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マーラー:交響曲第9番 ニ長調

指揮:飯森範親

 

 2016 -17シーズン、「発展」の年を迎える日本センチュリー交響楽団。その幕開けとなる第208回定期演奏会にセンチュリーは首席指揮者・飯森範親とともに、マーラー(1860-1911)の交響曲第9番を演奏する。

 交響曲第9番は、マーラー自身によって完成された最後の交響曲である。またマーラーが、その死により、初演を指揮することができなかった唯一の番号付き交響曲でもある。そのため「死」や「告別」といった印象で捉えられることが多く、心臓に不安を抱え、死を意識した作曲家の心情が投影された作品とも言われる。一方で交響曲第7番「夜の歌」以来の純粋器楽(声楽を伴わない)に立ち返り、作曲者がそれまでの集大成を試みた作品とも言われ、マーラーの最高傑作と評価する人も多い。

 この作品が書かれた1909年~10年。マーラーの活動は旺盛を極めている。前年の1908年から眺めるならば、「大地の歌」の作曲、交響曲7番のプラハでの初演。そして空前の成功となった交響曲第8番、いわゆる「千人の交響曲」の初演がこの期間に果たされている。分けてもニューヨーク、メトロポリタン歌劇場での成功と、それに続くニューヨーク・フィルハーモニックへの進出はマーラーにとって新たな野心をかきたてたに違いない。幼い愛娘マリア・アンナの死、妻アルマとの不和など、悲劇的なイメージで語られることの多いマーラーの晩年は、しかし最後まで、強靭な発展と上昇の意志を失っていない。

 交響曲第9番は、マーラーが過去の作品を踏襲しつつ、新たな高みへと到達した音楽である。激しい感情の荒波を描くような第1楽章は、すでに現代の響きを獲得している。そして幾重もの葛藤のあとで訪れる、最後のアダージョ。交響曲第2番「復活」(第195回定期演奏会)、「大地の歌」(第200回定期演奏会)に続く、飯森&センチュリーの最新の成果を楽しみにしたい。

伊福部 昭:SF交響ファンタジー 第3番
伊福部 昭:「ゴジラ」(1954)全曲

※映画『ゴジラ』(1954)デジタルリマスター版の全編上映(97分)に合わせ、全曲生演奏
指揮:和田 薫

 

 1月の発表以来、大きな反響を呼んでいる「ゴジラ音楽祭in京都~伊福部昭没後10年に寄せて~」。待望の関西での開催とあってチケットのセールスも上々の滑り出しをみせている。このコンサートはデジタルリマスターされた鮮明な映像と音声の『ゴジラ』(1954)全編の上映とともに、そこに添えられた音楽を日本センチュリー交響楽団の生演奏で楽しもうというもの。5月2日(月)、ロームシアター京都メインホールでいよいよ開催されるこの「ゴジラ音楽祭in京都」の続報をお届けする。

 クラシック音楽の中に、東洋的な生命力を融合させた作風で日本の音楽史に大きな足跡を残した伊福部昭。映画『ゴジラ』の音楽は、伊福部昭が40歳の時の作品である。その伊福部の愛弟子で、今回、編曲、指揮、プロデュースを行うのが、作曲家の和田薫。和田は全22曲をフル編成用に完全復活し、1曲1曲をその場で映像と合わせるという離れ業に挑む。映画冒頭にわずかに登場する、ギターとハーモニカの音までも再現するという細部へのこだわりは、作品を熟知する和田ならでは。中でも多くの人の感動を呼びそうなのが「平和への祈り」の合唱だ。物語の中で重要な位置を占めるこの音楽が大阪センチュリー合唱団の女声コーラスによって再現される。これはもう、作品そのものに新たな命が吹き込まれたと言っても良いのかも知れない。

 今回のゴジラ音楽祭in京都では、SS席がスペシャルシートとして用意されている(※センチュリー・チケットサービスのみの販売)。ステージ上のオーケストラとその上に配置されるスクリーンを視覚的にも音響的にも、ベストな位置から鑑賞できるポジションだ。さらに今、このSS席を購入のお客さまには、京都清水寺門前に350年の伝統を守る老舗、七味家本舗の七味竹筒を同梱した、この公演の為にオリジナルに製作されたゴジラ足型スタンド(写真右)をプレゼント! 当日、チケットの半券との引き換えになるので、SS席をお求めの方は、お忘れなく。

 トークゲストには、映画監督の大森一樹。『ゴジラv.s.キングギドラ』(91)ほか、数々の“平成ゴジラシリーズ”の監督・脚本を手掛けた大森氏が語るゴジラへの愛と未来は、多くのゴジラファンの胸をときめかせてくれることだろう。「ゴジラ」と伊福部昭の魅力を怒涛の映像と演奏で甦らせる「ゴジラ音楽祭in京都」へ、ぜひ足をお運びください。

チケットの発売日をあらかじめご確認ください

〈第209回定期演奏会〉
●5月13日(金)19:00/14日(土)14:00
ザ・シンフォニーホール Pコード286-005
【指揮】ドミトリー・リス
【ヴァイオリン】セルゲ・ツィンマーマン

〈いずみ定期演奏会 No.31〉
●6月17日(金)19:00
いずみホール Pコード286-013
【指揮】飯森範親
【オーボエ】ハンスイェルク・シェレンベルガー

〈第210回定期演奏会〉
●7月1日(金)19:00/2日(土)14:00
ザ・シンフォニーホール Pコード286-007
【指揮】アラン・ブリバエフ
【ピアノ】アレクサンダー・ロマノフスキー

〈いずみ定期演奏会 No.32〉
●8月12日(金)19:00
いずみホール Pコード286-014
【指揮】飯森範親
【ピアノ】小山実稚恵

〈第211回定期演奏会〉
●9月23日(金)19:00/24日(土)14:00
ザ・シンフォニーホール Pコード286-008
【指揮】マックス・ポンマー
【ヴァイオリン】オーガスティン・ハーデリッヒ

〈第212回定期演奏会〉
●10月28日(金)19:00/29日(土)14:00
ザ・シンフォニーホール Pコード286-009
【指揮】アラン・ブリバエフ
【ピアノ】エフゲニー・スドビン
【メゾソプラノ】小山由美
【合唱】大阪センチュリー合唱団

〈第213回定期演奏会〉
●11月25日(金)19:00/26日(土)14:00
ザ・シンフォニーホール Pコード286-010
【指揮】飯森範親
【ピアノ】ファジル・サイ

〈いずみ定期演奏会 No.33〉
●12月9日(金)19:00
いずみホール Pコード286-016
【指揮】飯森範親
【チェロ】ヨハネス・モーザー

〈第214回定期演奏会〉
●2017年1月13日(金)19:00/1月14日(土)14:00
ザ・シンフォニーホール Pコード286-011
【指揮】飯森範親
【チェロ】クレメンス・ハーゲン

〈びわ湖定期公演 vol.9〉
●2017年2月11日(土・祝)17:00
滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール大ホール
Pコード286-019
【指揮】沼尻竜典
【ピアノ】菊池洋子

〈いずみ定期演奏会 No.34〉
●2017年3月3日(金)19:00
いずみホール Pコード286-017
【指揮】飯森範親
【ヴァイオリン】漆原朝子

〈第215回定期演奏会〉
●2017年3月10日(金)19:00/3月11日(土)14:00
ザ・シンフォニーホール Pコード286-012
【指揮】イジー・シュトルンツ
【ピアノ】ミシェル・ダルベルト

 

大地の歌

■マーラー:大地の歌

指揮:飯森 範親
テノール:福井 敬
バリトン:与那城 敬
2015年4月10日、11日
ザ・シンフォニーホール にてライヴ録音。

¥3,240
2015/EXTON/OVCL-00584
レコード芸術 2月号 特選盤受賞

 

 

 日本センチュリー交響楽団と吉本興業による注目のコラボレーション「オーケストラ新喜劇」が3月15日、なんばグランド花月(NGK)で行われた。オーケストラと吉本新喜劇の共演という想像もつかないステージだけに、一抹の不安がなかったわけではない。だがこれが予想以上の面白さ。新しい笑いのスタイルを提示した、可能性に溢れたステージとなった。

 第1部は、センチュリーによる演奏と楽器紹介。グイグイ大脇と宇都宮まきの司会で『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク』など、おなじみの名曲が演奏される。センチュリーはNGKの空間に合わせた、6型のアンサンブルだが、この段階ですでに不思議なほど違和感はない。満場の笑いに包まれて楽団員もリラックスしている。さすがNGK、観客の度量の深さも半端ではない。

 だがオーケストラ新喜劇の真骨頂が炸裂したのは、やはり第2部である。センチュリーによる「ほんわかぱっぱ」の生演奏に乗せて幕が上がると、そこはオーケストラの練習場。20年前、ある誤解からオーケストラを追われた指揮者と、娘の再会の物語が始まる。川畑泰史、池乃めだか、島田一の介、西川忠志、島田珠代ら、新喜劇の面々が織り成すストーリーは、怒涛のごとく繰り出されるギャグもアドリブも、いつもの吉本新喜劇に他ならない。だが、そこにセンチュリーの音楽が加わる時、笑いの質は明らかに増幅するのだ。これは、オーケストラも意外と芸達者、などというレベルの話ではない。その新鮮さに触発されて、新喜劇の側も最大の笑いを創り出そうとする。客席が爆笑に包まれている間、舞台の上にあったのは、笑いの職人たちと音楽の職人たちによる丁々発止のやりとりであったはずだ。

 日本センチュリー交響楽団が演じているのは、父娘の再会の場所となる「日本センチュリー交響楽団」というオーケストラである。この虚構を活かし切り、センチュリーの存在感を際立たせたのは、座長・川畑泰史の台本によるものではなかったかと思う。終演後の会見で川畑は「とにかくすべての音を、笑いにつなげようとした。難しかったのは楽団員の人が、今、役者として弾いているのか、音響さんとして弾いているのかを、お客さんにもわかってもらえるようにやることだった」と語った。「オーケストラ新喜劇」というコンセプトを明確に捉えた言葉である。次回への期待を感じさせた。

(取材・文/逢坂聖也 ぴあ関西版Web)


(2016年3月18日更新)