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モンスターは桂米朝!?
ダークファンタジーの傑作で
謎めいたモンスターを演じる山内圭哉にインタビュー

2016年には『怪物はささやく』の邦題で映画化もされた、英国の大ヒット児童文学『モンスター・コールズ』。舞台版は2018年に英国で初演、翌年のローレンス・オリヴィエ賞で「Best Entertainment and Family」(現:Best Family Show)を受賞するなど大評判となった作品だ。その2018年初演時の演出家サリー・クックソンと英国クリエイティブチームを迎え、日本では2020年に上演予定だったが、新型コロナウイルスの影響で上演延期が決定。今年、4年越しに待望の日本公演が実現した。佐藤勝利扮する主人公、コナー・オマリーの元にやってくる謎めいたモンスターを演じる山内圭哉に、作品の魅力や創作に関するエピソードを聞いた。

――役名が「モンスター」というのはインパクトがありますが、この役が来た時はどう思われましたか?

「なるほどな、そうやろうな」と思いました。他にも候補にあがった方はいらっしゃるのでしょうが、多分......わりと早い段階で自分の名前があがったんじゃないかなと思います(笑)。「モンスター役......来るよな」と。

――ご自身でも納得の配役だと(笑)。とはいえ、山内さんなのでもっと面白い味も出されるのかなと思ったら、思った以上にシリアスなモンスターでした。

それは、そもそも「なんでモンスターやねん!」というところがあるので(笑)。デフォルトがふざけた存在だからさらにふざける必要がないというか。

――稽古をしていく中で「思っていたモンスターと違うな」というようなことはあったのでしょうか。

そもそもイギリスの作品で、イギリスの演出家の方とお仕事をするのが初めてなので、今までの自分の経験に落とし込んで対応していくつもりがなかったんです。だから最初から自分の思惑は入れず、初めてのことを体験しようとフラットに挑みました。

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――では、このモンスターという役を演出のサリー・クックソンさんと共に、どのように作っていかれたのでしょう。

サリーさんという演出家は、ディスカッションの時間をたくさん取ってくれる方なんです。本読みをしながら「このセリフの意味は何なんだろう」「なぜモンスターが出てくるのだろう」と話し合い、意見を交換しながら作ってくださる。そして僕の演じるモンスターが何をするかというと、コナー・オマリー少年に物語を聞かせるんです。「俺が3つ物語を話すから、その後でお前が自分の物語を話せ。でもそれは真実じゃないとダメだ」というルールの中で。でもモンスターが語る話はなかなか奇妙で、納得できない物語ばかり。それが僕は面白いなと思って。......で、僕の中では、もうこれは桂米朝さんだなと。

――なんと!?

いや、口調をまねたりするわけじゃないですよ、なぜそうするのかというモチベーションが噺家だなと思って。モンスターは古いイチイの木なのですが、その木は何千年もそこに立っていて、色々なものを見ていて、過去も何度か誰かのために動いたことがある。そして今は、コナー少年を見ていて「こいつ、どの話が気に入るかな、どの話を聞かせたろかな」と思って夜な夜な出てくる。これ、米朝師匠でしょ?

――うーん......?

サリーさんにも「桂米朝という人間国宝がおったんですけど、僕はその米朝師匠のつもりでやっています」と言ったらポカンとしていました(笑)。まあ東京で言ったら談志師匠でもいいのですが。これ、ウケようと思って言っているのではないんですよ。モンスターが話をするのは人間の業の肯定だと思うんです。それを日本に落とし込むのなら落語だなと思った。落語も人間の業の肯定じゃないですか。さらにある種、ただただ人を楽しませるために噺をするという噺家はモンスターでもある。それが今回の役に通じるなと思ったんです。

――ではコナーに対して何かを働きかけようというものではなく?

いや、それはあります。というか、コナーがいるから、出てきた。自分を求めているお客さんがコナーなんです。実はコナーという少年は、放っておくと自死する可能性が高い。下手したらお母さんより先に死ぬ。だからモンスターが出てきたんです。モンスターも「私が動き出すのは、生死に関わる問題の時だけだ」と言っています。......死ぬほど辛いことがあったらわろたらええやん、というのも芸人の考え方でしょ。だからやっぱりこのモンスターって、多分コメディアンですよ(笑)。

――私は、モンスターはコナーのイマジナリーフレンド的存在かと解釈していましたが。

あまり解釈を特定していないのですが、確かに僕も最初はそういうイメージを持っていました。でもサリーさんと話していると「そうじゃない」と。僕がイマジナリーフレンド的な考え方を提案したら「それはすごく面白い考え方ね」と言ってくれましたが、「本当にいるモンスターが現れたんだ」という感覚の方が強いみたい。やっぱり僕らとまったく違う自然と触れていますから、おのずと感覚が違ってくる。これは翻訳もの、海外作品の難しさです。日本ではイチイの木と言われてもピンとこない方もいらっしゃるだろうし。そういうディテールを共有するのには丁寧なディスカッションが必要で、その時間を大事にして作っていきました。

――とはいえ「身近な人の死」という内容は万国共通です。

誰しもが共感できるところがあると思います。これは"あるある"話なんです。その"あるある"にモンスターが出てくるから、ややこしい(笑)。そこが面白いところでもあるのですが。語弊を恐れずに言えばこの物語は「人は死ぬ。だからちゃんとお別れをしようね」というだけの話。でもそれが、仏教で言うところの「生者必滅、会者定離」を問いかけてくるんです。物語の終盤でコナーとおばあちゃんが、病院に向かう車の中で会話をするシーンがあって、僕そこがすごく好きなんです。「あんたと私、全然ソリが合わないよね。でも共通項がある。それはあんたのお母さんだ」とおばあちゃんが言う。しごく当たり前のことを確認し合うんですよ。家族だからこそ見失っている何かがあって、それでもあんたと私は家族として繋がっているんだと。サリーさんは"コネクト"が大事だとおっしゃっていました。それはこの物語だけに必要なことなのではなく、人が生きていく上で大切なことだと。この『モンスター・コールズ』という児童文学をサリーさんが演劇にしたのは「人と人の繋がりって何だろう」「私たちは繋がれているのだろうか」ということを問いかけているのだと僕は思います。

――"コネクト"ですか。

はい。サリーさんは稽古中にもよくこの言葉を使っていました。演出的にも、全員が常に舞台上にいて、僕ら俳優同士も繋がっていないといけない。そして内容としても、あなたは大切な人を亡くす時にきちんと送り出せましたかと問われたら誰しも思うことはありますよね。でもそれは死ぬ時だけではなく、生きている時の"コネクト"も問いかけられているんだなと思う。だからこれ「すごく可哀想な男の子の話」と観ると、すごくもったいないなと思うんです。人として大事なものを突き付けられる話なので。

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――サリーさんの演出も面白いですね。山内さんはフライングで宙に浮くシーンも多い。

宙を飛ぶ演出は演劇では珍しくありませんが、これはほぼ人力で飛ばしている。つまり滑車のように、一方の人が高いところから飛び降りたら反対側の人が浮く、という。この仕組みもまさに"コネクト"です。サリーさんが初演時に、本来舞台裏で起こっていることも全部舞台の上で起こし、それを全部見せたいとこだわった部分だそうです。フライング一つとっても、とても人間臭い。

――ロープが木に見えたりするのも演劇的で、観ていてワクワクしました。

見えないものが見える、というのはお客さんが演劇に参加してくれているということで、素晴らしいですよね。だからこれ、演劇好きの人が観ても見応えあるだろうし、逆に「今回初めて演劇を観る」という方も楽しんでくれているようです。本当に色々な人に観てほしいんですよね......。イギリスでは終演後にお客さんが立ち上がれず、みんなが帰らないから劇場主から「延長料金を支払ってもらう」と言われたそうです(笑)。みんな身につまされちゃうんですって。そういう意味で、お客さんがビビッドに反応してくれる大阪公演が楽しみです。逆に「なんやこれ! ホラーだと思ったのにホラーちゃうやん!」という声が聞こえてくるのでもいいけど(笑)。

――そして主人公コナー役の佐藤勝利さんとは初共演ですね。

はい。彼は思いのほか"毒"のある子で、だからお芝居に向いていると思う。毒があるというのはツッコミ気質だという意味で、それはつまり俯瞰して物事を見ているということなんですよ。そういう人は、僕個人としても付き合いやすく、芝居がしやすい。まだそこまで演劇経験が豊富というわけではない段階で、共感できる役をやれるというのは彼にとっても幸せなことなんだろうなと思う。コナーは勝利くんがやるべき役だなと思います。

取材・文:平野祥恵
撮影:御堂義乘




(2024年3月 6日更新)


Check

『モンスター・コールズ』

【STORY】

物語は13歳のコナー・オマリーが主人公。彼は窓からイチイの木が見える家で母親と二人暮らしをしているが、母は闘病中で、気の合わないおばあちゃんがコナーの世話をしにきている。学校では母の病気がもとでいじめられている。そんなコナーのもとにモンスターがやってくる。「これから三つの物語を聞かせる、私がその三つの物語を語り終えた時、お前が四つ目の物語を私に聞かせるのだ。そして、それはコナーが隠している真実でなければならない。お前は真実を語る、そのために、お前は私を呼び出したのだ」と―――

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:523-312
▼3月8日(金)13:00
▼3月9日(土)12:00/17:00
▼3月10日(日)13:00
▼3月11日(月)13:00/18:00
▼3月12日(火)休演
▼3月13日(水)休演
▼3月14日(木)13:00
▼3月15日(金)13:00/18:00
▼3月16日(土)13:00
▼3月17日(日)12:00/17:00
COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
全席指定-14000円 U-18チケット-9000円(観劇時18歳以下対象、要身分証(原本のみ有効)、当日指定席引換券)
[出演]佐藤勝利/山内圭哉/瀬奈じゅん/葛山信吾/銀粉蝶/他
※未就学児童は入場不可。出演者変更に伴う払戻し不可。本公演チケットを「チケット不正転売禁止法」の対象となる「特定興行入場券」として販売致します。本公演のチケットは主催者の同意のない有償譲渡が禁止されております。車いす席をご利用のお客様はチケットをご購入の上、事前にお問合わせ先にご連絡ください。2枚以上でご購入されたお客様は、状況によっては連席でご案内できない場合がございます。出演者変更に伴う払い戻し不可。公演中止を除き、払い戻し不可。政府または地方自治体の取り決めにより、運営方針が変更となる場合がございます。会場での感染予防対策の詳細は、随時公演公式サイトにてご案内致しますので、ご確認ください。
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