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「歌と歌詞だけでは辿り着けなかった」
大宮エリー×鈴木杏×ハナレグミによる『家族の風景』

作家で画家の大宮エリーが作・演出を手掛け、ミュージシャンと役者とのコラボで生み出す舞台『LIVE×LIVE SING IN THE STORY』が、12月11日(土)・12日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼにて上演される。2009年に東京で上演され好評を博した作品の12年ぶりの第二弾となり、今回は、1日目は鈴木杏×ハナレグミによる『家族の風景』、2日目は片桐仁×板尾創路×真心ブラザーズによる『消えない絵』が、音楽と芝居で届けられる。『家族の風景』の稽古場を取材し、大宮エリー、鈴木杏、ハナレグミ永積 崇に話を聞いた。

『家族の風景』は、ハナレグミの同名楽曲をモチーフに書き下ろされた作品で、壁画修復師・山田美影の物語。“ギターを弾く男”が描かれた壁画の修復を頼まれた山田が、絵と向き合うことで、自らの過去とも向き合っていく姿を描く。山田を演じるのは鈴木杏。“ギターを弾く男”は永積 崇。
 
この日は永積が初めて稽古に参加し、通し稽古が行われていた。取材するまでは「鈴木の一人芝居×永積の音楽」というものを想像していたが、実際に見ると、想像以上に永積が芝居をしている。稽古後に永積は「予想以上に動きがありました(笑)。やっぱり紙(台本)で見ているのとは違うね。でもだからこそやり甲斐がある」と話していたが、大宮が「崇くんは小さい空間でもゲリラ的にライブをしてきた方だから、即興に慣れているところがある。お客さんを巻き込める人なんです。だから心配はしていなかった」と話す通り、虚構の世界に現実のミュージシャンがいるという違和感すら良い方向に作用して、自然に存在していた。そして、鈴木杏の芝居は、「これを一公演しかやらないのか」と惜しく思うほど。
 
鈴木の一人芝居は『殺意 ストリップショウ』(’20年)も素晴らしかったが、「この作品はずっと対話をしている。『殺意 ストリップショウ』は自分の感情の吐露だったので、全然別物なんです。この“対話”はどうやったら成立するんだろうと悩んで、エリーさんと話をした時に、“落語”というワードをもらいました。それで、あ!なるほど、と。そのワードはすごく大きかった」。対話と言ってもひとりなので当然、相手はいない。時々“ギターを弾く男”はいるが、基本的には鈴木はひとりで対話をしていく。山田美影は一見、明るい人物なのだが、その奥にはいろいろなものを抱えており、それが“ギターを弾く男”の壁画に引きずり出され、時間をかけて向き合っていくことになる役どころ。それを一人でやり抜く芝居に永積は「一人芝居ってすごい。見ているほうの想像力が放出されるというか、どんなふうに見てもいいんだっていう自由度がある。その中にいい意味で緊張感があって。僕、初めてこういう一人芝居を横で見させてもらったけど、一人芝居は一人芝居でしか確立できない何かがあるんだねって思った。余白が気持ちよかった」と語った。
 
大宮が「杏ちゃんだけの世界もあるんだけど、崇くんの歌が入ると立体感が出る」と話していたが、楽曲『家族の風景』をモチーフに書かれ、大宮が「(永積に)いろいろ聞いてないで書きました。私が楽曲から受け取っていたのは、切なさ」と話す脚本は、結婚式などの場で聴くことも多いこの楽曲への新鮮な視点を感じ、とても面白く感じた。しかしその作品を鈴木が演じることで、想像できなかった温度や匂いや風景が生まれ、見える景色がぐんと広がった。さらにそこに永積の音楽が入ることで世界が一気に膨らみ、掛け算とはこういうことなのだと感じた。

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稽古後、永積は「杏ちゃんと初めて一緒に立ってみて、その熱量を受け取って、今はまだ自分がどう動けるのかと確認するので精一杯ですけど、それでもやっぱりワクワクしました」と明かし、鈴木は「昨日まではひとりだったので、自分だけで背負わないといけない部分が多く、ちょっときついなと思っていたんです。でも今日、頼れるものがあるんだと感じました。すごくよかった。こういう機会って滅多にないと思うので、嬉しいです」と話す。

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『家族の風景』以外にも何曲か弾き語りで演奏される音楽について、鈴木は「抉られました。心のいつも閉じてるところが、音楽の力でパカッと開いちゃうから。それは舞台に立つときにすごく助けてもらえる。きっと本番でもいろいろ変わると思うけど、その時の流れに安心して乗っていいんだなと思えました」。永積は「自分がつくった曲の世界とはまた違うところから物語がきて、それが不思議と自分の曲と繋がって、そして次にいく。そういう景色って曲にも記憶として入ってくると思うんです。だから、『あ、自分の曲にいろんな記憶が入ってきている』ってことを、やっていて感じていました」。中でも『家族の風景』については「僕がこの曲を書いた時のイメージは、平和な景色だけじゃなくて。『どこにでもある』って書いたけどそれは、これが普通だと思っているわけじゃなくて、掴み取れないくらいの距離感って意味だったから。こんなふうに舞台になることで、そのシーンに近づくんじゃないかなと思いました。歌と歌詞だけでは辿り着けなかった、いろんなフィルターを加えてもらっている感じがすごくしました」と語る。

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大宮は「コロナもあったから、孤独になっちゃう人もいるじゃないですか。それを鈴木杏ちゃんと永積 崇くんのふたりの力でね、誰も孤独にしないっていうか。来てくださった方を温めるというか、元気づけるというか、そんなつもりでつくりました。それを今日やってみて、予想以上に『これは温まるな』と思いました。新しい“家族の風景”をみんながつくってくれたらいいなと思っています」と語る。一夜限りの公演だが、観た人の心にはずっと残るものになるはず。公演をお楽しみに。

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取材・文/中川實穂



(2021年12月10日更新)


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「LIVE×LIVE
 SING IN THE STORY」

チケット発売中 Pコード:509-330

『家族の風景』
▼12月11日(土) 18:00
サンケイホールブリーゼ
全席指定-7500円
[作][演出]大宮エリー
[出演]鈴木杏
[演奏]ハナレグミ
※未就学児童は入場不可。本公演では全てのお客様にマスクの着用をお願いしております。公演中止など、主催者がやむを得ないと判断する場合以外のキャンセル・変更・払い戻しはいたしかねます。ご了承のうえ、お申込みください。
※販売期間中は、インターネット(PC・スマートフォン)のみで販売。1人4枚まで。

『消えない絵』
▼12月12日(日) 18:00
サンケイホールブリーゼ
全席指定-7500円
[作][演出]大宮エリー
[出演]片桐仁/板尾創路
[演奏]真心ブラザーズ
※未就学児童は入場不可。本公演では全てのお客様にマスクの着用をお願いしております。公演中止など、主催者がやむを得ないと判断する場合以外のキャンセル・変更・払い戻しはいたしかねます。ご了承のうえ、お申込みください。

[問]清水音泉■06-6357-3666

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