ホーム > マンスリー・センチュリー 2016 > 第10回 2月-3月〔February-March〕
【指揮】イジー・シュトルンツ
【ピアノ】ミシェル・ダルベルト
リヒャルト・シュトラウス:ブルレスケ(ピアノと管弦楽のための)ニ短調 TrV 145
ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調
ドヴォルザーク:交響曲 第8番 ト長調 作品88
日本センチュリー交響楽団は3月10日(金)、11日(土)、ザ・シンフォニーホールで行われる第215回定期演奏会に、チェコ出身の指揮者イジー・シュトルンツ、そしてフランスのピアニストで、日本にも多くのファンを持つミシェル・ダルベルトを迎える。イジー・シュトルンツは2014年、第197回定期に登場。スメタナの交響詩「我が祖国」全曲を演奏し、燻し銀の魅力で会場を沸かせている。
前半はミシェル・ダルベルトが登場する2つの作品。最初に演奏されるリヒャルト・シュトラウスの「ブルレスケ」からすでに盛り上がりそうだ。英語の「バーレスク」と同じ意味の“おどけた音楽”を装いながら、万華鏡のように表情を変えるオーケストラとピアノが織り成す音楽はスリルたっぷり。ピアノの高度な技巧とともに、全編にわたって活躍するティンパニの魅力も見逃せない。続いてはラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」。オーケストラの魔術師と呼ばれたラヴェルが重厚な曲想の中に、左手だけの演奏とは思えないピアノの美しさを引き出している。ミシェル・ダルベルトとセンチュリーが作り上げる色彩感に満ちたステージに期待だ。
そしてドヴォルザークの交響曲第8番は、9番「新世界より」と同じく、多くの人々を魅了する作品。1890年に初演されたこの曲は、アメリカ時代(1892-95)に書かれた9番よりもボヘミアへの心情が自然に歌われているといわれ、国民楽派としてのドヴォルザークを語る上で、重要視されることの多い作品である。もちろんイジー・シュトルンツにとっては「我が祖国」と並んでチェコの伝統を受け継ぐ1作。深い共感を込めた指揮で、2016-17シーズン、センチュリー定期の掉尾を飾る演奏を聴かせてくれることだろう。
【指揮】沼尻竜典
【ピアノ】菊池洋子
ロッシーニ:歌劇「どろぼうかささぎ」 序曲
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 作品15
ベートーヴェン:交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
2月11日(土・祝)、vol.9となる日本センチュリー交響楽団のびわ湖定期公演は、盟友・沼尻竜典とのステージ。ロッシーニの歌劇「どろぼうかささぎ」序曲で幕を開ける。「どろぼうかささぎ」とはオペラにおいてヒロインの冤罪の原因となる鳥の名前。現在、びわ湖ホール芸術監督、またリューベック歌劇場音楽総監督ほかを務め、オペラ指揮者としても不動の地位を築きつつある沼尻が冒頭の重厚なドラムロールから、一気に音楽へと引き込んでくれるに違いない。
続くベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番でソリストとして登場するのは、現在、人気・実力ともに日本を代表するひとりとなった菊池洋子。2002年、ザルツブルクで行われた第8回モーツァルト国際コンクールで日本人として初めて優勝し、注目を集めた。ピアノ協奏曲第1番はベートーヴェンがこのジャンルにおいても個性を強く打ち出し始めた時期の作品(第2番の方が完成が先)である。モーツァルトの印象が強い菊池洋子だが、センチュリーとともに聴かせる新鮮なベートーヴェンに注目したい。
メインプログラムはベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。1804年に完成されたこの作品は、第1番、第2番ですでに作曲家としての地歩を固めつつあったベートーヴェンが、持てる才能のすべてを叩きつけてみせた作品。規模の壮大さと多くの独創に溢れ、第1楽章の変ホ長調と「アレグロ・コン・ブリオ(生きいきと、速く)」の指示は「英雄」の代名詞として、その後の音楽に大きな影響を与えている。春の近づく湖水のほとりは、この曲を深く味わうには絶好のロケーションとなることだろう。沼尻竜典と日本センチュリー交響楽団による、新しい季節の予感に満ちた演奏会だ。
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高い実力と可能性を感じさせたザ・フェニックスホール公演
そしてジャズ、ロックにも挑む豊中公演へ!
日本センチュリー交響楽団が、新たに取り組む「センチュリー室内楽シリーズ」。アーティスト・イン・レジデンス、小山実稚恵をピアノに迎えたその第1回演奏会が12月2日、大阪のザ・フェニックスホールで行われた。平日の午後1時半開始ということで、集客が心配されたが、ザ・フェニックスホールは八割以上の観客で埋まった。大きな窓のあるステージ背景から大阪の街並みを通して午後の陽射しが差し込む中、小山、首席客演コンサートマスターの荒井英治、そして首席チェロ奏者、北口大輔によるハイドンのピアノ三重奏曲第25番「ジプシー・トリオ」が始まった。タタタタ、タンの音型が印象的に繰り返される第1楽章から、ピアノの美しさがひときわ映える第2楽章を経て、ジプシー・トリオの由来となった異国風の旋律に満ちた第3楽章まで、表情豊かな演奏が繰り広げられた。
続いて演奏されたのがハイドンの弦楽四重奏第40番「夢」。荒井、北口にコンサートマスター松浦奈々、首席ヴィオラ奏者の丸山奏が加わった演奏だ。細かく刻まれるヴァイオリンの旋律が次第に発展する第1楽章。薄明の中をたどるような第2楽章の響きを1stヴァイオリンの荒井がリードする。第3楽章のメヌエット、速いテンポで駆け抜ける第4楽章。センチュリーならではの“音を聴き合う”実力が生きた音楽の対話だった。松浦が2ndを務めるというのも、センチュリーのファンには新鮮であったかも知れない。
だがこの日の白眉はやはりシューマンのピアノ五重奏曲だっただろう。ステージは再び小山を迎え、冒頭の大輪の花が開くような音型がトゥッティ(全奏)で出る。その響きを遠く近く感じさせながら曲は展開するが、空間に色が差してくるような瑞々しさに会場が陶然となるのが感じられた。北口のチェロ、丸山のヴィオラは音楽にくっきりとした輪郭を与える。最終楽章のコーダ。ピアノに現れた音型が4人の奏者たちの間を次々と巡り、フーガが華やかに高揚して曲は結ばれた。一瞬の静けさの後に訪れる拍手とブラヴォー。アンコールにはショスタコーヴィッチのピアノ五重奏より第3楽章、スケルツォが演奏され、コンサートは終了した。
親密で暖かな音楽を、演奏家と観客がひとときのあいだ共有した贅沢な時間だった。コンサート終盤、挨拶に立った荒井は「高いアンテナを持ってアンサンブルを楽しんでいるセンチュリーのメンバーに、小山さんを加えて室内楽を演奏する。そのアイデアが素晴らしいし、それはきっとオーケストラ全体にも還元されていく。今日は演奏やお客さまの反応を通して音楽が僕たちに教えてくれるものをたっぷりと感じることができました」と語り、この室内楽シリーズへの手応えを言葉に滲ませていた。次回の「センチュリー室内楽シリーズ」は3月28日(火)豊中市立文化芸術センターで開催される。そこでは荒井・松浦・丸山・北口のカルテットが異色のジャズ、ロックにも取り組むという。センチュリーの新しい可能性を切り開く「センチュリー室内楽シリーズ」に期待だ。
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(2016年12月20日更新)