ホーム > 劇団 石塚朱莉 > 第11回 大槻裕一さん

 

 

 

Profile

大槻裕一(写真左)
おおつきゆういち●1997年9月2日生まれ、大阪府出身。2000年5月、大槻能楽堂にて仕舞『老松』で初舞台。同年6月、能『花筐(はながたみ)』の子方にて初能。2005年、能『俊成忠度(しゅんぜいただのり)』にて初シテ。2013年、『翁 父之尉延命冠者(おきな ちちのじょうえんめいかじゃ)』の延命冠者で初面。大槻文蔵の芸養子となり、大槻裕一を襲名する。2018年3月1日~4月7日、市川海老蔵特別公演「源氏物語 第二章~朧月夜より須磨・明石まで~」に出演する。

公式サイト
http://ohtsukiyuichi.jp/

 

石塚朱莉(写真右)
いしづかあかり●1997年7月11日生まれ、千葉県出身。ニックネームはあんちゅ。NMB48チームBII。趣味は映画鑑賞。2016年夏、悪い芝居の『メロメロたち』で初舞台、初主演を果たし、2017年4月、悪い芝居『罠々』に出演。9月、劇団アカズノマを旗揚げ。2018年4月、柿喰う客の七味まゆ味を演出に迎えて、同劇団の人気作『露出狂』をABCホールにて上演する。

公式サイト
http://www.nmb48.com/

Stage

『BORDERLESS』
チケット発売中 Pコード:481-119
▼11月26日(日) 13:00/17:00
大槻能楽堂
SS席-13000円(特典付) S席-10000円(特典付)
[出演]姿月あさと/大槻裕一
[監修]大槻文蔵
[問]OFFICE OHTSUKI■06-6809-4168

チケット情報はこちら

Movie

レクチャー編

 

実践編

2016年7月、京都の劇団・悪い芝居の『メロメロたち』に出演し、女優として初舞台を踏んだNMB48の石塚朱莉さん。役者としての第一歩を踏み出したばかりの彼女が、さらなる高みを目指すべく、脚本家や演出家など演劇界の諸先輩方に「演劇のいろは」をお聞きします!

今回話を聞いたのは、観世流能楽師の大槻裕一さん。同志社大学に在学中の20歳で、連載初の同学年対談です! 2000年に2歳で初舞台を踏み、中学3年で人間国宝・大槻文蔵さんの芸養子に。2014年には移動式能舞台を大阪城本丸に設置し、天守閣を背景に薪能を上演したり、大阪フィルハーモニーの弦楽四重奏と共演したり、2018年3月からは市川海老蔵さんが企画する歌舞伎×能×オペラの舞台『源氏物語 第二章~朧月夜より須磨・明石まで~』に出演するなど、次々と新たなチャレンジを見せる若手注目株です。また11月26日(日)には、元宝塚歌劇団宙組トップスター・姿月あさとさんとの舞台『BORDERLESS』を上演。姿月さんとの歌とコラボレーションし、能の新たな可能性を切り拓きます。能の知識がゼロの石塚さんが、能の見方や魅力について一から教えていただきました。また、動画では能の所作をレクチャーしていただいているので、そちらもぜひチェックを!

 

伝統芸能の家に生まれて

石塚

私、大槻さんと同い年なんです。この連載に登場していただいた中では最年少です!

大槻

本当ですか?! よろしくお願いします。

石塚

私は一般家庭に生まれて、平凡な生活してきたんですけど、大槻さんは小さい頃から舞台に立たれているんですよね?

大槻

初舞台が2歳8ヵ月のときですね。

石塚

えぇ~! そのときのことって覚えてますか?

大槻

全然覚えてないですけど、ここ(大槻能楽堂)なんですよね。うちは大槻能楽堂がホーム劇場なので、基本的にはここで上演することが多いですね。NMB48さんでいうと、なんばの劇場と同じ感じです。だから初舞台もこの大槻能楽堂だったんですけど、2歳なので舞台を1周するくらい。

石塚

子どもAみたいな感じですか?

大槻

いや、登場するのは僕だけなんですよ。初舞台でよくやられるような、1分くらいの短い演目で。全然覚えてないんですけどね。

石塚

2歳8ヵ月で一人で舞台に立つなんて、考えられないです!

大槻

喋る言葉を覚える前に、意味も分からずにせりふを覚えてたみたいです(笑)。僕、小さい頃から負けず嫌いやったんですよね。4歳年上の姉がいて、子どもの頃は姉も能をやっていたんですよ。で、年上やから姉のほうが難しいことをやるんですけど、姉に負けたくないから、自分の演目そっちのけで、姉と同じことをお稽古してたんです。だから、自分の演目でただ1周するだけのことができなくて(笑)。

石塚

お姉ちゃんをライバル視してたんですね(笑)。

大槻

途中で無理やと思ったのか、姉はすぐに能を辞めましたけどね。

石塚

でも大槻さんはそこからず~っとやられてきたわけですね。私、全然能の知識がなくて、古典芸能って難しいイメージがあるんですけど、お会いした印象としてはすごく親近感があるというか。失礼かもしれないですけど、普通の20歳という雰囲気ですね。

大槻

そうですよ、普通です(笑)。

石塚

『ワンピース』とか読みますか?

大槻

漫画とかゲームは全然なかったですね。そう考えると普通じゃないのかも。でも親が買い与えてくれなかったわけじゃなくて、興味がなかったんです。

石塚

じゃあ、ずっと能の勉強をされていたんですか?

大槻

そうですね。家でも能のビデオ観たり、お面作ったり。そんなことばかりしてました。

 

稽古の仕方

石塚

能のお稽古ってどうされているんですか? 演劇だと、日常の体験とか思ったこととかを物語に影響させることができるんですけど、能は時代背景がまったく違うじゃないですか。

大槻

すごく難しい質問ですね(笑)。そこまで深く考えたことがなかったです。演劇のお稽古って、みんなで練習するじゃないですか。僕らは1曲作ろうと思ったら、最低でも12~13人必要なんですね。でも全員がそろってお稽古するのは1回だけなんです。

石塚

え! 1作品にですか…!?

大槻

しかも1時間半ある演目でも、50分くらいしかやらないんです。基本的には一人で稽古してきたものが最後に合わさって、完成する。

石塚

じゃあ通しリハーサルして、衣装稽古して…という感じではないんですね。

大槻

それぞれがお稽古をしっかりやっていると、合わせたときに自動的にできるようになっているというか。僕は立ち役といって、衣装を着て主役を演じるんですね。他にも、鼓を打つ人、笛を吹く人、脇役をする人とかいろんな分類に分かれているんですけど、みんな専門職なんです。だから、僕が笛を吹いたり、脇役をすることはない。ただ、本番では主役しかしないんですけど、お稽古は笛とか鼓とか、全部やってます。全員のことを把握していないと舞台に立てないんです。

石塚

あ~、だからお稽古が50分だけでもまとまるんですね。

大槻

大体分かっているので。だから舞台に立つまでがすごく時間がかかるんです。一人でお稽古するときも、せりふを覚えるとかじゃなくて。せりふ覚えは、それ以前の話なんですよね。

石塚

それまでに全部頭に入れておかなきゃいけないと。結構シビアなんですね。

大槻

基本的には1曲に対してリハーサルは1回ですね。新作やめったにやらない演目でも2回です。

石塚

新作でも2回だけか~。新作だと、言葉はどうなるんですか?

大槻

現代語の演目もありますよ。子ども向けの公演をやったときは、いるかが登場する曲もしましたし。

石塚

『ワンピース歌舞伎』みたいな?

大槻

そこまではいかないですけどね(笑)。『桃太郎』とかやってましたよ。

石塚

昔からある作品と、新作とで違いはありますか?

大槻

全然違いますね。能はせりふを音楽に乗せて“謡(うたい)”で表すんですけど、現代の言葉だとなかなか合わないんですよね。観ている人も、現代語だからってスッと耳に入ってくるわけではなく、古語だから耳に入りやすい、心地よく聞けるというのはあると思いますね。

 

能舞台の仕組み

石塚

私、まだ一回も能を観たことがないし知識もないんですけど、観るときのポイントってありますか?

大槻

難しいですよね(笑)。でも、最初は能舞台の不思議な空間を観察しつつ、楽しんでいただくといいのかなと思います。それに、事前に話の内容を理解していたら楽しめますし、今はイヤホンガイドがあることも多いですね。あとは、ショーとして、能面とか衣装とか、4つの楽器が奏でる音を楽しむ。お話の内容が分からなくても、いろんな楽しみ方があると思います。眠い雰囲気に、思わず寝てしまうのも僕はアリだと思う(笑)。

石塚

え! いいんですか!?(笑)。

大槻

寝れるということは、心地いいってことですしね。逆に、若手だけの公演だと不安で寝られないと思います(笑)。

石塚

親心みたいな(笑)。空間のことでいうと、舞台の横にある松がどんどん小さくなっていくのはなぜなんですか?

大槻

まず舞台の説明からすると、奥の通路が「橋掛かり」っていうんですね。歌舞伎でいうと花道。能は基本的に登場人物が死んでしまった人なので、能面をかけるんですね。で、この中央の舞台がこの世で、左端にある五色の幕から向こうがあの世。だから橋掛かりは、この世とあの世をつなぐ橋になるんですよ。

石塚

あ~! そんな仕組みになっているんですね。

大槻

幽霊が登場するための通路で、生きている人も通りますけど、基本的にはこの世とあの世をつなぐ橋というように設定されています。そして、橋掛かりはちょっと斜めになってて、松も遠近法を使っているから、舞台に近づくにつれて大きくなる。すごく遠くから来る様子を表しているんです。あと、昔の能舞台は外にあって、昭和初期くらいまでは外で演じられるもので、屋根がついていたんですね。今も建物の中なのに屋根があるのは、その名残なんですよ。そして舞台の周りに敷き詰められた白い石は、電気代わり。昔の人は、太陽の光を白い石に反射させて舞台を明るくさせてたんです。今は意味をなさないですけどね。

石塚

なるほど! すごいですね。舞台の前方にある階段はどういう意味があるんですか?

大槻

昔は今でいう開演アナウンスをする“能奉行”という人がいたんです。その人が開演前にその階段から舞台へ上がって、橋掛かりのところまで行って“今から能を始めてください”って伝えるための階段です。あと、舞台の下に大きな瓶(かめ)が10個くらい、すごく微妙な角度で並べられているから、板をドンドンと踏んだときにいい音が鳴るんです。あと、柱はお客さんからしたら邪魔ですけど、僕らは能面をつけるとすごく視野が狭くなるから、目標物になる。これがないと舞台から落ちちゃうんですよね。

 

能はルールがない

石塚

今の説明で、ちょっと見方が分かった気がします。能の一番の魅力はどんなところだと思いますか?

大槻

実は、ルールがあるようでないんです。中学生の頃とか、僕がまだ舞台に立たなかったときに、決まりがないんやなって思いながら観てて。隣のお客さんとも見方が全然違うと思うんですよ。他の演劇でもそうかもしれないですけど、能は特に、お客さんのそのときの感情や心情で変わってくると思う。

石塚

それぞれの感じ方が正解なんですね。

大槻

そうですね。それぞれの捉え方で見方が変わるというか。

石塚

さっき仰ってたみたいに、作品を楽しむ人もいれば、衣装や音楽を楽しむ人もいるだろうし。

大槻

作品でも、過去の恋愛の話だとしたら、自分の恋愛に置き換えたりしてもそれぞれで違うと思うし、家族の話だったら、それぞれの家族関係によって違うでしょうし。人それぞれ、1曲観終わった後の感想も変わってきますよね。

石塚

伝統芸能だからって難しく考えていたんですけど、普通の演劇と同じですね。

大槻

言葉が違うから難しく聞こえるだけで、同じですね。あと、すごく静かなイメージしかないと思うんですけど、すごく激しくて躍動感がある曲もあるんですよ。

石塚

意外ですね! これをきっかけに、私たちと同い年くらいの若い方にも観ていただきたいですよね。

大槻

そうですね。

石塚

今日お話を聞いて楽しみ方を知れたので、今度観てみたいと思います。きっと、何を言ってるのかは分からないと思うんですけど。

大槻

僕も知らない曲を客席で聞いてたら、何言ってるんやろうって思うことはあります(笑)。やっぱり、最初にあらすじを知っていたほうが楽しめると思いますね。

石塚

所作とか、振舞い方とかもね。

大槻

でも5分くらいあらすじ読んだら楽しめます。どんな話なのか分かっているだけで、これはあの人ねって分かるから。

 

元宝塚トップスターとのコラボレーション

石塚

次の公演『BORDERLESS in 大槻能楽堂』は、元宝塚の姿月あさとさんとコラボレーションされるそうですね。

大槻

そうなんですよ。姿月さんが歌ってくださって、それに合わせて僕が舞います。前半はトークと古典作品をご覧いただいて、後半で現代の歌とコラボレーションした作品を披露します。5~6曲を観ていただくことになると思います。古き良き建物の中に、シンセサイザーが入るっていうだけで、面白いですよね。

石塚

異空間みたいですね(笑)。

大槻

そうなんです。この空間を使って、現代と古典を融合させられたらと。

石塚

素敵ですね! そういうのは今回が初めてですか?

大槻

いろんな方とコラボレーションする企画は今までもあって、先日は弦楽四重奏とやりました。後ろに4人が並んで、その前で舞いました。最近は、海老蔵さんの企画で、オペラと歌舞伎と能で源氏物語を上演する企画もやっていて、来年3月には全国をまわります。

石塚

能に触れたことがない人にも観る機会が広がっていきますね。今回の舞台は、どんな方に観ていただきたいですか?

大槻

能も宝塚歌劇も、コアなファンの方が多いと思うんです。そういう方々はもちろん楽しめますし、能も宝塚歌劇も知らない人でも、音楽を聴きにくる感じで楽しんでいただけると思います。能を観るとなると、ちょっと難しそうやなって思われるかもしれないですけど、コンサートとして楽しんでいただくのもいいのかなと。この機会に、能楽堂に入ったことがない方に来ていただきたいですね。

石塚

“歌”という点では、能も宝塚もアイドルも共通しますもんね。

大槻

客席から何言ってもらってもいいんです(笑)。狂言だとめちゃくちゃ笑いますし、歌舞伎でも“なんとか屋!”って大向うさんが声かけたりしてるでしょ。僕らはそういう要素がないというだけで。でも、昔終わった後に“ブラボー!”って言われたことがあります(笑)。

 

対談を終えて

大槻

共通する部分があるなと思いました。もちろん、お客様に喜んでいただくという思いは一緒だと思うんですけど、目指すところが同じやなと。最終的に僕たちが探し求めているのは“一流”という言葉で、そこにいくためには、古典芸能でも現代のことでもたぶん一緒だと思うんですよね。それは、姿月さんとお話しても感じたことですね。

石塚

私は、同い年の方がこんなに頑張られていると知って、自分ももっと頑張らなきゃいけないなと思いました。20歳だと、能の世界では大分若手ですよね?

大槻

超若手です。

石塚

何十年もやってらっしゃる方と共演することもありますよね? それってプレッシャーは感じないんですか?

大槻

プレッシャーですけど、人間国宝の方とか、大先輩の方とやらせていただくほうが、完成度はやっぱり高いですよね。気を遣いますけど、上手な人とやると、自分もすごく上手に見えるんですよね。若手だけだと、みんなでお互いのダメなところを支え合いながらやらないといけないという難しさがあるんですよ。一流の方とやると、自然と引っ張っていってくれるというか。“あれ? 俺、上手じゃない?”って錯覚します(笑)。

石塚

あ~、なるほど。でもきっと、若手だけでやりながら学んでいくこともあれば、一流の人と一緒にやることで学ぶこともあるんでしょうね。すごいな~。今日は能の見方も分かりましたし、今度ぜひ実際に観に来たいと思います!

第12回は11月下旬更新予定です!

 

取材:石塚朱莉(NMB48)
撮影:木村正史
構成・文:黒石悦子
企画:葛原孝幸


 

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