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プロフィール

石丸奈菜美
1988年9月21日生まれ。神奈川県出身。
幼少時より映画、CM、バラエティなどで活躍。近年の出演には舞台STRAYDOG番外公演『ズーキーパーズ』、土田英生セレクション『算段兄弟』、映画『止められるか、俺たちを』、『リアル鬼ごっこ』、『新宿スワン』、TV『Dr.倫太郎』、『ラギット』など。『怠惰なマネキン』、『隣の芝生も。』を経て、2018年MONOに参加。

第8回「ROOKIE’S ④」石丸奈菜美

MONOの30年の道のりをメンバーや関係者の話から紐解く連載の第8回。
2018年に新しくメンバーに加わった
4名の皆さんのインタビューを連続してお届けしていますが
ラストを飾るのは幼少期から様々な分野で活躍する石丸奈菜美さんです。

 

――これはメンバーのみなさんにお聞きしていく質問です。石丸さんが演劇というキーワードに出会ったのはいつ頃ですか?

初舞台は高校2年生の時だったんですけど、4歳の頃から子役の事務所に所属していました。私は生まれてすぐの頃から、父の仕事の関係で4歳までアメリカに住んでいたんです。人種の坩堝の中で、目立つことが“是”みたいな世界の中で育ったので、日本に帰ってきたらそれが性格として発揮されるようになっていました。幼稚園の発表会などでもマイクを持って離さなかったみたいです(笑)。幼稚園では、老人ホームや障害者の施設に行って、司会をやったり、歌ったり踊ったり、出し物をしたりしていました。演劇というキーワードの話でしたね(笑)。事務所に所属したきっかけは、アメリカでは父が車の会社に勤めていたのでデトロイトに住んでいて。人種差別とかもあって、少し辛いこともあっただろうから、帰国してから両親がやりたいことをやらせようと「なにか習いたいことある?」って聞かれたことがきっかけでした。バレエとかピアノっていう意味だったと思うんですけど、そう言われて、私「テレビに出たい」って言ったらしいんです(笑)。ただただ目立ちたいだけだったんでしょうね。というのが始まりです。

――具体的に演劇に対して意識的になったのはいつ頃ですか?

そうですね。演劇、というといつなんだろう…。ただ初舞台をやった時にずっとやっていきたいなとは思いました。舞台ってやって終わりじゃないですか。テレビみたいに後から放映されることもほとんどないし。1ヵ月とか稽古して作っていってもその時で終わる。その感覚が合っていたのかもしれません。

――初舞台はどんな内容だったんでしょうか。

『友情~秋桜のバラード~』というタイトルで、ロングランで今もやっている舞台です。アメリカで実際にあった出来事を題材にしていて、大まかに言うと白血病の主人公を励ますためにクラス全員が坊主になって…、という芝居でした。私が15、16歳の頃です。事務所からオーディションがあるけど受けないかと言われて、それが出演につながりました。ただ思春期の頃は学校とかの人間関係では“目立つ”ことって良しとしない、そういう“出る杭は打つ”ような雰囲気があるじゃないですか。だからこの頃から、引っ込み思案とまではいかないですけど、あんまり自分の言葉でいろいろと喋ったり、リーダーシップをとったりするのが苦手にはなっていってましたね。ある時「人にムカッとしたことがあっても結構言えないよね」っていうのを土田さんからは言われたことがあって「よく分かるなー」って思いましたね(笑)。

――その頃はすでにテレビなどのメディアの仕事に携わっていらっしゃったと思いますが、MONOとの最初の出会いについてお聞かせください。

『のぞき穴、哀愁』(2014年)でMONOを知りました。客演をされていた森谷ふみ(ニッポンの河川)さんにご案内をいただいて観に行ったら、すごく面白くて。今まで自分が観ていた芝居とは全然違うなと。その後すぐに、一緒に観に行った人たちに「ちょっと飲みに行きましょう!いろいろ喋りたい!」って言って、その衝撃を喋ったのを覚えています。

――自分がやってきたもの、感じてきたものと何が違いましたか?

最初は笑って観ているんですけど、いつのまにか自分の内側にあるものと物語が照らし合わされていく。その上、それらがいきなり「ああそうだよね」って結論を言うんじゃなくてグラデーションのように描かれていって、役者の皆さんの演技もグラデーションで変わっていく。「すごい!って」思いました。グラデーションの中にあるものに、自分の中にある何かが引っかかったり、さらにそれが世の中的なものと重なっていく…。「ああこれって、今だな」という感じがほかの芝居とは全然違うなと思いました。

――そんなMONOの舞台に実際に出演されて、土田さんの演出を受けられていかがでしたか。

土田さんに芝居を教えていただきたくて、まず私はワークショップを受けに行ったんですね。その時の印象はギラギラしてるな、色の入った眼鏡をされていて業界の人っぽい(笑)って。人に対してよく喋ってくれる感じもそう思わせたのかもしれません(笑)。だからちょっと怖いって思ったりしました。ワークショップでは土田さんに「台本に対する誠実さが足りない」って言われました。「まずやるべきことは、“てにをは”を完璧に読むことだから」って。当たり前のことなんですけど、当時は、なんとなくで喋ってしまっていたんですよ。あと土田さんが書かれるものって、役者を見て書いていらっしゃって、そこから戯曲が立ち上がってくる。特に歪(編注:土田英生による俳優育成講座の受講生だった女優3人、阿久澤菜々、石丸奈菜美、高橋明日香によるユニット)でやっていた時は、私達に「これはどう?」って聞いた上で、そこから出てくるものが戯曲になっていったので、結構その当時の自分にはキツかったですね。最初にお話したように目立ちたがり屋から引っ込み思案への変遷を経てきてますから。「本当に内面にあるものを役者として吐露するのは難しいことなんだな」って思いました。

――そんな土田さんが作り上げるMONOの世界観の中で自分が果たす役割はなんだと思いますか。

主役がいないお芝居じゃないですかMONOの芝居は。全員が主役であって主役でない。でも出てくる登場人物には土田さんが当て書きするので“人間性”というものがすごく表れる。そこで「全員の気持ちが分かるな」「日常生活ってそうだよな」って思う物語に人は心を動かされる。そんなMONOの世界観に触れることによって、自分の掘り下げられた内面を知ったという感じがしています。自分のことを自分であまり知らなかったんだと…。だからその中で私は自分の嫌な部分を理解して、でもだからと言って気負わず、まずは“粛々と生きていく”ことが大事かなって思っています。メンタルを鍛えながら、しっかり地に足をつけて、その“粛々”という感じを伝えることが出きたらなって思います。

――最後の質問です。これも皆さんにお聞きしていますが、なれるとしたらメンバー中の誰になってみたいですか?

金替さんが思い浮かびました。勝手に、金替さんの芝居の真似をしながら台本を読んでみたんですが、「ああ無理」って。あのトーンだったりとか、立っているだけで人間性を感じるあの佇まいはすごい。そのすごさの秘密を聞こうと思って金替さんに質問すると、独特な言語というか、抽象的で、私の経験じゃ分からないときがあって(笑)。もし金替さんになれたなら、どういう風に考えてどういう風にそれをセリフにしているのか、頭の中が分かるんじゃないかって思うんですよ。だから金替さんになってみたいですね。



取材・文/安藤善隆
撮影/福家信哉
構成/黒石悦子