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全14話、15時間の圧倒的体験!
ドイツ映画研究者のシブ先生こと渋谷哲也に聞く
鬼才、R・W・ファスビンダーの超大作
『ベルリン・アレクサンダー広場』
デジタル・リマスター版のみどころとは?

 1982年に45本の監督作品を遺して37歳でこの世を去ったニュー・ジャーマン・シネマの代表的作家、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー。没後30年を過ぎてもなお根強い支持を集め、昨年には『マリア・ブラウンの結婚』『ローラ』『マルタ』の三作が『ファスビンダーと美しきヒロインたち』と題され全国公開スタート。京都での『あやつり糸の世界』爆音上映も記憶に新しく、リバイバルの気運は高まり続けている。これを受けるかのように、アルフレード・デーブリーンの同名長編小説を14話にわたりテレビ映画化した集大成的作品『ベルリン・アレクサンダー広場』(1979/80)が、6月1日(土)より、京都の元・立誠小学校特設シアターで公開される。

 

 少年時代に愛読し、多大な影響を受けた前衛小説をもとに晩年のファスビンダーが脚本を執筆した物語は、主人公フランツ・ビーバーコップの刑務所出所で幕を開ける。第一次大戦の敗北後、混乱、不穏化する一方で文化の爛熟期を迎えた1920年代末のドイツ・ベルリン。第二次大戦とのはざま、揺れる時代の大都市をさまようフランツに訪れる数々の受難。監督自身の内面を投影した登場人物たち、裏切り、同性愛、退廃、メロドラマ、演劇性などファスビンダーらしいエレメントを組み合わせ、人と都市と歴史との交錯を描き切った超大作だ。全14話の上映時間を合計すると15時間に及ぶ。約10年前にも公開されてはいるが、今回はデジタル・リマスターに伴い字幕も新しく作成、アップグレードした『ベルリン・アレクサンダー広場』に触れることができる。

 

 元・立誠小学校特設シアターでは公開初日の午後2時20分頃から、『ベルリン・アレクサンダー広場』以外にもファスビンダー作品の字幕を手がけてきたドイツ映画研究者・渋谷哲也(兵庫県出身)のトークショーを開催。関西公開を前に、日本のファスビンダー研究の第一人者であり、日々ファスビンダーのために東奔西走する通称“シブ先生”に『ベルリン・アレクサンダー広場』の“案内”をお願いしたところ、超大作ゆえ取材時間は膨大なものに・・・。今回はその一部を紹介したい。

 

 最初に挙げてくれたみどころは、連続ドラマとしての完成度。「第2話から13話まではいずれも58~59分。毎回違った見せ場があってムダな繰り返しがない。少しずつズレながら、段々おかしくなってゆく(笑)」。手堅くまとめた第1話と、混沌を極める第14話とのコントラストは強烈だが「そこに辿り着くまでのドラマは丁寧に作られている。やっぱりテレビ向けに作ったので話自体は追いやすいです」。デジタル・リマスターの効果も高い。「約10年前の上映時に比べて明るさ、色の鮮やかさの違いが一目瞭然。音もクリアになってるから、こんなに色んな音を重ねてあったのかと驚いた。野外での同時録音が少なく、スタジオで設計された音響効果には劇場のスピーカーでないと反応しきれないのでは?」。かつても字幕を作ったシブ先生、新しい字幕については「ほんとは話すと一晩かかるんですけど(笑)」と前置きした上で「元のシナリオはファスビンダーが一気呵成に書き上げたため、ところどころ言ってることが違ってたりするんです。ファスビンダー自身の間違いなのか、主人公の思い違いという効果なのかが判然としない。そういう妙に歪んだ、変にズレてるところを出したいと思って直しました」。観て疑問に思うかもしれない箇所も実は「原典に忠実」。映像、音響だけでなく字幕でも、“生”の形に近づいたということだろう。同世代のドイツの映画監督、ヴェンダースやヘルツォークと比較してもセリフに重点を置くファスビンダーの作品を観る上で欠かせないファクターだ。

 

 さらに字幕制作の観点から「ファスビンダーの脚本自体、原作小説に意外と忠実で、セリフのやりとりもそのまま残しているところがある。つまりテクスト(=言葉)は同じなのに、小説と映画とで印象がまったく異なるのが不思議。これは原作をそのまま再現したかったんじゃなく、テクストを借りて自分が表現したいもの、自身の精神を映画に入れ込んだ結果なのでは」と分析。十代で深く接し、後のファスビンダーの創作に決定的な影響を及ぼした小説だけに「たぶん若い頃に映画化してたらもっと原作に引っ張られ過ぎてたでしょう。血となり肉となったものと、何十作もの映画製作を経て改めて向かい合えたからこそ、オリジナルをなぞっても自分のものにできた」。45本のフィルモグラフィーを見渡して「出すべきエネルギーをここで出し尽くしたのかも」とも推測する。「たとえば“社会派”とか一言では括るにははみ出してしまう、それ以上の何かを持ってるところがいい」、「内にある狂気を絶えず客観視する視点を最後まで持ち続けていた」、「こんな変わった人も滅多にいない(笑)」など、ファスビンダーの魅力を語るシブ先生の言葉は尽きないが、『ベルリン・アレクサンダー広場』を一言で表現してもらうと「入門編にして頂点」。となれば観るしかないが、問題は合計15時間という上映時間の長さ。観る側もマラソンに似た覚悟が必要だ。最後に“完走”のコツを訊ねた。「連続ドラマ、積み重なってゆくものなので、できることならまとめて観た方がいいですよね。二、三日ぐらいに分けてとか。通しで観る流れの面白さは大きい。でも時間を作るのがネック。その場合はとりあえず少しずつ観てもらう“お試し”もありです。さっきも言った通り、全体のストーリーラインは追いやすいし、間隔を置いて細かく観るとディティール、工夫や作り込みに気づくことがある。だから何度噛んでも美味しい(笑)。どういう見方をしてもOKな様に作られてますよ」と締めくくってくれた。

 

 公開初日のトークではシブ先生のより詳しい“広場案内”を聞けそうだが、その前日、ファスビンダーが生きていれば68歳の誕生日にあたる5月31日(金)に、ゲストに石橋英子、中原昌也らを迎えてUstream配信(『ファスビンダーを祝う会(仮)』http://www.ustream.tv/channel/fassbinder)。開始予定時間は午後9時半前後。アーカイヴも視聴できるので、ファスビンダー作品ならびに『ベルリン・アレクサンダー広場』への入口に最適だ。

 

 生前のインタビューをまとめた書籍も発売。再評価が進む中、デジタル・リマスターされた『ベルリン・アレクサンダー広場』を通して新たな、あるいは“まだ見ぬ”ファスビンダーに出会ってほしい。元・立誠小学校特設シアターでは、9日(日)午後2時30分ごろからも映画監督・濱口竜介、映像作家・高木駿一たちによるトークが行われる。京都の後は、大阪十三・第七藝術劇場、神戸・元町映画館で順次公開予定。

 

(取材・文:吉野大地)




(2013年5月30日更新)


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『ベルリン・アレクサンダー広場』

●6月1日(土)より、京都の元・立誠小学校特設シアター

【『ベルリン・アレクサンダー広場』公式】
http://www.ivc-tokyo.co.jp/berlinalexanderplatz/

【元・立誠小学校特設シアター】
http://risseicinema.com/

【トーク詳細】
http://risseicinema.com/archives/660


<関連情報>

●原作:アルフレード・デーブリーン
『ベルリン・アレクサンダー広場』(河出書房新社)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309205946/

ファスビンダーを祝う会

5月31日(金)21時半頃~
「ファスビンダーを祝う会」配信予定。
【出演】渋谷哲也/石橋英子/中原昌也/他(予定)



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