ホーム > NEWS > 三面舞台で挑み続ける 上方歌舞伎の若手たちの心意気
1997年に開塾した松竹上方歌舞伎塾の第一期生片岡松十郎、片岡千壽、片岡千次郎を中心に、2015年に結成した「晴(そら)の会」。近鉄アート館を拠点に"あべの歌舞伎"と銘打ち、片岡秀太郎が監修、上方舞 山村流六世宗家の山村友五郎の演出で、古典や新作歌舞伎など2021年のコロナ禍休演以外、毎年「晴の会」ならではの舞台に挑戦してきた。その意欲的な活動によりこれまで多くの賞を受賞、メンバーも増加中だ。今回は第五回で上演した『肥後駒下駄(ひごのこまげた)』を初めて再演する。出演は松十郎、千壽、千次郎、そして片岡りき彌、中村翫政、片岡千太郎、片岡佑次郎、片岡當史弥、片岡愛治郎に、ベテラン片岡當十郎という10代から80代の10名が居並び、意気込みを語った。
『肥後駒下駄』は、1952年に中座で仁左衛門が演じ、秀太郎も出演していた作品。2019年にそのふたりの監修により、67年ぶりに「晴の会」で復活上演した。武士の魂、男の意地が折り重なって展開する中に、家族や夫婦の情愛、若者の恋を描いた仇討物語だ。それを三方囲みの客席の舞台で上演。主役の駒平を演じる千次郎は台本の改定を担当し、亀屋東斎というペンネームを持つ。前回は少ない資料の中、手書きの長編台本を「公演に合った形に短縮し、オリジナリティのある場面も入れて。お師匠様方ご指導の上でみんなで一から知恵を絞って作り上げたので、晴の会のオリジナル作品と言えるような作品です。今回は練り直し、よりパワーアップさせて若い熱気あふれる舞台にしたいと思っています」。松十郎は「現実を離れ、スカッとしてお帰りいただきたい」、千壽は「二役で許婚と娘に対する情を、前回秀太郎から教わったことをより濃く表現できたら」と抱負を述べた。
今回の初参加は2人。愛治郎は「いつか出たいと思っていた夢が、ついに叶いました」と喜び、17歳の千太郎は「今回新しく作っていただいたお役、お兄様方の足を引っ張らないように」と初々しい。そして「若手に負けないように頑張っていきたい」と84歳の當十郎も気合十分。歌舞伎の本公演にはない三面舞台を生かした演出、心の深みを増した芝居、各幕に用意された立ち廻りの中でも藤棚を使ったシーンが見どころだ。今回、兄・秀太郎を2021年に亡くした仁左衛門から「今回は彼らに自由に演らせ、私は全体のアドバイザーとして兄の穴を埋め、さらなる向上を目指したい」とメッセージが届いた。公演が開催できる幸せを胸に「関西を、上方を盛り上げたい。そして末永く続けていきたい」。全員の思いを強く感じる取材会だった。
公演は8月3日(木)から6日(日)まで、近鉄アート館にて。チケット発売中。
取材・文/高橋晴代
(2023年8月 1日更新)