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「木ノ下歌舞伎」に新たな息吹を吹き込む
糸井幸之介と演じる実力派・内田慈と新星・田川隼嗣
3人3様のそのアプローチはいかに

木ノ下歌舞伎とロームシアター京都がタッグを組む『糸井版 摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』。木ノ下歌舞伎として2年ぶりの完全新作となる本作は、昨年 10 月に『心中天の網島(しんじゅうてんのあみじま)-2017 リクリエーション版-』を上演し、大きな反響を呼んだ「レパートリーの創造」プロジェクト(*1)第二弾でもある。
能『弱法師』や説教節『しんとく丸』『愛護の若』を元に、人形浄瑠璃、歌舞伎、文学、演劇と時代により形を変えながら脈々と語り継がれてきた物語を、芝居と音楽を融合した独自の作風で唯一無二の世界観を創出するFUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介(上演台本・演出・音楽)が 木ノ下裕一(監修・補綴・上演台本)と共に壮大なスケールの音楽劇として上演する。
本作で 物語の主人公、玉手御前を務めるのは、舞台・映画・ドラマでもその活躍が目覚ましい内田慈。またオーディションで決定した俊徳丸役は、2014年度「第27回 ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」審査員特別賞受賞の田川隼嗣。本作に臨む意気込みを糸井、内田、田川の3人に聞いた。

(*1)ロームシアター京都が2017年より開始したプログラム。公立劇場が主体的に作品製作に取り組み、劇場のレパートリー演目として時代を超えて上演されることを目指した企画。

――まず、今回は音楽劇ということで音楽が重要なキーワードになってくると思いますが。
 
糸井「戯曲、演出、音楽、という分け方をするなら、僕にとって音楽はいちばんその作業が楽しい部分。他のところはちっとも楽しくなかったりします(笑)」
 
内田田川「(笑)」
 
糸井「(戯曲)を書いていてうまくいかないなって時に、音楽の部分に切り替える事で、思ってもなかった曲の構造が思い浮かんだりして、そこからまた新たな物語の展開も生まれるといった相乗効果もあって、いいリフレッシュにもなるんです」
 
内田「私は歌を歌うのはすごく好きで、音楽を聴くのも好きです。今は、T字路sという男女二人組のバンドが大好き。音楽を作れる人に対してはすごく憧れがあって、一度、舞台で自分が歌う曲を作曲したことがあるんですがすごいダサい曲で(笑)。以来、より憧れています。ありがたいことに舞台や番組(NHK Eテレ「みいつけた!」)で、ちょこちょこ歌う機会をいただきますが、2009年『愛死に』で初めて糸井さんの作品に出演し歌わせていただいた時は特別な嬉しさがありました。糸井さんの曲って、戯曲でもあって、そのために作られた音楽が役者の体とバチっとハマった時、演る側も観る側もとんでもない瞬間に連れて行かれる。この世界観との出逢いは衝撃でした」
 
田川「僕は、歌に対して少し苦手意識があったのですが、この1年間でその苦手意識が変わり始めています。去年までは友達の前で歌うのすら嫌だったんです。実はそれには理由があって、小学校5、6年までは歌が好きで、校歌とかも全力で歌っていたんですが、ある日、みんなで校歌を歌い終わったときに誰かが“今日、めっちゃ、ヘタな人いたよね”“私の隣の人だった気がするんだけど…”って言われたんですね。“それって俺じゃん”って」
 
糸井内田「(笑)」
 
田川「で、その瞬間から歌うのが怖くなっちゃって。そこから歌わなくなって…。だからオーディションの話を聞いて、今回の木ノ下歌舞伎、音楽劇ですよって言われた時、「あ、これダメだって」(笑)。でもここで諦める訳にはいかないなって一念発起したんです。地元に帰っても歌の練習をしたりとか、講師の方に教えていただいたりとかして、オーディションに臨んだんです。それで会場で歌った瞬間に、「あ、意外と自分歌えるかもな」って(笑)。その瞬間から苦手意識が薄くなり始めてます。先日、糸井さんに自分が歌った録音を送ったんですけど、送る瞬間も意外と抵抗がなくて、少しずつ歌というものが自分の中で“いいもの”に変わりつつあります」
 
糸井「FUKAIPRODUCE羽衣の曲を2曲歌っている録音が送られてきて、バックに薄くオケを流しながら、本人の声はしっかり入っている感じのものでした。いい感じなんですけど、慣れない曲を無理やり部屋で一人で歌ってるって考えたら、おかしくって(笑)」
 
――そんな田川さんと初めてお会いされたのは…。
 
糸井「オーディションで好青年っていう印象はもちろんありましたけど、田川君に決まって、数ヵ月後にまたお会いしたんですよね」
 
田川「はい! そうです」
 
糸井「もちろんオーディションで、僕も含めみんないいと思ったから田川君になったんですけど、久しぶりに会って「あ、かっこいい」って(笑)。もともとかっこいいんですけど、すごく大人になってる感じで。少しの間に変わっていける年齢っていいなって」
 
――田川さんの糸井さんの印象は?
 
糸井「すごくまっすぐな目で見つめてくるね(笑)」
 
田川「すみません(笑)。糸井さんは、なんか、自分の中に考えていることがたくさんあるんだろうなって」
 
糸井「ないない(笑)」
 
田川「自分自身が考えていることを言葉にするのって難しいと思うんです。表現とかが足りないなって思って言葉にできなかったり。それを表現できるのってすごいなって思いました」
 
糸井「内田さんに対してはどう思った?」
 
田川「内田さんは最初の印象は“お母さん”ですかね」
 
内田「あ、自分のお母さんに似てるって言ってたよね?」
 
田川「そうです。姉もいるんですが、母と姉の間に内田さんがいる感じです」
 
糸井「それ家族!(笑)」
 
――糸井さん、内田さんとの出会いもお聞かせください。
 
糸井「内田さんの舞台を拝見したり、僕の舞台に来ていただいたりしてご挨拶くらいはさせていただいていました。最初は『愛死に』の時ですかね」
 
内田「私は『朝霞と夕霞と夜のおやすみ』(2009年)で初めてFUKAIPRODUCE羽衣を観て、雷に打たれて、もう、一目ぼれの片想いのような感覚でした。で、今回の出演者でもある金子岳憲君が次回公演への出演が決まっていたので「いいなぁ」なんて話していたところ、主宰の深井さんが私にも声をかけようとしてくださっていたことが分かって。もう二つ返事でOKして、糸井さんにお会いし、東京芸術劇場での『愛死に』(2009)出演に至りました」
 
――少し話は変わりますが、今回の公演はロームシアター京都のプロジェクトである「レパートリーの創造」の第2回となり、糸井さんは昨年の『心中天の網島-2017年リクリエーション版-』に引き続いて携わることになりますが。
 
糸井「昨年と比べて劇場のサイズが大きくなるのでアプローチの仕方は変わってくるかと思います。また俳優さんたちは同世代の方々も多いので、その方々の今まで経験してこられた部分を、内田さんや田川君たちとうまく融合させて表出できたらなと思っています」
 
――古典、音楽など、普通の舞台に比べて要素が多い今回の舞台について、内田さん、田川さんはどう思っていらっしゃいますか。
 
内田「要素が多いぶん、やるべきことが多いのは明らかですが…。最初から「今回の課題はきっとこうだから、こう取り組もう」とか、構えないようにしたいなと思っています。とにかく、ある意味いつも通りに“今”の自分の全力で、この役に“寄り添う”ということを大切にしたい。登場人物が何でそう思ったのか、何でその行動をとったのか分からないことっていっぱいあって、例えば今回の玉手御前だと「母の気持ちと女としての気持ち、どっちが強いの?」とか「本当にそんなに先の先の展開まで読めてたの?」とか疑問はあるんですけど、でもそれは全部側から見たことであって。演技で私が大事だなと思っているのは、自分が演じる登場人物が何を考えたのか、その人のその瞬間の気持ちに“寄り添う”ことじゃないかと思うんです。“寄り添う”ことはどの役でも難しいことではあって、今回の玉手御前は多面的な人物だから、より難しいだろうなと思っています。でも今の私に挑戦する機会をくださったことに“意味”を感じています。今、私35歳なんですけど、35歳の今だから分かるいろんな気持ち、忘れてしまった気持ちや感覚も含めて今だからわかることってあると思うんです。そんな“今”の自分でこの役に“寄り添いたい”。あまりの大役に恐れおののいていますが(笑)、この巡り合わせに感謝して、玉手御前さんと仲よしになりたいと思います」
 
糸井「すごい!」
 
田川「内田さんのお話を聞いたあと…。僕、頭の中で勝手に課題を作っちゃっていました…」
 
内田「ごめん、いいのいいの」
 
田川「内田さんのお話を聞いて思ったんですけど、自分の中で“こうでなくてはならない”ってあったりすると思うんです。だからそれに俊徳丸という役を寄せようとすると、分かったつもりになっちゃうから、それを全部取っ払うことが大事なんじゃないかなと。そうすることで俊徳丸に近づいて、初めて自分のやりたい俊徳丸を表現できるんじゃないかなって。古典、歌っていう部分はやってみないと分からない部分もあるので、だからこそいろんな稽古を経てこの作品に対しての理解が深まればいいなって思っています」
 
糸井「みんな、すごい。僕も頑張ります!」

取材・文:安藤善隆(C.J.E)



(2019年1月16日更新)


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木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」

〈レパートリーの創造〉
チケット発売中 Pコード:489-860
▼2月10日(日)・11日(月・祝)15:00
ロームシアター京都 サウスホール
一般-3500円(指定)
ユース引換券(25歳以下)-2000円(指定、要身分証明書)
高校生以下引換券-1000円(指定、要身分証明書)
[出演]内田慈/田川隼嗣/土居志央梨/大石将弘/伊東沙保/金子岳憲/西田夏奈子/武谷公雄/他
※未就学児童は入場不可。
[問]ロームシアター京都チケットカウンター
■075-746-3201

チケット情報はこちら

特設サイト
https://rohmtheatrekyoto.jp/lp/gappou/

木ノ下歌舞伎オフィシャルサイト