ホーム > マンスリー・センチュリー > 第4回「7月 July」

ベートーヴェン:バレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲 作品43
ブルッフ:コル・ニドライ 作品47
チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲 作品33
シベリウス:交響曲 第2番 ニ長調 作品43

ジョセフ・ウォルフ
ジョセフ・ウォルフ(指揮)

ミハル・カニュカ
ミハル・カニュカ(チェロ)

 いずみホールで行われる日本センチュリー交響楽団の「四季コンサート2015夏」。今回はセンチュリー四度目の登場となる、ジョセフ・ウォルフを指揮に迎え、ベートーヴェンのバレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲で幕を開ける。冒頭から打ち鳴らされるベートーヴェン独特の和音。聴く者をたちまちのうちに、充実した音楽の世界に引き込んで行く作品である。

 続いて演奏されるのがユダヤ教の古い聖歌を題材に、19世紀の作曲家マックス・ブルッフが書き上げた、チェロと管弦楽の協奏的作品「コル・ニドライ」。深く物思いに沈むような旋律に始まり、祈りと静かな希望を湛えるような響きで終わる。同じ作曲家のヴァイオリン協奏曲第1番などと比べると演奏頻度は少ないが、これもまた名品、この機会にぜひ実演に触れておきたい作品だ。そして、チャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」は序奏と主題、7つの変奏が比較的自由に扱われた作品。チェロとオーケストラが互いに戯れ合うかのようなチャーミングな表情は、チャイコフスキーならではの美しさだ。この2曲で独奏チェロとして登場するのが、1960年生まれの名手ミハル・カニュカ。現在チェコを代表する弦楽四重奏団プラジャーク・クァルテットのメンバーでもある。端正に縁どられた明晰なチェロの響きが、これらの作品に新鮮な息吹を注ぎ込むことだろう。

 これまでの共演でも多彩なレパートリーを披露して来たウォルフだが、今回、彼がメインプログラムに選んだのは、今年生誕150年を迎えたシベリウスの、交響曲第2番。シベリウスの交響曲中、もっともロマン派的なエネルギーに溢れ、多くのイギリスの指揮者による名演を生んだ作品でもある。センチュリーも過去、折に触れて手掛けて来た作品だけに、名匠サー・コリン・ディヴィスを父に持つウォルフが、彼らからどのような音のドラマを引き出すのか注目。4度目もまた、名演誕生の予感がする。

シベリウス:交響詩 「フィンランディア」作品26
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品35

千住真理子
千住真理子
Kiyotaka Saito (SCOPE)

 ザ・シンフォニーホールの夏の人気公演、千住真理子コンサート。今年、デビュー40周年を迎える彼女の「千住真理子ドラマティック・コンチェルト!」に日本センチュリー交響楽団が出演する。

 プログラム前半を飾るのは、生誕150年を迎えたフィンランド音楽の父、ジャン・シベリウスの交響詩「フィンランディア」とヴァイオリン協奏曲ニ短調。シベリウスの協奏曲は1998年、千住がザ・シンフォニーホールに初登場した際にヘルシンキ・フィルと共演した、深い思いのこもった作品であるという。センチュリーによる「フィンランディア」の輝かしい響き。北国の晴朗な大気を思わせるヴァイオリン協奏曲。千住の愛器、ストラトヴァリウス「デュランティ」の鮮やかな響きとセンチュリーの管弦楽が、心地よい高揚を感じさせてくれるはずだ。

 そして後半に演奏されるのが、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調。シベリウスが澄み渡る大気ならば、こちらは奔放華麗に咲き乱れる花々のような作品だ。第1楽章の華やぎ、第2楽章の憂愁、そして切れ目なく演奏される第3楽章の情熱まで、千住真理子のヴァイオリンはオーケストラと対話を交わしながら、色鮮やかな響きを紡いでゆく。 指揮は、作品の魅力を際立たせる手腕に定評のある十束尚宏。ソリストとオーケストラが時に融け合い、時に火花を散らす。そんなコンチェルトの魅力を存分に堪能させてくれるだろう。

 


ひとつの音楽を覚えることからスタート。



絵のイメージをチームごとにディスカッション。



プロとビギナーが共同で音楽を作り上げる。



発表-「大きな建物の時は立って演奏!?」。



全体をナビゲートする野村誠さん。

 日本センチュリー交響楽団と大阪市にある若者たちの就労支援施設・ハローライフ(NPO法人スマイルスタイル企画運営)による就活プログラム「The Work」。その2015年の活動が始まっています。「The Work」はまだ就職していない大学卒業者や就職活動中の大学4回生らに、センチュリーがプロデュースする音楽創作プログラム(7回)と、ハローライフがプロデュースする就活プログラム(5回)を通して、社会人としての基礎力を身につけてもらおうという試みです。6月8日午後6時半。服部緑地にあるセンチュリーオーケストラハウスに、12名の若者たちが集まりました。この日は3回目の「The Work」。彼らはこれまでほとんど、オーケストラの楽器に触れたことはありません。

 音楽創作プログラムをナビゲートする作曲家であり、コミュニティプログラムディレクターの野村誠さんが見守る中、楽団員9名と若者たちが取り組んだのは、ホワイトボードに貼られた3枚の絵から音楽を創り上げること。ヴァイオリンの小笠原さんのリードで最初に変わったリズムの音楽を覚えたあと、3組のチームに分かれ、絵から受ける印象を音楽にしていく作業に。チームは各部屋に分かれ、ディスカッションを重ねて行きます。やがて完成した音楽がチームごとに発表されました。

 プロとビギナーが創り上げる響きは、でこぼこしてとてもユニークなもの。けれどそれは決して他の場所では聴くことの出来ない、今、生まれたばかりの熱い響きに満ちています。「これは着ぐるみの卵が割れる音」「手前の人が見ているのは過去の自分」「大きな建物の時は立ち上がって演奏」など、演奏に込められた各チームのメッセージが語られます。最初に覚えた音楽によって、3つの音楽がつなげられ、全員で演奏した時には、大きな達成感が見ている者にも感じられました。最後にこの絵がムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」の元になったハルトマンという画家のもの(卵の殻をつけた雛の踊り/カタコンベ/キエフの大門)であることが楽団員から明らかにされて、ひとつのプログラムが終了しました。

 このあと、休憩を挟んで、野村誠さんの指揮で、昨年の「The Work」の参加メンバーたちが作曲した「ハローライフ協奏曲」を演奏したのですが、それはまた別の機会に。実はここまでに、とても新鮮な気付きがあったのです。

 「絵」を音楽にしていくプログラムはセンチュリーの楽団員たちが考えたものでした。つまりここでの演奏は彼らにとっても、ひとつの達成だったのです。普段、オーケストラの達成とはステージの上で行われるもの。ところがこの日は、彼らが支援する若者たちから、彼ら自身もまた様々な発見を得たのです。ステージも客席もない、親密で対等な関係。それを体験した充実感が楽団員の表情に溢れていました。

 「音楽家だからできることがある、ということにセンチュリーの人たちも楽しさを感じているんだと思います。こうした活動って決して相手だけに向けたものにはならないから、自分たちの音楽を深めることにもなるし。これを続けていってセンチュリーがさらに開かれたオーケストラになって行けばいいですね」。コミュニティプログラムディレクターの野村さんがそう語ります。その「開かれたオーケストラ」という言葉が心に残った「The Work」でした。

 日本センチュリー交響楽団では「The Work」を多くの方に応援していただきたく、近年新しい資金調達の方法として注目されている「クラウドファンディング」に挑戦しています。ご支援いただいた資金はこのプログラムの素晴らしさを沢山の方にご覧いただくための、アーカイブ映像の作成や、専門家の方による事業効果測定などに充てていきます。より多くの方から、ご支援いただけますよう、ぜひ、関連サイトも併せてご覧ください。

【クラウドファンディング「READYFOR」】https://readyfor.jp/projects/the_work-jcso
【The Work Facebook Page】https://www.facebook.com/thework.music?fref=ts
【ハローライフ】http://hellolife.jp/the-work2015