「3人を入口に、落語を好きになってもらえれば」
桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶による落語会『夢の三競演』
第15回公演に向けて桂南光にインタビュー!
上方の冬の風物詩ともいえる落語会『夢の三競演』が今年も開催! 桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語の人気スターが共に繰り広げる、年に一度の三人会だ。ぴあ関西版WEBでは、2011年より毎年、開催に向けてお三方にインタビューを実施。まずは南光師匠のインタビューをお届け。今年はNHKの人気番組をきっかけに、いろんな“ときめき”を感じながら過ごせていると語る師匠。「どのネタをやっても楽しい」という落語への思いもたっぷりとお聞きしました。
――まずは、今年一番感動されたことから教えていただけますか?
桂南光(以下・南光)「このトシになると感動なんかしないじゃないですか。ところが『チコちゃんに叱られる!』という番組が始まった頃にたまたま見て、5歳のチコちゃんという子を作り上げて、面白いし、ようできてるんですよね。その中で『トシがいってきたら、時間が経つのを早く感じる。1年が早い』と。何でかっていうと、ときめきがなくなるからやというんです。新しい感動とかがないからやろね。ほんなら、それを作ればええわけですよ。若い時は、男ならときめくというとすぐに女の人のことを考えるけど、そうじゃなくて、今まで知らなかったことや、この人が実はこんな人であったとか、その人の言葉、また景色であるとか、絵とかっていうのを意識すれば、ときめくっていうことに気が付いてね。今は色紙にも『ときめき』と書いてます。ただ、女の人にしか書かないねんけど(笑)」
――“チコちゃん”がキッカケで、そう思われるようになられた。
南光「この前も東山魁夷の展覧会に行って。東山魁夷の絵は好きだったんですけど、『道』という絵があってね。道しか描いてないんですよ。青森県で見たある道から想像して、牧場や馬、灯台とか見えるものをすべてカットして、道だけを描きはったという。その絵は普通に見てたら広い道が細くなってるだけで、周りはあの人独特の緑やねんけど、その先がちょっとだけ曲がってるんですよ。かすかに道が続いてるのが見えているような…。私もこのトシやから、先の道もあるし、振り返る道もある。でも、いつこの道が途切れるかも分からないわけですよね。そんなことを自分の人生に照らし合わせて考えると、1枚の絵でも、こんなにときめきがあって楽しめるねんなっていうのを感じました」
――能動的に、ときめきを求めていくと…。
南光「今までもアクティブにやっていたと思うんですけど、トシいくと邪魔くさくなるから、段々その気がなくなるんやろね。でも、その気を持てば、ずっとときめいてられるのかなと。9月には、初めて野村萬斎さん演出の現代能『陰陽師安倍晴明~晴明 隠された謎…~』で語り部をやらせてもらったんですけど、新しいことをしてるから、この半年ぐらいは時間が早く経つとは思わなくなりました。それは私の人生において収穫ですね」
――落語に関しては、いかがですか?
南光「それこそときめきを感じながら稽古してるから、どのネタやったって楽しいですね。それと、今年は六代目笑福亭松鶴師匠の生誕百年祭の年で。私も松鶴師匠にはとても可愛がってもらって、『高津の富』『仏師屋盗人(ぶっしやぬすと)』『ざこ八』をお稽古してもらいました。11月の新世界南光亭では『仏師屋盗人』と『ざこ八』をやらせてもらいますが、それは私の個人的な“松鶴生誕百年祭”みたいな感じかな。その前に、お稽古はしてもらってないけど『へっつい幽霊』をやろうと。でも、松鶴師匠の音源をいくつか聞いたんですけど、みんな違うんですよ。これからやがな、というところで止めてるやつもあったりして。そこらがまた、松鶴師匠らしいねんけどね。ただ、このネタに関して私は一つだけ気になるところがあって、道具屋の裏手の長屋に暮らしてる熊五郎が便所に入ってて、へっついから幽霊が出るという噂が出て他のものが売れないという話を聞いて、『おっ』と思って紙を落とすという。あれが『みかん屋』と丸々一緒やし、あまりキレイやない。熊五郎だけが聞いたんやったら、別に作次郎という若旦那に話を持ちかけんでもええし、2人が一緒にその話を聞かないとおかしい。そこを変えたいなと思って。どういう風にそこを作り上げようかなと、また松鶴師匠の音源をいっぱい探してたら、すごいのが出てきてね。東京の誰かがやってて、そうされたのかなと思って他のも聞いたんですけど、誰もそんなんやってない。笑福亭の人に聞いても知らないんです。松鶴師匠が考えはったんやと思うんですよ。それに感動して、どえらいときめきで『これやっ!』と。サゲはもうええか、というぐらい悩んでるんですけど、きっちり作り上げたいと思います」
――松鶴師匠へのオマージュをこめて…。どんなお師匠さんでしたか?
南光「笑福亭の人らはみな、怒られた、どつかれた、怖かったと。確かにそういうとこもあったけど、よそのお弟子さんに対しては、とっても優しかったと思いますよ。根底には噺家を増やしたいというのが一番におありになったわけで、来た人を誰も断らずにみんなとって、辞めていく人は辞めていったらいいという。だから、あれだけの多彩な人が残ってはるんです。松鶴師匠って割合好きなことを言うてるようやけど、すごい気ぃつかいで繊細なんですよ。弟子に対して結構怒ってはるんやけど、それをずっーと溜めてはって。鶴瓶さんの私落語の『長屋の傘』やないけど、それを発散さすのに、酔うた時に弟子のとこに行って暴れて帰ったんちゃうかと、私は思てるねんけどね」
――さて、文珍師匠が12月で70歳を迎えられます。トシを重ねてしんどい部分と面白い部分があるとおっしゃってましたが、南光師匠はいかがですか?
南光「そら階段上がるのしんどいし(笑)、元気なんは鶴瓶さんだけやからね。でも高座に関しては、昔はバランスを考えんと一生懸命やっててんけど、今は、ここは引く、ここは出るっていうのが分かるから、昔よりはずっと楽ですよ」
――近年は、本当にやりたいネタを手掛けられている印象があります。
南光「そうですね。ネタを新たに増やしたいとか、年に何本やろうとかは思わないですね。若い時はいろんなネタをやっていったらいいと思いますけど、このトシになったら、やらんならんとか、誰それがやってるからとかじゃなく、私は私のやりたいことだけをやろうと。そこにくすぐりやギャグがなくても、納得してもらえる状況を作りたいなとは思ってます」
――やってみたいと思われるネタに、共通点のようなものはありますか?
南光「自分でこのネタはこうやと決めつけてるところもあって、人の噺を聞いて『あれっ?そうか』と。違う視点でやれば、これもやれるな。じゃ、やってみるかと。『三枚起請(さんまいきしょう)』なんか、絶対やるような気はなかったけども、誰かに『向いてまって。女に騙される男っていう感じじゃないですか』って言われて(笑)。そやけど、サゲが発散せえへんっていうのがあってね。そうしたら『サゲを変えたらよろしいがな』と。で、サゲを変えたら楽しんでやれるようになりました。三競演でやるかどうかは分かりませんけどね(笑)」
――その『夢の三競演』は、大阪公演が今年で15回目を迎えます。当初の想いと変わられたことはありますか?
南光「最初は、別に争うんじゃないけども、たぶん誰も手を抜かないやろうと。鶴瓶さんなんて一番プレッシャーかけられて。そやから言うて、私らがええ加減にしたらいかんので、すごい勝負の場であるなとは思てましたよ。でも、10年ぐらい経った頃かな、最初の頃の気もあるねんけど、3人のバランスを考えながら、楽しんでやれるようになりましたね。勝手に変わってきたんでしょう。誰かが死ぬまでやるんとちゃいますか(笑)」
――東京公演がスタートした頃は、東京嫌いを公言されていましたが…(笑)。
南光「東京へは行きたくなかったけど3人で行くと楽しくて、今は別に東京が嫌とか、怖いとか、ダメとか思わなくなって。去年からは、100人ちょっとのキャパのお江戸日本橋亭で、年2回『日本橋南光亭』を始めました。こないだは『らくだ』を出したんですけど、お客さんのノリがすごくいいから松鶴師匠の話に入っていったり。笑福亭というのは誰かが松鶴になったらええのに、誰もならない。だから、私は“桂”やけど松鶴師匠にお稽古もしてもらってるし、『私が松鶴になってもいいんじゃないですか』みたいなこと言うたら『わぁ』となって…。私が東京でやった会で、一番楽しかったと思いますね。それと、去年から入船亭扇遊さんと二人会も始めました。自分から東京で会をやろうというような気には中々ならなかったですけど、それは三競演のおかげですね」
――では最後に、三競演の魅力をアピールしてください。
南光「文珍さんが1回目の口上で言わはったことは、ずーっと続いてて一緒やと思います」
――何とおっしゃってましたっけ?
南光「憶えてないですけど(笑)。たぶん、色の違う3人を楽しんでくださいと」
――落語を聞いたことのない方にとっても、入口としては最適な会ですよね。
南光「やっぱり落語って誰と出会うかですよ。これも縁やからね。かと言って、私の落語を聞けとは言わないですけど、初めに聞いた人がすごく良かったら落語というものが楽しいものって分かるけど、そうでなかったら『もう一つおもろないがな』みたいなことになるので、とりあえず聞いてもらうことです。いろんなとこで毎日やってますんでね。まぁ、三競演は基本的に楽しいと思いますから、落語を知らない人でもこの3人を知ってくれているのであれば、3人を入口に落語を好きになってもらえればいいかなと。ちょっとチケット代は高いけどね(笑)。でも、私やったら行けへんな。高いからね(笑)」
取材・文/松尾美矢子
撮影/大西二士男
(2018年10月12日更新)
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桂南光
かつらなんこう●1951年、大阪府出身。1970年、二代目桂枝雀に入門し“べかこ”を名乗る。1993年に三代目桂南光襲名。レギュラー番組は『ちちんぷいぷい』(MBS)、『大阪ほんわかテレビ』(YTV)など。
夢の三競演2018
~三枚看板・大看板・金看板~
10月14日(日)一般発売 Pコード:489-133
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話■0570(02)9520(10:00~18:00)、通常電話■0570(02)9999にて予約受付。
▼12月17日(月) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6500円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶/桂華紋(開口一番)
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局■06-6371-0004
<夢の三競演 演目一覧>
※登場順
2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』
2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』
2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』
2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』
2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』
2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』
2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』
2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』
2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』
2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』
2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』
2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』
2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
2017年
笑福亭鶴瓶『妾馬』
桂文珍『へっつい幽霊』
桂南光『蔵丁稚』