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「僕らが動かないとダメなんです」
コロナ禍も走り続ける笑福亭鶴瓶が語る
エンタメ界への思い、注力する演目

桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語のスターが競演する落語会「夢の三競演」。2004年にスタートし、いまや上方の冬の風物詩といえる人気の落語会だ。昨年はコロナ禍で開催を見送ることになり、今年は2年ぶりに3人の顔合わせが実現する。落語はもとより、役者業にバラエティ番組にラジオにと八面六臂の活躍を見せる鶴瓶師匠。コロナ禍も「自分たちが牽引していかなあかん」という思いから、止まることをしなかった。そんな鶴瓶師匠にエンタメ界への思い、現在力を入れている演目などを聞いた。

――まずは、約2年に及ぶコロナ禍での仕事の様子を教えてください。
 
落語会は緊急事態宣言が出て大変な時はやめましたけど、ずっとやってたんですよ。大阪では角座で一時期は月に1回はやってたし、無学の会も1回か2回やめただけで。東京でも、開催のちょっと前に告知して、なるべく人数を減らしてでもやってましたね。メディアの仕事でいうと、『家族に乾杯』(NHK)で外にロケに出るとかというのはちょっと無理やったけど、それ以外は割と順調にちゃんとやってました。
 
――それまでと、あまり変化はなかったと。
 
みんなが思うほどはないですよね。やっぱり僕らが動かないとダメなんですよ。落語会を開いてどれだけ人が来てくれるかとか、状況も分からないし。2日か3日か前に告知したら、60人から90人ぐらいは応募があるんですよ。これはいけるわと。その様子を見てたんです。誰が来てくれるのかも分かれへんでしょ。でないと、ほったらかしにしてたら、お客さんは来れなくなるからね。そういうリズムができてしまうのも嫌だったんで。例えば、大阪の『鶴瓶噺』が緊急事態宣言で公演できなくなったんです。でも、どないかしようというので、緊急事態宣言が出てない兵庫県の西宮でやりました。やれるとこでやろうと。そらお客さんも怖かったかもしれんけど、結局みんなが笑った飛沫はこっちへ来るから、こっちの方が怖いんですよ(笑)。でも、あの時期は『ようこんなとこ来たな』『命がけやろ』とか言うてるのが楽しかったですね。変な話、いつもはチケットが取れないけど、コロナやから取れるという感じで来はる人が多かった。その代わり、おっさんが多いですね(笑)。
 

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――コロナ禍でも、前を向くことをやめなかった。
 
金銭的なことじゃなく、人を集める使命みたいなものがあるわけですよ。でも、はっきり言うて集められる人と、集められない人がいる。そういう意味では、ネームバリューと信用で集められる人は集めて、やっぱり牽引していかないとね。寄席なんかも全然やってない時期がありましたから、自分のテンポで、自分でやるっていう感じでした。
 
――そんな中、鶴瓶さんを17年間にわたって撮り続けたドキュメンタリー映画『バケモン』が公開され、その売り上げの全てを上映館に提供されました。常に、エンターテインメント界全体が視野に入っておられます。
 
落語とかいうより、エンタメ界全体のことが一番ですよね。例えば、この『夢の三競演』なんかも落語会というより、もうエンタメですから。口幅ったい言い方ですけど、大阪の落語を引っ張ってる3人ですから、そういう自負はありますよ。だから、やっぱり会を開かないと。お店でも、しばらく開けてないとお客さんが来なくなるじゃないですか。ちゃんとやれる状態を作っとかないと、来ないですよね。よう考えたら、お客さんが来る保障は何もないんですよ。来る保障ってなんやいうたら、この3人が頑張ってるっていうことしかないんです。だから、1回止めてしまうと『あれ、もう終わったんや』って簡単に思われますよ。それが嫌さに、俺はやろうやろうって言ってたんです。やったらええやん、何をビビってるのって。お客さんが来なかったら来なかったでいい、やりたいものはやりたいというか。コロナ禍で、やりたい気持ちが大きくなりましたね。
 
――では、ご自身の今年のイチオシの演目を教えてください。
 
実は、今年の自分の独演会ツアーでは、『お直し』を中心に“カッコいい女性”をテーマにしようと思ってるんです。
 
――なぜ、女性に焦点を当てようと。
 
うちの嫁さんを見てたら、改めてオモロイなぁと思ってね。コロナで東京と大阪でいてるわけですよ。で、東京の家は引っ越したばっかりでよく分からなくて、「ちゃんとしてね」とフェイスタイムでいろいろ言われるんです。ある時は、ご飯作って食べる時に「納豆はどうしたの?パックはどこに捨てたの?」。「燃えるゴミやんか」言うたら「あかんよ、そのまま捨てたら。小さいビニール袋あるでしょ?」。そこから、いっぱい引き出し開けて探し出したら「それに入れて」。しばらくして電話がかかってきて「入れて捨てた?ちゃんとくるんでる?見せて」。見せたら「それではあかん。新聞紙に包んで捨てないと匂いがするから」って。非常に怒られるけど、一つ一つがめっちゃオモロイんですよ。そんなんええやんと思うけど、ええやんとは言えないし(笑)。
 
――そんな鶴瓶さんも、今年の12月23日で70歳を迎えられます。
 
この前、高校時代のツレと有馬温泉に行ったんですよ。そしたら、向こうの人が古希やいうので、紫のチャンチャンコを用意してはったんです。「そんなん、俺、着たない」言うてたんやけど、みんなが着るから着ようと。で、写真に写ったらその絵面がなかなかオモロかったんですよ。生まれて70年の高校のツレが一緒にチャンチャンコを着てるという。
 
――メディアだけでなく、落語会も精力的に開催。役者としても引っ張りだこで、八面六臂の活躍は変わりません。いつまでもエネルギッシュですが、70歳を実感されますか?
 
強がりじゃなく、全然変わってないですよ。でも年齢は重ねたなと思いますね。例えば若手やと言われてた芸人が「中堅みたいになってる」とか。ダウンタウンなんかはもう大御所ですよね。その大御所のダウンタウンが、レジェンドの俺にミゾオチ打ちしますからね。テレビの番組で間にパネルがあるのに、浜田がゴンって。なんでやねん!て(笑)。これだけ芸人が増えてるなかで、だいぶ下の後輩とも一緒のステージに立っておれるっていう。うちのおやっさん(六代目笑福亭松鶴)も『突然ガバチョ!』(※昭和57~60年の間、放送されていた公開バラエティー番組)やってた時は、たぶん楽しかったと思いますよ。“ショッチー”って言われてね。だから今、吉本興業とかワタナベエンターテインメントとか、いろんな会社の連中の中におれるっていうのは、すごい楽しいですよ。で、浜田にミゾオチ打ち入れられるという(笑)。
 
――そんな後輩たちの未来とも重なりますが、アフターコロナのエンタメ界はどうなると思われますか?
 
僕はしないけど、リモートは残ると思いますよ。やり方次第でオモロイと思う人もいますからね。世界中で信じられない人数が見られるわけで、それで慣れてしまうと「これ、ええやん」「この人を見逃したくない」と。その代わり、その人にパワーがないとできない。逆に演出の仕方と、本人が絶対的なものを持ってたら見ますよ。今、(古今亭)志ん朝が生きてたら見ますよ、リモートで。本人は、たぶんしはりませんけど。(笑福亭)仁鶴が家からリモートでやってくれたら絶対に見ますよ。パワーと価値観があるからですよね。
 
――ご自身がリモートをされない理由は?
 
僕らのように、劇場に来てくれないと分からないという気持ちを持っている者は、どっちかいうと弱いんですよ。だけど、お客さんが来たら「こうしよう、ああしよう」っていうのは分かる。でもね、絶対にそこに集中してほしいと思うからやってるのであって、家で「えっ、電話?」とか言われるの嫌やん。それなら、やらない方がいいじゃないですか。それに、来ていただいたらオモロなかっても、とりあえずは逃げられないからね(笑)。
 
――では、2年ぶりの「夢の三競演」への思いをお聞かせください。
 
来てくれはるのは、本当にありがたいですよ。だって、別に来んでもいいんですからね。そら、やっぱり怖いと思いますよ。ワクチン打ってても感染するんですからね。それでも、見に来てくれるわけでしょ。だから精いっぱい、ぎりぎりまで何をするかを考えながらも、今回はトップバッターですから、邪魔にならない一番いいのをやりたいと思います。
 
――最後に、お客さまにエールを送っていただけますか。
 
自分はひとりやない、という思いを持ってほしいですね。やっぱり誰かがおるから頑張れるっていうか。自分一人やと思てたら、ものすごく寂しくなるけど、みんなで乗り越える…という。やる側のこっちも、ひとりじゃない。お客さんが来てくれるから、俺らもできるっていう思いがありますからね。ほんとにありがたいと思いますよ。来ていただいた時は、その分を返そうと思うし。こんなん、やってもやってもきりがないけどね(笑)。

取材・文:松尾美矢子
撮影:大西二士男



(2021年12月 1日更新)


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笑福亭鶴瓶(しょうふくていつるべ)●1951年、大阪府出身。1972年、六代目笑福亭松鶴に入門。8本のレギュラー番組を抱えつつ、精力的に落語会をはじめ「鶴瓶噺」「スジナシ」なども行う。17年間、師を追い続けたドキュメンタリー映像「バケモン」も上映。

夢の三競演2021
~三枚看板・大看板・金看板~

12月5日(日)一般発売 Pコード:508-734
▼12月22日(水) 13:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-7000円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶
※未就学児童は入場不可。
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9520(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。
[問]夢の三競演 公演事務局■06-6371-9193

チケット情報はこちら

<夢の三競演 演目一覧>

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』

2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』

2017年
笑福亭鶴瓶『妾馬』
桂文珍『へっつい幽霊』
桂南光『蔵丁稚』

2019年
桂文珍『スマホでイタコ』
桂南光『上州土産百両首』
笑福亭鶴瓶『オールウェイズお母ちゃんの笑顔』

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