『ほとりの朔子』の深田晃司監督最新作
~深田監督が挑む地域発信映画。
その想いと地域映画の可能性は?~
『いなべ』(同時上映『ざくろ屋敷』)が公開に
『歓待』(10)、『ほとりの朔子』(13)と独自の視点で人間の深部を描き続ける深田晃司監督の最新作『いなべ』が、7月19日(土)より大阪九条のシネ・ヌーヴォにて公開される。同時上映されるのは静止画アニメーションとナレーションで文豪バルザックの短編を初映画化し、フランスのバルザック研究者たちに大絶賛された幻の名作『ざくろ屋敷』(06)。あまり観る機会のない、中編映画の魅力が凝縮された2本を堪能できる絶好の機会となるはず。
今回関西初上映される『いなべ』とは、沖縄国際映画祭の地域発信型プロジェクトにより制作された「地域発信映画」の1本。しかし本作を手がけた深田監督は「地元の方だけが喜んで終わってしまう地域CM的な“地産地消型”の地域映画ではなく、できるだけ他者性を持ち、一般的な作品のように映画ファンが観て面白いと思ってもらえるものを作りたい。結果的にその方が地域発信映画としても、地域映画としても成功するはず」と考え、「死を想う」、「人の孤独」という普遍的なテーマを軸に物語を構成したという。
17年ぶりに赤ちゃんを連れて帰郷した姉と地元で暮らし続けている弟・智広を中心に展開していく物語では、三重県いなべ市の豊かな自然や、鉄道マニアにはお馴染みの黄色いボディの鉄道、三岐鉄道北勢線が登場。地元の語り部の方から見聞きした古いわらべ歌や地元のエピソードを編み込みながら、姉が帰郷した理由が徐々に解き明かされていく。主演の智広を演じるのは、本作が初主演作となるお笑いコンビ・ハイキングウォーキングの松田。直子役の倉田あみとほぼ二人芝居のような本作で自然体の演技を披露している。また、相方のQ太郎をはじめ、笑い飯の西田と哲夫や、ほんこんといった吉本芸人の面々が思わぬシーンで登場するのも楽しみの一つだ。本作は中編映画(38分)だが、長編映画ではあえて避けてきたという「オチの強い話」になっていることにも注目したい。
今回初めて地方で映画を撮ったことについて深田監督は、「まだまだ映画に撮られていないいい場所があるなと実感した。東京から地域に撮影しに行くというと、ややもすれば地域を利用して映画が作られている感が拭えないが、その映画が地域に何を還元するかということを考えながら撮りたい」と語り、タイトルを地名の『いなべ』にしたのも「映画の内容自体は地元の宣伝もしないし、地元の名前も出てこないが、このタイトルにすることによって、映画が上映されたり宣伝されるたびに、『いなべ』という地名が拡散する。このタイトルにすることで自分にとっての地域映画が完結する」とタイトルに込めた想いを明かしてくれた。
映画を観るのも撮るのも都市圏に限られてしまっている弊害として「地域に乗り込んで映画を作る人たちは、最初から地元の方の芸術的リテラシーを低く捉えて作ってしまいがち。“分かりやすく作らなくては”“大衆性を持たせなければ”と、こちらからリテラシーの低いところに合わせてあげるといった傲慢な態度が感じられる」と地域映画の現状に触れた深田監督は、今回『いなべ』を撮るにあたり、地元の方にやりたいことを最初から説明し、理解してもらえ、同じゴールに進めた手ごたえを感じたという。「今は映像の仕事も都市部に集中しているが、こうして地域で映画を作ることが増え、地域で映画を観る人、撮る人が増えていってもらえるのが理想」と締めくくった。深田監督流地域発信映画を是非体感してほしい。
同時上映される『ざくろ屋敷』は、深田監督曰く「『いなべ』同様に、僕の中でずっと昔からあるテーマ“人が死ぬ”ということ、誰かが死ぬことで“孤独を知る”ことを描いた作品」。ざくろ屋敷の舞台であり、バルザックも住んでいたという現存の家を取材し、完全映像化したことで、パリにあるメゾン・ド・バルザック(バルザックの実家で、現在バルザック研究の拠点となっている)に日本人で初めて招聘され、上映、講演、原画展、記念写真集も出版された。大阪では《大阪アジアン映画祭2011》の、<Director in Focus: 深田晃司という才能>という特集で上映されて以来の貴重な機会となる。文学の息吹を感じる必見作だ。
また、『いなべ』&『ざくろ屋敷』の公開を記念として、演出家・平田オリザ率いる劇団 青年団の役者たちが3部構成で繰り広げる、深田監督らしさが際立つ群像劇『東京人間喜劇』も7月26日(土)よりシネ・ヌーヴォXで1週間限定で上映される。一番やりたいことを好き勝手にできたという深田監督曰く「人を嫌な気持ちにさせる部分ばかりで構成されている映画」という異色作。久々となる大阪上映をお見逃しなく!
【上映情報】
●7月19日(土)より、シネ・ヌーヴォにて公開
※7月26日(土)~8月1日(金)は、
シネ・ヌーヴォX で『東京人間喜劇』上映あり。
『いなべ』の半券提示で1000円。
(2014年7月18日更新)
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