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いずみシンフォニエッタ大阪版《大地の歌》誕生
豊かなイメージで描かれる生と死、善と悪の均衡
第43回定期演奏会「妙趣恍然!-大地の歌-」

近・現代の作品を主なレパートリーとしつつ、意欲的な演奏に取り組むいずみホールのレジデント・オーケストラ、いずみシンフォニエッタ大阪。2月8日(土)に行われる第43回定期演奏会はマーラー畢生の大作と、大阪生まれの現代作曲家、中村滋延の初演作品を組み合わせるというまたしてもユニークなプログラム、その名も「妙趣恍然!-大地の歌-」だ。

『大地の歌』は1908年に書かれたマーラーの9番目の交響曲。マーラー自身は9作品の交響曲を残して世を去ったベートーヴェンやブルックナーのジンクスを避けるため(?)この作品に交響曲としての番号を与えなかった。全6楽章のうち奇数楽章でテノールが、偶数楽章でアルト(またはバリトン)が歌うという管弦楽付き連作歌曲としての性格を持ち、ドイツの詩人ハンス・ベートゲが「超訳」(!)した中国の李白や王維の詩を元に、人生のはかなさと死によって永遠の大地に帰って行く魂が描かれる。変則的な3管にさまざまな打楽器が加わったこの作品を、1管編成といういずみシンフォニエッタ大阪のサイズで、しかもテノールとバリトンで(声質の対比からテノールとアルトの組み合わせが圧倒的に多い)演奏するという企画は常任指揮者・飯森範親が長年温めてきたもの。そのこだわりを実現するべく編曲はプログラム・アドバイザーで作曲家の川島素晴が担当。テノールに望月哲也、バリトンに大西宇宙という逸材を得て、いずみシンフォニエッタ大阪版《大地の歌》ともいうべき、新しい響きが誕生する。

そして前半に置かれた中村滋延の《善と悪の果てしない闘い 第一章》はその題名をインドネシア、バリ島の芸能「バロン・ダンス」の聖獣(バロン)と魔女(ランダ)の戦いから着想したという作品。「音楽自体はバリのバロン・ダンスの音楽とはまったく無関係である。しかし作曲に息詰まった際、自分が現地で撮影したバロン・ダンスの映像を見ると、不思議に筆が進むことがあった」と作曲者は語っている。善と悪の均衡にこそ豊饒の源を見出すバロン・ダンスに触発されて、音楽は自由な無調形式の中に相反する要素が対立し、拮抗し、均衡する様子を描き出すという。


生と死、善と悪、人の世を分かつ2元論が音楽によって調和し永遠の大地に帰る時、妙ナルソノ趣ハ、ヒトヲシテ恍然トセシムル。「妙趣恍然!」というタイトルはそんな風に考えてみても面白いかも知れない。命名はいずみシンフォニエッタ大阪音楽監督、西村朗による。
 

川島素晴〔編曲〕-ピアノ版とオーケストラ版をつなぐ関係を。
いずみシンフォニエッタ大阪は2011年に「マーラーへのオマージュ」(第26回定期演奏会)という特集を行っていて、その時は中丸三千繪さんのソプラノで『さすらう若人の歌』『リュッケルト歌曲集』からの編曲を私が担当しました。この度はこうした経験を活かすことのできる、非常に良い環境で作業ができたと思います。『大地の歌』の室内管弦楽版としてはシェーンベルク=リーン版が有名ですが、これは内声部の拡充のためにハーモニウムという楽器を使うなどある種苦肉の策が用いられています。今回はそうした方法に拠らずにいずみシンフォニエッタ大阪の響きにふさわしい『大地の歌』をお届けしようと思っています。実はマーラーはこの作品と並行して『大地の歌』ピアノ版を残していて、これはマーラーの死後80年を経て日本の国立音大で初演されたものなのですが、作曲はオーケストラ版と並行して行われています。私の室内管弦楽版によってオーケストラ版とこのピアノ版がつながるような関係を提示できたらと考えているところです。


飯森範親〔指揮〕-さまざまな葛藤が描かれたプログラム。
いずみホールは2020年に開館30周年を、そしていずみシンフォニエッタ大阪も創立20周年を迎えます。それにふさわしい記念となるような作品をということでわれわれはマーラーの『大地の歌』を選びました。マーラーという人は人生でいろんな葛藤を抱えながら、それを作品の中に描いてきた作曲家で、この作品にも善と悪、生と死といった問題が出てきます。それらは現在の世界の中でも僕らにさまざまな思いを突き付けて来ると思います。そしてこの善と悪の葛藤というものは前半に演奏する中村滋延さんの作品の中にも描かれていて、2つを併せて演奏することでなかなか面白いプログラムができたんじゃないかなと考えています。『大地の歌』は大編成の作品ですから、そのままの形ではいずみシンフォニエッタ大阪では演奏できません。室内管弦楽用の編曲もいくつかあるのですが、今回は川島さんのまったく新しい編曲に賭けています。ご期待ください。

DSC_1473-B.jpg         飯森範親(左)と川島素晴。いずみホールにて。




(2020年1月10日更新)


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 いずみシンフォニエッタ大阪
《第43回定期演奏会》「妙趣恍然!-大地の歌-」

「妙趣恍然!-大地の歌-」その前に。多彩な活動をご紹介
 《これが「いずみシンフォニエッタ大阪」だ!》


      【音楽監督】西村朗(C)東京オペラシティ 撮影:大窪道治


【常任指揮者】飯森範親(C)山岸 伸  【プログラム・アドバイザー】川島素晴


【テノール】望月哲也        【バリトン】大西宇宙(C)Dario Acosta
(C)FUKAYA Yoshinobu/auraY2

●2月8日(土)16:00開演(15:15開場)
15:30~ロビー・コンサート
15:45~プレトーク

いずみホール 一般-5000円(指定)
Pコード 160-369 チケット発売中

【プログラム】
中村滋延:《善と悪の果てしない闘い 第一章》
     (2015/2017世界初演)
マーラー(川島素晴編):交響曲《大地の歌》

【問い合わせ】
いずみホールチケットセンター■06-6944-1188

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■いずみシンフォニエッタ大阪・アーカイブプロジェクト

いずみシンフォニエッタ大阪の演奏は彼らのアーカイブ・プロジェクトから視聴することができる。これは楽曲ごとに収録した彼らの映像・録音を、Youtubeを通じてワールドワイドに発信する試み。2015年10月1日の配信以来、西村朗のオーボエ協奏曲『四神』世界初演の模様や飯森範親指揮、カーゲルの『フィナーレ』など、貴重な演奏が続々とアップされており、現・近代音楽に対する新たな取り組みとして世界の最前線から注目を集めている。

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