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「気ぃ抜いてるようやけど、手は抜いてない」
桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶による『夢の三競演』
桂南光が会の魅力や落語への思いを語る

上方の冬の風物詩ともいえる落語会『夢の三競演』が今年も開催! 桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語の人気スターが共に繰り広げる、年に一度の三人会だ。ぴあ関西版WEBでは、2011年より毎年、開催に向けてお三方にインタビューを実施。2020年に噺家生活50周年を迎える南光師匠。そんな師匠が今年一番感動したという、柳家小三治師匠とのエピソードや、作家・宮本輝との初対面、自身にとって「特別な会」と語る三競演についての想いなど、たっぷりとお聞きしました。

――まずは、今年一番感動されたことから教えていただけますか?
 
「噺家として一番感動したのは、(柳家)小三治師匠と同じ出番の落語会があってね。小三治師匠はもちろん大好きな人やけど、一緒に飲みに行ったりしたことはなくて挨拶ぐらいで。落語もDVDは見てるねんけど、生でそんなに見てなかったんですよ。で、トリで出はったんですけど、お母さんがそそっかしい人だったという話から『粗忽長屋』に入りはったんです。でも、あんな嘘くさい噺ないでしょ。そんな人、おらんやろうと思うじゃないですか。だから、みんないろいろ工夫してるけど、あの噺を聞いて一度も納得したことなかったんですよ。ところが、その日の『粗忽長屋』は、完全に小三治師匠の催眠術にかかったんやろね。全然、違和感を感じることなく、そんな人おるよなって思わされて。聞き終わったあとに、もう立てないぐらい感動しました」
 
――「小三治師匠の催眠術」…良い表現ですね。
 
「名人芸とかってよく言うけど、そんな人の芸を見て名人って思ったこと1回もないし。ただ、こないだの舞台はまさに名人芸でしたね。嘘のことを、あるかも知れない、そんな人がおるやも知れんと納得させる芸が展開されたことに、こんなことがあるんやと思って。私は義太夫も好きでね、『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』の桜丸の切腹の場面で感動して『死なんでもエエがな』とか思うねんけど、(竹本)住大夫のお師匠はんのを聞いたときには納得させられて、涙もしたんですよ。それを見た後にお師匠はんに言うたら『ようできてますねん。まぁ結果、嘘ですさかいな。昔の人がいかにもホンマのようにいろいろ考えてくれて、それを我々が受け継いで語るという』と。考えたら、ことに落語なんてみんな嘘やからね。でも、それを聞いてる人が、あたかもそんなことがあるような風に受け取るわけやから。小三治師匠は、ずっ-と芸を積み重ねてこられたからできたんでしょうね」
 

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――嘘を現実のモノと納得させるという。
 
「あともう一人、お会いして感動した人がいます。僕は宮本輝という作家さんが大好きでね。去年の10月に『流転の海』という小説が完結したんですが、37年間かかってはるんですよ。で、毎日新聞の『偏愛』コレクションという連載でお会いできることになって。でも、宮本輝さんって、ちょっとうるさい人っていうイメージがあったんですよ。ところが、ご自宅にうかがったら、話しやすいオモロイ大阪のおじさんやったんです。『流転の海』の最後の文章は前から考えてはったらしいんやけど、あとだいぶかかるなと思てる時にスッーと書けて『やっと完結した』と。けど、もう一つ実感がないので、一番身近な奥さんに言ったら『良かったですねぇ』ってなると思ったら、ちょうど台所で回鍋肉かなんかを炒め出してるところで、『何ですか?今、火を使ってて危ないから、そっち行ってください!』。『はい』言うて、すごすごと部屋に帰ったという。その話がメチャおもろうて。すごい感動的な状況が、回鍋肉に負けたみたいなことを言うてはりました(笑)」
 
――芥川賞作家も、奥様には勝てないと(笑)。
 
「あの人は落語も、よう聞いてはるんですよ。落語の話もちょっとしてたら、『やっぱり(古今亭)志ん生ですな』って話になって、『あの人は無駄なことをみんな省いてる。だから説明しすぎてない』と。そこから私も改めて志ん生全集を聞き直して、なるほどなと」
 
――無駄なことを省く、説明しすぎていない…と。
 
「実は、宮本輝さんにはすごい話があってね。いろんな病気をされて、俺は文筆でいくと書きだした時に、見てやろうという先生がいて、持っていったんですって。ほんなら『君は天才や』と。ただ『この最初の10行が無駄や』って、目の前で鉛筆でガッーと消されたんです。宮本さんが何回も考えて考えてやっと書き上げた10行を鉛筆で消されて、腹の中で『何すんねん、このおっさん』って思たらしいわ。ただ、その人は『この10行を書かなくてよくなったら、本当の天才になれる』と。家に帰ってきても、ずっーと腹が立ってたんやけど、気になって読み返し読み返しして、いらんと言われた10行をカットして読んだら『いらん』ということが分かったんですって。これが、あの人のすごいとこやねんね。で、納得して電話で『あの10行はいりませんでした。もう1回書き直します』って言うたら、『それは置いときなさい。その感覚が分かったら君はもう書ける』。で次に書きはったのが『泥の河』で、その先生も『たぶん賞をとれるやろ』と。その言葉通り、太宰治賞を受賞したんです。そして『賞をとったら、すぐに注文が来る。その時に前の作品を出しなさい。それで芥川賞ぐらいは、とれるやろ』と言われたら、それが『蛍川』やって、芥川賞をとれたんです」
 
――すごい話ですね。
 
「そんな話も聞かされて『落語も一緒やから』と。それからずっと自分の落語を繰り返してみると、これは確かにいらんなとか、私はよりお客さんにわかってもらおうと思てるけど、そこまで言う必要はないなとか。志ん生師匠って絶対必要なことだけ言ってるんですよ。それをすごい教えていただいたので。私がいらんと思てる10行も、本当はいる10行なのか分かりませんが、そんなことを意識しながら稽古を楽しめるようになりました」
 
――そんな南光師匠が、今凝っているネタ、ご自身の旬のネタを教えてください。
 
「やらなアカンようになってしまった『猿後家(さるごけ)』かな。元々、そんなオモロイ噺じゃないのよ。僕も好きでもないねんけどね。だって、猿沢池を言うために奈良名所をずっとやって、あとで『さむそうの池』とかいうて誤魔化すけど納得いけへんでしょ。それやったら、近いところでもエエわけやから、『天王寺詣り』をもうちょっと短くして、オチは猿回しにした方がエエんちゃうかと。とりあえず、今はいろいろ考えてるところです。それと、オー・ヘンリーの短編を元に新国劇が最初に上演した『上州土産百両首(じょうしゅうみやげひゃくりょうくび)』を、落語作家のくまざわあかねさんが私のために落語に書いてくれたんです」
 
――『上州土産百両首』は、松竹新喜劇の十八番演目としても有名です。
 
「それを上岡龍太郎さんが変化座という劇団をやっていた時に、藤山寛美先生にやりたいってお願いしたら、『やったらエエがな。正太郎というしっかりした男は上岡さんで、牙次郎はべかちゃん(南光の前名・べかこ)にやってもらいなさい』って言わはったんですって。『俺はそんな芝居ようせんから』と断ったんやけど、そしたら寛美先生が『演出したる』と。そんな体験はちょっとできへんからOKさせてもらったんやけど、寛美先生が稽古する前に亡くなりはって、別の人の演出でやったんです。そんなんもあるから『上州土産~』を1回やってみようかなと。芝居とはだいぶ変えてあって、もっとコンパクトにしてます。そんなに笑うところはないけども、やってみて意外と楽しかったですよ。人情噺として何とか持ちネタになるかなと思てるんですけどね。三競演ではしませんけど(笑)」
 
――その三競演は、今年の大阪公演で実に16回目を迎えます。文珍師匠は「三競演は緊張する」とおっしゃっていましたが…。
 
「絶対、嘘や。それはないわ(笑)。文珍兄さんが、一番楽しんでると思いますよ」
 
――文珍師匠曰く、南光さんは落語に関して「刀の鞘を抜いて抜き身で歩いてる」と。
 
「全然そんなことないです。だって、この人よりもウケようとか、認めてもらおうとかっていう気なくやってますから。鶴瓶さんが一番真剣やと思いますね。あの人は後から落語やり出したって言うけど、忙しいのに、よう稽古してますよ。『青木先生』も久しぶりに聞くと、それこそ無駄なところをカットしてあったりね。あの人が飛行機に乗って移動してる時に、たまたま私の知り合いが近くに座ってて『鶴瓶さん、飛行機の中で落語の稽古してましたで。南光さん、そんなんしたことないでしょ』って言われたこともありますから(笑)」
 
――では、南光師匠が思われる三競演の魅力とは?
 
「最初の時は落語に慣れてないお客さんがいてはったけど、なんかエエ具合になってきたんとちゃいますか。僕にとって三競演は特別な会ではあるねんけど、3人で会うことってあんまりないのでね。ほんとに気の合う噺家仲間の人と会がやれるという。けど、3人とも気ぃ抜いてるようやけど、手は抜いていない…そんな会ですわ」
 
――ご自身は、来年で噺家生活50年目に突入されます。
 
「別に噺家になりたくなかったのに、こうやって生活できてるのは、とっても有難いなと思います。私が(桂)枝雀のもとへ行った時に、この人はとっても良い人やから、とりあえず行こうと思って行っただけやからね。ずっーと噺家を続けることはないやろうと思いながら何か別のものを探してたけど、探し損ねて、そのまま50年ですわ(笑)」
 
――また再来年は古希を迎えられます。そんな南光師匠が思い描く理想の噺家像とは? 
 
「だって目標がないのでね。その時、その時、自分がやりたい落語をやれたら一番いいかなと。古希の時は、何か所か昔ながらの芝居小屋みたいなところで会をやりたいなと思ってるぐらいですかね。70歳になったからこうなりたいとかも全然ないし。どんな噺家になるかは、お楽しみみたいな…自分自身もね」

取材・文:松尾美矢子
撮影:大西二士男



(2019年10月25日更新)


Check
桂南光(かつらなんこう)●1951年、大阪府出身。1970年、二代目桂枝雀に入門し“べかこ”を名乗る。1993年に三代目桂南光襲名。多彩な趣味人で絵画に造詣が深く、豊竹呂太夫に師事する義太夫も玄人はだし(?)。レギュラー番組は『ちちんぷいぷい』(MBS)など。

『夢の三競演2019
~三枚看板・大看板・金看板~』

10月27日(日)一般発売 Pコード:497-009
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話■0570(02)9520(10:00~18:00)、通常電話■0570(02)9999にて予約受付。

▼12月23日(月) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6700円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶/桂團治郎(開口一番)
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局■06-6371-0004

チケット情報はこちら

<夢の三競演 演目一覧>

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』

2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』

2017年
笑福亭鶴瓶『妾馬』
桂文珍『へっつい幽霊』
桂南光『蔵丁稚』

2018年
桂南光『胴斬り』
笑福亭鶴瓶『徂徠豆腐』
桂文珍『持参金』

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