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「アガッてる私を見てください(笑)」
桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶が本気で挑む落語会
『夢の三競演』に向けて桂文珍が熱い想いを語る

上方の冬の風物詩ともいえる落語会『夢の三競演』が今年も開催! 桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語の人気スターが共に繰り広げる、年に一度の三人会だ。ぴあ関西版WEBでは、2011年より毎年、開催に向けてお三方にインタビューを実施。「この会は、なんや知らんけどアガルねん」と語る文珍師匠に、この一年を振り返ってもらいながら、今回の『三競演』へかける想いを語ってもらいました。

――まずは、2019年を振り返っていただきたいのですが…。
 
「実は僕はハーフでして、桂コンプライアンス文珍っていう名前で、長い間やらしていただいてるんです(笑)。もう50年も吉本におりますねん。会長より古いんよ。劇場のトリを取ってもう30年になるかな。有難いことやと思てます。僥倖だなぁと」
 
――今年は芸人のコンプライアンスが問われた1年でもありました。
 
「とても大切なことは、落語はフィクションなんですよ。小説と一緒で物語の世界ですから、そんな無茶なとか、そんなアホなっていうような、常識がひっくり返ってるような価値観を表現できるんです。そういう強みがあって。でも、ドキュメンタリーでやっている芸っていうのは、なかなか厳しいんですね。だから、ビートたけしさんがうまいこと言うてて『どんどん難しい時代になって、綱渡りが大変なんだよ』と」
 

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――噺家は、表現者としてフィクションの中に生きているという。
 
「でも、心配なのは社会があまりにも荒々しくなり過ぎてて、落語に良いものを求め過ぎているキライがある。『井戸の茶碗』がいいとか、『柳田格之進』のような人間を噺の中に求め過ぎるというのは気になってますね。世の中が悪いから寓話の中に理想を求めて、そこでバランスを取ろうとしてるわけですよ。けど、『登場する人物、団体等は、実在のものとは一切関わり合いがありません』というのを分かった上で、お客さんはお金を払って聞いてはるはず。なのにオーディエンスの皆さんの自己制御というか、アラームが早く働きすぎる。そこが気になるね。あなたの感じ方はメディアやないんやからエエのよって」
 
――それを高座で肌で感じておられる?
 
「感じますねぇ。本来、芸人というのはコンプライアンスとは程遠いところにいなければいけない。けど、それでは今の時代は生きていけない。影響力があるということでね。会社がコンプライアンスのリーディングカンパニーになってください、というようなことを国から言われてるんですからね。それは、本来はムチャなことですわ。でも主体性の問題やから、お客さんはそれぞれの感じ方で楽しんでいただいたらいい。だから、冒頭に申し上げた『桂コンプイアンス文珍です』って言うて、笑ってられる時代は大丈夫ですわ。それすらも言えんようになったら大変ですよね。まぁ、今は過渡期やから。NSC(吉本総合芸能学院)を出て働き始めた子らなんか、ものすごい行儀ええよ。で、そういう子が舞台に出たら急にオモロイねん。二面性というか多様性をキチッと持ってる子がオモロイし、頭角を現す人は、そういうものが身についてきてるねん」
 
――落語界は、どうでしょうか?東京の若手の方が若干勢いを感じるのですが…。
 
「大阪も(柳亭)小痴楽君みたいなんが出てきてほしいですね。東京は、大御所の方が亡くなられて、蓋が取れたんでしょう。そしたら、グ~ンと色んな噺家が出てきた。だから、鶴瓶、南光、僕が死んだら、大阪の若手が雨後の竹の子のように出てくると思う(笑)。けど、それは自然の成り行きですかね。無理やり育てようとかいうのではなく。講談の(神田)松之丞君なんかは、講談はアカンようになる、今のうちに覚えといたろと、そっーとやってたわけでしょ。それがあんなにブレイクしてる。そんなことに目が届く若い人は、やっぱりどこか優れてるんですよ。そんなん育てられへんもん。本人のセンスですからね。だから、彼はいいお手本だと思います。こっちが手を差し伸べるというよりも、自然に生えてくるというか、伸びてくるというか。そういうもんでしょうな、きっと」
 
――さて、昨年の12月に古希を迎えられましたが、何か変化はありましたか?
 
「明鏡止水というか、なんか穏やかになりましたね。あんまり波風が立たんようになって、ムラムラっとすることが少なくなりました(笑)。ただ、仕事だけはムラムラしますね」
 
――ムラムラですか(笑)? 
 
「落語は、ようできてるなぁと。もっと分かりやすく伝えるには、どうしたらエエのかと色々考えて、もちろん手を加えないといけないこともたくさんあるんです。でも、よく考えると、やっぱりそこは触ったらアカンなぁとか、触り方の難しさをしみじみ感じてます。例えば、今『帯久』をやってるんですが、オチにちょっと無理やりなところがあって。色々考えたんですけど、あれはあれでようできてるなぁと変わりつつあってね。昔は60歳なんて大老人やったんですよ。でも今は寿命が延びてきてるからと80歳の設定にしてしまうと、その時代に合わなくなってくる。やっぱり、その時代は60歳がええお爺さんやったんやということさえお客さんに描いていただければ大丈夫なんです。『帯久』のテーマは、お奉行さんの裁きの小気味良さですわな。そこのところを描ければ、あとはええんです。けど欲があって、最後にドッカンていうのをつい考えたくなる。そうすると肝心の部分がピンボケしてしまう。『愛宕山』やったらドカンときて終れる良さがあるんですけど、それは違う話の筋立てやし…という風なことを感じる年齢になりましたね」
 
――では、今年ネタ下ろしされたネタ、ハマっているネタを教えてください。
 
「凝ってるのは『スマホでイタコ』やね。あれは、最近の拾いモノ。噺の中で上方落語の四天王が出てくるんですが、お客さんがものすごい喜びはるんですよ。落語ファンの人は四天王への思いが強いんやね。ものまねコーナーか、みたいな(笑)。基本的に懐かしいなぁっていうのが、分かりやすいんやろね。面白いのは、ものまねの元を知らん人も、ものすごい喜んでる人に引きずられて笑っていただいてるという(笑)」
 
――今年の三競演の演目は決まりましたか?
 
「前後で何が出るや分からへんからね。他のふたりが本気でかかってくるから。もっと手ぇ抜きやと(笑)。なんや知らんけどアガルねんもん、この会だけ。ふたりの顔見てると、喉がカラカラになってくる。鶴瓶ちゃんも南光さんも本気やからね。南光さんなんか、抜き身の刀で来るで。鞘抜いて歩いてる。だからこそ、三競演は面白いんやろね」
 
――師匠にとって、三競演はどんな存在ですか?
 
「ものすごい刺激! 鶴瓶ちゃんの『青木先生』なんか、彼自身が青木先生の年齢に近くなったから、先生の言葉が生きてきてるんですよ。青木先生が「お前らのクラスが、いっちゃん好きや」っていうところでグッとくるんです。ハートを鷲掴みにされる。ずるいですわ(笑)」
 
――演者の方にとっても刺激満載の三競演。見どころ、聞きどころはどこでしょう。
 
「アガッてる私を見てください(笑)。たまに噛んだりしますから。お前は前座か、みたいな。それは楽しいですねぇ。自分自身も年齢を忘れてるわけやからね」
 
――そんな文珍師匠は、来年の2月28日から「芸歴50周年記念 桂文珍国立劇場20日間独演会」を開催されます。何と計40席を披露されるとか。
 
「入門して数えで50年ということで、記念にやらせていただきます。東京の国立劇場はなかなか貸していただけないので、それに応じた内容のものを一生懸命やっちゃおうかなぁと」
 
――なんだか軽いですね(笑)。
 
「ほんとはプレッシャーなんよ(笑)。夢やね。オリンピック、並びにパラリンピックの2020年ですから、20+20で落語を40本。これを折り返し地点にしてみたいなと」
 
――まだ、折り返し地点ですか?
 
「それぐらいの気持ちでね。スポーツのアスリートたちが活躍する年なんですけど、しゃべりの落語のアスリートとして元気で頑張ってみたいなと、考えております。でも40本やらなイカンから、今順番に確認していってるんですよ。5年ぶりとか3年ぶりとかのネタがありますからね。でも、ずーっと手掛けてきた鉄板ネタ40本というか。鉄板40本やで。すごいね(笑)。選ぶの大変やったわ。あれもやりたい、これもやりたいって。初日のゲストには鶴瓶さん、2日目は南光さんにも出てもらうんです。おふたりから元気をいただいて頑張ろうかなと。初日は僕が『らくだ』をやって、2日目は(桂)米朝師匠に教わった『けんげしゃ茶屋』をやるとか、ちょっとずつ工夫をして。そういう組みあわせも面白いですよ。20日間通しで見ると10何万かかるねんけど、オリンピックのチケットのこと考えたら安いでしょ。でもチケットの倍率はオリンピックに近いらしいよ(笑)。この三競演もね」
 
――古希を迎えられて、ますます血気盛んですね。
 
「卒寿が90歳で、95歳が“珍寿”っていうんですわ。だから珍寿まで頑張りたいなと思てます。100年生きるつもりで今日を勉強に当てるという風にしといたら、何とか、何とかやれるかなと。そやけど、いつ何があってもおかしくない年齢に3人が3人ともなってきますからね。聞くなら今やね(笑)」

取材・文:松尾美矢子
撮影:大西二士男



(2019年10月18日更新)


Check
桂文珍(かつらぶんちん)●1948年、兵庫県出身。1969年、五代目桂文枝に入門。鋭い観察眼で時代に呼応した落語を作り上げ、全国各地で独演会を開催。来年2月末からは芸歴50周年記念として、前代未聞の「桂文珍 国立劇場20日間独演会」を開く。

『夢の三競演2019
~三枚看板・大看板・金看板~』

10月27日(日)一般発売 Pコード:497-009
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話■0570(02)9520(10:00~18:00)、通常電話■0570(02)9999にて予約受付。

▼12月23日(月) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6700円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶/桂團治郎(開口一番)
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局■06-6371-0004

チケット情報はこちら

<夢の三競演 演目一覧>

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』

2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』

2017年
笑福亭鶴瓶『妾馬』
桂文珍『へっつい幽霊』
桂南光『蔵丁稚』

2018年
桂南光『胴斬り』
笑福亭鶴瓶『徂徠豆腐』
桂文珍『持参金』

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