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「お客さんをどれだけ楽しませられるかが大事」
新たなスタイルにも挑戦し、高座の数も年々増加中
笑福亭鶴瓶に落語や「夢の三競演」にかける思いをインタビュー

上方の冬の風物詩ともいえる落語会『夢の三競演』が今年も開催! 桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語の人気スターが共に繰り広げる、年に一度の三人会だ。ぴあ関西版WEBでは、2011年より毎年、開催に向けてお三方にインタビューを実施。2019年は主演映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』(2019年11月1日(金)公開)の撮影から始まり、俳優業に勤しみながら、100本以上の高座にあがっているという鶴瓶師匠。今年を振り返ってもらいつつ、落語や三競演への思いを聞いた。

――まずは、2019年を振り返っていただきましょう。
 
「正月明けから、ずっと映画とドラマを中心にやってましたね。その間に『鶴瓶噺』の公演もあったんですが、1月7日に映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』の撮影に入って、その後にドラマが入り、そのまま夏休みをとったので、役者漬けでした」
 
――10月からは、本業の噺家として恒例の落語会ツアーもスタートしました。
 
「今回は『愛宕山』を10年ぶりにやるんで、また改めていろいろ聞いたんですよね。やっぱり、(桂)文珍兄さんはすごいですよ。分かりやすいしね。うちの師匠(六代目笑福亭松鶴)の『愛宕山』もすごくいいんですよ。間違った言葉があるんですけど、全然間違った言葉に聞こえない。山登りの競争をする場面で、『ほな、ハンデつけまひょ』って言うてるんですよ(笑)。それが当たり前のように使われてるんで、“ハンデ”という言葉がその時代にあったんちゃうかというくらい迫力がありましたね。それと、おやっさん(師匠)だけですよ。最後に『旦さん、ただいま』って戻ってきたら『金は?』と聞かれて、『あぁ』で終わるんです。『忘れてきた』とは言わない。それもオモロイなぁと。だから、今回は文珍兄さんと、うちのおやっさんとのミックスでやらせてもらおうかなと思ってます」
 

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――では、今年の三競演の演目は何を考えておられますか?
 
「今年の1月からやり始めた『明烏』ですね。東京の『明烏』の舞台は吉原なんですが、ああいう色街の噺を大阪の新町に全部置き換えようと。これまで『お直し』もそうしてやってるし、笑いの多い『明烏』を考えています」
 
――鶴瓶さんが惹かれる『明烏』の魅力を教えてください。
 
「真面目な若旦那を色街に連れて行く噺なんですけど、あの噺はオチが好きなんですよ。それと、若旦那もいいんですが、脇役の人たちが面白い。さらに僕は、噺に出てくる女将をゲラにしたんですね。嘘つくと笑ろてしまうという。若旦那にそこが色街というのが分かったらアカンから女将に『芝居してくれ』って頼むんですけど、『芝居したら笑ろてまいますねん』言うて、芝居してる時にブッーと吹き出すんです。笑ろたらアカンからずっと耐えて、顔をパンパンと叩いたり(笑)。それが、好きでね」
 
――他に、近々やってみたいネタはありますか?
 
「ホンマはね、『高津の富』をやりたいんですけど、もうちょっと時間がかかるかなと。『高津の富』はやらなアカンなぁとは、ずっと思ってるんですよ。あとは『子はかすがい』を、また形を変えてやりたいなと。うちの師匠の『子はかすがい』ですね」
 
――落語に対する取り組み方が、ますます貪欲になってこられた気がします。
 
「年々高座の数も増えてますね。去年で年間183ぐらいやったんですよ。今年も、9月現在でもう100を超えてますから。レギュラー番組8本やりながらですよ。そっから、まだ旅にも行ってますからね(笑)。だから、ロケに行く時はその仕事に集中してるので稽古はしませんけど、帰りは解放されてるので飛行機に乗ってる時は必ず稽古してます。そのローテーションが、当たり前のようになってきたからね。文珍兄さんや南光兄さんなんかは、ずっと落語会をやってはりますやんか。僕はそんなんないから、時間がないんですよ。毎日稽古しないと。長いことやってなかったら、口についてないじゃないですか。噺の途中で止まるのは嫌やし。思い出しながらしゃべってない、口についてるっていうのが大事なんですよ。だから、稽古はしつこいぐらいした方がいいなと思いますね」
 
――高座の数が増えたのも、意識されてのことですか?
 
「そらそうですよ。そんなん誰も言うてくれないからね。僕がそこへ行くとか、稽古会やるとかしないと。それと、人の落語会に出て迷惑やというのが分かったんですよ。その人らは予定してるものがあるわけでしょ。ましてや僕が全然無名ならいいけど、出たら僕の色になってしまうのも可哀相やし。最初は(立川)志の輔さんの会でも、(立川)談春の会でも出させてもらったけど、えらい迷惑やったと思いますよ。だから、今は小さいところでやるんですよ。大阪の「此花 千鳥亭」とか、東京にも小さい会場がありますからね」
 
――今年は落語会にゲストで出られる時に、まず立ってマクラをしゃべり、1度舞台袖にはけて、今度は高座に上がり落語を…というスタイルもやっておられます。
 
「舞台に出たら出たで、なるべくみんなに喜んでもらいたいから、このごろはマクラと噺を分けて、ああいう形をしてますね。1度ひっこんで空気を変えるという。それはね、北海道の(三遊亭)円楽のお兄さんの会に出たとき、1200席ぐらいの広い会場が満員やったんですよ。もちろん、お客さんは出てきて座ってしゃべると当たり前のように思ってはったんやけど、いっぺん着物で立って“鶴瓶噺”をして、で袖に入って羽織を着て出ていくっていう形が面白いなと思って。どうせ15分ぐらいしゃべるんやったら、ちょっとお客さんに近づいてあげた方が喜んでくれはるでしょ。持ち時間がたくさんある時はね。だから、これからはそういうスタイルもしようかなと。何も座ってマクラをしゃべらなアカンこともないし、座って落語したらエエねんから」
 
――マクラで作り上げた空気を、また変えるという。
 
「でもね、立つのは簡単なようでメッチャ難しいですよ。立ってしゃべって、そのまま空気を変えて出てきて。自分で言うのもおかしいけど、あれはできませんよ。北海道の時に東京の噺家にも『やったら』って言うたら、絶対ようせんと。立ったら空気が変わるんです。フリーでしゃべってるようで、フリーでしゃべってないんですよ。でも、フリーと思わせないと。あれは『鶴瓶噺』をやってるから出来るんですよ。とにかく、お客さんをどれだけ楽しませられるか、どうたぐり寄せることができるかが大事ですよね」
 
――そんな鶴瓶師匠が思う三競演の魅力とは?
 
「人ですね。桂文珍、桂南光という人の話の力ですよね。どないかして、そこに食い込んでいこうという思いを持てるというのは幸せですよ。よう、この人らとやれてるなと真剣に思います。先輩という意味じゃなく、いつまでも上にいてはりますからね。落語という部門では、文珍兄さんも南光兄さんも自由自在やし。それを見てたら、ここにいられるというのがホントにすごく良いですよ。でも、競争というよりも、僕も含めて3人が一緒のところでやったら熱が入るじゃないですか。その熱が面白いんですよね」
 
――文珍師匠は、昨年の三競演で口演された『青木先生』を絶賛されていました。
 
「『青木先生』は、生徒側の気持ちでやるから、そんな長いこと出来ないと思ってたんですよ。でも、今は年齢的に先生側の気持ちでやれるから、生徒を引っ張れるというか。あの噺は生徒が主役でしゃべってる感じでしょ。でも、先生が主役なんでしょうね。トシいってまで『青木先生』はやれないと思ってたけど、やれますね。でも、文珍兄さんがそう言ってくださるのは嬉しいですよ。ちゃんと真剣に言うてくれはるからね、このおふたりは。知らん顔してても、すご~く聞いてくれてますよ。『鶴瓶、こうした方がいいよ』っていうのは、みんな的確です。そんなん言うてくれはる噺家同士って、ないですよ」
 
――三競演は、大阪公演が今回で16回目を迎えます。今後も続けて行くための秘訣、工夫は何だと思われますか?
 
「危機感を持つというか。僕が落語会をやる場合、舞台装置や背景に力をいれてくれと。舞台にかけるお金が普通の落語会の比じゃないですからね。お客さんが、こんなんを見たいというのを見せたいし、スタッフも工夫してほしいと思う。それはずっと変わらないですね。だから、10年前のサザンシアターでの『愛宕山』を見直したんですけど、大きな“かわらけ(土器)”を作ってるんですよ。あんなん高いやろなと思うんですけど、そこにかけるアイデアは絶対にしてほしいと思いますよね」
 
――そんな鶴瓶師匠が目指される、理想の噺家像とは?
 
「僕が噺家で行くかどうかって時に、おやっさんからGOが出てなかったからね。落語つけてもうてないのに、自分がプロの噺家やみたいにいくのもおこがましいから、『鶴瓶噺』のようなことをやりだしたんです。それが徐々に出来上がってきてプロになってきたという自信がありますから、落語というものをやり始めたのは50歳ですけど、前にやってたことがすべて糧になってるので、本当は50からじゃないんですよね。そういう面でも、噺家として自分自身の筋は一本通ってます。昔から余興も行かないし、僕を使ってくれる放送局を増やそうと思ってやってきたんですよ。余興に行かんでも、それぐらいくれるような“値打ち”の芸人になりたいと。お金じゃないんですね。トシいったから、こうなったわけじゃなく、元々そうですよ」
 
――大阪公演当日は、奇しくもご自身の68歳のお誕生日です。
 
「68歳になっても、何か仕事をいただけるというのがありがたいですよ。いろんな仕事の話をいただきますからね。俳優もたくさんいてるのに、主役を頼まれたりとか。だから、まだ噺家代表として、マスコミに走っていかなアカンなとは思いますね」

取材・文:松尾美矢子
撮影:大西二士男



(2019年10月25日更新)


Check
笑福亭鶴瓶(しょうふくていつるべ)●1951年、大阪府出身。1972年、六代目笑福亭松鶴に入門。多数のレギュラー番組を抱え、TVで顔を見ない日はない。11月には主演映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』(東映系)が公開されるなど、役者としてもひっぱりだこ。

『夢の三競演2019
~三枚看板・大看板・金看板~』

10月27日(日)一般発売 Pコード:497-009
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話■0570(02)9520(10:00~18:00)、通常電話■0570(02)9999にて予約受付。

▼12月23日(月) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6700円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶/桂團治郎(開口一番)
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局■06-6371-0004

チケット情報はこちら

<夢の三競演 演目一覧>

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』

2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』

2017年
笑福亭鶴瓶『妾馬』
桂文珍『へっつい幽霊』
桂南光『蔵丁稚』

2018年
桂南光『胴斬り』
笑福亭鶴瓶『徂徠豆腐』
桂文珍『持参金』

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