緻密な会話とエンタテインメントな演出で魅せる
注目の作・演出家、山田佳奈主宰の□字ックが
“家族”を題材にした物語で関西初登場!
山田孝之主演のドラマ『全裸監督』(Netflix)脚本、私立恵比寿中学主演の『神ちゅ~んず~鳴らせ!DTM女子~』(ABC)脚本や、第32回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門に選出された映画『タイトル、拒絶』での監督など、映像作品での活躍も著しい劇作家・演出家・俳優の山田佳奈。自身が主宰する劇団「□字ック(ろじっく)」が、新作『掬う(すくう)』で劇団初の大阪公演を行う。公演に向けて話を聞いた。
――□字ック関西初上演とのことで、最初に劇団の活動についてお聞きします。2010年に劇団を旗揚げした経緯から教えていただけますでしょうか。
「私、レコード会社の宣伝部で働いていたんですね。その仕事はすごく好きで、楽しかったんですけど、すごくハードでもあったんです。そのときに、何か趣味を見つけようと思って、中学、高校と演劇をやってたこともあって、演劇やるか!ってなって。それで一度、高校の後輩とカフェで演劇をやったら、結構好評だったんです。それが24歳のときなんですけど、事務所とかオーディションに応募するにはギリギリの年齢だったんですね。で、その年の10月に会社を辞めて翌年の3月に劇団を旗揚げしました。そこから、広く認知してもらうために、知らない団体を4団体集めて、演劇のフェスを始めたんです。毎年続けて、ようやくフェスっぽくなっていって。年2回本公演を打ったり、東京では結構精力的に活動してきましたね」。
――それからずっと東京を拠点に活動されてきて、今回大阪公演をやろうと思ったのは、何かタイミングなどがあったのでしょうか?
「私、4年前くらいから映画の監督もしていて、インディーズ映画の映画祭とかで、大阪にもちょくちょく来ていたんですね。それもあって、自分の作品を持ってこれるのってやっぱいいなぁって思ってたんです。あと、関西から東京に来ている劇団も多い中で、自分の作品を関西に持っていったらどうなるんだろう?という興味もあって。今まで、愛知の豊橋では公演をやらせてもらっているんですけど、そのときに発見がすごく多いんですよね。東京で発表するときよりも、若干セリフの速度を落としたほうが面白がってくれたりとか。やっぱり生活環境とかによって、受け取る感覚が違うんだなと。じゃあ関西だったらどういう風にアレンジしたら受け入れてもらえるのかな?っていう興味ですね。単純に、関西への憧れが強かったっていうのが大きいかもしれないです」。
――作品としては、女性が主軸の物語を描かれていることが多いんですね。
「今はそうですね。旗揚げの頃は何を書きたいのかも分からなくて、当時は宮藤官九郎さんみたいなホンが書けたらいいなと思っていたのですが、そんなの書けるはずもなく…。第3回公演でこれは面白いぞ!と思ってやったら、お客さんにケチョンケチョンに言われて、劇団員も4人抜けたんですよ。すごくショックだったんですけど、友達に『山田の書く作品は、女性畏怖が描かれているよね』って言われたことがヒントになって、次の『鳥取イヴサンローラン』(2011年)という作品で自分の等身大の気持ちを書いてみたんです。そしたら、驚くほどお客さんが入ったんですよね。その内容というのは、私、レコード会社で宣伝の仕事をしていたときから、“女性って思われたくない”“男性と対等でいなきゃいけない”っていう意識があって、そういう女性を軸に描いたんです。物語自体はフィクションで書いたんですけど、その内面的な思い、主人公に託す思いは、自分が思っていることを書きました。そこから、自分がこの身体を通して、社会で起きていることに対して思うこととか、人間としての正義とかを考えて書くようになりましたね」。
――今回は家族の物語ということで、どういう作品になりますか?
「去年、母が病気で亡くなったんですね。その具合が悪くなる過程、人間が死んでいくまでの過程を見てしまったこともありますし、自分の兄姉のことなんですけど、母の死をめぐって、こんなに死と別のところでいろんな感情が動くんだなっていうのを感じて、“正義”が分からないなって思ったんですよね。それぞれに生きてきた過程とか考え方が違うから、他者から見たら“それを言っちゃダメだろう”とかっていうのもあるんですけど、目線を変えると全部正義なんです。間違えてないんですよね。家族っていうすごく狭いコミュニティの中でも、正義が違ったりしてしまうんだなっていうのもありますし、他者であれば許せることも、血がつながった小さいコミュニティだからこそ許せないこともあるなぁとか、いろんなことを感じたんです。あと、30歳を越えて“大人になるって何だろう”って思ったときに、人のことを許していく作業だなって思ったんですよ。昔の傷を忘れられないことってあると思うんですけど、自分が別のところで満足していくとそれも許せたり、それがあったことのおかげで今があるって思えたりもすると思うんですね。でも子供の頃の嫌な思いを持ったままとどまっちゃう人もいて。許すこと、忘れることってすごい重要なことなんだなって。そういう話を描きたいなと思っています」。
□字ック 作・演出の山田佳奈
――許すことってなかなか難しいですよね。
「たぶん、代わりに何か得るものがないとダメなんだろうなって思います。外的なプラスの刺激を得にくいと、そこにとどまっちゃう。だから許すとか、忘れる作業っていうのはきっと、水でコップをゆすいでいく作業のような感じなんだろうなと思うんです。それと“救い”という言葉もかけて『掬う』っていうタイトルをつけています」。
――舞台はどういうシチュエーションで展開されるのでしょうか。
「家族の話なので、基本的には一軒家の中で展開します。今回、個人的にチャレンジしたいなと思っていることがあって。映像も舞台もやらせてもらってきて、これは映像のほうが面白いとか、これは舞台だなっていう取捨選択ができるようになってきたし、映像でやる面白みが何か、舞台でやる面白みが何かっていうのが、自分なりに分かってきたんですね。で、舞台はやっぱりライブ感というか、目の前で何が起こるかを楽しみにできるというのがあるので、今回は水を使いたいなと。天井からずっと雨漏りしているっていう設定でやろうかなと思っています」。
――音楽についてはいかがですか?
「私は音楽を聴くことが趣味でもあるので、割とこだわりもってやってますね。作品のイメージを伝えて、こういう音楽のこのフレーズがイメージに合うんですけどって具体的に出したりして作ってもらいます。音というか聴覚ってすごく大事だなと思ってて、音楽が合わないと、なんとなく気持ち悪いなって。映像作品を作るときに、音のレイヤーを重ねていくたびに世界観が具体的になっていって、グッと締まったんですよね。それは舞台でも活かせるなと思いました。ここまでやっていいんだっていうのが分かったというか。作品の世界観を広げるためのディテールであれば、どれだけ足してもうるさくはならないんだなって。舞台と映像はちょっと違うから、どういう風に重ねるかは探っているところですが、それも今回試したいところですね」。
――音でだいぶ印象変わりますもんね。
「そうですね。今までも、携帯電話の鳴り位置はすごく気にしてたんですよ。天から携帯の音が聞こえてくるのとか、すごく嫌いで(笑)。だから携帯用にわざわざミニスピーカーを仕込んでもらっていました」。
――そして、主人公を演じられる佐津川愛美さんをはじめ、キャストが豪華ですよね。
「佐津川さんが主人公で、山下リオさんが幼馴染、馬渕英里何さんが兄の嫁。千葉雅子さんは親戚のおばちゃんですね。家族が揉めてるときって、家族が介入してもダメなんですね。うちの兄と姉も、同い年くらいの親戚が介入して初めて話を整理できるみたいな。親戚って大事だなって思いました」。
主人公を演じる佐津川愛美
――客観的に見れる人っていうことですか?
「そうですね。あとやっぱり家族になると甘えが出るんですよね。言いたいことも出ちゃうし。でも親戚は、ある意味他者なんでしょうね。他者が入るだけでみんな冷静になる。親戚からしたら親族になるから、俯瞰視もするけど、自分たちの物語として語っていくので、不思議だなって思いました。他人だけど他人になりきれない人たちっていうイメージですね。他人のほうがよっぽど楽だと思います」。
――今回のキャストとはどんな出会いがあったのでしょうか?
「佐津川さんは、私が昔、俳優の松本亮君と「サンボン」というユニットを立ち上げたときに、松本亮君と佐津川さんが舞台で共演されていた流れで、旗揚げのお祝いコメントをいただいたんですね。私は、本谷有希子さんの舞台とか映像で佐津川さんを拝見していて、毎回キャスティングで名前が挙がるくらい好きな女優さんで。お互いに認識はしていたんです。で、先日の東京国際映画祭でワールドプレミアとして上映された映画『タイトル、拒絶』に出演してもらったんですね。それがきっかけで、舞台にも出ていただくことになりました。山下さんと馬渕さんもご縁があって出演していただけることになって。山下さんは初のストレートプレイなんですけど、話してみて、彼女がやってきたことや彼女の内面が今回の作品で活きそうだなと思っていて。千葉さんは、何度か□字ックを観に来てくださっていたんですね。ご自身も劇団主宰で、俳優も脚本も演出もされている方なので、ずっとご一緒してみたかったんです。世代が違うだけで視点は同じなんじゃないかなと思っていて。モダンスイマーズの古山憲太郎さんも大好きな役者さんなので、そういう意味では、今回本当にやりたかった人ばかり出ていただけることになって、気持ちが豊かです」。
左から馬渕英里何、古山憲太郎
――小劇場でこんなに豪華なキャストを観られるのはうれしいですね。
「すごく豪華になりましたね。あと、私、子供鉅人とか関西の劇団が好きなんですけど、彼らみたいなファッショナブルさは□字ックにはないなと思ってるんです。関西勢の劇は観ていて元気が出るというか、勢いでその劇世界に引っ張っていってくれるイメージがあって、色合いもすごくキレイ。でも逆に□字ックが関西勢の劇団と比べたときに、関西勢にはなくて私の劇団が持っているものってなんだろうと思ったら、すごく緻密な心理戦かなと思いますね」。
――会話で積み上げていくっていうイメージですか?
「そうですね。でも演出は派手だし、不思議な劇団だと思います(笑)。転換するときも爆音で動かしたり、照明もムービング何台いれるんだっていうような、エンタメ系みたいな演出をつけるんですけど、完全に会話劇なので、言葉で嘘があると全部チェック入れちゃう。だからできるだけ生身の人として、役として存在してほしい。演劇においてはエンタテインメントではあるんだけど、人間としては生身でいてくれ、と。掛け算で倍々にしていく演劇って思ってるんですけど、今回はちょっとそこから引き算もしたいなと思っています。不必要なものとか、さっき音のディテールを増すものはどんどん乗せていいと思うって言ってましたけど、増すためのものじゃなくて、派手さを乗せるために掛け算にしてた部分って非常に多かったので、そこを一度取捨選択する公演にしたいなと思いますね」。
――その掛け算の演出をするうえで大切にされていることはありますか?
「河原雅彦さんのように観客を驚かせる演出とか面白いなと思いますし、ライブ感っていうのは大事だなと思いますね。あと、私はミュージシャンに影響を受けていることも多くて、これは自分の作品のルールにしてるんですけど、音楽のライブって一番最初にSEが流れてバンドマンが登場して、最初の一音をかき鳴らすまでが勝負なんだよって言われたことがあって。だから、私も物語の始まりはすごく意識していますね」。
――最初にお客さんを劇世界に引き寄せるっていうことですね。
「そうですね。すごく大事にしてます。でもずっと緊張して観るのも疲れるし、お客さんをどこでどう掴んで、どこで放してあげてとか、それはすごく意識して作ってますね。落ち着いてみせるための会話劇っていう考え方でもあるんですけど」。
――これをきっかけに、また関西にも来ていただけるように応援しています。
「来たいですね~。兵庫の劇場とかでもやれたらいいなって思いますし、劇場によって見え方が全然違うので、作品の感じ方も変わってくると思うんです。だからいろいろ体感してみたいですね。その土地土地の人たちとコミュニケーションするのも好きなので。今回大阪でやれるのも楽しみですし、次に続くように頑張りたいと思います」。
取材・文:黒石悦子
(2019年11月 8日更新)
Check