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「僕は50歳で落語と結婚したようなもん」
桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶による落語会『夢の三競演』が開催!
笑福亭鶴瓶の落語への情熱がたっぷり詰まったインタビュー

上方の冬の風物詩ともいえる落語会『夢の三競演』が今年も開催! 桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語の人気スターが共に繰り広げる、年に一度の三人会だ。ぴあ関西版WEBでは、2011年より毎年、開催に向けてお三方にインタビューを実施。第3弾は笑福亭鶴瓶にインタビュー。師匠・笑福亭松鶴のこと、今年新たに手がけたネタのこと、そして「50歳で結婚したようなもん」と語る落語への思いなど、お聞きしました。

――今年は師匠である六代目笑福亭松鶴師匠の生誕百年祭が、9月に天満天神繁昌亭や動楽亭で、笑福亭一門の総出演により1週間に渡って開催されました。
 
笑福亭鶴瓶(以下・鶴瓶)「僕は去年が100歳やと思てたんですよ。(笑福亭)枝鶴に『やらなあかんで』て言うたら『兄さん、違いますよ。来年ですわ』と。で、何かやろうやということで盛り上がって、日頃は集まれへん連中が集まってね。改めて言うのもなんやけど、名前を継ぐということよりも、その人の魂がそれぞれの心に生きてると継いだことになるんですよ。やっぱり、人間って影響された人はいつまでも残るんです。生きてるんですよ。そういう意味では、それぞれの松鶴が自分らの中にあったという。名前を継ぐよりも、人の心の中に潜んでる師匠のすごさっていうか。みんながやって良かったなと思てるし、そうやって集まれることで、松鶴はすごい人なんだなというのを改めて思いますよね」
 
――笑福亭は、いい意味で人間臭い個性的な一門だと再認識しました。
 
鶴瓶「それぞれに良いプライドがあるんですよ。そんなことできるかとか、そんなんやれるかっていう。それは松鶴イズムやと思いますよ。おやっさん(松鶴師匠)は四天王の一番上やし、噺家を増やすために涙を呑んでやらなあかんこともいっぱいあったやろうけどもね。その中で、僕らもとってもらったんです。アフロヘアをしてた僕でも、こんなん入れといたら何か役に立つやろうと。おやっさんが、いろんなやつを育ててるという」
 

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――そんな2018年に、新たに手掛けられたネタはありますか?
 
鶴瓶「『徂徠豆腐(そらいどうふ)』ですね。1月の西宮でネタ下ろしをして」
 
――江戸前の講釈や落語で知られる『徂徠豆腐』をやろうと思われたキッカケは?
 
鶴瓶「だいぶ前にやろうと思ってて。(立川)志の輔さんも『徂徠豆腐』をやってるでしょう。あれは大作じゃないですか。いろいろと赤穂浪士の説明もしてて。そんなんを見てて、もっとコンパクトにして、普通の感じで大阪に持ってこれないかなと。あと大阪弁を入れたかったんですよ。『妾馬(めかうま)』もそうしましたけど、笑いを多くして、人情噺的じゃなく、でも最後にグッとくるという感じにしたいという。で、大阪の豆腐屋が江戸に来てやるという設定にしたいなと思たんですね。大阪にああいうもんがないじゃないですか。昔、大阪の噺が随分、東京に行ってるでしょ。逆に東京のものを大阪でと。繁昌亭とか喜楽館があると、そういう話がポンと一つ入るといいじゃないですか。笑いばっかりとか、旅ネタで情景を説明するものとか…そういうんじゃない、ちょっと情のある大阪のものをね。東京の噺を恥ずかしくない形で違和感なく大阪に持ってきて、息づかせることができたらなと思てるんですけどね。今、その作業をしてるんですよ。それを後輩がやっていったらいいなと思うし」
 
――長屋を起点に、後半は壮大な展開となるドラマチックなストーリーです。
 
鶴瓶「『徂徠豆腐』は、本当にあった話ですからね。荻生徂徠(おぎゅうそらい)という儒学者に、庶民が生きた教育を与えてくれたんやというのをやりたかったんですよ。そうしたら、大阪にも合うやろと。だから噺の中に、自尊心が傷ついて豆腐屋さんの情を素直に受けることができなかった徂徠が、『握り飯をした豆腐やと思え』っていう言葉に『学問ばかりやってる自分が、ふっと目が覚めたんだ』という台詞を入れたんですよ。今もドンドン変えてるんですけどね。オチは志の輔さんのと違うものを作ろうと思ったけど、あんなエエもんを見てしまったらでけへん。で、『あのオチ、ちょうだい』って言うたら、『いやっ、(落語作家の)小佐田定雄さんが作ったんです』と。やっぱり、一番ええとこに落ち着くんやね。だから、小佐田さんに電話してお金で買いました(笑)。『そんなん、いらん』って言うてたけど」
 
――他に、ご自身の旬のネタを教えてください。
 
鶴瓶「今年の独演会でやろうと思ってるのが、『かんしゃく』『長屋の傘』『鴻池の犬』『妾馬』『お直し』『山名屋浦里(やまなやうらざと)』かな。おやっさんの100歳の記念の年やから、『かんしゃく』と『長屋の傘』は入れていこうと。『鴻池の犬』もおやっさんの十八番やからね。ただ、前は“三毛のおばちゃん”とか入れてたんですけど、今またシンプルに戻して、おやっさんの感じに変えようと。最初に自分が感じたことを、もいっぺんやり直そうと思てるんですよ」
 
――残りの3席は、鶴瓶師匠の独自の演出のものです。
 
鶴瓶「『妾馬』は自分で言うのもおかしいけど、ものすごいフィットしたから、毎年の独演会に入れていきたいなと思てるんですよ。『山名屋』は、聞きたいという人がおるんでね。『お直し』は、大阪の新町を舞台にやってるんで、これはやり続けようかなと。以前はいろいろと解説をつけてやったんですけど、そんなんなしでポンと入れるようにできないかと考えてるんです。『お直し』は『妾馬』と同じように自分のものにしていきたいし、『山名屋』は自分のものですから。口幅ったいけど、自分の十八番みたいなものができたらなと」
 
――失礼ながら、噺を作り上げる素地も技術も十分に備わってこられたと…。
 
鶴瓶「『妾馬』ができてから、段々これはこうしたらいいな、これは言えるなとか思えるようになって。言えない台詞ってあるんですよ。『この指の先を見い』『太い指やな』『いや、指の先やがな』『あはっ、爪が伸びてる』っていうのがあるでしょ。このやりとりが、いっこもオモロナイと思てたんです。やってオモロイのは、(笑福亭)仁鶴兄さんだけですよ。だから、今までオモロナイ台詞は、みな省いてたんですよ。っていうか、自分に技量がなかったんですね。それが、自分の中で面白いなと思えるようになったっていうか。こんなん何がオモロイねんなっていう台詞がドンドンうけだして。だから、オモロイ、オモロナイやなく、それは絶対必要な台詞なんです。そんなんも、すごくわかり出しました」
 
――鶴瓶さんの『妾馬』は、大阪の中堅噺家も手掛けるようになりました。
 
鶴瓶「中堅の生きの良い噺家が『やらしてくれ』言うて。10人ぐらいいてるのかな。みんなに僕のテープを送りました。僕が作った落語は稽古つけんでもいいんですよ。稽古をつけてもろたら変えられへんでしょ。だけど、テープで聞いたり、映像で見たりしたら、『ここは、こうした方がええな』とか『俺はこうするな』とか、自分で稽古して工夫しますよね」
 
――さて、文珍師匠が12月で70歳を迎えられます。師匠は、もう男は上がりつつあると。
 
鶴瓶「絶対、上がってない(笑)!別に女の人とどうこうじゃなく、やっぱりエネルギッシュな部分っていうのは、ずっと持ってますからね。だから、14年前に三競演に誘われて何も思わないでついてきたけど、ほんとについてきて良かったと思うし感謝しますね」
 
――鶴瓶師匠は3歳年下ですが、超多忙な日々を送られる元気の源は何ですか?
 
鶴瓶「毎日、楽しく生きるというか。落語というものに出逢わせてもらったことっていうのは、結婚したようなもんですよ。落ち着きます。自分の本職がこれだっていう。落語という嫁はんがおるんですからね。他の仕事も、嫁はんがおれへんかったら『お前、何やねん?』ってなるじゃないですか。だから、僕は50歳で結婚したようなもんですよ」
 
――落語家さんの適齢期については、どう思われますか?
 
鶴瓶「僕は、まだまだ一つの落語をどうしようかと悩んでますよ。ようやく落語を料理できるような段階になったかなと。でも、いつまでも脂が乗ってないとダメですよ。鶴瓶は鶴瓶、南光は南光、文珍は文珍のものを持ち続けるというか。だから、死ぬまででしょうね」
 
――『夢の三競演』は、今年で大阪公演が15回目を迎えます。
 
鶴瓶「最初は、ほんとに僕は迷惑かけたと思いますよ。必死についていってたからね。だから、ようやくですよ。でも、勝つ勝たんじゃなく、あの背中をずっと追っていかないと」
 
――三競演の中でのご自身の転機は、いつだと思われますか?
 
鶴瓶「数年前に僕が『青木先生』と『お直し』のどっちにしようかなと思てた時に、通路のところで南光兄さんが占い師のように『お直し』って言うて(笑)。それで、すーっと吹っ切れて『お直し』をやれたんですよ。あれは絶対、転機ですね。だから、ええメンバーに入れてもらったなと思います。あと一人誰かって言ったって、いませんよね。新人で勢いがあって、名前もあるしマスコミにもいけて、というやつが来るのが本当はいいんですけどね。そういう意味では、僕が大河ドラマに出たり、色んな番組に出たりと総合的に出てることはすごく大事ですよね。何にも出ないで、お兄さん方の後を追うていってたら後ろめたいですけど、そういうのもやりながらできてるから良かったかなとは思いますね」
 
――最後に、三競演に新たにこんなお客さんに来てほしいというのはありますか? 
 
鶴瓶「落語は固定のお客さんはあっても、あんまり聞いたことのない人の方が多いですよ。やっぱり新たなお客さんに来てほしいというのは確かですけど、今のお客さんたちも落語をずーっと好きであり続けてほしいなと思いますね。だから、三競演だけじゃなく、普通の寄席にも来てほしいし、出てる人間も頑張らないといけない。いつも同じ噺で同じマクラを使ってることを恥じないとダメですよ。噺家も、どうお客さんをキャッチするかですよね」

取材・文/松尾美矢子
撮影/大西二士男



(2018年10月18日更新)


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笑福亭鶴瓶
しょうふくていつるべ●1951年、大阪府出身。1972年、六代目笑福亭松鶴に入門。8本を超えるレギュラー番組を抱え、テレビで見ない日はないほど。俳優としても活躍し、近年の出演作に映画『北の桜守』『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』など。NHK大河ドラマ『西郷どん』で岩倉具視役を務める。

夢の三競演2018
~三枚看板・大看板・金看板~

Sold out!!
▼12月17日(月) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6500円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶/桂華紋(開口一番)
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局■06-6371-0004

<夢の三競演 演目一覧>

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』

2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』

2017年
笑福亭鶴瓶『妾馬』
桂文珍『へっつい幽霊』
桂南光『蔵丁稚』