新たなステージを迎えた円熟のデュオ
漆原朝子&ベリー・スナイダー
~ウィーンに愛された音楽家たち~
ヴァイオリニスト、漆原朝子とピアノのベリー・スナイダーが7月、東京と京都でコンサートを行う。これは、このデュオによる全国11箇所に及ぶ日本ツアーの一環。R.シュトラウスを中心に「ウィーンに愛された音楽家たち」と題してブラームス、シューベルトの作品を演奏する。R.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調は1988年、漆原がアメリカ・デビューを飾った際のプログラムでもある。今回、実に20数年ぶりに取り上げるという。
「当時はまだ学生でしたので、シュトラウスの管弦楽作品にもあまり触れないうちに、このソナタに突入しちゃったって感じでした(笑)。若い時期にあまりに集中して弾いたものですから、しばらく遠ざかってしまいましたが、その後、シュトラウスをオーケストラで弾く機会などもあり、このソナタを実感として自分の中に見出せるような感じが強くなってきたので、ぜひ、弾いてみたいと思ったんです」。
漆原朝子はそのように語る。控えめな口調ながら、この人は、世界各国のオーケストラと共演を重ねて来た名手。バロックから現代音楽まで、幅広いレパートリーを持つ。現在は東京藝大で准教授も務める。
「シュトラウスはドイツの出身ですが、ウィーンの国立歌劇場で長く音楽監督を務めた作曲家。このソナタが書かれたのは、ちょうどシュトラウスが交響詩を書き始めた年で、古典的なソナタ形式の中に華やかな管弦楽の響きが込められた作品です。シューベルトとブラームスにはすでに録音もあるのですが、あれから少し時間も経ちましたし、もっと深い演奏が出来ればと思っています」。
3月にはサン=サーンスとルクーを取り上げた新譜をリリース。20年来のデュオとなるベリー・スナイダーとの呼吸が絶妙だ。「私に合わせて変化し、また私を変化させてくれるような繊細なピアノ」と漆原は語る。
実に30年近いキャリアを経て、今もあなたをより高い音楽へと導くものは何ですか?とたずねてみた。
「作曲家が楽譜に書き残したいろいろな想いを、音にしてお客さまに届けるのが私の役目。演奏することによって作曲家とお客さまと私が時代を超えてひとつになれるというのは素晴らしいことだと思うんです。ですからそのより良いかたちを求めて行く気持ち、でしょうか。決して私を上手だ、と思ってもらうためではなくて、最大限に作曲家の想いを伝えるために」。
常に音楽の真髄に迫る演奏を届けてくれる漆原。この夏、その新たな境地を聴くことができるに違いない。
ぴあ株式会社 関西支社にて 6月
(2015年6月25日更新)
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