中村壱太郎×尾上右近×中村隼人
熱い思いを結集して挑む「三月花形歌舞伎」

2021年より始まった京都・南座の『三月花形歌舞伎』が4回目を迎える。俳優、劇場、プロデューサーが一体となって積み重ねてきた舞台は、次代を担う花形ならではの熱気と楽しさがあり、歌舞伎初心者の若い人たちにも好評だ。今年は中村壱太郎、尾上右近、中村隼人の3人が軸となり、松プロ・桜プロと、今回初めて午前・午後の部で違う演目を用意して挑む。「先輩後輩関係なく同世代として、一つの公演に3人で臨めるのが一番うれしい」と言う壱太郎が、作品の見どころや意気込みを語った。

演目は、まず今年没後300年となる近松門左衛門の2作品。松プロに中村鴈治郎指導の『河庄』と桜プロに片岡仁左衛門監修の『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』。江戸っ子の右近が『河庄』に挑み、治兵衛と壱太郎演じる遊女・小春の不倫の恋を描く。『油地獄』は、与兵衛(隼人)とお吉(壱太郎)の油まみれの殺害シーンが見どころ。「『河庄』は秘する愛や兄弟愛といった愛の形を見せる芝居なので"愛"、『油地獄』は人間の情に絡む深いドラマがあるので"情"がそれぞれテーマになります」。

『将門』傾城如月実は滝夜叉扮する中村壱太郎

松・桜で上演する『忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)』通称『将門』は、壱太郎の滝夜叉姫と対峙する光圀(みつくに)を、松は隼人、桜では右近が演じ、さらに演出も変えるという。「これはザ・歌舞伎。ストーリーがあってスペクタクルがあって、スピード感がある。僕ら3人で歌舞伎の3Sを含んだ舞踊作品に挑もうと。これは"艶(あで)"」。"愛""情""艶"。「3人で何をやるか、はっきり打ち出すことが大事。そこに仲間が集える力があるのではと思います」。

『河庄』紙屋治兵衛扮する尾上右近

映画やドラマでも活躍する右近と隼人を「ふたりは自分を見せる力がすごく強くなっていて、とても刺激になります」と壱太郎。『将門』では「右近とはお互いハイテンションになって爆発するのは目に見えてる。隼人はいい意味で冷静で、美しい様式美で神秘的な世界に誘ってくれると思う。その中で、僕はとにかく全部持って行きますよ、妖怪ですから(笑)。歌舞伎のスペクタクルを存分に、アニメのような世界にお連れします。だから松と桜、どちらも観てください！」。

『女殺油地獄』河内屋与兵衛扮する中村隼人

また、芝居前の『手引き口上』は「自分たちを出す大事な場面」と位置づけ、作品解説や歌舞伎への思いを素顔で伝える。ほかに鯖江生まれの近松にちなみ鯖江市とのコラボ企画やフォトスポットなど「劇場の中の空気からテーマパーク状態にするのが目標」と、三月花形歌舞伎ならではの楽しい企画が進んでいる。

取材・文／高橋晴代
(C)松竹

（2024年3月 4日更新）