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「自分で演出しておいて、毎回感動するんです」
白井晃、『ビッグ・フィッシュ』への愛を語る

ティム・バートン監督の傑作映画をミュージカル化し、2013年にブロードウェイで大ヒットした作品『ビッグ・フィッシュ』。日本では2017年に初演され、大きな感動を呼んだ本作が今年、新バージョンで再演される。新バージョンとはいえ、キャストは川平慈英、浦井健治、霧矢大夢、夢咲ねねら主要メンバーが全員続投。「同じメンバーがぜひとも、と集まってくれました。それだけこの作品をみんなが愛している」と語るのは、演出の白井晃。白井自身も「この再演はなんとか実現したかったし、実現しなければいけないんじゃないかと思えた」と言うほど、作品に対し並々ならぬ思い入れを抱いている。その白井に作品の魅力や、新バージョンの見どころを聞いた。

少年の頃人魚に恋したこと。魔女に自分の死に方を予言されたこと。サーカスで運命の女性と出会ったこと――。自らの体験談をありえないほど大げさに語る父・エドワード。息子のウィルはその話を聞くのが大好きだったが、成長するにつれ、それらが作り話としか思えなくなり、やがて父と息子の間には大きな溝が出来てしまう。そんな中、父エドワードが病にたおれ……。エドワードが語るイマジネーション溢れる世界と、リアルな家族の物語が織り成す、ファンタジックで心温まる感動譚。色鮮やかなティム・バートン映画も素敵だが、このミュージカル版は「親子間、父と息子ならではの葛藤や摩擦もよりリアルに描かれている」のが魅力だと白井は語る。「何より、父親のエドワード像が充実しています。映画では年老いた父親と若き日の父親は別の俳優が演じていましたが、ミュージカル版はどちらも川平慈英さんが早替わりで演じます。だからこそ、川平さんの魅力が発揮されています。川平さんの存在が、ものすごく大きい」。
 
川平が演じるエドワードは話を盛り上げ場を楽しませるサービス精神、茶目っ気、何より憎めなさが、アテ書きかと思うほどにぴったりだった。「あれが出来る人は日本にはなかなかいないと思いますね!」と白井。「エドワードはキャリアも必要だし、人生経験も必要。さらに身体能力と歌唱力演技力も備わっていなければならない。中年の男優さんがメインを張るのは今の日本の演劇界ではすごく難しいことなんですが、慈英のエドワードは素晴らしかったし、慈英のあの姿をより多くの人に見てもらいたいです。あまり美化しちゃうのも何ですが(笑)、慈英は「クー!」だけの人じゃないんだからって言いたい(笑)」。
 
息子ウィル役の浦井健治、妻サンドラ役の霧矢大夢、ウィルの妻ジョセフィーン役の夢咲ねねらが醸しだす空気感も心地よかった。「“家族の愛情”というテーマに対して、非常に共振してくださるキャストだったと思います。それは、このエドワード一家以外の人々……藤井隆さん、ROLLYさん、鈴木蘭々さんたちもそう。この“家族の物語”に、心優しき人たちが集まってくれた」。白井はそう語りながら、愛しそうに目を細める。なお、今回“新バージョン”である所以は、初演時22名のキャストで上演された本作を、少数精鋭の12人のみで上演するところにある。「12人のメンバーでこの作品をやりきります。これは、アメリカでもこの形での上演がありまして、その形を踏襲します。でもシンプルな空間にしようとは思っていません。初演時に日生劇場で作り上げた空間を僕らは愛していましたので、あの空間をできるだけ凝縮した形で再現したいと思っています。ただ、キャストの皆さんは確実にハードになりますね(笑)、色々な役をやっていただかないといけませんので。でもその大変さも楽しんでもらえるキャストだと信じています」と、意欲を燃やす。
 
演出を手掛ける白井自身、ラストシーンは泣きそうになるという。「自分でおかしいんじゃないかってくらい、毎回毎回、感動するんですよ。家族の物語というのは、それぞれの家族の形は違えども、誰しもが持っているものです。僕は演劇を観ていて、自分のことを思い浮かべながら観られる作品が好きなんです。誰しもいつかは家族との別れのタイミングがくる。そのことを思い描いて感動するんだと思います。私自身、慈英の演じるエドワードを見ながら、どこかで自分と父との関係を思い起こしながら演出してたところもあります。言ってみれば、とても普遍的な物語なんです」。
 
人魚や巨人、魔女といったファンタジックで夢のような世界を味わううちに、自分の生活と地続きの感情で胸がいっぱいになる。そんな素敵な体験ができる、唯一無二のミュージカル『ビッグ・フィッシュ』、ぜひお見逃しなく。
 
11月の東京公演を経て、関西公演は12月12日(木)から15日(日)にかけ、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて上演される。

取材・文:平野祥恵



(2019年9月 9日更新)


Check
白井晃

『ビッグ・フィッシュ』

【東京公演】
▼11月1日(金)~28日(木)
シアタークリエ

【愛知公演】
▼12月7日(土)・8日(日)
刈谷市総合文化センター 大ホール

Pick Up!!

【兵庫公演】

チケット発売中 Pコード:494-355

▼12月12日(木) 13:00
▼12月13日(金) 18:00
▼12月14日(土) 12:00/17:00
▼12月15日(日) 12:00

兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

全席指定-13000円

[劇作・脚本]ジョン・オーガスト
[音楽][作詞]アンドリュー・リッパ
[演出]白井晃
[出演]川平慈英/浦井健治/霧矢大夢/夢咲ねね/藤井隆/JKim/深水元基/東山光明/小林由佳/鈴木蘭々/ROLLY/他

※未就学児童は入場不可。

[問]梅田芸術劇場■06-6377-3888

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