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最高のクオリティで俯瞰する
ライヒ・ワールドの40年
ミニマル音楽の軌跡~オール・ライヒ・プログラム~

アメリカを代表する現代音楽の旗手、スティーブ・ライヒ(1936~)。その作品を集めた演奏会が2月27日(土)、フェニックスホールで開催される。題して「ミニマル音楽の軌跡~オール・ライヒ・プログラム」。2009年のピューリツァー賞受賞作品である『ダブル・セクステット』を軸に、その初期から円熟期までを概観する貴重な企画である。
 
スティーブ・ライヒの音楽を特徴づけるミニマリズムとは、極度に切り詰められた音型の反復である。この反復が複数の楽器によって少しずつ形を変えながら進行していくことによって、その音響は揺らぎ、モアレ状に広がり、やがて聴く者は不思議な酩酊感に身を委ねることとなる。今回演奏される『ピアノ・フェイズ』はこうした初期の代表作だ。80年代、『ヴァーモント・カウンターポイント』に始まるカウンターポイント・シリーズでは反復される旋律線は増え、同一の楽器が複数の声部を同時に奏でることによって、スリリングな効果と独特の色彩感を生み出してゆく。まさに現代における都市の風景と合致したかのような響きはテクノやエレクトロニカといったジャンルの先駆として、現代音楽というジャンルにとどまらず、多くのフォロワーを生み続けている。
 
もうひとつ、ライヒの特徴として挙げられるのが録音媒体の使用である。今回の『ダブル・セクステット』では文字通り6人の奏者はあらかじめ同じメンバーによって録音された演奏とともにアンサンブルを繰り広げる。12人の奏者による“ダブル・セクステット”はすでに国内で演奏されているが、この形態での完全な演奏はおそらく初めてである。ライヒ自身の指示は両方の演奏を想定しているが、“こちらの方がはるかに難しい”と語るのは日本におけるライヒ演奏の推進者ひとり、ピアニストの中川賢一。電子音響のエキスパートである有馬純寿とともに、本公演の中心的な役割を担う。演奏はほかに現代音楽の演奏団体、アンサンブル九条山から若林かをり(Fl.)、石上真由子(Vn.)、福富祥子(Vc.)、上田希(Cl.)、畑中明香(Vib.)、そしてエレクトリックギターの山田岳といった顔ぶれ。現在考えられる最高の布陣で、広大なライヒ・ワールドの一端を明らかにする。

■世界でも珍しいライヒの40年を俯瞰するコンサート
                  ー 中川賢一(ピアノ)

 
ピアノとヴィヴラフォン、ヴァイオリン、チェロ、フルート、クラリネット。6人のセット×2で「ダブル・セクステット」。ライヒはこれを12人でやってもいいと言っているし、また一方のセットを完全に録音でやってもいいと言っているんです。僕はこれを2019年に読売交響楽団で12人で演奏したんですが、6人の生演奏と録音と合わせるのは初めて。この形でやるのは、おそらく日本で初めてのことになると思います。ライヒをプログラムに載せる難しさというのは、まず編成自体が特殊であるということ。それから多重録音など、従来のクラシックにはない表現方法が採られていて、とにかく手間とコストがかかるということにあるんですが、今回はエレクトロニクス音響のプロフェッショナルである有馬さんと一緒にすでに昨年の7月から録音も開始していて、本番と同じホール、同じメンバー、同じ楽器という絶妙な環境の中で時間をかけて取り組むことができている。グルーヴはもうロックやテクノに通じるものが生まれています。こうした最高の条件でライヒのほぼ40年間を俯瞰できるというコンサートは日本ではこれまでなかったし、世界でも非常に珍しいものになるのではないでしょうか。
 
■最高のクオリティのライヒになる予感
             ー 有馬純寿(エレクトロニクス)
 
僕はエレクトロニクスという聞き慣れないパート名になっているんですが、20世紀以降の現代音楽をやる時に電子音響を使う作品が音楽史の中には出てくるんです。そういう操作を専門にやる人が日本にはいなかったので、2000年前後くらいから本格的に演奏者として電子音響を担当する仕事を始めました。ライヒの曲というのは基本的に全部ロックやジャズのように楽器にマイクを立てて増幅してバランスをとりなさい、ということがスコアに書かれているので、そこで僕のような仕事が必要になってくるわけです。2009年にライヒが東京のオペラシティでの武満徹作曲賞の審査員として来日した時に僕は音響卓のところにいたんですが、ライヒは本番中に僕のところに来てここはちょっと上げろとかここはもう少し抑えてとか、審査員なのに指示してくるという出来事がありました。彼自身、日本でコンサートをやる時には必ず音響卓のところにいて、音楽はそこで決まるんだということを語っています。僕は何回かその現場に立ち会って彼が求めているバランスを理解していると思いますし、中川さんも僕も何が重要かというコツが分かっています。だから日本で最高のクオリティのライヒを聴いていただけるのではないかな…ということを、ちょっと大げさに言ってみたいと思います(笑)。



(2021年1月14日更新)


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2020年7月、『ダブル・セクステット』の録音パートの制作。フェニックスホールにて

ミニマル音楽の軌跡~オール・ライヒ・プログラム

2月27日(土)16:00開演
あいおいニッセイ同和損保
ザ・フェニックスホール 
全席指定:3,500円 Pコード 187-769

【プログラム】
スティーブ・ライヒ:
 ピアノ・フェイズ(1967)
 ヴァーモント・カウンターポイント(1982)
 エレクトリック・カウンターポイント(1987)
 ピアノ・カウンターポイント(1973/2011)
 ダブル・セクステット(2007)


【出演】
中川賢一(ピアノ)
若林かをり(フルート/アンサンブル九条山)
山田岳(エレクトリックギター)
石上真由子(ヴァイオリン/アンサンブル九条山)
福富祥子(チェロ/アンサンブル九条山)
上田希(クラリネット/アンサンブル九条山)
畑中明香(ヴィヴラフォン/アンサンブル九条山)
有馬純寿(エレクトロニクス)

【問い合わせ】
ザ・フェニックスホール・チケットセンター
TEL:06-6363-7999
(土・日・祝日を除く平日の10~17時)

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