ホーム > マンスリー・センチュリー 2016 > 第6回 10月-11月〔October-November〕
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23
プロコフィエフ:アレクサンドル・ネフスキー 作品78
今年7月の第210回定期演奏会ではラフマニノフの「交響的舞曲」ほかを取り上げ、光と影のいりまじる鮮烈な響きを聴かせた首席客演指揮者のアラン・ブリバエフ。カザフスタン出身の37歳、同じく7月には、N響オーチャード定期にも登場するなど、その存在感は日本においてもこれまで以上に高まりつつある。そのアラン・ブリバエフが10月28日(金)、29日(土)に行われる第212回定期演奏会に登場。ロシアを代表する2作品を取り上げる。そのステージを前に、服部緑地のオーケストラハウスでアラン・ブリバエフに聞いた。
「『アレクサンドル・ネフスキー』はもともとエイゼンシュタインの映画のために書かれました。12世紀、ロシアの英雄とドイツ騎士団との戦いの物語です。画期的な映画でしたが当時はまだ映画そのものが発展途上にあったのでしょう。映画の付随音楽として、自分の考えることを表現しきれないと考えたプロコフィエフは、この作品をもとに7曲から成るカンタータを作曲しました。これが今回演奏する『アレクサンドル・ネフスキー』です。オーケストラと大勢の混声合唱が迫力に満ちた光景を創り上げます。メゾ・ソプラノの独唱が亡くなった兵士を悲しむ歌を歌います。こうした部分をひとつにまとめ上げることによって、私はこの作品を聴く人に、壮大で鮮やかなイメージをお届けすることができると思っています」。
今回の共演者となるエフゲニー・スドビンはザンクトペテルブルク出身の36歳。ロシアの作品はもちろん、スカルラッティやハイドンの今日的な演奏者として知られる気鋭のピアニストである。チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を弾く。
アラン・ブリバエフはこの作品について「クラシック音楽の中で、もっともよく知られた作品のひとつ。それだけに演奏は容易ではありません。普通の演奏だとお客さまは退屈してしまいますから(笑)。私が重要だと思うのは、この作品が非常に高貴な音楽であるということ。チャイコフスキーはとても高貴な作品を残した作曲家で、それゆえに多くの貴族階級から愛されていました。この作品はもっともポピュラーでありながらもっとも高貴なコンチェルトなのです。そのふたつの魅力を併せ持った作品の魅力を伝えることができればうれしいと思います」と語る。
3年目を迎え、ますます緊密な関係を築きつつあるアラン・ブリバエフとセンチュリー。現在ブリバエフが進めるロシア音楽シリーズでは、奥深いロシア音楽の魅力はそのままに、古い錆(サビ)を洗い落としたような新鮮な響きを聴くことができる。センチュリーが折に触れて演奏してきたチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。そして今回初めて取り組むプロコフィエフの「アレクサンドル・ネフスキー」。またひとつ、新しい扉を開けたセンチュリーに出会えそうな演奏会である。
【指揮】沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)
【演出】フランチェスコ・ベッロット
ドン・パスクワーレ:牧野正人
マラテスタ:須藤慎吾
エルネスト:アントニーノ・シラグーザ
ノリーナ:砂川涼子
【合唱】びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
【管弦楽】日本センチュリー交響楽団
●10月23日(日)14:00
S席-16000円 A席-13000円 B席-11000円 C席-9000円
Pコード287-468 発売中
小泉和裕(指揮)日本センチュリー交響楽団
〈びわ湖ホール名曲コンサート〉
●11月13日(日)15:00
S席-4000円 S席青少年-1500円(25歳未満) A席-3000円 A席青少年-1500円(25歳未満)
B席-2000円 B席青少年-1500円(25歳未満) C席-1000円
Pコード291-639 発売中
日本センチュリー交響楽団に一時代を築いたふたりの指揮者、小泉和裕と沼尻竜典。この秋、びわ湖ホールでは、彼らとセンチュリーの共演が、相次いで行われる。まず注目したいのが、10月23日(日)の沼尻竜典オペラセレクション、「ドン・パスクワーレ」だ。独身の老貴族、ドン・パスクワーレの財産を巡る恋と駆け引きを描いた19世紀、ドニゼッティの傑作で、コメディア・デラルテの流れを汲む、畳み掛けるような笑いと甘く艶やかな数々のアリアが聴きどころ。ドン・パスクワーレの甥エルネストをイタリア・オペラ界のスター・テノール、アントニーノ・シラグーサが演じるのも話題だ。びわ湖ホール音楽監督として、現在オペラを主体にさまざまな作品に取り組む沼尻と信頼厚いセンチュリー、そして当代一流の歌手たちが織り成す華やかなステージが期待できる。
そして11月13日(日)には、小泉和裕と日本センチュリー交響楽団が〈びわ湖ホール名曲コンサート〉に登場する。ドイツオペラに最初の達成を遂げたウェーバーの作品から、歌劇「オイリアンテ」序曲。シューベルトが第2楽章までを完成させたまま世を去ったため「未完成」の名で呼ばれる交響曲第7番、そしてベートーヴェン直系の交響曲を目指したブラームスが完成までに21年を費やしたと言われる交響曲第1番を取り上げたプログラム。ドイツロマン派の重厚な側面に光を当てたような、聴き応えたっぷりの内容だ。端正な中に情熱を秘めた小泉の指揮に、ひさびさにまみえるセンチュリーが燃え立つことは必定。この組み合わせを待ち望むファンも多いに違いない。
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クラシックの生演奏とワイン、そんなくつろいだ雰囲気を味わえる店が大阪の北新地にある。今年で開店11周年を迎えたサロン・ドゥ・アヴェンヌだ。御堂筋に面した地下1階、50席ほどの小さな空間ながら店の奥にはベーゼンドルファーが置かれ、時にジャズ、タンゴやシャンソンのライヴもまじえながら、様々なアーティストたちの演奏を届けてきた。音楽愛好者の交流の場として、現在ファンとアーティストの双方から愛される存在でもある。 そのサロン・ドゥ・アヴェンヌで、今、日本センチュリー交響楽団の楽団員が出演するライヴ・シリーズが行われている。これは11月25日(金)、26日(土)にザ・シンフォニーホールで行われるトルコのピアニスト、ファジル・サイを迎えた第213回定期演奏会に因んだもの。「~ファジル・サイへの誘い」という副題が示すとおり、サイの音楽と彼の出身地であるトルコをイメージした音楽、そして料理が楽しめる企画となっている。6月5日には首席ヴィオラ奏者の丸山奏が出演。シリーズ開幕を飾った後、7月22日には首席指揮者、飯森範親が登場。前半では、定期演奏会のメインプログラムであるサイの交響曲第1番「イスタンブール・シンフォニー」の音源をまじえながらエキゾチックな響きに溢れる作品の魅力を、後半では指揮者となるまでの半生を語り、印象深いトークライブの一夜となった。(写真右上) そして今回、8月25日(木)20:00よりサロン・ドゥ・アヴェンヌに出演するのは日本センチュリー交響楽団、コンサートマスターの松浦奈々。情熱的な演奏で多くのファンを掴む彼女がモーツァルト、フランク、加えてファジル・サイのヴァイオリン・ソナタを弾く。ヨーロッパへのたびたびの侵攻により、その文化に深い影響を残したオスマン帝国=トルコ。そんな色鮮やかな異国の風景をイメージしながら楽しみたいライヴとなりそうだ。なお、シリーズはこの後、首席チェロ奏者の北口大輔を迎えての第4回「トルコの国と歴史巡り」(9月11日(日)14:00)、首席第2ヴァイオリン奏者、池原衣美、ヴィオラの飯田隆、チェロの末永真理を迎える第5回「モーツァルトとトルコの関わり」(10月11日(火)20:00)と続いていく。市街の喧騒から少し離れて、ワインと楽しい会話でクラシックを味わう時間。サロン・ドゥ・アヴェンヌで、いつもと少し違ったセンチュリーの表情に出会えるかも知れない。 |
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(取材・文/逢坂聖也 ぴあ関西版Web)
(2016年8月19日更新)