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公演情報

MONO『悪いのは私じゃない』

発売中 Pコード=510-464
▼3月23日(水)~27日(日)
(水)(木)19:00
(金)14:00/19:00
(土)(日)14:00
ABCホール
一般-4000円(指定)
U-25-2000円(指定、25歳以下、要身分証明書)
ペアチケット-7200円
【作・演出】土田英生
【出演】水沼健/奥村泰彦/尾方宣久/金替康博/土田英生/石丸奈菜美/高橋明日香/立川茜/渡辺啓太
※未就学児童は入場不可。
※ペアチケットは公演当日会場にて座席指定券と引き換え。

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第34回 『新たなる展開』土田英生

MONOの30年の道のりをメンバーや関係者の話から紐解く連載の第34回。
今回は2017年~2019年。新メンバーを迎える経緯と新たな展開について土田さんに語っていただきました。

 

――今回は2017年の特別企画vol.6『怠惰なマネキン』(2017年11月17日~21日 新宿眼科画廊 スペースO)からお願いします。この公演は今後作品を一緒に作りたい若手の俳優の方々と作られました。マネキン人形であふれる部屋を借りた人々が〈大きなこと〉をやろうとしているが物事は進まない。それは互いの意見を否定するだけで誰も動こうとしないから。他人と共存することの苦しさを表出させた作品でした。

若手の俳優と創ったのには理由があります。メンバー全員の総意ではなかったんですが、僕個人は劇団の今後について思いを巡らせていました。「あと5年は男5人でMONOを続けられるな」と思っていたんです。でも10年後がイメージできなかった。そのままでも「一定のお客さんは付き合ってくれるだろうな」とは考えていましたが、“同窓会”的なものになるのは違う…。5人だけで続けるのはそんなに長くは持たない。関係の問題ではなく興行的にです。「ほぼ同い年の5人で一緒に年齢を重ねていく」というのは、生き方としてなんとなくロマンがあるような気もするのですが、芝居自体のクオリティを考えた時「それでいいのか」と。確かに5人で集まった時に、ちょっと誇らしい気持ちになったりすることはあるんです。でもその“気持ち良さ”を捨てないと新しいものは創っていけないと思いました。作品を創作する時にノスタルジーでは作れないですから。

そんなこともあって、劇団で定期的に公演をやっていくには、このままでは無理だと考え、俳優講座などを開きながら若い方々との出会いを求めました。そのことを僕以外の4人には「どう話そうかな」と思い悩んでいました。

結局、何年か考えて「MONOに若いメンバーを入れよう」と僕は決めたんですがそこにも迷いはありました。僕らは劇団の立ち上げを一緒にしてきて、それなりに苦労もしてきているわけです。若い頃はみんなでお金を出し合ってやってきて。今から入るメンバーはそこまでの苦労をすることはないですよね。その経験の差が上下関係につながる危険性もありました。先輩が「俺たちは苦労したんだぞ」と言ってしまう集団にしたくないですし。ですから若い子たちに「一回、自分たちだけで公演を作ってくれないか」とお願いして実現した公演です。

――彼らだけですべてを組み立ててということですね。

そうです。小屋を借りに行くことから、チラシ制作、お金も自分たちでとりあえず最初出して。その代わり作品は僕が書くし、演出もやるからってことで『怠惰なマネキン』はでき上がりました。

――今までやってきた「特別企画」の中で、一番特別企画らしい公演ですね。

そうなんです。それで「これでみんなが OK だったら次の本公演に今回の若手は全員出てもらうつもりなので、みんな観に来てください」と水沼・金替・奥村・尾方の4人に声をかけました。金替くんはスケジュールが合わなくて無理だったんですけど、ほかの3人は来てくれました。

――反応はどうでしたか。

人選に関しては何にもありませんでしたが、新しいメンバーを「入れるべきだ」「その必要はない」「どちらでもいい」と、まさにバラバラでした。今までの5人と新たな4人の間に、“大きな川”があるような感じがしました。年齢差もありますしね。最後は、僕がゴリ押ししてしまった感じではあります。だから「新しいメンバーを入れて、元の5人の人間関係が壊れる可能性はあるな」という不安は僕の中にも正直ありました。みんなも「どうなんやろな、いいのかな」というような戸惑いの中で受け入れてくれた感じです。

――そんな中、2018年は『隣の芝生も。』が本公演として上演されました。古い雑居ビルに隣合わせに入居しているふたつの会社のそれぞれの“事情”。いつしか無関係に思われた双方の“事情”が交差していく物語でした。

作品内容については…「さらっと」いきましょう(笑)。いろいろと思惑が入りすぎて、僕の中ではうまく着地しなかった気がしています。『怠惰なマネキン』に出演したメンバーに出てもらうことになって。彼らと元からのメンバーの両方にいい感触を持ってもらいたくて、ひとつの会社はヤクザ事務所みたいな設定で私を含めて5人。もうひとつの会社を若いメンバーに分けるという設定にしました。そのふたつのグループが次第に混ざっていく様を描いたんですよ。いきなりバンと混ぜちゃうのではなく。劇団の人間関係ばかりを考えすぎて、そのことが内容に影響しすぎました。稽古中も私は勝手に“中間管理職”的な立場になってうろたえたり(笑)。

第45回公演『隣の芝生も。』 撮影:谷古宇正彦 2018年3月10日・11日 愛知・愛知県芸術劇場 小ホール、3月15日~21日 東京・座・高円寺1、3月23日~27日 大阪・ABCホール、4月1日 三重・四日市地域総合会館 あさけプラザ、4月7日・8日 福岡・北九州芸術劇場 小劇場

 

この後に続く作品も、新作を書くたびに劇団の事情を踏まえた、つまり“どう一つの劇団にしていくか”という思いが内容に色濃く反映されていると思います。『隣の芝生も。』の時は、最初は完全に別れていたグループが混ざっていく。次の『はなにら』では家族になっていく話。『その鉄塔に男たちはいるという+』は再演なので別ですけど、『アユタヤ』では最初から完全に9人の作品になっています。こうして見てみるとちょっとずつ、馴染ましていく作戦ですね(笑)。お客さんに対してもそうでした。長く観てくださっているお客さんの中には、新しい劇団員を入れたことに戸惑われている方もいらしたので。

――どんな反応があったのでしょうか?

アンケートなんかで「嫌だった」「5人が観たいのに」と書いている方もいらっしゃいました。MONOはアンサンブルを持ち味にしてきましたから、私たち5人の関係性を含めて応援してくださっていたお客さんも結構いらしたと思うんです。そんなこともあって最初の『隣の芝生も。』では5人だけのシーンを意識的に最初にもってきました。で、次の『はなにら』では途中の15分、『アユタヤ』は見返すと5人のシーンは一瞬だけですね。もう意識はありません。お客さんも9人のアンサンブルと書いてくださったりしてますし。

――次は2019年の『はなにら』です。20年前に起きた天変地異で親や子どもを失った人たち=他人であった人々が寄り添うように擬似家族を作り、そこで繰り広げられる物語。「一緒にいるとはどういうことか」「別れとは何か」が描かれました。また2019年は劇団結成30年。プレスリリースでは「劇団は30周年を機に、新しいメンバーが増えました。これまで一緒にやってきたこと、これから一緒にやっていくこと。この物語は、そうした自分たちの姿と共振し合っている気がします」と綴られました。

僕は今まで一緒にやってきた4人に対して、どうしても“家族”のように思えてしまう。その是非はあるんでしょうけど、その想いがMONOに向かう力になっていたのは事実だと思います。この公演から新たに加わる4人に対しても、やっぱり同じように感じてしまって。それで、それぞれのみんなの思いが重なればいいなと思って、“家族もの”にしました。設定を“疑似家族”にして、バラバラな家族が、一瞬、ひとつになるという話を書こうと。結果的に「これからの劇団はこの9人でやっていきますと宣言するような作品」になってしまいました(笑)。思いのほか、書いていて“体重が乗った”というか、楽しかった。評判も良かったですし、今も好きな作品です。

第46回公演『はなにら』 撮影:谷古宇正彦 2017年3月3日〜7日 ABCホール、3月11日・12日 北九州芸術劇場小劇場、3月18日・19日 四日市市文化会館第1ホール舞台上特設ステージ、3月24〜29日 東京芸術劇場シアターウエスト

 

――役者の人たちはいかがでした?

この公演を通して、今までのメンバーも「こうやって新しくやっていくのかな」と思ってくれた気もします。例えば金替くんと立川さんは擬似親子でありながら、そこにちょっと微妙な恋愛関係がある。それは今まで劇団では書けなかったことですから。今までのメンバーと新たなメンバーの年齢差が生み出す関係性。そんなところにも手応えがありました。

 

取材・文/安藤善隆
構成/黒石悦子