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「脳を直接刺激するような作品に」
劇団壱劇屋がオールスタンディングの“体感型演劇”を上演

神戸アートビレッジセンター(以下、KAVC)の「KAVC FLAG COMPANY2019-2020」の第5弾として、劇団壱劇屋が新作を上演。劇団代表の大熊隆太郎が作・演出を手がけ、「オールスタンディングで体験する世にも奇妙なエンタテインメント」を展開する。これまでも、観客と共に移動しながらの上演や、舞台と客席を交換しての上演など、トリッキーな演出に挑んできた大熊に、作品の構想について聞いた。

――最近の壱劇屋は竹村(晋太朗)さん作・演出のWordless×殺陣芝居シリーズをされることが多かったですよね。大熊さんが作・演出をされる長編新作としては、約2年半ぶりとなります。
 
ここ3年、4年くらいは悩みっぱなしで。自分は何が面白いと思っているのか、何がしたいのか。それが脚本ではないのかもしれないと思って、書くのをやめたり、劇場でやるのではないのかも、とか思いながらいろんなことを試していました。なので、“劇場公演”という露出の仕方でいうと、竹村が作・演出の殺陣芝居ばかりやっている印象ですよね。個人的には毎月とは言わないですけど、ずっと新作というか、演劇ファンにあまりリーチしていないイベントによく出ていたので、僕の感覚としてはそんな久しぶりという感じは全然ないんですけど、昔から壱劇屋を観てくださっている人たちからは「やっと書くんですね」と(笑)。昨年10周年を迎えたこともありますし、次の段階に進むためにもう一回、また劇団で書いてみようかなと思ったんです。
 
――そもそもは、大熊さんが長年温められていた「オールスタンディングでやりたい」というところからスタートされたと伺いました。
 
ウォーリー木下さんがKAVCのアートディレクターに就任されて、「KAVC FLAG COMPANY」の参加劇団として声をかけていただいたんですね。KAVC自体は、僕が初めて小劇場で出演した劇場で、それもKAVCのプロデュース公演だったんです。そのときの原体験がめちゃくちゃ濃かったんですよ。プロデュース公演やったから劇場で稽古ができたので、“ここで自分がやるならどうするやろなぁ”とか考えてましたね。だだっ広い空間で、椅子も出し入れ自由で、この空間自体がなんとでも使えるというか。周りはキャットウォークというか、足場があって、立体的な見た目でもあるし。昔から劇場の機構そのものを使うのが好きだったので、KAVCやったら客席もなくせるし、そのままやるのが面白いなと思っていたんです。最初にKAVCに出たのが2008年やったので、11年越しに念願のKAVCでやれることになってすごく嬉しいです。
 
――観客はオールスタンディングで、どういうふうに見せていかれるのですか?
 
ここ2年くらいは外でやったり、ツアー型の演劇をしたりしていたんですね。その場所に観客と役者が同じ目線でいるやり方と、普通に劇場でやるっていう方法があるのと、歌モノとかもやってきたので、そういうものを全部ひっくるめたものにしたいなと思っています。正直言って、たぶん、わけ分からんとは思うんです(笑)。わけ分からないことがいろんな場所で起こるし、展開もたぶん次々と新しい情報が入ってくるので、空間の中にポンッと放り込まれた感じで、まさに“体感する”という感覚を味わえるのではないかなと。演劇ってどうしてもストーリーに縛られてしまうんですけど、それを一回、横に置いとくというか。ある程度は物語も担保しておきたいなというサービス精神はあるんですけど、基本的にはコメディ。コメディってずっと笑っていられるじゃないですか。それのパフォーミングアーツ版という感じです。
 
――観客と演者の間に、線引きみたいなものは?
 
一応、何ヵ所かにお立ち台みたいなものはあって、しっかりとダンスや芝居を見せないといけないときはそこでやるんですけど、それ以外はうろうろできるような場所に演者もお客さんもいる。お客さんも同じ人間というか、目線は同じ。台に上がったときもあくまでもお客さんはそこにいるものとして扱う予定で、お客さんをいないものとしては扱わないようにはしています。いろんな細かいストーリーが積み重なって、めちゃくちゃ抽象的ですけど、「空間と宇宙にまつわる話」になったらいいかなと思っています。
 
――お客さんと演者をフラットにするのは、これまでもやられてきたと仰っていましたが、元々、それをやろうと思われたのはどういう目的があったんですか?
 
実際に目の前で人が演じているわけじゃないですか。作りものを見せているんですけど、一緒に対話したり、お客さんとの関係性が生まれることで、ほんまもんに近くなるなぁというのがひとつあって。どうしたら“今劇場にいることが、人ごとじゃないんですよ”というのを伝えられるかなと。演劇のライブ感を大事にしたいというか。例えば、客席に入って飴を配るとか、やっていることとしてはすごいチープですけど、一緒にいるぞっていう感覚が生まれますよね。そうなると、ほんまに純粋に物語だけを見せだすと、矛盾がすごく生まれる。じゃあこの人らって何なの?って。例えば、劇場内をまわるツアー型の演劇だと「この劇場の中にいろんなモンスターがいるから、一緒にハントしに行きましょう! 私は見習いハンターなので、私についてきてください」って言って、一緒にウォーキングしながら、その辺に落ちている武器を拾って装備させていって、最終的に別のチームと出会って戦う、ということをやると、お客さん自身も一緒に楽しみながら、一緒に芝居をしているというか。ひとつの作品のなかに一緒にいれるっていうのがすごく面白いなって思うんです。もちろん、対観客として、ほんまにちゃんとした創作物をみせるのも面白いですけど、自分はあまり向いてないなと思うので。ちゃんとした物語を作って見せるというのは、竹村にお任せして(笑)、僕は僕で、お客さんと一緒にやるとか、一緒に謎を紐解いていくほうが僕は興味深いので、自分が面白いと思えるものを探していきたいなと思ったんです。
 
――お客さんを巻き込んで、一緒に体感していくようなもの。
 
でも、謎解きイベントとか、USJのアトラクションとか、体感型のイベントっていうのはそこら中にあるので、そのなかで、我々がやれることっていうのはぶっちぎったものを作ることかなと。
 
――オープニングは男性ヴォーカルユニットの歌から始まるとか。
 
オープニングはいきなり歌モノと、掛け声…かな。一応僕らは“ミュージカル”と言っているんですけど(笑)。維新派だって“ジャンジャンオペラ”って謳っていますし、そんな感じの…、どっちかっていうと維新派の感じのほうが近いです。維新派へのリスペクトが強いので。それから始まって、いきなりあちこちでパフォーマンスをやって、パンチくらわせてやろうと。その真ん中で、男性ヴォーカルユニットがずっと歌っているっていう感じになります。
 
――そして同時多発的に、何かのパフォーマンスがお立ち台なりで行われていく。
 
そうですね。もちろんわざとそうしている部分と、ここを見てくれという目線誘導をするのは意識して作っていて、今いる場所で、そのときを楽しんでもらえるようにはしたいと思っています。例えば海側と山側っていう位置関係があって、たまたま海側に立っていたら、山側の人と対決することになってしまった、みたいな感じになったり。移動しながらなので、最初にいた場所にずっといるということはないですね。何か、漠然としたものでもいいから持って帰っていただけるような空間をお届けしたいですね。空間とか距離とか時間の流れって当たり前にあるもので、“この中にいますよ”っていうことを面白がってもらえるような感じになったらいいのかなぁと思います。
 
――パフォーマンスとしては、歌あり、マイムありで。
 
やっぱりマイムが好きでずっとやっていて、マイムって常識を疑えるパフォーマンスなんですね。例えば“壁”を表現するマイムだと、壁がないのにあるように見せるという矛盾したものがあって、壁をやっている人の横をスッと通り抜けるだけで、その世界が崩れたりする。ダンスやったら能動的に“この技みてください!”ってなると思うんですけど、マイムは能動的なものではなくて、その状況にいる人が、状況をパフォーマンスしてみせるので、そこが普通の身体表現と違うなと。スローモーションで動いたり、時間を飛び越えてみたり。もちろん壁とかもやりたいなって思いますし、あとは、5~6人くらいの男たちが銭湯にやってくるシーンとか(笑)。お客さんの中を裸の男たちが歩き回っているだけですごく非日常的なよく分からない空間になると思うので。お風呂に入ったら、お風呂の中を泳いだりするマイムもできますし。マイム的なパフォーマンスはがっつり入れていきたいなと思っています。
 
――マイムやダンスパフォーマンスがありながら、会話も繰り広げられるわけですよね。
 
もちろん。マイムが好きとか、いろんなものが好きっていっているなかで、笑いが大好きなので、全体を通して意味分からんコントはずっと続けていきたいなと思っています。基本的にはニコニコしながら観れるものにはなっていると思います。
 
――演劇でできることをいろいろ利用してやっていく感じですね。
 
そうですね。演劇でできる手段というか、使えるものは使っていこうというのは毎回思っています。今回は特にフラットステージにしたことで、その分、リスクもありますけど、今までよりも踏み込んだ作品ができるんじゃないかなと思っています。やっぱり、昔から思っていたのが、娯楽として普通に映画とか創作物を観るのも面白いんですけど、大半の人が友達とわいわいしゃべったり飲んだりしているときのほうが面白いって思うような気がするんですね。ファミレスで女子高生がうちわだけで盛り上がるっていうのは、自分が主役になれるというか、しゃべって、一緒に共感できるのがたぶん面白いんやろなと。ツアー型演劇をやってきて、お客さんと一緒にまわったりしていくと、そこに近いものが生まれるなと思ったんですね。お客さんと対等な関係になって、コミュニケーションをとることで、踏み込んだ部分にさわれるんじゃないかなと。それが特別な体験に繋がるのだと思います。
 
――最近は殺陣の芝居が多かったので、そこから壱劇屋を観始めた人にとっては、新鮮な感覚になりそうですね。
 
だいぶ面食らうかもしれないです(笑)。かなり作風が離れてきたので。もともと僕自身があまり定まらない人で、いろんな作風をいっちょ噛みしてきたんですよね。壱劇屋の印象として、殺陣がかなり色濃くなってきた今、逆にまたわけの分からない感じで、脳を直接刺激するようなものをお届けできたらなと思います。お客さんを巻き込んで見せるパフォーマンスなので、ひとつのストーリーを追いかけるつもりでくると、よく分からないことになってしまうと思いますが、それは最初のほうで自然と消えると思います。どう観たらいいか分からないところにどんどん誘うので(笑)、物語は気にしなくても大丈夫です。
 
――楽しみ方どうこうではなくて、その空間にいることで自然に楽しめるようになるというか。
 
そうですね。決して重いものではなくて、非常に大衆的というか、まったくお堅いものではないので、楽しんで観ていただけると思います(笑)。

取材・文:黒石悦子



(2019年12月 2日更新)


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劇団壱劇屋『空間スペース3D』

チケット発売中 Pコード:497-834
▼12月6日(金) 19:30
▼12月7日(土) 13:00/17:00
▼12月8日(日) 13:00/17:00
神戸アートビレッジセンター KAVCホール
一般前売(スタンディング)-4000円(整理番号付)
[構成][演出]大熊隆太郎
[出演]安達綾子/井立天/大熊隆太郎/柏木明日香/高安智美/谷美幸/半田慈登/松田康平/丸山真輝/湯浅春枝/他
※未就学児童は入場不可。本公演はオールスタンディングとなります。問合せ:ichigekiya_office@yahoo.co.jp

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