ルーキー勢の活躍が目立った作品部門と
ベテランの貫禄が光った役者部門
「関西Best Act」2015年下半期の
結果発表を吉永美和子さんがレポート！

【作品部門】
１．THE ROB CARLTON『CREATIVE DIRECTOR』
２．維新派『トワイライト』
３．演劇計画Ⅱ－戯曲創作－ 柳沼昭徳 作・演出『新・内山』

【役者部門】
１．蟷螂襲（Plant M『紙の船、濡れながら大海を往く』他）
２．竹村晋太朗（竹村晋太朗presents 劇団壱劇屋番外公演『猩獣-shoju-』）
３．林英世（iaku『walk in closet』）

その時期に関西で上演された芝居の中から、観客が本当に「面白い！」と思った芝居＆役者ベスト3を、一般の観客の話し合いで決める「関西Best Act」。2008年から始まって、これが通算16回目となる、2015年下半期分の芝居の話し合いが行われました。

作品部門の第1位となったのは、2015年上半期で2位に選ばれた京都の劇団・THE ROB CARLTONの『CREATIVE DIRECTOR』(画像)。世界的なクリエイティブ・ディレクターの事務所で起こる様々な騒動を描いた、くだらなくもスマートなシチュエーションコメディで、初のベスト１に輝きました。「全員スピンオフを作って欲しいと思うぐらい登場人物たちが魅力的で、彼らのくだらないパワーが全開になっていた。入場チケットに名前を入れてくれたりと、観客への細かい心配りも評価したい」と、熱い支持を得ていました。

第2位は、昨年秋の『透視図』に続いてベスト3入りした維新派の『トワイライト』。奈良県・曽爾村の山中にあるグラウンドを使って、ダイナミックな野外劇を見せた本作は「グラウンドを極限まで使ったかと思うと、次のシーンではギュッと縮小して見せたりと、今回は空間の使い方の緩急がすごかった。満月や雨がタイミングよく出たりして、天候まで動かしてるんじゃないか？ とまで思う」と好評だった一方で、前々回と同じく「“演劇”とは少し違う世界では？」という異論が出て、2位にとどまりました。

第3位は、脚本・演出の柳沼昭徳が「岸田國士戯曲賞」最終選考にノミネートされた、演劇計画Ⅱ『新・内山』。「二幕の悲劇を3年間かけて作る」という課題の元、原発問題や貧困問題など、様々な日本の悲劇をコラージュのように盛り込んだ作品です。こちらには「一幕と二幕でガラリとムードを変えた美術や仮面の人間たちなど、忘れられないシーンが多い美しい世界」という賞賛の声があった一方で「3年間の間にいろんな出来事を盛り込んできたせいか、少し物語がぼやけた印象がある」という意見も出ていました。

役者部門の第1位は、関西を代表するベテラン俳優の蟷螂襲。下半期だけでも、自らの劇団「PM／飛ぶ教室」の公演を含めて4本もの作品に出演し、いずれの作品でも高い評価を得ていましたが「自分の中で台風を飼っているという感じの迷惑な父親が本当にハマっていた。嫌なのに憎みきれない父親ができる役者はそういない」などの熱い感想が集まった、「Plant M」の樋口ミユの私戯曲的作品『紙の船、濡れながら大海を往く』を対象としました。

2位と3位は接戦となりましたが、得意の殺陣を活かしたノンヴァーヴァル演劇『猩獣-shoju-』を自ら企画・主演した「劇団壱劇屋」の竹村晋太朗が2位を獲得。愛する人を守るために異形の者となった男を熱演し、2014年下半期に続いて2位を獲得しました。「ダンスのような軽い殺陣が多い中、ちゃんと“あれなら人が殺せる”と思える殺陣ができる人。無言でも心情がしっかり伝わってくる演技面でも泣かされた」との声が出ていました。

3位は、作家・横山拓也のユニット「iaku」の『walk in closet』で、息子がゲイであることを知って苦悩しながらも受け入れようとする母親を演じた林英世。「もともと上手い女優さんだけど、こんな弱々しい姿を見たのは初めてかも。その中にも息子をかばおうと、強さを出してきたところが印象に残った」などの声が。ちなみに本作は「登場人物たちの関係の描き方と、予想外のキャスティングが素晴らしかった」とのことで、林以外にも3人の役者が話し合いの中で上がっていました。

作品部門ではTHE ROB CARLTONなどのルーキー勢の躍進が目立つ一方で、役者部門ではベテランが貫禄を見せる形となった今回のBest Act。話し合い参加者の間では、2016年は「まだ2ヶ月だけど、すでに面白い芝居が多い」との話が出てきたので、今年度のBest Actも楽しみです。

取材・文／吉永美和子

（2016年3月18日更新）