀太

師匠にそれ言うたら、「まだしゃべってる方や。俺、48分くらい」って(笑)。

 

落語の醍醐味は「息と間」

安部

入門当時は、どうでしたか?

雀太

最初はね、お客さんのリアクションとか気にする余裕もないです。覚えたこと、練習したことをただただやりますっていう。お客さんが笑おうが笑わまいが、知りませんみたいな。

安部

記憶にない感じですよね、終わってみたら。

雀太

はい。今は、お客さんの反応に反応してしまう。できることなら、あまりそうしないようにしていきたいなとは思ってるんです。

安部

自分のぺ―スで。

雀太

そう。でも、お客さんあっての空気感なのでね。客席と演者が一つになる時って、呼吸なんですよね。笑う時ってだいたい息を吐くんですよ。そして、演者が台詞で息を吸う時にお客さんも一緒に吸う。一緒に吸う、一緒に吐く、その人数が多ければ多いほど一つになれる。バラバラの時は、バラバラに呼吸してるんですよね。一体感が出る時は会場全体が呼吸してるみたいな感じになるんですよ。

安部

へ~、すごい!

雀太

ですから、お客さんの反応ももちろん、間を見極めて取っていかないといけないんです。

安部

間の見極めっていうのは?

雀太

間は難しいですけどね、落語の醍醐味っていうのは、息と間やと思うんですよね。古典落語は、台詞は同じやし、内容も分かっている人もたくさんいるわけやから。それやのに面白く聞こえるっていうね。これはね、息と間の違いなんですよ。あと、メロディー。噺はね、メロディーがいるんですよ。メロディーがないと聞けないです。あと、落語でリアルな芝居をやると聞けたもんじゃないんですよ。

安部

臨場感を出して演じればいいわけではないんですね。

雀太

例えば、怒るシーンとかあるでしょう。怒るシーンってね、リアルな芝居をやると、顔もしかめっ面になって本当に怖くなる。落語はね、噺の中で本当に怖がらせようとしたら良くないんですよ。リアルにやると本気で怖い。

安部

怖かったら、お客さんも沈んじゃいますよね。

雀太

そうそう。なので、顔のパーツを広げた感じで怒ると陰気な感じにもならない。リズムとね、テンポとトーン。声の高さ。これも非常に大きいんです。そしてメロディアスな落語ほど何回も聞けるんです。歌と一緒でね。

安部

メロディーがいい歌って、何回も聴きたくなりますね。

雀太

そうでしょう。心地いいリズムとテンポに噺の面白味も入ってくるので、お客さんも笑ってくれます。テンポ良く、ポンポンポンポンっと行って、急に間を取ったり、そういう緩急もその時その時で違いますしね。

安部

お客さんの雰囲気によって。

雀太

そうそう、その場限りのものなので、同じ噺でも「もう1回聞きたいな」と思ってくれるんだと思います。

 

1000回の稽古より1回の舞台

安部

1つのネタはどのくらいで覚えるんですか?

雀太

覚えるのはね、そんなに時間はかからないんですけど、自分のものになるっていうかね、その噺と自分とが一体になるには、舞台にかける回数がいりますよね。ずっとレッスンばっかりしていても、自分のものにならないじゃないですか。

安部

ならないです。本番をやってみないと分かんないです。やって、改善して。

雀太

一緒です。いくら壁を目の前にして稽古しても、1000回の稽古より1回の舞台の方が得るものは大きい。だからといって稽古をおろそかにしてはいけないんです。稽古も大事です。……ほな、稽古しましょか。

安部

はい!

 

取材:安部若菜
撮影:福家信哉
企画・構成:葛原孝幸/黒石悦子
文:岩本

 


 

Check