南河内万歳一座、23年ぶりに上演の名作
『~21世紀様行~唇に聴いてみる』の大阪公演が開幕!
劇作・演出家の内藤裕敬が主宰する南河内万歳一座が、旗揚げ40周年に向けた記念企画第2弾として、再演リクエストナンバー1の名作『唇に聴いてみる』を23年ぶりに再演。東京公演を経て、6月12日、一心寺シアター倶楽にて大阪公演が開幕した。
初演は1984年、内藤が24歳の頃。1970年代の団地をモチーフに描いた物語で、今回の上演にあたっては「1986年の再演のために戯曲を書き直して、そこからは変えていません。若い頃に書いたからちょっと青臭いけどね(笑)」と内藤。団地で一人暮らしをする青年が、近所の空き家が放火されたのを目撃。第一発見者として捜査員から事情を聴かれているところから始まる。
団地にスーパーができて危機を感じている近所の商店主や、団地に住むオバサンたちが現れ、喧々諤々。会話が小気味よく展開されながら、主人公の淡い思い出が立ち上がってくる。小学生の頃、転校生の女の子と、“勝てなかった”運動会。ときには客席を巻き込みながら繰り広げられる。「昔はいろんなものが見えたのに、今は何も見えません」。時折投げかけられる言葉に、ハッとさせられる。
現実と妄想を行き来しながら物語を構築し、役者の身体を活かして展開。「昔はみんな下手だったけど体力と筋力があった。だからセリフで勝負するというよりは、フィジカルで見せていくような形だったんです。でも、今回23年ぶりに読んでみたら、もっとストーリーをしっかりとつないで、物語をはっきりと浮かび上がらせるほうがいいと思った。あとは贅肉をそいで、遊ぶところは遊んで劇世界を見せることに重きを置きました」と内藤が語るように、役者の肉体を使って表現する万歳らしさを残しながら、緻密に会話を組み立てる会話劇の側面もある。だからこそ、青年が失くしたものや“あの頃”の郷愁がより浮かび上がってくるのだろう。
団地には何でもあるけど、閉塞感を感じるコミュニティもある。「ここ汚したの、あなたじゃないの?」「あなた評判悪いわよ」。煩わしくなった横とのつながりは、21世紀となった現代の「隣人との希薄な人間関係」につながっているのではないだろうか。“あの頃”の物語を現代に立ち上げることによって見えてくる“今”を見つめ直したい。
先に幕が開いた東京公演での反響も良く、大阪でもどんどん良くなるだろうと内藤。「最近はセリフ重視の芝居が多くて、フィジカルと両方で攻めていく演劇は少ない。万歳は相変わらずそれをやってるんだけど、これは一番やっていた頃の作品で、東京では本番入ってから段々呼吸が合ってきて、身体に馴染んできている感じがした。大阪公演でも、日々気付いていくことを無駄にせずに、最後までやりきりたいです。昨今流行りの2.5次元とかプロジェクションマッピングじゃなくて、アナログで見せている。それが演劇の一番の醍醐味ですから。その辺りのことを、できればお芝居を目指している若い人たちに観てもらって、刺激になればいいなと思います」。
大阪公演は6月17日(月)まで、一心寺シアター倶楽にて上演。6月13日(木)19時半、14日(金)19時半、17日(月)14時のチケットは当日券販売あり。
取材・文:黒石悦子
(2019年6月13日更新)
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