孤独な風景に秘められた悲しみと癒し
ミュンヘン国立音楽大学教授・今峰由香
「シューベルト最後のピアノ・ソナタ」を弾く
「ピアノは5歳から始めましたが、職業にできるとは思っていませんでした。だから私の場合はかなり遅くになって、人生のいろんなことが起こったという感じなんです」。そう語るのはピアニストの今峰由香。すでにヨーロッパで高い評価を収める彼女が、大阪と東京でリサイタルを行う。
今峰由香は大阪府吹田市出身。関西学院大学文学部卒業後、ミュンヘン国立音楽大学へ進んだ。「関西学院大学2年生の時に、ミュンヘン音大で夏期講習を受講したんです。そうしたらピアノの音が日本と全然違う。練習室も天井が高くて窓があって空気が澄んでいて、音に対する感覚がまったく変わるような体験でした。どうしてもここでピアノを弾きたい、と思って、卒業までの2年間を留学の準備に当てたんです」。93年、ドルトムントで行われたシューベルト国際コンクールに優勝。これを機にヨーロッパでの演奏活動を開始する。94年に最優秀の成績で卒業後は、数々の国際コンクールで成功を収め、2002年には母校・ミュンヘン国立音楽大学のピアノ科教授に就任している。巨匠、ハンス・フォン・ビューローが初代学長を務め、現在も多くの著名な音楽家を教授陣に数える名門大学に迎えられた、初めての日本人ピアニストである。
今回のリサイタルは「シューベルト最後のピアノ・ソナタ」と題され、ソナタ第20番、第21番を取り上げる。シューベルトが31歳9ヶ月でその生涯を閉じた1827年に書かれた作品であり、今峰が深く共感を寄せる作品でもある。「シューベルトの晩年というと『冬の旅』を思い出す人も多いと思いますが、まさにそこに通じる世界が描かれています。さすらいや孤独というのは、この時期のシューベルトとは切り離せないもので、それはもちろん病気の苦しみから来ているものなのだけど、このふたつのソナタには彼の心のうちの祈りや告白と言ったものがありのままに表現されています。それが私の惹かれる部分でもありますね」と今峰。そこには厳しい孤独と同時に、天上的なもの、美しいものに憧れるシューベルトならではの繊細な感覚があるという。「こうした音楽に触れることで、人はある種の癒しを感じることがあると思うんです。共感って言えばいいのでしょうか。現代に生きている私たちにも、絶望とか病気の苦しみとかは起こりうることですが、彼の音楽には時代を超えてそうしたものを癒してくれるようなところがあって、それがシューベルトの素晴らしさだと思います。とても規模の大きなソナタですが、その魅力をお伝えできるような演奏ができれば、と考えています」。
12月21日(木)大阪、あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール、12月22日(金)東京Hakuju Hall。詳細は右記を参照。
(2017年11月 2日更新)
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