ホーム > LOSTAGE 五味岳久の奈良からの手紙~LOVE LETTER form NARA~ > 第16回 能楽師 宇髙竜成さん



 

Profile

宇髙竜成●うだかたつしげ(写真右)
1981年生まれ。能楽師シテ方金剛流。二十六世金剛流宗家・金剛永謹、及び父・宇高通成に師事。初舞台は3歳。子方時代を経て、プロの能楽師となる。舞台活動の傍ら初心者にもわかりやすく楽しめる「能楽ワークショップ」を企画し、パリ、韓国、アメリカなど海外でもワークショップを行う。現在、京都を中心に活動中。

宇髙竜成オフィシャルウェブサイト
http://www.tatsushige3.com/


五味岳久(写真左)
ロックバンドLOSTAGEのボーカル&ベース。地方発信/地域密着をモットーに、地元奈良を拠点に独自の活動を展開中。メジャー/インディーを問わず、様々なジャンルのアーティストとの親交も深い。地域密着/地元発信のレーベル兼レコードショップ「THROAT RECORDS」主宰。2017年6月には7枚目のフルアルバム『In Dreams』をリリース。ライブ会場や「THROAT RECORDS」店頭、オンラインストア限定で販売。2018年5月20日には『LOSTAGE In Dreams TOUR』のツアーファイナルでもあるワンマンライブを、バンド史上最大のキャパシティである東京・渋谷のTSUTAYA O-EASTで開催。成功裏に収めた。

LOSTAGE HP
http://www.lostage.co/

THROAT RECORDS
http://throatrecords.tumblr.com/

Release

【LOSTAGE】

『In Dreams』(アルバム)
発売中

split7

THROAT RECORDS
2600円(税込)

<収録曲>
01. さよならおもいでよ
02. ガス
03. 窓
04. ポケットの中で
05. REM
06. 泡沫の
07. 戦争
08. I told.
09. 僕のものになれ
10. Shoeshine Man

LOSTAGEライブ会場、THROAT RECORDS店頭、THROAT RECORDSオンラインショップで発売中。

 

『さよならおもいでよ』

 

『ポケットの中で』(Unofficial Video)

Stage

第四回 竜成の会「谷行」
▼2018年6月30日(土)14:00

金剛能楽堂
特等席-15000円(CD・お土産付き)
一等席-10000円
二等席-8000円
三等席(自由席)-5000円
親子シート-7000円(2名様)
次世代シート(自由席)-3000円
一等席BOX席-50000円(1~5名様)
[出演]宇髙竜成/他
[対談ゲスト]西野初雄/浅村朋伸
[問]タツシゲの会事務局
[TEL]080-4243-7440(平日10:00〜16:00)
[Mali]info@tatsushigenokai.com
公式サイト
http://www.tatsushige3.com/tatsushige-no-kai/taniko/index.html

Live

【LOSTAGE】

「PLAYTHINGS × rawer than raw」
Pコード: 116-620
▼2018年7月7日(土)13:00

東京都 上野水上音楽堂
前売り-4800円
[MUSIC]荒井岳史(the band apart)/五味岳久(LOSTAGE)/日高央(THE STARBEMS)/フルカワユタカ/渡邊忍(ASPARAGUS)/Kazuhide Takamoto(COMEBACK MY DAUGHTERS)/Keishi Tanaka/TGMX(FRONTIER BACKYARD)
[DJ、Percussion]木暮栄一(the band apart)
[DJ]松田"CHABE"岳二
[FOOD & DRINK]志賀高原ビール *長野/クジラ荘(HOT DOG) *三軒茶屋/麵屋ぬかじ(らーめん) *渋谷/マルショウ アリク (牡蛎屋) *松陰神社前/RR - coffee tea beer books - (COFFEE STAND) *新代田
[問]ディスクガレージ
[TEL]050-5533-0888
チケット情報はこちら

ベランダ『Anywhere You Like』
Release Tour “Anywhere We Like”
Pコード:112-564
▼2018年7月14日(土)18:30

十三ファンダンゴ
前売-2500円(+1ドリンク)
[出演]ベランダ/LOSTAGE/Easycome/And Summer Club
[DJ]DAWA (FLAKE RECORDS)
[問]清水音泉
[TEL]06-6357-3666(平日12:00〜17:00)
チケット情報はこちら

「UKFC on the Road 2018」
Pコード:114-099
▼2018年7月29日(日)17:00

心斎橋CONPASS
前売り-2500円 当日-3000円(1ドリンク代別途必要)
[出演]teto/polly/Yap!!!
[ゲスト]LOSTAGE
[O.A]aint
[問]GREENS
[TEL]06-6882-1224
チケット情報はこちら

LOSTAGE 五味岳久さんがインタビュアーとなり、“今、気になる人”と会い、それぞれの生活圏から見えている景色や、これから見たい光景を語り、考える、連載企画『奈良からの手紙』。第16回は金剛流能楽師 宇髙竜成さんです。五味さんと宇髙さんとの出会いは、当連載の第8回に登場されている仏師の浅村朋伸さんからのご紹介でした。能×ロックという180度異なる異ジャンル対談でしたが、根本の部分は同じ、またお二人は同世代ということもあり宇髙さんと五味さんの対話は途切れることなく約1時間半、行われました。ですが、お二人の対談を収録した音声データが消去するという連載始まって以来、最悪の事態が発生しました。大変申し訳ございません。今回は写真多めで、対談中にとった編集メモから書き起こしてお届けします。

 

京都の稽古場にお邪魔し、対談をしました。まずは宇髙さんのお姉さんが製作されているという、製作途中の能面を見せていただきました。
「能面の素材は主に桧を使用します。能面はとても大事なものなので、『面をつける』ではなく『面をかける』と表現します。『ハンガーに服をかける』と同じで、服が主役ですよね。能も面が主役。僕たちはハンガーのようなものなんです(笑)」と宇髙さん。宇髙さんの流派、金剛流は奈良時代に起源をもつ数ある流派の中でも特に歴史があります。それだけに「600年前から伝わるお面もあります」。

能面は粉糊などが落ちないよう、扱いには細心の注意を払います。今回は特別に製作中のお面を手に取らせていただきました。

対談は「能とは?」というテーマから始まりました。約650年、日本で続いている言わば仮面劇ですが、「僕の中ではロックだと思っています」と宇髙さん。

「僕はAIR JAM世代で、10代前半でハイスタ(Hi-STANDARD)にしびれて、『KIDS ARE ALRIGHT』を聴いて中学でベースを始めたんです。高校時代はハイスタのコピーバンドをやっていて、大学では3ピースのバンドを組んでいました。その時、音楽の仕組みや、楽しみ、成り立ちなどをロックを通して知ったことで、能の音楽の面白さにも初めて気づいたんです。ロックは能を理解し始めるきっかけでした」

能楽師の家に生まれ、初舞台は3歳。能の世界では、声変わりのタイミングで子役を下ろされ、プロになる修業が始まるそうです。

「それがちょうど中学の頃からなんですよね。僕は父親と流儀のご宗家の二人に教えてもらっていたのですが、父親はとても厳しい指導でした。能の舞台は地声なので、自分の体が楽器そのものなんです。イコライザーが自分のお腹のあたりにあるような感じです。自分でいろいろ調整できるようにして、太くて響く声を作る修業などをしました。そういう厳しい修業とバンドの両立を学生時代にしていたんですね。父親は、稽古は厳しかったですが、いろんなことに理解ある人でした。ある日、京都MUSEでHawaiian6のライブがあったのですが、僕はチケットは買っていたけど、観に行くことは言ってなくて。ただ、ライブの時間が迫るにつれてソワソワしていたんでしょうね。集中力がなくなっている姿を見抜かれて、何かあるのか?と聞かれて。MUSEにHawaiian6が来るから行きたいんだと言うと、行っていいと言われて開演ギリギリ到着したことをよく覚えています(笑)。自分のバンドや好きなバンドのライブに行くことで、声の帯域が分かったり、能の舞台で使用する鼓などはいかにアナログながらも計算されているかロックの環境で知りえることが出来て、能に還元することができました。違う角度から能を見ることができました」

「Hawaiian6、ええな(笑)」と言っている五味さん。

「能は元々野外劇で、芝の上でやってました。だから“芝居”というんです。その頃は演目も太陽の動きに合わせて変えていきました。朝の清々しい空気の中では清潔感のある高貴なもの、昼間は明るい時間に見て楽しいもの、夜になったら暗がりなども利用してあの世とこの世をつなぐ曲といった具合ですね。そして足利義満の時代に武士のたしなみとしてお能を見るようになって、能の立ち位置も変わってきました。庶民のものから、階級が上の人たちが嗜むものに変わっていったんです。そうやって時代ごとにポジションが変化しています」。

江戸時代後期から幕末にかけて、ヨーロッパの文化が入ると能はそこにも影響を受けていると続けます。

「能舞台で黒の紋付き袴を着るのも、ブラックフォーマルの影響を受けているんです。ムーブメントが変幻自在に変わるんですね。そもそも始まって以来650年、伝言や体験談、目撃談でしか伝えられていないんです。今、94歳の師匠がいますが、もう90年近くお能を見てきている方ですよね。それだけ長生きされている分、考え方も新しいんです。僕たちが考えつくことなんて出尽くしていますから、師匠の方が斬新な考え方を提案されます。能は外から見ると堅い世界に見えるかもしれませんが、中は割と柔軟なんです」

「94歳の重鎮に比べたら、36歳の僕はまだまだ若手です」と宇髙さん。

演者は、40代までは若手と言われ、50代、60代から味が出てきて、60代、70代で円熟味を増すと言われており、その一例として分かりやすい演目が「姥捨(うばすて)」です。

「『姥捨』で山に捨てられるおばあさんの役を若手がやっても説得力が出ません。年を重ねると若いころのように活発には動けないけど、ここぞと言う時に滋味が出る役もあるんです」

「能は老いですら武器になる芸だと思います」と宇髙さん。この考え方には、対談の場に居合わせた一同、目から鱗が落ちたような感覚になりました。

「能のメインテーマは、なぜ生まれて、なぜ死ぬのか。とても哲学的でもあります。豊臣秀吉や伊達政宗に愛されたというのも、彼らが人の生き死に直面していたからだと思います」

流派の能公演とは別に宇髙さんは自主企画『竜成の会』を年に1回のペースで開催されています。今年は6月30日(土)、京都の金剛能楽堂で開催。大阪と奈良の境に位置する葛城山の修験道(しゅげんどう・日本独特の山岳信仰)を題材にした能「谷行(たにこう)」他を上演します。

『竜成の会』の2回目は詩人・谷川俊太郎さんをゲストに招き、同じ題材を詩と能で表現。また、3回目では「石橋(しゃっきょう)」という親獅子と小獅子が登場する能を、親子3人で演じました。4回目を迎える今年は「谷行」。修験道とゆかりのある“鬼の子孫”の物語です。

自主公演を運営するのはバンドも同じです。能の自主公演はどのように運営されているのでしょうか。

「お能の舞台は主役をやる人が興行主になるんです。『竜成の会』は僕が興行主ですね。なので、役者としての目線とお客様の期待感、その両方を持つ必要があるかなと思います。能の中でもメジャーな曲といえば「羽衣」や「土蜘蛛」が挙げられます。「土蜘蛛」は9メートルはある細い紙テープのようなものをわ~っと客席に向かって広げる演出もあって、それはとてもエンタメ性があって人気があります。また、お能は謡(うたい/言葉や台詞にあたるパート)の詞が分かりにくいので、謡の歌詞が付いたCDとセットになった席を売ったり、『次世代シート』と題して初心者にも買いやすい料金設定にした席を売ったりして、なんとか広がるように工夫しています」

五味さん、さらに「自主公演の利益の出し方は?」と尋ねます。

「1公演が5000円にしても、1公演で大体、経費だけで300万円近くかかるので、400席を完売したとて到底、利益は出ません。能というのは古くからパトロン制度もあったので、その考え方を取り入れる場合もあります。いうなれば『お金を出せる人に高くていいシートを買ってもらって、その方たちに初心者とか、初めて来られる方の安いチケットの差額を払ってもらう』というイメージです。ただ、チケットの売り方には非常に課題が多いと思います。やっぱり、サイレントマーケットにどう売り込んでいくかですね」。

利益の出し方に関しては、『芸術の売り方――劇場を満員にするマーケティング』という本の名前も上がりました。

能楽師の生活についてもお聞きしました。

「お稽古をやって、舞台は年間100回、出ています。能は同じ演目を連日繰り返しません。ですので、昔から同じ演目を演じても一期一会の環境が生まれやすいようになっているんです。例えば、鼓や太鼓、笛を演奏する人は決まってはいません。上演ごとに変わります。大体、一人で練習して、シテ(主役)や地謡(コーラス)など総勢20名前後と1回だけドライリハーサルをします。これを申し合わせと言います。そして本番を迎えます。鼓や太鼓、笛の和楽器や謡は、同じことをしているようでも微妙に一拍の長さが違っていたりするので、舞台は毎回、フリージャズのような感覚でもあります」

また、レッスンプロという働き方もあり、実際に対談の会場となった稽古場で下は小学2年生から上は80代まで、遠くはベルギー、台湾、四国、東京から来られるという一般の生徒さんにお稽古もされています。「彼らには違う世界を見せてもらえて楽しいです」と宇高さん。

せっかくなので、五味さんにも稽古をつけていただきました。

背筋の伸ばし方、腕の広げ方、目線の上下、ちょっとした所作の違いで見違えるように様になります。飲み込みが早い五味さん、さすがはフロントマンです。

今回の対談は異なるジャンルだっただけに、どのように交わっていくのか始まる前は未知の世界でしたが、約1時間30分の対話を終えたお二人の間には“舞台に立つ者”だけが知りえるシンパシーが生まれていました。

 

 


取材:五味岳久(LOSTAGE)
撮影:河上良(bit Direction lab.)
企画:高橋はじむ
企画・構成:岩本和子
撮影協力:庵町家ステイ