立川談春、35周年のフェス公演で「初期化する」
2月24日(月・祝)、噺家生活35周年を記念した立川談春の独演会が、大阪・フェスティバルホールで行われる。10年前、リニューアル前の同会場で初めて独演会を開いた談春、2700人というキャパでの高座も初めてだった。暗闇の中にほんのりと浮かぶ通路の非常灯が「夜の滑走路みたいだな」などと思いながら、広い舞台の上でひとり、観客の気配も感じられないまま『芝浜』を口演した。終盤になり、客席のあちこちから聞こえてくるすすり泣き。すべてが終わり、客席の明かりがついたその時、満場の客席から拍手の雨がこれでもかと降り注いだ。
2013年のリニューアルオープン後は、毎年のように独演会を開催してきた。初回の孤独感はなくなり、照明はずっと変わらないにも関わらず、観客の顔がばっちり見える。3階席の一番奥に向かって「ありがとう」と気持ちを届けるようにもなった。だが「フェスでは今でも落語を見せたいのではない」と言う。
「落語を落語として伝えようと思っても無理です。あんなスケールの大きいところで芸ができるのか?それはできません。最初からやろうと思ってねぇよって。じゃ、どうする?っていうと、その日のドキュメントを見せるしかない。2700人の小屋で、この日、この時、談春はこれをやったというドキュメント。そのグルーヴ感以外に、あの会場で落語を見た人をリピーターにする手は、今のところ想像つきません。だから、いつもけれん味溢れすぎるプログラムになってしまいます」。
演目は、東京でも高座にかける人は少ないという芝居噺の『双蝶々』と上方の古典落語『百年目』。東西の大ネタを前にキャリア35年の談春が七転八倒する。その時、自分でもわからない“隠しギア”を出したいと望む。「ギアはトップまでと思っているけど、人間、やらなきゃヤバイと思ったら、わけのわからないギアを入れるんですよ。そんなところで、のたうち回りたい」。
「人前で落語をやれることが嬉しかった」という駆け出しの気持ちに立ち返るため、自分を試し、試されるようなことを考える。2019年夏には平安神宮で斉藤和義との“2マン”にも挑戦した。「あれはアウェイより性質の悪い空気だった。和義君のファンは何をするんだろう?という不安な顔をしている。拒否でなくて、不安。そこで僕は何ができるんだ?っていう。それと同じなんです。『双蝶々』、『百年目』がフェスできるのか?って。それが僕の中での初期化です。僕にとってライブとは、そういうことです」。
公演は、2月24日(月・祝)大阪・フェスティバルホールにて。チケットは12月21日(土)発売開始。
取材・文:岩本
(2019年12月19日更新)
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