ホーム > マンスリー・センチュリー 2016 > 第2回「5月-6月〔May-June〕」
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲 第2番 嬰ハ短調 作品129
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 作品74「悲愴」
指揮:ドミトリー・リス
ヴァイオリン:セルゲ・ツィンマーマン
演奏活動がロシア国内に限られていたため、長らく幻のオーケストラと言われていたウラル・フィルハーモニー管弦楽団。1995年このウラル・フィルに音楽監督として就任以来、録音や国外での演奏活動を積極的に行い、同楽団の真価を広く知らしめたのが、指揮者ドミトリー・リスである。日本センチュリー交響楽団は第209回定期演奏会に、このドミトリー・リスを迎え、ロシアを代表するショスタコーヴィチとチャイコフスキーの作品を演奏する。
ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2番は、名ヴァイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフの60歳の誕生日を祝うために書かれ、1967年9月、彼によって初演されている。破格のスケールを持つ第1番と比べると演奏機会こそ少ないものの、随所に現れるショスタコーヴィチらしいミステリアスな響きが印象的な作品である。ソリストはドイツ出身のセルゲ・ツィンマーマン。名手フランク・ペーター・ツィンマーマンを父に持つ’91年生まれの俊英だ。センチュリーの定期初登場となる彼が、謎めいた表情を持つこの作品にどのように挑むのか注目したい。
そしてチャイコフスキー、交響曲第6番「悲愴」。第1楽章の美しい第2主題は、近年ではフィギュア・スケートの滑走などにも使用され、多くの人の耳に届けられている。だが、古くからのセンチュリーのファンならば、2010年9月16日、第154回定期演奏会でアレクサンドル・ドミトリエフとともに演奏した「悲愴」を記憶しているかも知れない。公演前日にコントラバス首席の奥田一夫を不慮の事故で失うという、衝撃のさなかに演奏された「悲愴」である。その演奏には悲しみと、それに留まらない感情の氾濫があった。もとより交響曲第6番「悲愴」は、ドミトリー・リスの最も定評のあるレパートリーのひとつである。それだけでも期待するには充分であり、あえて6年前の演奏を語る必要はないのかも知れない。だがその時センチュリーは、心を打つ「悲愴」を演奏した。今回の定期は、あの日以来の「悲愴」である。
ハイドン:交響曲 第19番 ニ長調Hob.I:19
モーツァルト:オーボエ協奏曲ハ長調K.314
ハイドン:交響曲 第58番 ヘ長調Hob.I:58
ハイドン:交響曲 第7番 ハ長調Hob.I:7「昼」
指揮:飯森範親
オーボエ:ハンスイェルク・シェレンベルガー
6月17日(金)、2年目を迎えたハイドンマラソンは、交響曲第19番で幕を開ける。この作品は1760年から61年にかけて、ハイドンが宮廷楽長を務めていたボヘミアの貴族、モルツィン伯爵家のオーケストラのために書かれた3楽章形式の小交響曲だ。その後、モルツィン伯爵は、経済的な事情からオーケストラを解散し、ハイドンはエステルハージ家に副楽長として雇われることとなる。ハイドン29歳、ここから彼の充実した創作活動が始まる。
ハイドンがこの時期以降、ザロモン・セットを除く大半の交響曲を、エステルハージ家お抱えのオーケストラのために書いたことは覚えておいてよいかも知れない。オーケストラの技量から、楽団員の個性まで、彼は充分に把握した上で30年近くに渡って作曲が行えたのだ。こうした環境にいた作曲家は史上稀なのである。交響曲第7番「昼」は、まさにエステルハージ家に職を得たハイドンの挨拶代わりの1作ともいえる作品。昨年演奏された「朝」から連なる「朝」「昼」「晩」の三部作である。様々な楽器の聴きどころを用意し、協奏曲風の華やかな響きが紡ぎ出されていく。楽団員の力量を最大限に引き出した手腕により、ハイドンは時の当主、パウル・アントン・エステルハージの篤い信頼をつかんだという。1766年、宮廷楽長ヴェルナーの死去に伴い、ハイドンは楽長に昇格する。翌年からハイドンの疾風怒濤期と呼ばれる一連の作品が発表されていく。今回演奏される交響曲第58番は、ハイドンの個性が全開となっていくこの時期の作品である。
そして1777年、ハイドンがその名声を高めていた頃、ザルツブルグでは同じ時代の空気を呼吸するモーツァルトが、天才を世に示しつつあった。その優美なオーボエ協奏曲を元ベルリン・フィルの首席奏者で、近年は指揮者としても活躍するハンスイェルク・シェレンベルガーの独奏でお届けする。ハイドンとモーツァルト、ふたつの才能が初めて出会ったのがいつなのかについては、確実な記録はない。しかしこのあと1780年代に入ると、ウィーンでふたりの実り豊かな交友が始まるのである。
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2016年度4月より、大阪府豊中市市民ホールの指定管理事業に取り組んでいる日本センチュリー交響楽団。(株)JTBコミュニケーションデザイン、日本管財(株)、(株)大阪共立の3社との共同企業体での取り組みで、期間は2020年までの5年間だ。豊中市は2017年度1月、新たに豊中市立文化芸術センター(豊中市曽根東町3丁目7-2)をオープンする。センチュリーらの管理対象は1300席の文化芸術センター大ホール、200席の同・小ホール、隣接する490席のアクア文化ホール(文化芸術センター中ホール)、そして市内野田町にあるローズ文化ホールの4ホールである。
オーケストラがホールの指定管理事業を行う例は全国的にも珍しく、行政と民間文化事業の新しい形として、今年1月の発表当時から注目を集めてきた。センチュリーと豊中市はこれに先駆け、2012年から「音楽があふれるまちの推進に関する協定」を締結し、毎年秋に行われる「豊中まちなかクラシック」をはじめ、音楽を中心とした文化芸術の発展に実績を残している。
こうした動きの中、豊中市は平成27年度、文化庁長官表彰(文化芸術創造都市部門)に選出された。表彰理由の中には同市における「日本センチュリー交響楽団の活動」が挙げられており「多岐にわたる音楽催事は市内に立地する大阪大学、大阪音楽大学・同短期大学部や、日本センチュリー交響楽団との協定に基づく連携協力を物語るもの」とする評価に結びついている。自治体のソフトウェアとして、学校などの教育機関と並んで民間の演奏団体が着目されている点は、現在のオーケストラが果たすべき役割について大きな可能性を示唆するものとなっている。
このたび、豊中市立文化芸術センターのオープンに先駆けて行われる、こけら落とし公演にセンチュリーの出演が決定。指揮に首席指揮者・飯森範親、ソリストには同市出身のヴァイオリニスト、神尾真由子を迎える。それは今後、企画・制作、ホール・マネージメントといった分野においても力量が問われていくオーケストラの、市民に向けた最初の挨拶となるだろう。引き続きその動向に注目していきたい。
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(取材・文/逢坂聖也 ぴあ関西版Web)
(2016年4月19日更新)