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黒澤組出身の小泉堯史監督が最大級の賛辞を贈る
「岡田さんには世界のミフネのようになってほしい」
現代人の心にも響く良質な時代劇『蜩ノ記』が公開

 直木賞を受賞し、時代小説としては破格の50万部を突破するベストセラーとなった葉室麟の秀作を映画化した時代劇『蜩ノ記』が、10月4日(土)よりTOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。本作は、ある罪によって10年後の切腹を命じられた幽閉生活中の主人公の秘密を、監視役として藩より送り込まれた武士の目線で解き明かしながら、夫婦や家族、そして師弟といった人と人の強い結びつきを温かく浮かび上がらせている。『雨あがる』の小泉堯史が監督を務め、深みのある人間ドラマを演出。また、本作が初共演となる役所広司と岡田准一の実力派共演も観逃せない作品だ。本作の公開にあたり、小泉堯史監督が来阪した。

 

 本作の映画化にあたっては、原作の激しい争奪戦が巻き起こったそうだが、監督は「登場人物にまず惹かれ、秋谷にも庄三郎にも織江さんにも会ってみたい」と思ったことが、映画化への強い意欲となったそう。また、小泉堯史監督といえば、『影武者』以降の黒澤作品で助監督を務めるなど、黒澤明監督の愛弟子として知られているが、監督は、「黒澤監督が常々「美しい映画を撮りたい」とおっしゃっていたので、僕たちは黒澤さんが向いていた方向と同じ方向を向いて、そこだけは間違えずに映画を作らなきゃいけないと思っています。そういう意味では、とてもいい原作に出逢えました。(黒澤監督作品で長く記録を務めていた)野上照代さんも原作を読んで「これは小泉ちゃんにぴったり」だとおっしゃってくれていました(笑)。」と原作への思いを語ってくれた。

 

 また、監督は「役者さんたちは皆さん芸達者な方ばかりですから、そこに日本古来の姿かたちの美しさを取り込むともっと素晴らしいものになると思いました。昔から「心は似せやすいけど姿は似せにくい」と言いますが、姿をきちんとすれば、心もついてくるんですよね。礼節をきちんと描けば、黒澤さんが言っていた“美しいもの”とも響き合うんじゃないかと思ったんです」と、黒澤監督からの影響を語ってくれた。そのために撮影前には役者たちに、小笠原流や書道の先生に習いに行ってもらい、その時代の本も読んでもらったそう。そして、「それは、その時代の人たちに自分の方から近付いてほしかったからです。過去を現在に引き寄せても、その時代の人は心を開いてくれないと思うんです。現代の人が想像力を働かせて近づいていけば、その時代の人は心を開いてくれるだろうし、そうなれば、両者の心が響き合って、映画を観てくださる現代の人の心にも響くものができると思いました」と、その理由についても語ってくれた。

 

 そう聞いて映画を観てみると、佇まいや空気感で見事にその時代の人物を体現していた主人公の戸田秋谷を演じた役所広司も、秋谷の監視役として藩から送り込まれたものの、秋谷の人柄に惹かれていく武士・檀野庄三郎に扮した岡田准一も、作品にぴたりとはまったキャスティングだと言えるのではないだろうか。キャスティングについて監督に尋ねてみると、「キャスティングはすごく大事です。黒澤さんも「映画はシナリオとキャスティングだ。これを間違えるとどんなに腕のいい監督でもだめだ」と、よく言っていました。私は、それを間近で見ていましたから(笑)。キャスティングは映画の肝ですよね」とのこと。

 

 その肝となった役所と岡田は、意外にも初共演。二人のキャスティングについて聞いてみると、監督は「役所さんに秋谷をお願いすることは一番に決めました。秋谷は、オーケストラで例えればコンサートマスターですから、芯がしっかりしていないと。また、キャスティングというのは、直感的な部分もあるんです。岡田さんは、初めてお会いした時に、彼の一途な眼差しやキラキラした目を見て、「庄三郎がここにいる」と感じました。また、現場での二人の関係性も映画にとって非常に良かったと思います。岡田さんが役所さんのことを俳優として非常に尊敬していることがこちらにも伝わってきていましたし、岡田さんは(役所さんから)何でも吸収しようとすごく意欲的で、自分が出ていない役所さんだけのシーンの撮影をこっそり見に来ていました。それがそのまま映画の中に二人の関係性として現れていると思います。役所さんの芝居を邪魔しないように、気が付かれないように見ていた岡田さんの姿が印象的でした」と、二人の印象を語ってくれた。

 

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 そして、監督は「映画は準備が一番大切だ」と常々言っていた黒澤監督からの教えに習い、衣装やかつらなどの準備にもこだわったそうだが、特に岡田については、準備段階から監督も驚きの連続だったよう。「岡田さんは自分の家でも衣装を着ていたんじゃないかと思います。初めての稽古の時に、彼が袴などの稽古着を持っていなかったので、僕が差し上げたんです。最初の稽古の時は、帯もゆるゆるでしたが、2回目以降は帯がゆるむことなど一切なく、ぴしっと着こなしていました。1回ではそこまでできないので、陰で随分練習していたんだと思います。劇中に登場する居合も道場で教わったよりも、本番の方がはるかに上達していました。居合の型の組み立ても、実は岡田さんご自身が考えたんです。この若さでここまでできる方は、中々いないと思うので、今後は、世界のミフネみたいになってほしいですよね」と、黒澤組出身の監督ならではの最大級の賛辞を贈っていた。

 

 小泉監督が黒澤監督と出会って、大きく人生が変わったように、劇中で岡田演じる庄三郎は、役所扮する秋谷と出会い、大きく人生が変わっていく。それをまさに体現するかのような師弟関係が役所と岡田の間に生まれたからこそ、登場人物たちの心の動きに寄り添うことができる、美しい時代劇が誕生したのだろう。また、本作は近年では珍しくフィルムで撮影されている。フィルムだからこそ映し出すことができた、日本の農村の豊かな自然と、俳優たちの心の動きに寄り添うことのできる物語を、ぜひスクリーンで堪能してもらいたい。




(2014年10月 3日更新)


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Movie Data





©2014「蜩ノ記」製作委員会

『蜩ノ記』

●10月4日(土)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開

出演:役所広司/岡田准一/堀北真希/原田美枝子
   青木崇高/寺島しのぶ/三船史郎/井川比佐志/串田和美
監督:小泉堯史
原作:葉室 麟「蜩ノ記」 (祥伝社刊)
脚本:小泉堯史/古田 求

【公式サイト】
http://www.higurashinoki.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/162194/