インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > OSK日本歌劇団のトップスター・翼和希が振り返る「悔しい経験」 それでも気持ちを前向きにして挑んだ若手時代 「この状況で得られるものはなんだろう、と頭を切り替えました」

OSK日本歌劇団のトップスター・翼和希が振り返る「悔しい経験」
それでも気持ちを前向きにして挑んだ若手時代
「この状況で得られるものはなんだろう、と頭を切り替えました」

2024年9月2日にOSK日本歌劇団のトップスター就任が発表された、翼和希。同年10月の岩国公演から2025年4月の南座公演までトップスター就任記念公演もおこなわれ、103年の歴史を誇るOSK日本歌劇団の新たな1ページの幕開けを飾った。そんな「トップスター・翼和希」のお披露目公演となる「レビュー 春のおどり」が、6月14日(土)から24日(火)まで大阪松竹座にて開催される。そこで今回は、翼に同公演にかける気持ちや、トップスターとして歩む今後のことなどについて話を訊いた。

「春のおどり」は、OSK日本歌劇団にとって非常に大切な名物公演。2003年5月、OSKは劇団解散危機と直面。当時の劇団員らは「OSK存続の会」を立ち上げ、街頭での署名活動などを実施した。そして復活を果たしたのち、「OSK再生」が高らかに宣言されたのが、当時66年ぶりに大阪松竹座で上演された2004年の「春のおどり」だった。

さまざまな歴史が刻まれた「春のおどり」。この翼のトップスターお披露目公演では、「異なることを恐れず大きく羽ばたく」という翼の名前に込められた思いなどが表現される第一部「翔 〜Fly High〜」(構成・演出・振付:花柳寿楽)、伝統的でエレガントなレビューシーンやこれからの"希"望あふれる未来へ繋がるフィナーレなどが注目の第二部「The Legendary!」(作・演出:中村一徳(宝塚歌劇団))の二部構成となっている。

お披露目公演にふさわしい内容について、本人も喜びながらも「今回は新しいOSKメンバーのお披露目公演でもあると思っています」と新人たちのがんばりを見ることができる場でもあると話す。翼自身も2013年4月に日生劇場で開催された「春のおどり」で初舞台を踏んだ。そのときのことについて「お恥ずかしい限りなのですが、あまり記憶がないんです。大きな舞台が初めてで、いろんな物事に追われ、必死すぎたので。失敗は許されない気持ちがあったので、ぎりぎりまであちこち走り回っていろんなことを勉強させていただいていました」と振り返る。

がむしゃらに駆け抜けた新人時代。翼は、今の新人たちにも「きっとたくさんの悩みを抱えることになるはず。悩みがないのは良くないし、いっぱい悩んで頭を打った方がいい。それが次の自分の成長に繋がるので」とエールをおくる。もちろん翼自身も、悔しい経験をたくさんしながらここまでやってきた。思い出に残っているのが5年目、大阪松竹座のメンバーから外れたこと。別の劇場での活動が中心となったことで、「大阪松竹座への思い入れがとても強かったので、ショックを受けたのが正直な気持ちでした」と本音を明かす。それでも「『この状況で得られるものはなんだろう』とすぐに頭を切り替えました。少人数口になったからこそ、時間をかけて物事を考え、お稽古に打ち込むことができました。自分たちで生み出す苦しさと楽しさもありました。ですので、当時はショックを受けたけど、あの経験がなければ今の自分はありません」と言う。

時は経ち、劇団員を牽引する立場になった翼。トップスターとして心がけているのは、「舞台に対して前向きで、風通しの良い稽古場を作ること。下級生たちのいいところは、ちゃんと『それ、いいね』と言ってあげたい」ということ。下級生にも積極的に声をかけるなどして後押ししたいと話す。「先輩たちから『いいね』と言われたら、『よし、もっと良くしていこう』という思考になると思います。私もかつて、先輩のみなさんから褒めてもらえたことで『ここを見てくれていたんや』と嬉しさを覚え、励みにしてがんばれましたから。ダメなところを直すのは絶対に必要だけど、自分の得意を伸ばして苦手をカバーすることも大事ですから」。

さらに「そうやって生まれたそれぞれの上昇気流も、バラバラなところに飛んでいってしまうと、総合芸術の舞台として成り立たない。私の役割はその中心で、いろんな上昇気流を一つにまとめていくこと。群舞など、まわりと揃えるべきところはちゃんとやらなきゃいけない。だけど、個々のエネルギーまで遮断する必要はない。むしろどんどん出していくことを意識してもらいたい。個々のエネルギーが強烈に見えるところこそ、OSKの良さなので」と、自分が持つパワーを存分に出してほしいと呼びかける。それでも、自分なりにどれだけ努力しても結果が出なければ落ち込んでしまうもの。モチベーションをキープするにはどうしたら良いのだろうか。「マイナスに考えることが『ダメ』とは言いません。むしろそれは大事なこと。『これはダメだな、じゃあどうしようか』と自己分析になりますから。でも、ずっと引きずるのは違う気がします。もしも落ち込んでしまったら『自分はこれが好きだからやり始めたんだ』と、根底の『好き』を見つめ直してほしい。人は経験を積んでいくと、純粋に『好き』と思えていた頃の自分を忘れがち。壁にぶち当たってただただ『うまくいかない、しんどい』ではなく、そんなときこそ原点の『好き』に立ち返ってみるんです。私も、『もともと歌劇が好きだったんだし、こうやって舞台に立てるだけで幸せじゃないか』と考えるようにしていました。そうやって『好き』を原動力にしているからこそ、歌詞や振付も『誰よりも早く覚えたろうやないか!』と前へ進むことができています。『好き』はいろんなエネルギー源になります」。

2023年には、OSK出身の昭和の名優・笠置シヅ子をモデルにした主人公の半生を描いた連続テレビ小説『ブギウギ』が放送。翼をはじめとする劇団員も出演し、反響を集めた。朝ドラ効果もあり、OSKの公演ではそれまで以上に幅広い客層が見られるように。もともとのOSKファンはもちろんのこと、『ブギウギ』で同劇団のことを知った人たちもきっと、翼のトップスターお披露目公演「春のおどり」に期待するものは大きいはず。翼も「お客様に感謝を伝える場にしたい」と意気込む。「みなさまがご覧になっていた『ブギウギ』の世界から100年後にあたるのが、現在です。『春のおどり』ではきっといろんな劇団員がピックアップされ、さまざまな演出もあるはず。なにより今回の公演では、花柳寿楽先生、中村一徳先生、そして私たち劇団員も新しい挑戦をしたいという思いを強く持っています。今のOSK、そしてこれからのOSKを応援していただけるものをお見せしたいです」。

取材・文/田辺ユウキ




(2025年6月 2日更新)


Check

松竹創業百三十周年 OSK日本歌劇団 レビュー春のおどり

第一部『翔~Fly High~』
第二部『The Legendary!』

チケット発売中 Pコード:533-584
▼6月14日(土)~24日(火)
(月)(水)(金)(日)11:00/15:30
(火)(土)11:00
※6/21(土)・24(火)11:00/15:30。6/23(月)11:00。
※貸切=6/14(土)15:30。
大阪松竹座
一等席-10000円 二等席-5000円 
[作・演出](第一部)花柳寿楽 /(第二部)中村一徳
[出演]翼和希/他
※4歳以上チケットが必要。日時・席種により取り扱いのない場合あり。本公演チケットを「チケット不正転売禁止法」の対象となる「特定興行入場券」として販売いたします。興行主の同意のない有償譲渡は禁止いたします。
[問]大阪松竹座■06-6214-2211

チケット情報はこちら