ホーム > MONO 30周年特別企画『30Years & Beyond』 > 第26回『20年を経て』土田英生

 
 

プロフィール

土田英生
MONO代表・劇作家・演出家・俳優
1967年愛知県大府市まれ。1989年に「B級プラクティス」(現MONO)結成。1990年以降、全作品の作・演出を担当。1999年『その鉄塔に男たちはいるという』で第6回OMS戯曲賞大賞受賞。2001年『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で第56回芸術祭賞優秀賞を受賞。劇作と平行してテレビドラマ・映画脚本の執筆も多数。2017年には小説『プログラム』を上梓。2020年7月、初監督作品『それぞれ、たまゆら』が公開。ドラマ『半沢直樹』、舞台「感謝の恩返しスペシャル企画 朗読劇『半沢直樹』」出演。

STAGE

MONO『アユタヤ』
一般発売日:1月9日(土)
Pコード:504-342
●2021年2月17日(水)~21日(日)
(水)(木)(金)19:00 (土)14:00/19:00 (日)14:00
ABCホール
一般-4000円(指定)
U-25-2000円(指定、25歳以下、要身分証明書)
ペアチケット-7200円(2名分、座席指定引換券)
【脚本・演出】土田英生
【出演】水沼健/奥村泰彦/尾方宣久/金替康博/土田英生/石丸奈菜美/他
※未就学児は入場不可。
※大阪公演のペアチケットは公演当日会場にて座席指定券と引き換え。

チケット情報はこちら

第27回『視点』土田英生

MONOの30年の道のりをメンバーや関係者の話から紐解く連載の第27回。
今回はオーディションを通しての「演出家の視点」
そして作品を書く際の「劇作家の視点」を中心に語っていただきました。

 

――前回は特別企画の第5弾、横山拓也さんとの共作『空と私のあいだ』(2011年)のお話を伺いました。ちなみにこの作品には2018年に新たにメンバーに加わった高橋明日香さんが出演されています。

そうですね。前回もお話したように、この作品の出演者はオーディションで選ばせてもらいました。応募者は結構多かったので(編注:約100名から13名を選出)、4回に分けて実施しました。ワークショップ形式で行ったんですけど、彼女はずっと大声で笑っていたんです。この人、他のオーディションなら落ちるなと思いました(笑)。普通は少しでも自分をよく見せようと行儀良くしますよね。だから「誤解されて損するだろうな」という印象でした。案の定、他の劇団のオーディションは落ちたと、後で聞きました(笑)。でも「素直な人だな」と思ったのと本当に芝居が好きなことは伝わってきましたので、私は好感を持ちました。人間力も感じましたし。

――オーディションでは演出家、劇作家の人はどういう部分を見ているんでしょうか。

人それぞれだと思いますが、僕が見ているのは“自意識”ですね。自意識過剰な人は苦手なんです。自分を大きく見せようとする人は一緒に芝居を創っていく時に面倒くさい。だからセリフを読んでもらっている間よりも、その前後や、その場での居方、私が話しかけた時の受け答えばかり見ています。自分の順番になって出てくるときとか、読み終わって戻っていくときの雰囲気で分かるんですよね。「本当はもっとうまくやれるんですけど」というような顔つきだったり、必要以上に眉間にシワを寄せていたり。言葉ではうまく説明できませんけど、演技とは違うところばっかり見ています。

――では、「この人、いいな」と思うのはどんな人でしょうか?

もちろん、芝居が飛び抜けて上手な人もいますし、それはそれでいいなと思うんですけど、技術などにはあまり興味がなくて。僕にとって役者のモデルは最初から一緒にいる水沼くんなんですよ。大学のとき、目立った俳優ではなかった水沼くんが、どんどん魅力的になっていく過程を横で見てきましたからね。あと大学時代は違う劇団でしたけど、金替くんも、そんなに上手ではなかった(笑)。彼が良くなったのも松田正隆さんの時空劇場に参加してからです。人として魅力があれば成長しますから。それを見たい。話を「空と私の…」の時に戻すと、そういう意味で、高橋さんには確実に魅力を感じました。あとは相性も要素としてありますね。自分と一緒に芝居をした時に力を発揮しそうだと思う人に興味惹かれます。合う芝居、合わない芝居がありますし。私とやった時にいい面が出るのが一番幸せなことだと思うんです。だからオーディションは、そういう人を探す機会だと思っています。相乗効果の高い人というか、いい感じで“両思い”になれる人を探しますね。自分がステージの真ん中でスポットライトを浴びたいとばかり願う役者さんは、僕とはあんまり合わないかもしれませんね。チームワークで舞台を作ることに快感を覚える人じゃないと難しい。ひとりに強い明かりが当たるんじゃなくて、5人いたら5人に明かりが当たっていて、それがほどよい芝居につながる。だからオーディションをした時に「上手だけどMONOじゃないな」っていう人もいますね。

――翌年2012年は多くの公演があった年でした。第39回本公演『少しはみ出て殴られた』から始まって、4月は演劇集団 円に『胸の谷間に蟻』、5月には酒井美紀さん、内田滋さん、千葉雅子さんらが出演した土田英生セレクションのvol.2『燕のいる駅』、11月には男肉du Soleilの団員・高阪勝之さんが座長を務める「kitt」の第1回公演『梢をタコと読むなよ』の作・演出をされています。まずは『少しはみ出て殴られた』からお願いします。見えない<線>を巡る寓話を展開されました。例えばこのような寓話を書かれる時には、どのように書き進めていかれるのでしょうか。

書く方法に関してはうまく順序立てて説明できなかったりするんですけど、まず普段から気になっていることがモチーフや設定になって、考えていると要素が“集まってくる”という感じです。例えばこの作品では、まず中国で劇作家のセミナーが開かれたときのことがきっかけになりました。ちょうど、尖閣諸島を巡って日中関係が悪くなっている時期で、滞在中は居心地の悪いこともありました。けど、どんどん関係も深まり、最終日には中国の劇作家協会の幹部の人たちと夜中まで話して、最後は抱き合って泣きました。なので集団に人がアイデンティファイする話にはしようと思ったんです。もう一つ、僕は元々、人が威張る行為が常に気になるんですね。例えば「この人は年齢が上なだけで、なんでこんなに威張ってるんだろう?」とか、「集合時間に早く来た人の方がなんとなく優越感を持つのなぜだろう」とか。人と人の間のどこに境界線があるのか? それを考え出した時、小学生の時に友達と「お前ここから出るなよ」と机の上に仕切りを作ったりした記憶とも繋がって。こうした要素が集まってきた結果、「国境線上に家が建っていたら」という設定になりました。それからは人物を造形し、その間に生まれるドラマを生かしていくという感じですかね。とにかくある程度の要素が集まって来た時、「あ、いける」と感じるみたいです。

第39回本公演『少しはみ出て殴られた』(2012年2月17日〜26日 吉祥寺シアター、2月29日 名古屋・テレピアホール、3月3日・4日 北九州芸術劇場 小劇場、3月8日〜12日 ABCホール)

 

――それは意識をすればできることなんでしょうか。

世界はそれぞれの思想、考え方によって見え方が違う。「なんで人は威張るんだろう」という疑問を持ちながら過ごしていると、電車の中で説教をしている上司が「嫌なものとして」目に入ってきたりします。逆に威張りたいと思っている人には「羨ましいもの」として映るかも知れませんよね。えらそうには言えませんけど、自分の中に問題意識があれば何かが見えるはずだし、そのクリアに見えた世界を“普通”に書いているだけなんだと思います。この作品ではその結果が「人は線が引かれると、アイデンティティに目覚めてしまう」という物語になっただけで、最初から具体的なテーマを設定して書いているわけではないんです。作品とテーマの関係ってそういうもんじゃないかと思っています。

――書く順番の問題ですね。

そう、テーマから書くっていうのもいいんですけど、まずは、自分の考えを持っているかどうかが大事なんじゃないか。吉野弘さんという詩人が『詩とプロパガンダ』というエッセイの中でそんなことを書いていますけど、その通りだと思いました。

――人に何かを伝えようとしている人たちには重要な視点ですね。

書ける時と書けない時があるっていうのは、やっぱり熱量の差だと思います。熱量が高ければ“渦の中に集まってくる要素”が圧倒的に多くなる。「今回だめでした」って僕が言うときは、その熱量が低いんです。モチベーションの問題ですよね。熱量が高かった時はいくら評判悪くても自分では納得しています。逆に評判がよくても熱量が低い作品は、いろんなものが集まって、くっついて書いたという感覚がないときなんですね。

――このインタビューの中で「手応えがあった」と仰っているのは、その熱量が高い時の作品だと言うことですね。

そうなんです。30年も書いていれば「形」にはできるんです。でも、自分熱量が高くなって、多くの要素が集まり、そして光が見えてくる…。そんな風に向かえた時はやっぱり「書けたな」って思いますね。

取材・文/安藤善隆
構成/黒石悦子