「大先輩の中で、埋もれないようにしっかり立ちたい」
女優・丹下真寿美のプロデュースユニットT-worksが
関西若手注目株の作・演出家と演技派俳優を迎えて
滑稽な“駆け引き”の物語を上演!
女優・丹下真寿美とプロデューサー松井康人により結成されたプロデュースユニット、T-works。
関西を拠点に活動する丹下の魅力を全国に広めるべく2017年に活動をスタートし、2018年1月、後藤ひろひとの作・演出による『源八橋西詰』を大阪と東京で上演、大好評を博した。続く今回の第2回公演は、関西小劇場の若手注目株THE ROB CARLTONの村角太洋を作・演出に迎えて、ホテルを舞台にした“駆け引き”の物語『THE Negotiation』をお届けする。3月8日(金)より開幕する本公演に向けて、丹下と村角に話を聞いた。
――まず、T-worksを立ち上げたきっかけから教えていただけますでしょうか?
丹下「2017年に石原正一ショーの『筋肉少女』という公演に出させていただいたんですね。そのときに制作で入られていた松井康人さんから“もっといろんな人に知ってもらいたくない?”という感じで声をかけていただきました。で、実際に動くことになってT-worksというユニットを立ち上げたんです。コンセプトとしては、まず丹下真寿美という女優をもっともっといろんな人に知ってもらいたいなというのがあります。関西では長くやらせていただいているので、名前だけでも知っていただいている人は増えてきたかなという中で、東京ではまだまだ浸透していないので、大阪と東京で多くの人に観てもらいたいなと思っています。ゲストも、今まで共演したことのない方に出ていただくことで私も刺激を受けますし、そこからまた広がっていけたらという思いがあります」。
――昨年の第一回公演、手応えはいかがでしたか?
丹下「作品自体が、後藤ひろひとさんが1996年に遊気舎に書き下ろしたもので、しかも、作・演出・出演で後藤さんが入ってくださる、初演からのメンバーの久保田浩さんも出演してくださるということで、発表した時点で反響がすごかったんです。開幕してからも、周りの反応を肌で感じまして、自分のユニットでありながら、“すごい作品なんやなぁ”と他人事のように思っていました(笑)。口コミの影響もすごくあって、最終的にはほぼ満席で入っていただけたので、いろんな方に観ていただけたのかなという印象がありますね」。
――村角さんは前回公演をご覧になられたのですか?
村角「観ました。僕は大王(後藤ひろひと)ウォッチャーなので、まだT-worksの存在を知らずに第1回公演のチラシを見たときに“大王が作・演で入っている…?この公演は何なんだろう?”と思っていて。で、エミィ賞グランプリ(優秀なコメディエンヌを選出する賞)の敗者たちの飲み会で丹下さんとお会いして、大王もいたので、そこでいろんなことが繋がって、ぜひ観に行こう!と思っていたところにプロデューサーの松井さんからも“観に来てください”とお声がけいただいたんです。“これはもしかして、大王の次に(作・演で)呼ばれるのか…?”という邪念を持ちながら観たので(笑)、普通のお客さんとは違う目線で観た感覚はありますね。でも面白かったですし、プレッシャーがあったかどうかは分かりませんが、丹下さんが主役としてしっかり立たれていたので、旗揚げとしては素晴らしいものになったのではないかなと思います」。
丹下「ありがとうございます」。
――第2回公演を村角さんにお願いしようと思われたのはどうしてですか?
丹下「松井さんが名前を挙げてくださったんです。私もTHE ROB CARLTONの『マダム』(2018年2月)で初めて拝見したのですが、その前から“THE ROB CARLTONがすごい”という噂をお聞きしていたんです。だから、当時は作品自体は観ていなかったけど、感覚で“やりたいです”とお伝えしました。直感ですね。でも女性が出演する長編が初めてなんですよね」。
村角「そうなんです。でもやりたかったんですよ。THE ROB CARLTONは基本男性だけの芝居で、いつの間にか、なんとなくそういう流れができちゃったんです。女性の出る芝居も作りたいなぁとは思っていたので、いい機会をいただいてありがたいなと思います」。
――女優さんが出演する舞台ということで、描きたいことは?
村角「ホテルの3日間のお話で、ふたつの会社のトップ同士が商談をする様子を描きます。メインは小奇麗な交渉の会議室で、それ以外に、それぞれのチームの控え室とホテルのバーといった4つの空間を舞台に展開していきます」。
丹下「ビジュアルが重厚感あふれる感じなんですが、そこからは想像できないような内容です(笑)。フライヤーのイメージで観に来られたお客さんが、いい意味でそのイメージを崩されると思うので、早く観てもらいたいですね。そしてそこに、自分がどう挑戦できるのかが楽しみです」。
――村角さんの作風でいうと、シチュエーション・コメディになりますか?
村角「何を“シチュエーション・コメディ”と言うかですよね。交渉のお話ですし、ほとんどセリフしかないですし、大前提として会話劇があって、そのうえにシチュエーション・コメディと捉えていただけるのか…。ただ、“喜劇”ではありたいと思いますね。コメディというより喜劇。喜劇のほうが人間味あるでしょ?」。
丹下「確かに」。
村角「昔は“コメディ”って表現していましたが、“喜劇”って字面がカッコいいなと(笑)。そういう意味では、舞台上は常に真面目でいないといけないのかなと思いますね」。
丹下「その文字で大分印象変わりますね。コメディだったら常に笑わせないといけない感覚が私はすごくある」。
村角「コメディってちょっとポップなんですよね。喜劇って字面がキツイじゃないですか。カクカクしてる(笑)。コメディは軽くできる感じがしますけど、喜劇だと重厚さがあるというか。観てくださった方の捉え方次第だと思いますけど。シチュエーション・コメディの要素も当然あると思いますし」。
――商談のシーンにしようと思われたのは?
村角「元々、こういうお話は自分の団体でもやりたいなとは思っていたんですが、実年齢の方にやっていただく面白さというのは当然あって。しかも商談といっても、“トップ同士の会談”という雰囲気の、豪華な感じでやりたかった。そうなると自分たちの団体ではできないんですよね。で、今回のT-worksはキャストが先に決まったんですね。丹下さんのほかに、三上市朗さん、山崎和佳奈さん、森下亮さん。このメンバーだと、ただ真面目に交渉をし合っているだけでも滑稽に見えるんじゃないかなと思ったんです。三上さんと和佳奈さんが実年齢くらいで対決してもらえたら、ただやっているだけで面白い。交渉ごとは、前提としては笑いがなくても面白いものというのが僕の中にあって。それを“画”として見せられるのが今回のT-worksなんじゃないかなと」。
――キャストの方々も松井さんが声をかけられたんですか?
丹下「そうですね。基本的に共演したことがない人とやるというコンセプトをもとに、松井さんがいろんな方の名前を挙げてくださるんです。三上さんは最初に名前が挙がって決まりました。『マダム』にも出演されていて、相性が抜群だというのも分かっていたので」。
村角「『マダム』終わってからすぐに松井さんが直接声をかけてましたよね」。
丹下「和佳奈さんは、『名探偵コナン』の毛利蘭の声優をされているのですが、元々松井さんと同じそとばこまちの劇団員で、松井さんの後輩に当たる方。松井さんが“彼女なら任せられる”と。森下さんに関しては、私から松井さんにお願いしました。お芝居自体は観たことがなかったのですが、T-worksのことを知っていただいていましたし、直感的に森下さんとやってみたいなと思ったんです」。
――4人でのお芝居ですが、T-worksということで丹下さんが中心になりますか?
村角「僕のお芝居は、基本的に主役がいないんですね。当然、彼女の魅力を出さないといけないので、手は考えておりますが、彼女を軸にまわっているなという物語にはならないと思います。周りが大先輩で達者な方ばかりなので、そういう意味では4人の中で、凹みにならなければ成功だと思うんです。その中で、セリフ量が多いとか役柄的にとかではなくて、印象付けることができたら最高やなと思うんです。意図的に立ててないのに立つのって一番カッコいいじゃないですか。それができたら最高です。最後にお客さんが“そっか、T-worksだったんだね”ってなればいいですね」。
丹下「まかせてください!(笑)。でもそれが本当に理想ですね。もちろん作品にはよりますけど、どこかしらひっかかってくれさえすれば、私はそれが本望ですね。私のユニットであって、私をより多くの人に知ってもらうというコンセプトで作ったユニットですけど、必ずしも私が主役じゃないといけないわけではなくて。いろんな人と一緒に作品を作って、その人目当てで来たお客さんが、私という女優を知ってもらうっていうのが一番大きな目的ではあるので、この中で飛びぬけて私が前に出るとかはない。この先輩方の中で、自分が埋もれないようにしっかりとやりたいと思います」。
村角「“あの3人と対等にやっていたね”って思われたいですよね。これからT-worksを続けていく中で、バリバリの主役も観たいですけどね(笑)。自分で書いて、演出して、主演してっていうスタローンみたいな(笑)。でも今回は僕が任せていただいたので、僕らしい作り方で丹下真寿美という女優を立たせたいなと。僕たちは同い歳で、この座組の中では最年少なので、大先輩方の胸を借りて何かを残したいなと思います」。
取材・文:黒石悦子
(2019年3月 7日更新)
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