ホーム > NEWS > いいむろなおきがマイムで表現する宮沢賢治の世界
未来に語り継ぎたい詩人の作品を素材に、現代の作家・演出家・役者と新たな物語を生み出す兵庫県立芸術文化センタープロデュース「100年の詩物語」。その第2弾に、いいむろなおきマイムシアター『心象スケッチ~宮沢賢治の世界~』を上演する。自身のカンパニーを主宰し、演出家・振付家としても活躍するマイム俳優のいいむろなおきが「一度取り組んでみたいとずっと思っていた」という宮沢賢治。今回、オーディションで選んだ6名の出演者と共に、マイムと映像を通して宮沢賢治の世界の舞台化に挑む。大阪の稽古場で思いを語った。
いいむろは「母が岩手県宮古市出身で、母の祖父が宮沢賢治を『けんつぁん』と呼んでいたと伝え聞いていて。子どもの頃から宮沢賢治がそんなに遠い存在じゃない思いがありました」と話す。宮沢賢治作品はこれまで断片的にやってはいたが「今回、宮沢賢治と対峙して、ガッツリやってみたい」と、劇場が提示した詩人のリストから宮沢賢治を選んだ。しかし「調べれば調べるほど、賢治の思いの深さにハマっていく感じで、大変なテーマを選んでしまった」と感じる日々。どう立体化するのか。賢治は詩を"心象スケッチ"と呼んでいる。「彼の心に映ることをそのまま描いていく。マイムと似てるなぁと捉えて、賢治を演じるのではなく、彼の人生の"光と影"をテーマにして、僕自身が客観的に賢治の気持ちに寄り添い、彼の心象をたどっていくような構造の物語にしたいと思います」。
賢治の数多い詩や童話の中から"雨ニモマケズ""永訣の朝""無声慟哭"や「ポエティックな童話」と言う"やまなし"などのほか、多くの作品をイメージしたものが散りばめられる。「賢治の作品に込めた思いをうまく動きにしていきたい」。また、映像も多用し「影やブラックライトを使う照明の演出など、身体で作る世界を後押ししてくれるような形でコラボします」。朗読もあり、映像を使って文字情報を出すなど聴覚障がい者にも楽しめるよう配慮している。
「賢治マニアの方に嫌われるんじゃないかということだけが今、心配(笑)。でも、原作に対するリスペクトを持ちながら作品を作っています。お客さんが観て、イメージや雰囲気を感じられるものが賢治の作る世界に重なるように。心が軽くなるような感じでやれたらいいなと」。マイムは「言葉で伝えるよりも多くのものが、お客さんの想像力をお借りして広がりのある世界に見えるのが魅力。今回の公演はマイムの公演の中でも敷居が低いと思います。わからないところを想像するおもしろさを楽しんでもらえるとうれしい」。
取材・文/高橋晴代
(2024年3月14日更新)