ホーム > マンスリー・センチュリー 2016 > 第7回 11月〔November〕
モーツァルト:歌劇「後宮からの逃走」序曲(25日)
リュリ:バレエ音楽「町人貴族」~トルコ人の儀式のための行進曲(26日)
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調K.467
ファジル・サイ:交響曲第1番「イスタンブール・シンフォニー」作品28
高度なテクニック、溢れんばかりの奔放な楽想によって、世界の注目を集めるトルコのピアニスト、ファジル・サイ。彼の手にかかればピアノは母国の楽器ウードの秘めやかな音色を湛え、かの有名なモーツァルトK.331のソナタの終楽章は華麗なJAZZへと生まれ変わる。鬼才の名で呼ばれるが、その音楽に孤高の響きはなく、聴く者に人懐っこく微笑みかけてくる。11月25日(金)、26日(土)、日本センチュリー交響楽団は、首席指揮者飯森範親の指揮の下、ソリストにこのファジル・サイを迎える。
オープニングは2日で異なる。25日はモーツァルトの歌劇「後宮からの逃走」序曲、26日はリュリのバレエ音楽「町人貴族」~トルコ人の儀式のための行進曲。ファジル・サイとセンチュリーの共演を祝し、いずれもトルコに由来する異国趣味に溢れた作品だ。そしてコンチェルトにはモーツァルトの第21番が選ばれた。第2楽章のひときわ美しい旋律が、かつてスウェーデン映画「みじかくも美しく燃え」(1967)の主題曲としても使用された作品だ。カデンツァはおそらくサイ自身によるもの。時にウィーン情緒を色濃く漂わせるこのコンチェルトに、サイとセンチュリーがどのような表情を与えるのか。絶妙の選曲であり、絶妙の演奏となることだろう。さてアンコールは?
今回のクライマックスとなりそうなのがファジル・サイによる交響曲第1番「イスタンブール・シンフォニー」(2010)だ。作曲家としてのサイは現在すでに3曲の交響曲ほかを発表しており(交響曲は他に第2番「メソポタミア」('12)、第3番「Universe(宇宙)」('12)、この方面でもその才能を遺憾なく発揮している。ここでは葦笛のようなネイ、ヨーロッパに流布するツェムバロンにも似た撥絃楽器カーヌーン、それにトルコ伝来の打楽器といった民族楽器がオーケストラに加わり、全7楽章の色鮮やかな織物を見るような音楽が展開されてゆく。この作品は2014年、飯森範親と東京交響楽団によって日本初演されたもの。今回はその初演者と作曲者自身を迎えての関西初演である。おそらくはこの作品の決定打を聴く、記念すべき演奏会となることだろう。クラシック音楽の中に今も息づく、東方への(からの?) 憧れに触れる2日間だ。
《第1部》 日本センチュリー交響楽団
【指揮】関谷弘志
【曲目】
モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハト・ムジークより
グリーグ:ホルベルグ組曲より
チャイコフスキー:弦楽セレナーデより
《第2部》 オーケストラ新喜劇
【出演】:川畑泰史、池乃めだか、未知やすえ、諸見里大介、桜井雅斗、
金原早苗、鮫島幸恵 ほか
今年3月15日、なんばグランド花月で上演され、演劇界空前の話題をさらった「オーケストラ新喜劇」。吉本新喜劇のオールスターと日本センチュリー交響楽団の楽団員がステージで共演するという展開に「想像がつかない」「水と油」「上品と下品のコラボ」などネットには様々な予想が飛び交った。ところがフタを開けてみるとこれがちょっと信じられない面白さで「案外しっくりいってる」「違和感ナシ」「どこへ行けば観られますか?」など、絶賛の声で溢れる結果に。関係者一同この高評価に気を良くしたか、再び上演が決まった。ところは2017年初頭グランドオープンを迎える豊中市立文化芸術センター、アクア文化ホール。11月20日(日)、その名も「オーケストラ新喜劇 in 豊中」だ。
センチュリーの生演奏による「ほんわかぱっぱ」で物語が始まると、そこはとあるオーケストラの練習場。荷物を届けに宅配便のスタッフが訪れて…ここから始まる物語をどのように説明したものか。ただひとつ言えるのは、オーケストラとして世界で初めてなんばグランド花月の舞台を踏んだ日本センチュリー交響楽団と、吉本芸人として世界で初めてクラシック・オーケストラを指揮した男、座長・川畑泰史以下、怒涛のキャストが織り成す笑いの幕が切って落とされるということだ。そのコテコテな感じ、グイグイ来る感じはいつもの吉本新喜劇以上に吉本新喜劇であって、しかもオーケストラが半端ない。つまりこれがオーケストラ新喜劇なのだ。
「とにかくすべての音を、笑いにつなげようとした。難しかったのは楽団員の人が、今、役者として弾いているのか、音響さんとして弾いているのかを、お客さんにもわかってもらえるようにやることだった。コツはつかめたと思う。」とは第1回「オーケストラ新喜劇」終了後の川畑泰史の言葉。その一言が大いに頼もしい。ちなみに芸人さんの顔ぶれは少しだけ一新(?)されている。当然ギャグも変わるから、まったく新しい「オーケストラ新喜劇」の上演と言っていいかも知れない。ご家族揃ってお越しください。みんなで笑いに来てください。
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大阪府の北に位置し隣接する池田、箕面、吹田市などとともに大阪の衛星都市圏を形成する豊中市。日本センチュリー交響楽団が拠点とするこの豊中市は現在人口約40万人を数える中核市だ。「豊中まちなかクラシック」はこの豊中市と日本センチュリー交響楽団が協定を結び、2012年から行っているもの。寺院や教会、センチュリー・オーケストラハウスや市内に残る歴史的建造物などを会場に“まちなか”で楽しむコンサートだ。各会場には日本センチュリー交響楽団が特別に編成するアンサンブルやオーケストラが登場し、今年は11月27日(日)より全8会場11公演が開催される。
今年の「豊中まちなかクラシック」で話題を呼びそうなのが11月27日(日)、センチュリー・オーケストラハウスで行われる第3公演「弦楽四重奏と創作落語『君よモーツァルトを聴け』に笑え!」だ。落語家月亭文都を迎え、弦楽四重奏と落語というセンチュリーならではのコラボレーションを行う。
一見異色に見えるふたつの伝統芸能の取り合わせだが、音楽と笑いの相性の良さは「オーケストラ新喜劇」でも実証済み。ぜひ注目しておきたい公演のひとつだ。そのほか東光院萩の寺で聴く武満徹〔第2公演11月27日(日)13:30~14:30〕や伊藤若冲の作品で知られる西福寺で聴くブラームス、クラリネット五重奏曲〔第6公演12月3日(土)14:00~15:00〕など、ホールとは違った響きの中で楽しむクラシックの魅力は格別なものがある。最終日にはアクア文化ホールでJ.S.バッハのブランデンブルク協奏曲第3番、第5番、そして管弦楽組曲第3番が華やかに演奏される〔第8公演12月14日(水)19:00~23:00〕。
全公演、鑑賞は応募制。ご希望の方は、パンフレット〔とよなか音楽月間〕および豊中市のHP〔豊中まちなかクラシック〕をご覧の上、往復はがきでお申し込みください。締切は10月13日(木)必着。各会場とも定員があるため、応募者多数の場合は抽選。豊中市内にお住まいの方、そして市外にお住まいの方も振るってご応募ください。今年も「音楽あふれるまち・豊中」の魅力がぎっしり詰まった音楽のページェントが始まる。
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(取材・文/逢坂聖也 ぴあ関西版Web)
(2016年9月21日更新)